環境に配慮したサーフボード工場として知られている、オーストラリアの「THE GLASS LAB」に潜入

取材、文、写真:菅野大典  今回は、オーストラリアのサーフボード工場について。ツイードコーストにあるサーフボードファクトリー THE GLASS LAB(グラスラボ)の紹介です。

 

 良いクオリティの波が至る地域でブレイクするオーストラリアは世界中のサーファーから人気の高い場所として知られていますが、DHDやJSといった有名なサーフボードブランドをはじめ、有数なサーフボードの生産地としても知られています。

 

 その中でも世界でもトップクラスの規模と生産量を誇るだけでなく、他の工場と類をみない環境に配慮したサーフボード工場として知られているのが、今回紹介する「グラスラボ」。

 

 

ファクトリーの入り口と併設されているサーフショップ”THE BOARD LAB(ボードラボ)”

 

まず工場に来て1番初めに目につくのが屋根の部分についている巨大なダクト。

 

 この大きなダクトはすべての部屋に繋がっており、工場内の99.1%のゴミや塵と96%のVOC(揮発性有機化合物)を捕らえて、作業中に出る削った粉や塵などが大きなゴミ箱に排出される仕組みとなっており、工場内のゴミを外に出さないように設計されています。

 

 

オーナーのアダム。2009年に現在のビジネスを開始して、2017年に今の新しい工場を設立した。

 

 工場内には、シェイピングルーム4部屋とサンディングルーム6部屋、ラミネーティングルーム6部屋といった、各工程が行われる部屋がそれぞれあり、その他にもスプレーをする部屋や、フィンプラグをセットする部屋など、迷子になりそうなくらいの広さの規模となっています。

 

 そして工場に入って1番に感じるのが、清潔であり整理整頓がされているという事。
 

 あまり綺麗で整頓されているというイメージがないのが普通のサーフボード工場ですが、地球の環境に考慮する事と何よりもスタッフ自身の健康を守り、安全な職場で作業するという事を目的として、徹底して清潔な職場を維持することに努めている。

 

 

生産中のたくさんのサーフボードと、とても広くて綺麗な工場内。多くのサーフボード工場を見てきたけどここまで綺麗に洗練された工場は見たことありませんでした。
ラミネーティング待ちのブランクス。受け持つ板のブランドは数10社にものぼるほど。
各部屋についている大きなダクトは塵やほこりを外に排出する事なく捕らえられています。新しい工場を作る上でとても大規模な投資であったが、環境や安全な職場作りのために必要な事であったとアダムは言っていました。

 

 各工程の分野別にそれぞれのサーフボードクラフトマンが関わり生産されています。

 

 今や世界一と言っても過言ではないSHARP EYE サーフボードのAUSTRALIAシェイパーのブレンデン・レッキー。アメリカやハワイなどにも出向きシャープアイのオーナーシェイパーであるマルシオ・ゾウビやライダー達と密にコンタクトをとり、オーストラリアからシャープアイオーストラリアとしてサーフボードを展開している。先日もマルシオがベルズビーチでのCT開催前にこの工場に訪れお互いに確認をとりあっていました。

若手ながら人気ブランドとして活躍を広げるACSODサーフボードシェイパーであるアレックス・クリューズもグラスラボで自分のブランドを生産している。グラスラボの工場内にはたくさんのシェイパーが在籍しています。

サーフボードクラフトマンとして40年以上もの経験を持つマーティン・ライト。過去にイングランドチャンピオンになった経歴もあるサーファーであり、選手を引退後もサーフィンに関わる仕事を持つ人も多くいるのがサーフボードファクトリーの内情。

職人ならではの技術でチャンネルボトムをラミネート。

ゴールドコーストで有名なドリントン3兄弟の3男のネーサン。長男のルークはシェイパーで、次男のブレントは数年前までQSのプライムシリーズを回っていたほどの実力の選手。サーフィン一家だけにネーサンは昔からサーフボードファクトリーで経験を積みグラスラボのラミネーターとして働いている。

 

オーストラリアのサーフボードファクトリーでは日本人の職人もよく目にします。仕事に対する評価はどこの工場でも非常に高く、丁寧でハードワークをこなす事から重宝されているように感じます。

 

グラスラボのサンディングチームをまとめながら、オーナーのアダムと共に板のクオリティーの維持向上を努めている宮部雄輝さん。第2のシェイパーとも呼ばれているサンディングマンとして、なくてはならない最も信頼のおけるワーカーの1人として、長年グラスラボで働いています。

 実家が石川県のサーフショップ “オーシャンブルバード”を営む、平野和人さん。オーストラリアに移住してサーフボードクラフトマンとして15年以上の経験を持ち、信頼のおける技術を持つ職人の1人として活躍している。

 

 長年の経験があり技術を持っている人が技術を持っていなければなかなか日本では仕事に就くことが難しいように感じるサーフボードファクトリーでの仕事も、オーストラリアでは1から技術を学べ1人前の職人に成長する人も少なくありません。

 

サーフボードクラフトマンになるために数年前にゴールドコーストにワーキングホリデーで来豪してきた木村悠斗さん。初めは未経験ながら働ける場所を探し、どんどん経験を積み上げ今ではたくさんの仕事を任される職人にまで成長した

 

 大小様々なサーフボードファクトリーがたくさんあるオーストラリアですが、一昔前では安定しない職種でした。しかし最近では収入も安定してきて、ワーキングホリデーなどで滞在する日本人に人気の職種の1つとなっているようにも感じます。

 

 

 

オーストラリアのサーフボードファクトリーで経験を重ね日本で活躍するサーフボードクラフトマンも多くいます。

 

 グラスラボ工場内は経験のある職人から若い職人まで年齢は様々。

 

 

 

 大手の工場なだけに育成システムも充実していて、サーフィン大国オーストラリアを影で支えているのが、この職人達ということも納得できるほどに、若いシェイパーやクラフトマンが育つのが目に見てわかります。

 

ワーカー同士で技術をシェアしたり、教え合ったりしている姿が工場内ではよく目に付きます。そこから自分に合ったやり方を探している。

 

 常に最先端の情報を取り入れ、それぞれの工程において高い技術を持った職人が丁寧に作業をし、クオリティーの高いサーフボードが生産されており、ここからオーストラリア内だけでなく世界中に向けてサーフボードが生産されています。

 

グラスラボ工場長のバーニー。コロナウイルスの影響であったりと人員確保が難しいとされる中でも、品質と生産量を落とす事なく円滑に工場が機能するように働きかけ、個性の強い職人達をまとめる大きな存在となっている。

 

 2年前よりオープンした工場と共にあるサーフショップのTHE BOARD LAB(ボードラボ)では、生産された板が工場からダイレクトに運ばれるお店であり、工場の直売所という事からストックの数もとても豊富。さらには、サーフボードシェイパーや職人達と生で話せる貴重な機会もあります。

 

 

多数のブランド(Sharpeye / ACSOD / Arakawa /CHILLI/TOLHURST)オーストラリアでの正規ライセンスを保持をしているボードラボ。店内にはストックの板だけでなく貴重なライダーの板も多く置いてあります。
ライダー陣も充実。昨年までCT選手でAUSTRALIA/OCEANIA QSランキングトップのメイシー・キャラハンもこのTHE BOARD LABのライダーとして活躍している。

 

 今後も研究開発に投資を続け、より良い材料や効率的な手順を見つけ出し、より良い製品を生み出していくとの事をやり続けるとの事。

 

 世界をリードするサーフボードファクトリーであるグラスラボとボードラボ。サーフィン大国を支えるオーストラリアのボード産業のレポートでした。

 

 

The Board Lab https://www.theboardlab.com.au

The Glass Lab https://tgl.surf