ISAとWSLのジュニア世界タイトルを獲得し、CT入りも視野に入れつつ、オリンピック日本代表も目前の前田マヒナ。ハワイに生まれ育ったが、両親は純然たる日本人である彼女に、ハワイの事、日本の事、サーフィンの話を聞いた。
今回インタビューをしてくれた、ハワイ在住のエミコさんはマヒナのことを幼少時から知る人物。そんな彼女が、どのようにマヒナはハワイという大自然の中で育ち、どうやって今の強さを身に付けたのか。彼女のこれまでのサーフィン人生を紐解く。
いつもポジティブなことを考えて、ネガティブな思いに引き込まれないようにしています。
SM(エミコ):ものすごく久しぶりだよね。それにしても今、色々な意味で良いポジションにいるよね。どんな気持ち?
M(マヒナ):そうですね、常に同じことをやるって感じですね。気をつけてることは、いつもポジティブなことを考えて、ネガティブな思いに引き込まれないようにすること。
前は「なんで出来ないんだろう? なんで上手くいかないんだろう? なんでスポンサーが付かないんだろう?」そんなことにエネルギーを注いていたんだけど、今は違う。ポジティブなことをいつも自分に言い聞かせてます。
「私は世界で一番腕の立つコーチのロス(ウィリアムス)に指導されているんだ。私は良い人たちに囲まれているんだ。私には素晴らしい友達に囲まれているんだ。多くの人が応援してくれてるんだ」って感じで。その部分に集中していれば、CTにクオリファイするという目的を見失わないで、進んでいけると思っています。
SM:小さい頃からマヒナのことを知ってるじゃない? だから、まさかうちのプールで泳げないでいた小さなマーちゃん(マヒナ)が、オリンピックの選手とかCTの選手になれるまで成長するとは、とても当時は想像できなかったよ。
M:あはは、ほぼ毎日エミコさんの家のプールでティナやサリー(エミコさんの長女と次女)と一緒に泳いでましたよね。
SM:マヒナは小さい時からお父さんには鍛えられていたよね。「日本のチャンピオンじゃなくて世界チャンピオン目指しますよ」ってお父さんが笑って言ってたのを覚えてる。
M:確かに凄く厳しかったですね。でも、それは有難いことでした。大変でしたけどね。もちろん理屈ではわかります。テニスにしてもアイススケートにしても、どんなスポーツでもプロを目指すんだったら、かなり小さい頃からやってないと無理ですからね。
でも正直、友達と遊びに行くとか、学校の行事に参加するとか、そういう子供時代にしか楽しめないことってあるじゃないですか。それを諦めなければならないのは大変なことでした。
でも、いま思えば与えられた環境はラッキーだったと思います。ノースショアで育って、子供時代の友達に会おうと思えば今でも会えるし。世界中のどこを探しても、こんな場所はない。でも実際、普通の子供のように遊びたい気持ちとの葛藤は、かなりあったと思います。
本質の『子供が本当にプロになりたいのか』を置き去りにして、親が一生懸命になってる。
E:もし将来マヒナに子供が出来て、サーファーにさせたいとしたら、どんな育て方をする?
M:多分、サーファーにはさせないですね(笑)テニスかな。お金のことを考えたらテニスの方がいいですからね(笑)。というのは冗談ですけど、どのスポーツをするにしても、子供の頃からその道のために、諦めなければならないことがたくさん出てくると思うんです。そのことを常に『子供自身がわかるように』たくさん話をすることにエネルギーを注がなければと思ってます。無理強いさせるのはやっぱり良くないから。
SM:子供に対して、しっかりと説明をするってことだよね。
M:そうですね、言葉で理解させるっていうよりも、その子自身が本当にサーフィンとか、そのスポーツをやりたいのかってことを常に確認してほしい。それで、本当にやりたいのであれば仕方ない。他のことは諦めて、たくさん練習しなければならない。そこを理解させたいですね。
でも、今の時代の子供たちは間違ってるんじゃないかなって思う事がたくさんあるんです。親は、小さい時から、みんなジョン・ジョンやステファニー・ギルモアを目指すように設定してる。環境が整えられすぎですよね。本質の『子供が本当にプロになりたいのか』を置き去りにして、親が一生懸命になってる。心から楽しんでる子供って、なんだか少ないように思えるんですよね。
プロサーファーになりたい気持ちを確信したのはスランプに陥って、もがいていた時なんです。
SM:マヒナはどうだったの?子供の頃からプロになりたかったの?
M;はい、親は厳しかったけど、プロになりたい気持ちは子供の頃からずっと持っていました。小さいときに、母に無理やりスイミングクラブに入れさせられた時があって、そのままスイマーになることもできたけど、泳ぐ練習しながらも「私がなりたいものはこれじゃない、プロサーファーなんだ」って思ってたことを覚えてます。
それを考えると、親がどうのこうのではなく、プロサーファーになりたい気持ちは自分の中から生まれたものだと信じてます。それを確信したのはスランプに陥って、もがいていた時なんですよ。
SM:ISAとWSLの両方でジュニアの世界チャンピオンになっておきながら、一時消えちゃったよね。どうしたのかなって思ってたんだよね。
M;スランプに陥って、もう何もかもが嫌になっちゃったんです。
SM:前に掲載されたインタビュー記事で、その時にブラジリアンでジナスティカ・ナチュラルと柔術を教えている、キッド・ペリグロさんに出会って救われたと読んだけど。
M;そうですね。その時に親元を離れたんです。ちょうど18歳のとき。両親からのプレッシャーがとにかくすごくって。。。サーフィンで成功するのは、自分の夢なのか親の夢なのか、少し親から離れて確認してみたいという気持ちもあって。
そんな時にキッドと出会って、彼の家の2階が空いているっていうから、引っ越させてもらって、とりあえずサーフィンの試合は一年は休んで他のことをしようということに決めたんです。キッドがやってる柔術を学び、さらにキッドが開発したトレーニングのジナスティカ・ナチュラルを習得して教えられるライセンスを取得したんです。
SM:ジナスティカ・ナチュラルは柔術とは違うの?
M;柔術とヨガとサーフィンの動きを全部一緒にしたようなトレーニングですね。
SM:柔術とジナスティカ・ナチュラルって、サーフィンに向いてるの?
M;はい、どちらも瞬時に重力に合わせた軸の取り方を熟知しなければならないから。それに柔術は、とくに相手がいるでしょ、だからさらにサーフィンに似てる。相手の動きをうまく読みながら、5つくらいの方法で、かわしていかなければならない。それを瞬時に決めるわけだから、ちょうど波の変化に瞬時に合わせて動きを決めていくサーフィンに似ている部分があるんですよね。
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SM:じゃあ、サーファーのトレーニングに柔術はバッチリだね。
M;良いトレーニングになるんですけど、誰に教わるのかで確実に効果が変わってくるんです。初めてやる時は白帯ですけど、そして青帯の人と組んでやると怪我する可能性があるです。だからきちんとそれを弁えた人と組まないと危ないんですよね。
キッドは、さりげない形で私を『私がいるべき場所』に導いてくれたんだと思う。
SM:そうやって違う道に少し自分をおいてみた時に「実はいつかはまたサーフィンに戻るんだ」ってどこかで考えていたの?
M;そういう気分の時って、例えば誰かに「サーフィンをお休みする」と言ったとしても、多くの人は「え~~っ!そんな身勝手な!!頑張って続けるべきだよ」と言われたりするんですよね。そうなると逆に反発したくなる。親に「掃除しなさい!」って言われたら掃除しようとしてたのに絶対掃除しないって決めたりするのと同じ感じです。
だから私もその時は「もう試合なんか出ない!」みたいな感じになっていて(笑)。でもキッドは、最初から私がサーフィンの競技の道に戻るってことを知っていたんだと思います。わざとキッドは「好きなだけ休みなさい」と言ってくれた。
その間に柔術とジナスティカ・ナチュラルに没頭しました。それでも決して、その道(柔術)の選手になることは進めなかった。キッドは本当に、さりげない形で、私を『私がいるべき場所』に導いてくれたんだと思う。今思えば、実は私も心の奥底で『サーフィンは辞められない』と思っていたんだと思います。
SM:親から離れてサーフィンから離れてどんな気づきがあった?
M;どっぷり浸かってたら見えなかったことが、たくさん見えましたね。枠から外れて自分のことを見つめてみることが出来て気がついたんです。私はノースショアで育って、親もサポートしてくれて本当にラッキーな環境で育ったけど、『トップを目指す選手としては』あまり良い環境ではなかったと。
他の選手に比べてもスポンサーが多かったわけでもないし、他の選手が色々な国を普通に回ってるときに、お金がなくって行けなかった事もありました。今の子ってお金の使い方がすごい。。。小さい時からコーチもいて、ここに行ったり、あそこに行ったり、これやあれやを持たされたり。。。
でも、私はそうじゃなかった。14歳の時からQSを回ってたけど、他の子はコーチや親と一緒。自分はお金がなかったから親もコーチも帯同させることが出来なかったんです。選手としてのセットアップがしっかり出来てなかった分、いつの間にか勝手に自分でネガティブなマインドセットを作り上げてしまっていたんです。それでやっと『自分の力で』改善しなければならないとに気づいたんです。
SM:ある意味、子供の頃からの自分自身を苦しめてしまう『考え方の癖を取り除く』ことが出来たってことだね。トラウマの克服みたいな。で、サーフィンに戻るきっかけはなんだったの?
M;試合を休んでいる時に、友達が出てるから『私のいない』サーフィンのコンテストを観ていたんです。自分がそこにいないということを確認するたび、胸が締め付けられる感覚があって。その時に『心ではなく体が』サーフィンに戻りたがってるんだって思ったんです。
ワールドチャンピオンを目指すのは『親の夢ではなく』自分の目標だった。
SM:インターバルを置いて良かったってことだよね。
M;はい、ワールドチャンピオンを目指すのは『親の夢ではなく』自分の目標だったんだってことが完全にクリアになりました。
SM:その後、親のところに戻ったの?
M;いいえ。それからは一人暮らし。お金のこともスポンサーのことも全部、基本的には『自分で全部決めて』マネージしているんです。
SM:迷うことはないの?
M;もちろんあります。特に私は、決断がもともと苦手なタイプだから。その時の波に対してどんな板を使えばいいかとか、そういうことまで悩んじゃうタイプ(笑)。
でも、どうしても決められない大事なことは、大家さんでもあるキッドに相談しています。キッドは決して「ああしろ、こうしろ」とは言わないけど、いくつかの選択肢を与えてくれるんです。だから難しいことでも決断しやすくなる。本当に素晴らしい恩師に出会えたと思っています。
SM:肉親とのつながりだけではないね。時として他人との繋がりって大切だよね。自分を救ってくれる。自分を大きくしてくれる。まだ23歳だというのに、そういうのに気付けるマヒナも素晴らしい。
23歳の今、大人になるって、こういうことなんだなって思っています。
M;いろんなことを経験して、いろんなことを感じて、これからも色々あると思うけど、23歳の今、大人になるって、こういうことなんだなって感じてます。本当に良い人たちに恵まれてる。その中でとても影響を受けたというか、今でも受け続けているのが、タティアナ(ウェストンウェブ)なんですよ。
タティとは、何がきっかけで友達になったかも覚えてないくらい、物心ついた時からの友達関係にあった。彼女は、最初の大会から一緒だったんです。一緒にジュニアチームに入ったし、彼女がロキシーをやめたときに、私も同時にスポンサーが無かった。今は成功しているけど、だから彼女は、どっちの気持ちもわかるというか。本当に理解力がある人。
今は彼女が先にCT に入っちゃったけど、今でも彼女は私のことを気にしてくれていて「早くCT入りしてきなよ」と、いつも背中を押してくれている。そういう友達っていないと思うんです。男の子の友達だったら一緒に戦わないから、プッシュしてくれるかもしれないけど、同じ性別で、ライバルになり得る相手を応援してくれるなんて、なかなか出来ないことだと思う。素晴らしい友達なんです。
SM:でも正直言って、マヒナの方は、タティアナが先にCTに入ったことに関して、嫉妬とかはしなかったの?
M;全くないですね。自分には今までの人生の中で、変な友達がたくさんいたんですよ。変という言い方が正しいかわからないけど、自分をネガティブに陥れていく友達が今までたくさんいたんです。
それを整理していかなければ、自分が良い方向に向かうことができないんだと知った時から、逆に良い友達は何があっても大切にしなければという気持ちが湧くようになった。
本当にタティは素晴らしい人で、私に本当に尽くしてくれていて、、、、いくら他人は関係ないって思ってる人でも、あれだけやられたら、返さなくてはって気分になるはず。タティっていう人は、そういう人なんです。ああいう人が近くにいると、自分も良い人にならなきゃって思うようになる。
SM:友達って大切だよね。
M;そうですね、サーフィンに関係ないこともサポートしあってます。彼氏と別れちゃった時とか、悲しい思いでいるときに友達の存在って大きいと思うんです。人生の中で、友達がいるから乗り越えられるということは、たくさんあると思います。タティと私の良いところは、お互いをジャッジし合わないこと。言い換えると、ここが良いとかここが悪いとか言い合わない。とにかくサポートし合うみたいな感じです。
初めて『自分が自分であることが嬉しい』と自分を肯定できるようになったんです。
SM:関わると言えば、コーチングも今のマヒナが出す結果を支える大きな要因でもあるんだろうね。
M;はい、私が試合に復帰した後、ハーレーのチームにいる頃から、バートン(1988年の世界チャンピオンであるバートン・リンチ)に教えてもらいたいと思っていたんです。その夢が叶ったのは、2019年の11月。それからバートンに教えてもらっていたんですけど、コロナで世界中の人が行き来できなくなってしまったから、4月から月契約のコーチングをしてもらっていました。
SM:どんなことを教わったの?
M;特にバートンのCTのコーチでパートナーでもあるマークからは、メンタル的な部分で良いことを習いました。良いメンタル状態への持って行き方を初めて知った感じでしたね。それは、すぐには出来ないことで3ヶ月はかかりました。瞑想的なこととか、そういうのを日々やることによって、ようやく「自分は誰にも劣らない可能性を秘めた人物なんだ」って思えて、初めて『自分が自分であることが嬉しい』と自分を肯定できるようになったんです。
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じっくり自分と向き合える時間が増えて、ようやくネガティブなことを捨てられた様な気がしています。
SM:もう少し詳しくその部分を教えて。
M;『自分の中の悪魔と正面きる』ってこと。自分の悪い癖を否定するのではなく肯定すること。悪い部分も全て認めるんです。やっぱり自分の感情というのは、サーフィンに現れるんです。もし自分が辛い気持ちでいたり、イライラしていたり、自分の技量を疑っていたりしたら、うまくパフォーマンス出来ない。逆に自分が幸せな気分でいたら、パフォーマンスもうまくいく。やる気がない時もサーフィンに現れるんです。
SM:最初のステップとしては、自分自身を知ることから始まるってことなのかな?
M:そうですね。まず自分が、今どんな気分でいるのかに気がつくこと。一日ですぐにポジティブに変われたりはしないけど、私は、ちょうどコロナで全てが停止してくれたのもあって、じっくり自分と向き合える時間が増えて、ようやくネガティブなことを捨てられた様な気がしています。
コロナでみんな大変な思いをしている時に申し訳ない感じだけど、私は、自分を整理する時間が与えられて本当に良かったと思っています。マークとバートンに出会って自分の目的が何なのかが、さらにクリアになったんです。
ロス・ウィリアムスのコーチングを受けられて本当にラッキーだと思っています。
SM:今は、ロス・ウィリアムスのコーチを受けてるでしょ。彼にコーチを変えたきっかけは?
M:はい、バートンは素晴らしいサーフィンコーチなんですけど、やっぱり何か人間的な性格がマッチしない感じがして、2020年の10月にバートンのコーチングをやめて、その一ヶ月後からロスのコーチングを受けることにしたんです。
SM:コーチを受けるってのは、心も体も任せる感じになるわけだから、親子関係とか婚姻関係に似てるよね。逆に言えば、コーチを変えるってのは、離婚するような感じだと思うんだけど(笑)。変える時って大変じゃなかった?ほら、日本人なんて特に、義理とか恩とか気にしちゃうから。
M:そうですね、自分もそこは引っかかっりました。辞めるって言い出すのが、ものすごく怖かった。でも、サポートしてくれる人がいたから乗り越えられた。私の場合は、キッドに相談したんです。で、バートンにはきちんと伝えられたんです。「なんとなく合わない気がするからお別れしたい」と。そしたらバートンも「うん、人には合う合わないがあるから、君の気持ちも理解できる」と納得してくれたんです。
SM:ロスとはどんな感じ?
M;ロスとは、性格的にもマッチしてる感じですよ。何より彼は、技術的にも世界一のコーチングスキルを持っているし。ロスは本当に、コーチング業に入れ込んでいてグループも少人数制。私とタティアナ、ジョン・ジョン(フローレンス)、フィン・マックギル、サクラ(ジョンソン)、ルーク・スワンソンだけ。
そこに入れているのって本当にラッキーです。このメンバーが集まってトレーニングするわけだから、メンバーからの影響ってのは物凄い。しかも、ロスのアドバイスって正しいことばかりで、言ってくれるタイミングも、本当に洗練されてるって言うか。今のところ、全てが順調に進んでいる感じですね。
メンタルが強くなったからこそ、サーフィンも上達してると思う
SM:でもコーチングって結構高いでしょ?コーチングをつける価値ってあるのかな?
M;そうですね。値段はここでは言えないけど(笑)でも、お金じゃないと思います。方向がしっかり定まっている大切なことにお金をかけるっていうのは間違ってないと思っていて、サーファーとして成功するには、『良いコーチに恵まれること』が鍵だと思ってるんです。
私は、結構前から、CTレベルのサーフィンは出来ていると思っていたんですけど、気持ちが付いていけなかったから結果が出せていなかった。メンタルの部分が本当に弱いなって自分でも気がついていたんです。まだまだ成長しなければならないけど、今は前に比べると『メンタルが強くなったからこそ』サーフィンも上達してると自分で思うんです。
SM:メンタルが自分では弱いって言うけど、マヒナが小さいときに、「この子本物のコンペティターだな」と思った時があるんだよね。メネフネ(子供達のサーフィンコンテスト)の試合でマヒナが負けちゃうと次の日、一日中、泣いてていた。いたたまれない気持ちになったって、お母さんが言ってたんだよね。
M;サーフィンのことだけでなくって、「お姉ちゃんに負けたくない」という気持ちがあったからかもしれないですね。でもその反省の仕方のバランスは悪かったって、いまは思います。負けて物を壊すってことはなかったけど、すぐに投げやりになっていたんです。「もうどうでもいい!」みたいな。
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親友のダックスと野呂玲花。
SM:でも、負けず嫌いであるってことも大切だよね。負けて悔しくない人は、競技者には向いてないでしょ。日本では、スポーツマン精神とかで、負けても相手を応援しなければならないみたいなのがあるけど。
M;そうですね、日本の人たちは勝った人に対して、負けた人が「すごいね、うまかったね、私はかなわないわ」って言うでしょ。でも、外国人はライバル心を隠すことはしない。子供の頃は尚更です。知っていると思いますけど、子供のとき私には最大のライバルのダックス・マックギルがいたんです。(ハワイのキッズの大会では、マヒナが勝つか、ダックスが勝つかだった)
彼女とは、いつも競いあっていた。同じ年齢で生まれた月も一ヶ月しか変わらないくらいだったから、もちろん今は健全な友人関係になってるけど、そりゃもう大変でしたね(笑)。泣いたり怒ったり、すごく喧嘩したし(笑)。競い合う友達との関係って、あんな風になって当然だなって今は思うけど、とにかく凄かったですね。
ダックスは私とのそんな関係があったから上手くなれたって、今は言ってくれているけど。外国人の子って、とくに子供は意地悪ですよね。例えば自分が大会で勝ったら負けた友達のところに行って「へへへ、勝っちゃった!私の方が上手いってことだ!」ってわざわざ言いに行ったりするんです。
逆に、その言葉に火をつけられて、やり返してやる!というモードで次の戦いに挑んでいくみたいな。そういうあからさまな押し合い圧し合いが、とくに子供の外国人サーファーの中では、普通に存在するんです。
SM:そう意地悪ね。勝つ為には意地悪でなければならないってことだ。
M;そうですね、もちろん意地悪にも程があるけど(笑)例えば、今のコーチ(ロス)は、すごくメローで謙虚で、面白いんだけど。選手時代は、ケリー・スレーターと同じジェネレーションで、映画で知ったんだけど、彼は勝ちたいが為にシェーン・ドリアンのボードを壊したんですよね。で、壊しておいてシラを切ってた(笑)。
もちろん相手のボードを壊すなんてことはしないにしても、そのようなメンタルは競技者として必要なんじゃないかなと思うんです。ケリーもそうだと思う。選手同士の中ではお互いにその燃えるような競争心って理解できる。他所からみたら「そんな酷い!」って思うかもしれないけど、私たちからしたら「あるよね、普通だよ」ってなる。だってみんな勝つ為に、全力尽くしてきたわけだから。
SM:他にも強さの秘訣って何?宗教とか信仰とかあったりする?
M;私はキリスト教は信じてないけど、日本の神様的なものはハワイの人の神様たちの捉え方に似てるから、海の神様とか山の神様とか、それはいつも思ってて、自分を支えてくれている要素でもある。それが自分のプライドにも繋がってる。
アロハスピリットを意識して、原点を忘れない、そして必ずお返しをすること。
SM:具体的には?
M;やっぱり自分一人で戦うとなると、恐怖心とか不安感とか出てくると思うんです。だから『全ての物を動員』させちゃうみたいな。自分が育ってきたルーツ、土地への感謝、「私はノースショアというサーフィンの聖地で育ってきたんだ」という思いとか、「勝負の行方の多くは海の神様が決めることだ」とか。ほら、絶対勝つと思っていてると肩に力が入りすぎて上手くいかないとかあるじゃないですか。『海の神様が試合の行方を決める』のだから自分は全力を尽くすだけだって感じで。
SM:その思いを強めるため何か特別なことをやってたりする?
M;常日頃からアロハスピリットを意識しています。もらったら、もらいっぱなしではなく、必ずお返しをするってこと。それは人との関係のことだけでなく、自然に対しても同じこと。自然から与えられているものは大きいのだから、私たちが自然を守っていかなければならない。
多くの人は、みんなサーフィンのルーツに無関心だと思うんですよね。特に最近の子って。アロハスピリットとは、原点を忘れないことでもあるんです。原点を見つめられる癖をつけておけば、結果、自分自身をも強化できる。
ISAジュニアの時も、全く怯むことなく戦えたのは、「私たちはサーフィンの発祥地のハワイのサーファーだ」っていう思いをみんなが心に留めていたから。だから『頭を上げて』カッコ良く戦えたんだと思います。
SM:日本の人が世界にまだ出れてないのって、そういうところにあるのかな?日本をよく知るマヒナだから言えることってあると思うんだけど。
M;日本人だって、『侍の魂を持っている』から、戦うことに関しては一流の血筋を持っているはず。そういうことを多くの人が忘れてしまっているような気がする。日本のサーファーの多くは、外国の選手と戦うとわかった途端、オーストラリアとかアメリカとか、国の名前を見た瞬間に、怯んでしまっている。端から見ててよくわかります。
一番大切なのは、自分の気持ちが、しっかりと目標に向かっているかということ。
SM:技術的に、日本のサーファーってどう?マヒナのようにハワイで生まれ育つのではなく、日本の波で日本で育ったサーファーも世界にリーチできると思う?
M;もちろん!!! メンタルと道具が揃ってれば、誰でもチャンピオンにリーチできると思います。ただ、一番大切なのは、『自分の気持ちが、しっかりと目標に向かっているか』ということ。私だけじゃなくってカリッサ(ムーア)も一度、大会に出ない年があったんでしょ。その時に彼女は、「やる気がないのに出ても意味がないから出なかった」と言っていたんです。
疲れたらリセットボタンを押せちゃうくらいの勇気を出すこと。リセットして本気で望めば、誰でもチャンピオンは射程圏内に入る。実際、日本のサーファーでも特に女の子はどんどん上手くなってると思う。私は決して、日本のサーファーたちが、自分より下手だと思わないし、自分は日本の子たちより上手いなんて思っていません。
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「大阪なおみ」を観てて、こんな選択をしていいんだって思った。
SM:オリンピックは日本からの出場を目指すわけでしょ。タティアナもそうだけど、自分で育った場所でないところからの出場ということで、それに対して批判とか受けたりしてない?また、それに関してどう思う?
M;もちろんハワイで生まれて育ったからハワイからっていうのが正当だろうし、そうしたかったけれど。全てのチャンスを生かして頑張るのがアスリートの正しい姿勢だと思ってます。批判は直接は受けてないけど、日本のサーファーから変なバイブスは受け取ったことがある。
ハワイで育ったのにブラジルの国籍があるからブラジルから出るタティも同じ立場で、話し合ったりしましたけど、結果的にこう考えることにしたの。きっと多くの人は、嫉妬の心で批判してくるんじゃないかって。それが間違ってるって思うとしたら、そう思ってる人の精神が少し歪んでるんだって思うようにしたんです。
でも、去年、私のメンタルがまだ弱い時は、そんな風に思われちゃうことが悲しいと思っていました。他人の評価を気にするかしないかは、自分の精神状態のバロメーターにもなっています。
私をきっかけにアスリートたちが、オープンなマインドになれたらいいと思う。
SM:結論、自分を強くするのは、自分の考え方次第だもんね、そうすることで、タイトルが近づいてくるわけだ。それにマヒナが頑張ることで、日本の人への良い刺激にもなるね。
M;日本の人だけじゃなくて、世界のみんなにですね。私をきっかけに、もっとアスリートたちが、オープンなマインドになれたらいいと思う。だって今、本当に多いでしょ。アジアとのハーフ。Xゲームの中国人のプロとか、彼女もアメリカと中国の国籍を持ってて、オリンピックを前に、中国からの代表になることにして結局、金メダルを二つ取ったんですよね。
「大阪なおみ」もそうでしょ。私も「大阪なおみ」みたいな人を観てて、ああいう選択をしていいんだって思った。私がオリンピックに日本の代表として出ることで、ある意味、多くの人を勇気づけることになるんだって思うんです。
何もしたくない時は何もしないで友達と遊ぶ。そういう時も大切だと思うんですよね。
SM:今、どれくらいの頻度でサーフィンしてるの?
M;一日に2回くらいかな。他にジュニアズムを教えてたり、月曜は呼吸のトレーニングもあるし、柔術もあるし、ロスのトレーニングもあるしで、それで凄く疲れてます(笑)。だから土日は出来るだけ休むようにしているんです。
SM:食事とか気をつけたりする?
M:あんまり気にしてないですけど、炭水化物を取りすぎないとか、そういうことはしています。でもオーブン調理が好きで、とくにパンを焼くのが好き。だけど、ほぼ全部失敗するから、あんまり食べてないんですけどね(笑)
甘いものは出来るだけ控えるようにしているんですけど、チョコレートが大好きで。無農薬の野菜を出来るだけとるようにしています。日本にいた時は、漢字が読めなくて、無農薬のものがよくわからなかったけど(笑)
SM:リフレッシュの仕方とかは?
M;何もしたくない時は何もしないで友達と遊ぶ。サーフィンしない日も良しとする。そういう時も大切だと思うんですよね。日本の子供たちを観てると、毎朝6時に起きて、毎日3ラウンドやってて。それはそれで素晴らしいと思うけど、年取ってくると、息抜きっていうのも、サーフィンと長く付き合うのには大切なことだってわかってくる。
休めばまた集中力が増すし。。。というのは言い訳で、ただ怠けたいのかもしれないけど(笑)。だけど、やりたくない時が、自分の気力が弱いわけで、そこでどれだけ集中してサーフィンできるのかっていうのも良いトレーニングになるから、やる時もあるんですけどね。
SM:最後に将来の夢は?
M;CTに出て世界チャンピオンになること。そして、ノースショアか、カウアイか、マウイに自分の家を買うこと。でも、一生を通して、一番大切なのは、常に『自分を認め』てハッピーでいること!!!
SM:いやあ、大人になったねえ、素晴らしいの一言。忙しい中、寄ってくれてありがとう!!
M;こちらこそ、本当にありがとうございました!!!
写真協力:https://www.worldsurfleague.com/
インタビューを終えて。。。
「インタビューを読んでどう感じましたか?」
きっと「勇気づけられた」とか、「上手くなるためのメンタルのあり方を学んだ」とか、「息子や娘をプロに育て上げる上で良いことを聞けた」、などと答えが返ってくるような気がしてます。だけど同時に、「オリンピックに出るというのに、その意気込みが聞けなかった」「日本を背負って立つと言ってくれてない」そのことに、少し不満を感じたという答えも聞こえてくるような・・
実は今回インタビューをするにあたり、下調べとして、これまでの彼女のインタビュー記事を読みました。さすが文才のある人たちの手で仕上げられたインタビューなだけあって、今までの彼女が歩んできた道がサラッと読めるように編集されていていました。
そして最後に「オリンピックの表彰台に日の丸を掲げたいです」で、締めくくられていました。でも、マヒナは、オリンピックの代表になるであろう選手だから、みんな、その言葉を聞きたい。だから、インタビューの流れも、そのように仕向けられた、そんな感じを私は受けました。マヒナの話を聞いたからかな、なんだか「代表として頑張ります!」という言葉は、体裁を整える言葉にしか思えないんですよね。
私は、マヒナから出てきた言葉は、とても直球で、強者が目指すための気持ちの持ちようを表している物だと思うんです。インタビューの話の中では選手は多少「意地悪」な方がいい、という言葉で表されていますが、その意味は「自分の最高のパフォーマンスが出せるように自分で調整する」ということなんですよね。ベストになるためには「自分勝手になること」だと思いました。
もし、あなたが、オリンピックに出るとする。試合をしながら、「日本の人が見ていてくれる」「周りの人が応援してくれている」だから、勝たなければならないと思ったら、最高のパフォーマンスができます?試合の時に「負けるな、絶対負けるな!」と、コーチに言われたらどう感じます?どこか肩に力が入っちゃうはず。特にそれが究極の選手が集まるオリンピックだとしたら、力が入リすぎてるパフォーマンスで勝てるはずがないでしょ。
でね、インタビューが終わったあとマヒナに、オリンピックを目指す比率はどれくらいかって聞いたんですよ。そしたら「オリンピックとかCTとかアジアの試合だとか、イベントの名前は全く関係ないんです。とにかく与えられた試合のその時間、その波で最高のパフォーマンスをすることが目標。だけど海だから。海の神様が動員してくれなかったら、波に恵まれないわけで、その時は仕方ないですよね」と。
そこだと思うんです!!ベストを尽くして結果は運を天に任せる的な。。。。実は、私も、日本の人に向けて書くわけですから、マヒナに「日本人の私は日本のために頑張ります!」と言ってもらうように仕向けようと思ったんですが、マヒナから出てきた言葉に沿って質問していった方が面白いと途中から気づき、あえて調整しないまま話を進め、記事にしました。
「どうしたら世界に通用するサーファーに子供を育てることができるのでしょう?」多くのサーファーを育てる親御さんの悩みです。一度、親御さん自身も、日本でありがちな義理や人情を優先するのではなく、子供が選手として育つ道を『自分勝手』に行ってみるしかないと思います。ほぼ誰もやってないことをやるんですから。
GOOD LUCK!
応援してます!
インタビュアー【コーヘン恵美子】
ハワイはノースショア在住のサーフィン・フォトグラファーのGORDINHO(ゴルディーニョ)で知られるポール・コーヘンさんの奥様で、日本のボディボード創成期に活躍された元プロボディボーダー。ティナ、サリー、ジュリアの三姉妹を育て上げ、サーフィン専門誌やウエブメディアの執筆もこなす。