田岡なつみ インタビュー。〜出来ないことなんて絶対にない。今しかできないこと、今だからできること。

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 昨年、JPSA(日本プロサーフィン連盟)において、ロングボード女子でグランドチャンピオンを獲得、日本一に。また、世界組織であるWSL(ワールドサーフリーグ)の ASIAリージョナルでもランキング1位を2年連続で獲得し、最高の成績を収めた田岡なつみ。

 

同年にはショートボードの公認プロ資格も獲得して、オリンピックを目指している。その姿はテレビの飲料CMでも放送された。それだけの目覚しい活躍と結果を残した昨年、プライベートでは大学を卒業し、会社に就職、社会人となっていた。

 

学校から会社へと移り、プロ活動を行う忙しい一日の中で、なぜこれだけの結果を残すことができたのか。彼女の学生時代から今を振り返り、その秘密を探った。

 

写真;インタビュー:山本貞彦

 

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ー昨年を振り返ってみて、大きく変わったことといえば何でしょうか?

 

そうですね。大学を卒業して就職したことと引越しをしたことです。去年の5月に千葉へ移りました。弟も一緒なんですけど、生活がガラッと変わりました。今まで実家から海に通っていて、学校もあるから週一回しかサーフィンできなかったんです。

 

それが、月火水と働いてですけど、木金土日に海に入れるようになったことが、とても嬉しくかったですね。そのおかげで、ショートボードをやるという余裕もできたことです。

 

田岡なつみ
田岡なつみ

 

ー海に行くのが週一回と少ない中で、なぜサーフィンを始めたのですか?

 

サーフィンを始めた理由は、家族がやっていたからです。最初はボディーボードをずっとやっていたんです。ちょっとスピンができるぐらいでした。小学校まではお遊びみたいな感じで、いろんなボードに乗っていたんですが、小学校の高学年かな。父が私に初めて自分の板を買ってくれたんです。

 

それが 7’2” ぐらい。ピンクの女の子っぽい可愛い板でした。それが、たぶんロングを始めたきっかけかもしれないです。その時、父も母もロングだったので、親が乗っているのを見ていましたから、自分もロングへ入って行った気がします。

 

ISAロングボード世界選手権では日本初の表彰台で4位入賞。 PHOTO: ISA / Tim Hain
ISAロングボード世界選手権では日本初の表彰台で4位入賞。 PHOTO: ISA / Tim Hain

 

ー16歳の時にロングのプロになりました。それでも週一回しか行けなかったんですか?

 

この時は県立千葉西高等学校に通っていたんですけど、ハードな部活に浸かっていました。陸上部でハードルをやっていたんです。練習が土曜までだったし、朝練、午後練もありましたから。

 

まわりの学校とかは公欠制度とかあるんですけど進学校だし、前例がないからという理由で無理でした。休んだらその分、勉強も遅れるし。でも、ロングの大会は土日ですから、学校は休まなくても大丈夫でした。ただ、プロになってからは土曜の部活はちょっと休ませてもらって、大会に全戦出るという感じでしたね。

 

見事なハングファイブを見せた田岡なつみ  Photo: ISA / Tim Hain
海南島では見事なハングファイブを見せた田岡なつみ  Photo: ISA / Tim Hain

 

中高はハードルに熱中していて、今では考えられないほどのストイックでした

 

ーその高校を選んだ理由は何ですか?

 

ここに入る前も、実は中学の時にハードルやっていました。その当時、市主催の大会で毎回入賞とかしてました。最後の総体でハードルの決勝メンバーだったんですが、あと0.01秒で県大会に行けなかったんです。それがとても悔しくて。それで高校に行っても、絶対ハードルをやろうって思っていたんですね。

 

そして、一番最初の大会で県大会に行けたんです。それはそれで嬉しかったんですけど、まわりはすごい大きい体格の良い子ばかりで、歩幅とかが全然違うんですよ。みんなが三歩で行けるところを、私は四歩で振り上げ、足を交互に使って何とか飛んでいました。

 

中学校の時は早い方だったんですけど。高校になるとさらにレベルが上がって、自分は遅い方になってしまったから、練習の後にさらに、練習とかしていました。今では考えられないほどのストイックでしたね。私、すごい負けず嫌いなんです。

 

田岡なつみ Credit: © WSL / Surfing WA / Majeks
昨年のオーストラリでは2勝をあげた田岡なつみ Credit: © WSL / Surfing WA / Majeks

 

ーその後、プロ活動を続けながら、大学は桜美林大学のリベラルアーツ学郡に入学しました。ここを選んだ理由は?

 

留学制度があるからです。誰でも半年間留学ができて、それを単位として使えるシステムがあるんです。だから、留年をしなくていいんですね。あとリベラルアーツ学郡はいろんなところで学べるですよ。

 

他の学部の学科の授業も取れる自由選択というカテゴリーがあるんですけど、私はビジネス英語とか取ったり、健康福祉とか。当時、障害者の方と一緒にサーフィンする機会もあったことで、興味ある他の学部の授業もたくさん取りました。

 

アルバイトして、お金を貯めてオーストラリア留学をしたかったんです。

 

ーその大学時代もサーフィンは週一回だったんですか?

 

週一回です。大学一年の時はバイトとかもしていましたから。バイトを3つも掛け持ちしている時もありました。本当に寝ないでやっていました。今では考えられないんですけど。早朝のコンビニで6時〜9時までやって、10時半〜午後3時までクレープ屋さんで働き、午後5時から居酒屋さんで深夜の3時までやっていました。一番ハードな時はそういうスケジュールでした。

 

ーなぜ、アルバイトをそこまでしていたのですか?

 

このシフトは3ヶ月ぐらいやったんですけど。弟にも、いつ寝てるの?死んじゃうんじゃないの?って言われました。でも、それはちゃんと留学したかったんですよね。オーストラリアだと勉強もできて、サーフィンもできる最高の環境だと思っていましたから。でも、親には断られるから、自分でお金を貯めて行こうと考えて、アルバイトをしたんです。

 

それもこれも週一回のサーフィンって言うのがすごく嫌だったんですよ。それを変えたいと思っていたんですけど。それで留学しかないって考えたんです。まわりで一年とか行っている子もすごく多かったし、みんな当たり前のように行っていたので、それも悔しかったんです。でも、結局、金銭的にも家の同意も取れなかったので叶わずでしたけど。

 

ーそして、桜美林大学の留学制度を使って行ったのが、2014年ですね。4ヶ月の留学期間はどんな生活でした?

 

滞在はホームステイでした。学校の授業が日によって変わるんですけど、午前か、午後のどっちかなんですよ。だから、午後の時は午前中にサーフィンをやってみたいな。毎日、サーフィンはできる環境でした。ポイントはウーロンゴンだったので、日本みたいなビーチブレイクでした。良い波には当たらなかったんですけど、いろんな人の板を借りたりして波乗りしていました。

 

でも、4ヶ月でやっと慣れてきて、言葉とか通じるようになったのに、そこで日本に帰国しなくてはいけなかったのは残念でした。もう少し長い期間行きたかったです。

 

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ーそう言えば、2016年にはNSSA(学生選手権)でショートボードで優勝しましたよね。ショートをやるきっかけは、この留学に関係があったんですか?

 

桜美林にはサーフィンサークルがあるんです。この時は秋の大会でした。スケジュールで秋しか出られなかったんですけど。ロングもショートも出て、ダブル優勝しました。オーストラリアの留学の時はショートしか持って行かなかったこともあって、ショートをやっていたんですよね。

 

実は私、ロングの板をすごい折ってしまう時期があったんです。なので、波が大きい時に、ショートをやっていました。スポンサーの3Dimentionさんの板に乗っていた時です。ムラサキスポーツさんに入る前ですね。もともとショートボードがメインのブランドなんですが、一本借りたのがきっかけだったと思います。

 

結構それが面白くなっちゃって、折れる心配もないですし。常にショートをやっていたわけではないんですけど、いろんなボードに乗りたいと前から思っていましたから。

 

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ショートのトレーニングがロングの成績にもつながったんだと思います。

 

ーそして、昨年の2017年は快進撃でした。WSLの海外で初優勝。そして、JPSAのロングボードのタイトルを奪取。それにショートボードの公認プロ資格獲得。それはこのショートにも大きく関係していますか?

 

そうですね。ロングと違って難しい部分も多いです。ショートボードって本当に大変なんですよ。改めてパドル力がないことを思い知らされました。パドルしていて、肩が痛くなってくるんですよ。

 

昨年はショートも大会に出るということで練習を始めたんですけど、海の中での持久力が全然なくて、まずは体力トレーニングしないとダメだって思いました。ロングの浮力に甘えている部分がすごいあるんだなって自覚しました。ショートは自分の力でスピードをつけていかないとすぐ失速するので、そこをたくさん練習しました。

 

そのおかげもあったんだと思います。ロングボードのでテイクオフがすごいスムーズにできるようになったんです。ファーストセクションのノーズにかけられる時間も余裕を持って、長くできるようになりましたから。それがこのロングの成績にもつながったんだと思います。

 

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ーショートボードのプロ資格を取ることが、サーフィンを大きく変えたということですね。テレビでも「挑。」というワードで、アクエリアスのCMが流れていましたね。

 

あれはロングボード版もあるんですよ。映像がショートボードで、駅とかのポスターはロングだったんです。本当に「挑む」でした。昨年、ショートボードのプロにもなれたことも含め、本当に挑戦の年でしたから。

 

でも、正直、プロ資格を取るのって簡単なものではなかったです。今回は自分のサーフィンをビデオ撮影してもらって、手の位置がこうだから、私はこう動かなきゃいけないんだとか、もうたくさん分析しました。本当に努力した一年でしたね。

 

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見事ショートボードのプロ公認も獲得した

 

 

毎日、海に入れる環境が羨ましかった。

 

ーそして、昨年のもう一つ大きな出来事。大学を卒業して、就職しました。プロ活動に専念する道は選ばなかった理由は何ですか?

 

元々、親が厳しいこともあるんですけど。プロになったからといって、特別扱いはできないって前から言われていました。家族のルール見たいなもので、自分で自分のことをちゃんとする。

 

将来、生活も自分でやっていけるようにならなきゃだめということがありましたから、就職しないと絶対サーフィンを続けさせないと言われてました。だから、大学を卒業して、社会人になるのが当たり前のコースでした。

 

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両親に担がれる田岡なつみ。

 

厳しいことを言ってくれた両親には感謝しています。

 

正直、プロ活動に専念する道もあったし、サーフィンだけで食べていければ、良いなと思った時期もありました。海に行けるのが週一回だったし、まわりはみんな毎日、海に入れる環境が羨ましかったですし。ここは親と何回も喧嘩しました。

 

でも、将来どうするのか。実際、実家に住んでいますから、もし「出てけ」と言われたら、何も収入もなかったら、サーフィンも続けられないわけですから、良く考えて就職の道を選びました。でも、それって自立するために、厳しいことを言ってくれてたと、今では親には感謝しています。

 

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ー就職先をマイナビさんに決めた理由は?

 

就職にはプロ活動も続けられるところ。これを満たしてくれる会社で選びました。それに会社がアスリートに理解があるということです。マイナビさんは仙台にサッカーチーム、ベガルタ仙台レディースもサポートしています。そのベガルタ仙台の2人も自分と同じ待遇で、仕事をしながらサッカーをやっています。

 

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ー会社では主にどんな業務を行なっているのですか?

 

週の前半、月火水は実家から会社に通っているんですけど、私は社長室HRリサーチ課に配属されています。仕事の内容は学生の就活動向だったり、アンケートを作ったり、そのアンケートのチェックとか。基本的な電話対応と来客対応とかですね。

 

社長室は広報部の隣にあるんですけど、広報部の方に電話がたくさん鳴ります。もう、電話取るのが、みなさんとても早いんです。なので、最初は全然取れなくて苦労しました。最近はだいぶ慣れてきて、やっと電話も取れるようになりました。

 

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仕事もそうですけど、ここでは社会人としての基礎も学んでいます。それも楽しいというか。実は今までパソコンが大嫌いだったんですよ。大学時代もその道を避けてきて、コンピューターを取らない道を通ってきたんですけど、今一番必要なことがパソコンになりました。仕事では当たり前ですよね。

 

ランチタイムにお財布だけ持って行くというのが夢だったというなっちゃん。
ランチタイムにお財布だけ持って行くというのが夢だったというなっちゃん。

 

今はエクセル、ワード、パワーポイントなど全部一通り勉強して、ちょっとずつですけどできるようになりました。それが自分的には嬉しくて、本当に毎日が勉強になっています。

 

高校生の時の思っていた憧れがあったんですけど、テレビ・ドラマ見ていて、社会人になったらOLになって、東京のビルでランチタイムにお財布だけ持って行くというのが夢だったんですよ。それが今、叶ってます(笑)。ただ、同期がいないので、あんまり誰かと出かけることは少ないんですけど。

 

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田岡なつみ@海南島 Tim_Hain

 

「できないことは絶対ない」と思っています。

 

ー社会人として仕事しながらのプロ活動。それが昨年の大きな変化ですけど、その中であの素晴らしい成績を収めることができました。忙しい中、これだけの結果が出せた理由はなんだと思いますか?

 

そうですね。今まで海での練習が週一回しかできない環境にいたからこそ、集中して短時間でやることを実践してきました。その分、充実度は高かった気がします。それと、普段から海に行けない平日でも、できる限りの練習していました。

 

もちろん、海で練習を重ねることも、すごく大切なんですけど。ダラダラ練習しても意味がないと思いますし、本当に努力すれば、みんなに追いつけると信じていましたから。時間の使い方は大事ですよね。

 

それと「できないことは絶対ない」と思っています。時間がなくても、限られた時間でできることって何かあるし。何事にも積極的に行動に起こすことが大切だと思っています。すぐに行動に起こすこと。行動に移すことによって、全部が良い方向に進むじゃないですけど、効率良くできることってある気がします。とにかく自分で意識して行動することですね。積極的にやることが大切かなって思います。

 

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新しい発見を「楽しい」と思えれば、続けることができる

 

ー今まで学業、仕事とサーフィンを両立することを辛く思ったことはなかったんですか?

 

もう全然辛いです(笑)。でも、一日スケジュールが空いちゃったりすると、何をしたら良いかわからなくなっちゃうんです。結局、暇になると逆に疲れちゃいます。だから、忙しい方がいいんですよね。その方が充実して、あっという間に時間は過ぎていきますから。

 

自分は仕事もサーフィンでも毎回、大きな発見があるから継続できるのかなって思っているんです。ショートボードのテイクオフも最初の頃、ありえないパーリングとかを何回もしちゃったんです。それが、もうすごく悔しくて、なんで自分はこんなとこでコケてんのかとか、ターンもそうでした。でも、そういう新しいことを始めると新しい発見がすごいあるんですよね。

 

仕事も新しいことだらけで。最初はもう頭がパンクしそうになったんですけど、自分でノートをつけていくうちに整理されて、今は慣れてきて、できなかったことができるようになっています。新しい発見を「楽しい」と思えれば、続けることができるって思うんですよね。

 

彼女が信頼する先輩プロサーファーであり、シェイパーの尾頭信弘
彼女が信頼する先輩プロサーファーであり、シェイパーの尾頭信弘

 

ー最後に。ロングボードで日本一になりました。ショートボードもプロになりました。次の目標は何ですか?

 

みんなの協力もあったおかげで、昨年の目標は達成できました。次の目標はロングボードでは世界一を目指すこと。ショートボードではJPSAをフル参戦して、少しでも順位を上げていければいいなって思っています。5年先ぐらいまでの予定は何となくできているんですけど、やりたいことが多すぎて(笑)。今の環境はプロ活動を続けるにもベストだと思っています。だから、今年もいろいろなことに挑戦していきたいです。

 

 

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田岡なつみ。

あの笑顔と小柄な体。
これほどのパワーと強い想いはどこから生まれたのか。
厳しい教育方針があったとはいえ、なぜこれほど頑張ることができるのか。

それは海が好き、ただサーフィンが好きという想いだった。

やりたいことがあるならば、時間が無いなんて言い訳はしない。
できない理由を探すのではなく、やれることをやるだけ。
ただ、それだけだった。

頑張れば、必ず結果がついてくる。
どこにいても自分の夢を叶えることはできる。
諦める必要なんかないんだって、彼女は教えてくれた。
ありがとう!なっちゃん!

頑張れ!なっちゃん!

 

 

 

田岡なつみ

1994年8月12日生 23歳

戦歴

  • 2011年 JPSA ロングボード女子ランキング 2位
    JPSA ロングボードの公認プロ資格獲得
    JPSA ロングボード女子ルーキーオブザイヤー獲得
  • 2012年 JPSA ロングボード女子ランキング 3位
  • 2013年 JPSA ロングボード女子ランキング 4位
  • 2014年 JPSA ロングボード女子ランキング 5位
  • 2015年 JPSA ロングボード女子ランキング 3位
  • 2016年 JPSA ロングボード女子ランキング 2位
    WSL Women’s Longboard Tour ASIA Ranking 1位
    WSL Women’s Longboard Tour International Ranking 9位
  • 2017年 JPSA ロングボード女子ランキング 1位
    JPSA ショートボードの公認プロ資格獲得
    WSL Women’s Longboard Tour ASIA Ranking 1位
    WSL Women’s Longboard Tour International Ranking 13位

 

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