ハワイに溢れる失業保険で暮らすパンデミック・サーファーとパイプマスターズと大統領選挙の関係

毎年、ハワイアン・ウインター・サーフ・シーズンの到来を告げる、サンセットの試合を皮切りに、世界中からサーファー達が集まり始めるハワイ・オアフ島ノースショア。しかし、今年はコロナのお陰で例年とは少し趣が違う。

WSLは2020シーズンをキャンセルし、2021年のツアーは、2020年の11月にハワイのマウイ島でウイメンズ、2020年12月にハワイのオアフ島でメンズが開始されると発表している。

スタートまで約1ヶ月となり、今の状況で開催ができるのか。今シーズンのハワイは? そんな疑問をハワイのノースショアで暮らすサーフメディアでお馴染みのエミコ・コーヘンさんに調査してもらい、今のハワイの現状などを書いてもらった。

 

text by emiko cohen 

 

パイプライン

 

「パイプにあるジェイミー(オブライエン)の横のあのでかい家、もうWSLが押さえたらしいよ」「えっ、てことは、パイプマスターズやるんだ」「この状況で?」

 

テニスにゴルフ、フットボール。アイスホッケーにバスケットボール。コロナ渦が未だ治らないどころか、感染者がヨーロッパでもアメリカでも、今までにないほど増えてきている中、スポーツの世界は、新たなルールの元に、再開を始めている。文頭の会話は娘たちとの。やはりサーフィンも再開させるのだろうか?

 

WSL(ワールドサーフリーグ)のウェブサイトを確認してみた。

さて、スケジュールは。。。(クリック)

3月の大会はキャンセル。4月もキャンセル。6月、7月、8月、9月、10 月までずっと予定していた大会はキャンセル。で、12月。

えっ!

12月8日から20 日までの期日で予定されているビラボンパイプマスターズには、UPCOMING (開催予定中)とある。

 

早速、WSLハワイオフィスに連絡しようと、連絡先を探した。が、なぜか、、、電話番号が見つからないのだ。「ついこの前までネットで簡単に調べられたのになあ、どうしたんだろ。しかもハワイ・オフィスだけだ、電話番号が載ってないのは」。うーん、まあ、悩んでいても仕方ない。とりあえずメールアドレスがあるから連絡してみることによう。

 

一通目はとても丁寧な文章にした。「日本のサーフメディアというオンラインマガジンなんですが、冬のイベントのことで、インタビューしたいのですが。連絡お待ちしてます」。しかし、数日待っても連絡なし。そして2通目。少し仲が近いと勝手に自分で思って込んでいる相手、ジョーディー・ヤングにフレンドリーに迫ってみた。「こんにちは、ジョーディー。元気?私たちは元気だよ。パイプマスターズが予定されてるけど、その件で聞きたいことがあるんだ。返事待ってるね」。

 

が、こちらも駄目。うんともすんともない。これはもうオフィスに殴り込み、じゃないけど、直接話を聞きに行こう。ハレイワタウンの真ん中、ノースショアマーケットプレイスにあるWSLオフィスを訪ねてみることにした。

 

「行っても誰も相手にしてくれないよ。私もロングボードツアーのことで何度もオフィスに訪ねたんだけど、誰も相手にしてくれなくてさ。しばらく立ってたら、オフィスの一人に「入り口に張り紙を見てくれ」って言われたんだ。張り紙には、インタビューは電話で受け付けるって書いてあってさ、すぐに予約とってマーティ・トーマスと電話で話すことができたんだ。その方法なら出来るかもよ。

 

でも、ほら、ニッキーっているじゃん、私の友達。え?覚えてないの?何度も言ったじゃん。ほら、テレビのニュース番組のキャスターしてる人だよ。すごい優しい人。ともかく、彼女も、パイプマスターズのことを調べようとWSLに連絡したけど、やっぱり連絡がなくてさ、何か知ってる?って、私に聞いてきたくらいだよ。ニュース番組の質問も無視されてるくらいだからねえ。どうかなあ。」

 

出がけに娘のサリーにこんなことを言われた。

 

「やっぱり行くのやめようかな~」そう考えていた矢先に「ハレイワ行くんだったら、ケーキ作る材料をロングスで買ってきてくれた助かる、グッドラック。頑張ってね」とサリー。引きかけていた気持ちを後ろからドンと押された気分。ということで、10 月15日、午後3時。ハレイワのノースショアマーケットプレイスにあるオフィスを訪ねた。

 

 

コーヒーギャラリーの横の比較的新しい建物。その2階にWSLハワイオフィスがある。ほとんどのお店はガラガラ。一階にあるレストランもロックダウンが解除されてからオープンしているものの、誰も人が入ってない。

 

「観光客が来ない中、みんなどうやって生計立ててるんだろう?」そんなことを思いながら、木で出来た階段を上がり、ようやくオフィスに到着。中は薄暗い。2つあるドアは、どちらも鍵がかかっている。「ここまで来たのになあ」。誰もいないことはもうわかっているのに、まるで怪しい人間のように私、ガラス窓に顔を近づけてよーく中を覗いてみた。

 

 

やっぱり誰もいない。「使われていないのに、ここの家賃払ってるのかな。相当な出費だよな。。。あっ、そうそう、張り紙、張り紙。あ~あった、あった、インタビューは予約性。えっと、連絡先は。。。ありゃ、メールアドレスしか書いてないじゃん!!」

 

結局、振り出しに戻っただけ。特したのはサリー。ロングスで必要な物が家でネットフリックスを見ている間に手に入ったんだから(笑)「あれ?建て替えたお金まだもらってないかも」。

 

その夜。この仕事はもう駄目だなと、断りのメッセージをサーフメディアにしようと思っていた矢先にポールが、「ヘイ!マーティ・トーマスがインスタのメッセージ答えてくれてるよ、今」と。「どんどん話つないで!」と私。「パイプマスターズは、まだ決まってない。11月3日に答えが出るだろう」だって。11月3日って大統領選挙だろ。それと関係あるのか聞いてみるよ」。。。。。返答なし。。。

 

結局わかったのは「まだ決まってない」ということだけ。そこにチラッと漏らした大統領選挙の投票日。重ねてみると、いろいろ推測が出来る。

 

現在、アメリカでのコロナ感染はますます増えている。死亡者もどんどん増えている。世界の5分の1のコロナ感染者はアメリカ人だ。医療も発達し、研究者もたくさんいるアメリカだというのに、この始末。理由は、明らかに自由の国だから、だ。コロナに関しては、完全に2つの派に分かれている。

 

コロナは危険な病だと思っている人。そして、コロナは風邪程度のものだと思っている人。後者の方は、テレビでのコロナ報道がでっち上げだと思っている。今のトランプ大統領の仕事ぶりが悪い理由をつけるために仕組まれているんだと、本気で思っているのだ。

 

 

ハワイに向けての国際線のほとんどがストップしている

 

 

実際に、トランプ大統領にかかったものの、最高の治療を受けた後に、回復した。回復した後、トランプは「コロナなんて怖くない。どんどんコロナになって集団免疫をつけようじゃないか」と言い出した。マスクをつけずに選挙のキャンペーンラリーに参加している人たちが増えている。一方、前者の方は、科学者の意見をしっかり聞き、しっかりマスクをし、人との距離を開けて、静かに、コロナの波が過ぎてくれることを待っている。

 

なるほど。マーティの言葉を深読みすると、「現在、ハワイに向けての国際線のほとんどがストップしているけれど、これも大統領が変わることで、コロナへの対処法や感染者の数も変わってくるだろうから、規制が緩まるかもしれない。または、規制がますます強まるかもしれない。だから今はわからない」。

 

 

失業保険で暮らすパンデミックで産まれたサーファー

 

 

さて、ここで10 月16日現在のハワイの様子をお伝えしておこう。

 

3月の終わりから猛威を振るっているコロナの波は、当然ハワイにもやってきた。世界のみんなが同じ心境だったと思うが、最初はコロナの正体が全く掴めなかったから、皆が恐怖心を持っていた。だから、きちんとみんなマスクをし、手を洗い、人と人との距離をしっかり開けて過ごしていた。

 

「その時のコストコの様子は、怖かったな」。マスクが手に入らなかったから、例のシェイプの時に使うガスマスクみたいなのをつけて買い物している人がいたり、唯一許されているアクティビティーのサーフィン中、海の中でもほとんどの人がしっかり2メートル離れてた。

 

 

「サーフィンをするために駐車する時、隣と近すぎたりすると睨まれたしたな。」そのお陰で、最初のうちは、感染者の数がとても少なくて助かった。アメリカ本土のニュースでも、「さすがアロハステイト(州)だ」と、ハワイのコロナ対策の良さを褒めたたえていた。

 

しかし、夏。だんだんその態度も緩んできてしまった。理由の一つに失業がある。観光業で成り立っているハワイだから多くの人が失業。失業保険をもらって、まあまあお金がある人が増えたから、暇が異様に増えてしまい、有り余るエネルギーを、こっそりパーティーで発散したりし始めてしまい、近日。

 

ハワイは東京と比べて10 分の1しかいない人口だというのに、コロナの新規感染者が日々、東京都と同じくらい。一時は300人を越えた。それなのに、なんとなく緊張感に欠けてる、というか、メディアの影響で「信じない人は信じない」と頑なな態度。マスクなしを続けている。結局ロックダウンが再び始まったのが、9月8日。

 

レストランはテイクアウトオンリーになり、ビーチや公園やボタニカルガーデン、トレイルを閉鎖。ただし、海に入るのは構わない。ということ状況が9月23日まで続いた。そして、9月24日。再びロックダウンの緩和。海や公園やレストランでは、最大5人までだったら集まってもいいとことになった。

 

で、海。「ここまでサーフィンが政治や世の中の流れに絡んだのは初めてのことなんじゃないかな」。

 

ジムやヨガスタジオも閉鎖され、サーフィンを始める人たちがグンと増えた。

 

 

目まぐるしく変わるコロナに纏わる法律の中で、なぜかサーフィンは一度も止められたことがない。ロックダウンの規制が厳しかった時は、自分ちの目の前が学校の校庭で、そこで子供とサッカーをしていたら警察官がやってきて、5000ドルの罰金チケットを切られたし、ジョギングもダメという時もあった。それなのにサーフィンは良しと。ジムやヨガスタジオも閉鎖され、結果、サーフィンを新しく始める人たちがグンと増えた。

 

 

3月の後半から4月にかけて、コストコで120ドル前後で買えるソフトボードでパドルもままならない(波乗りのルールも知らない)人たちが、ラインナップに並ぶようになった。その為、チャンズリーフなどのイージーウエイブが立つ場所は大混雑。一時、かなり危険な状況になっていた。「末っ子は次女のサリーのように、コントロールができないため、よくぶつかったりしていたな」。

 

 

お金はあるけど暇もあるというパンデミック生まれのサーファー

 

 

さきほども書いたように、失業者が(今はもう底をついたらしいが政府からの)失業保険で暮らしているお金はあるけど暇もあるという人たちがパンデミックで産まれたサーファーなので、毎日夏の小波を利用して練習したために、秋口には、かなりな腕をつけてきた。

 

そういう人たちが、本物のサーフボードを買うようになった。例えばショートボードなら、ウエイド・トコロとかログならカーソン・マイヤー。人気のシェイパーは、削りきれないほどたくさんのオーダーが入るようになった。少しサイズが上がるようになったチャンズの沖でも、悠々と乗るように。

 

「ちくしょー、私なんてそういう人たちに波を取られてしまうようになってるし(笑)」もとい、「まあね、サーフィンは良いことですから。みなさんが楽しんでくれればそれでいいのです」。

 

観光客がいないローカルオンリーのハワイ。しかも夏場なのにノースショアにそこそこのファンウエイブがあったハワイ。コロナのことを例えば一瞬忘れることが出来たのなら、まさに「ハワイはサーフィン天国」と形容できる状況だった。

 

 

すでに6000人を超える観光客がハワイに到着。

 

しかし、良いことはそうそう続くものではない。というか、現実は、パンデミックの真っ只中だ。観光客が入らなくなったハワイの経済は、そろそろ底をついてきたということで、何かしらの形で、パラダイスをシェアしなければならないと政府が対策を立て出した!

 

それが始まったのが10 月15日。アメリカ本土から来る観光客たちへ、それまで渡ハしてきたもの全員に与えられた2週間の自粛を、出発72時間前にテストをうけて陰性の証明書を到着時に提出すれば免除になることになり、初日すでに6000人を超える観光客がハワイに到着した。

 

「日本からも普通に入れるの?」ノースショアシーズン目の前に、ヤキモキしているそんなサーファーたちに、Hawaii Tourism Japan サイトより引用させてもらった文章を貼り付けよう。

 

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ハワイ州事前検査プログラム導入について

 

2020年10月14日

ハワイ州は、ハワイ時間2020年10月15日(木)から開始が予定されているハワイ到着後の14日間自己隔離を免除する事前検査プログラムの検査対象に、米国以外で初めて日本の厚生労働省が認可する新型コロナウイルス感染症の核酸増幅検査(NAT)を承認しました。

ハワイ到着後の自己隔離を免除するためには、日本を出発する72時間以内にハワイ州保健局が指定する日本国内の医療機関にて、新型コロナウイルス感染症の検査を行い、ハワイ州指定の陰性証明書を発行してもらい、入国時に提示する必要があります。

現在、ハワイ州保健局は、日本の様々な医療機関と協議を重ねており、指定医療機関が確定次第、日本向けの事前検査プログラムの開始を発表する予定です。日本向けの事前検査プログラムが開始されるまでは、引き続きハワイ到着後に14日間の自己隔離が必要です。ハワイ州は、日本政府と協力しながら事前検査プログラムの充実を図り、日本からの旅行者がハワイへ渡航しやすい環境を整備していきます。

ハワイ州保健局が日本の指定医療機関名を公表した後、「ハワイ州保健局 COVID-19情報サイト」 (https://hawaiicovid19.com)及び、ハワイ州観光局公式ポータルサイト「allhawaii」内の「ハワイ州新型コロナウイルス情報サイト」に随時公開していきます。指定医療機関の情報開示とともに、ハワイ州指定の陰性証明書サンプルも同サイト内に掲載する予定です。

 

【厚生労働省認可の核酸増幅検査】

 

核酸増幅検査(英: Nucleic acid Amplification Test、NAT)は、ウイルス遺伝子を構成する核酸(DNAまたはRNA)の一部を増幅して検出する検査法であり、PCR検査も核酸増幅法のひとつです。 厚生労働省サイト:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11331.html

 

【ハワイ州 新型コロナウイルス情報サイト】

 

ハワイ州観光局が管理するハワイ州新型コロナウイルス感染情報の特設サイトです。感染状況や統計データ、ハワイ旅行前に必要な手続き、旅行中の感染防止対策、安全ガイドライン、観光施設の感染防止対策への取り組み、衛生安全対策動画、よくある質問などを掲載しています。
ハワイ州 新型コロナウイルス情報サイト:https://www.allhawaii.jp/covid19/

*ハワイ州知事オフィスが発表したニュースリリースの原文(英語)は下記URLをご参照ください。
https://governor.hawaii.gov/newsroom/latest-news/office-of-the-governor-news-release-health-department-approves-japans-testing-procedure-for-pre-travel-testing-program/

 

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付け加え。。。昨日のニュースでハワイの知事イゲは「日本人たちは規則を守ってくれる人たちですから、年末には入れるように準備を整えています」と言っていた。「宿をしている我が家もそろそろ始動しないとなああ」

 

さて、この原稿を書いている今日は10 月17日。パイプラインに6~8フィートの波が炸裂している。で、これまた不思議なことに、海外から容易に入れないはずなのに、ものすごいたくさんのエキスパートたちがサーフィンをしているのだ!!!こんなにたくさんのアドバンスなサーファーがオアフ島にいたんだろうか。

 

「待てよ。まさか!!3月に始めた人たちがここまで上達したとか?」2020年予想しなかったことが起きてるこの年。そういうのも、もしかしたらありだったりして(笑)

 

それでは皆さん、またいつかWSLの件をアップデートできる日まで。

 

STAY SAFE,
ALOHA!