5年で掴んだ王冠、その強さの裏側にあるもの。イタロ・フェレイラ SURFMEDIAインタビュー。

CT入りしてから僅か5年。ブラジリアン3人目の世界王者に輝いたイタロ・フェレイラ。パイプでのCT最終戦で宿敵メディーナを下して見事優勝を果たし、悲願の世界タイトルを獲得した。その圧倒的な強さの裏側にあるものは何なのか。イタロがサーフメディアの独占インタビューに応えた。

 

 

interview by Emiko Cohen

 

SURFMEDIA(SM):基本的なことから聞くけど、いつからサーフィン始めたの?

 

イタロ:9歳頃だと思う。大会に出だしたのが11歳。地元の小さな大会だけど、その最初の大会で優勝できたんだ。

 

SM:9歳で始めたってちょっと遅くない?

 

イタロ:まあね、ハワイとかに比べるとそうかもね。

 

SM:なんでサーフィン始めたの?

 

イタロ: 俺が育ったところは、海に囲まれたド田舎。サーフィンするか、釣りするか、みたいな、他にあまり選択肢なかったから。直接的なきっかけは、先に始めてたサーファーの両親を持つ友達がいて、そいつがやたら楽しそうにサーフィンしててさ、つられるように始めたんだ。大会に出るようになったら、さらに楽しくなっちゃって「これだ、これだよ、やりたかったことは!」なんて思ったの今でも覚えてる。

 

SM:イタロのご両親は波乗りするの?

 

イタロ:両親はやらないけど、おじさんがやってた。その叔父を先頭に、友達も誘って、数人でサーフィン始めたんだ。

 

 

 

ベルズのCTイベントで優勝した瞬間、きっとチャンピオンになれると思った。

 

 

SM:最初のコンテストは優勝したっていうけど、コンペティションはもともと好きなの?

 

イタロ: 大好き! 全てに対して戦うのが好きなんだ。ゲームもそうだし、もちろん水の中もそうだし、サッカーとか全てに対しても勝ちたいタイプ(笑)

 

SM:で、勝てるの?

 

イタロ: うーん、いや、ダメなものもある。でも、スケートボードは上手いよ。釣りも。サッカーもたぶんイケてる。あ、バスケも!

 

イタロ・フェレイラ WSL/ Poullenot

 

SM:いまサーフィンの世界チャンピオンだけど、いつ「自分は世界一になれる」ってことに気づいたの?

 

イタロ: 2年前かな。あのベルズのCTイベントで優勝した瞬間。あの瞬間に、まだ準備は整ってないけど、しっかりトレーニングして、良い行いをし続ければ、きっとチャンピオンになれるって思いが浮かんで。。。でも、ここに辿り着くのは長い道のりだったんだよ。

 

Photo by @liljboogphotography

 

QS周りだしたのが2014年。お金がなかったから、ツアーの半分しか周れなかったけど1年でCT入りを果たせた。

 

 

SM:そうかなあ。他人の目から見たら、世界に出てきたと思ったらあっという間にチャンピオンになっちゃったってかんじだよ。苦労もぜんぜんしてないかんじ(笑)

 

イタロ:確かに他の人に比べればそうなのかな。たった5年だもんね。WCTに向けてQS周りだしたのも2014年だから。周り始めた時はお金がなかったから、半分しか周らなかったんだ。ポイントだけ稼げばいいと思って無駄なく動いていた。

 

ほんと、うまく計画通りに行って2015年からはCT選手として戦えるようになったんだ。最初の年にルーキーオブイヤーもらっちゃったしね。

 

でも、そのあとの2年がちょっとね、2016年と2017年が、ぜんぜんダメだった。結果がまったく残せなくって。でも、2018年に3つの大会で優勝できたんだよね。運がつきまくってる様に次々と勝てちゃって。

 

その時だよ、俺、このまま頑張れば世界チャンピオンになれるんじゃないかと思ったのは。で、次の年にチャンピオンになれた。俺、つくづく思うんだよね。神はわたしたちのために計画を用意してくれているんじゃないかって。

 

 

 

SM:トレーニングすればチャンピオンになれるってベルズで優勝した時に思ったあと、実際にどんなトレーニングをしたの?

 

イタロ: ジムで基礎体力を作って、あとはメンタルの強化。有能なスポーツ選手がどういう心構えで向上して行くのかなんかのビデオを観たり。あと実際の大会の時には、大会が始まるかなり前に会場入りして、そこの波にどの板が合うか、いろんな板を試したり。ローカルの人にその場所の特徴なんかを聞いたり。

 

あと経済的にもまとまってきたっていうのもある。2年前からサポートをしっかり受けられる様になって、昨年は彼女も出来たし、全てが揃ったのが昨シーズンで、「よしっ!やるぞ!!」というかんじだった。

 

SM:そういう環境のバランスっていうのは技術以上に大切なのかな?

 

イタロ: うん、どこに行っても、落ち着いていられるっていうか、ハッピーな気持ちでいられるっていうのは、かなりデカイよ。問題を自分の枠外に追い出してポジティブな気持ちでいるようにしてる。

 

SM:具体的に、ポジティブな気持ちでいる為に、どんな事をしてるの?

 

イタロ: 友達と楽しめる時間を作る。大会の枠外から身も心も出る瞬間を作る。例えばハワイだったら、ワイキキをウロウロするとか、レストランに入るとか。音楽を聞くとか、友達や人とコミュニケーション取るとか、彼女との時間を大切にするとか、そういう細かい日常のことに意識を向けて心から楽しんじゃうんだ。戦いにばかり集中してると、しまいにはプレッシャーで、自分を自分で押しつぶしてしまうことにもなりかねないから。

 

 

 

SM:負け続けた年もそうやって乗り越えたの?

 

イタロ:うん、その時はさらに強い思いで「いつもハッピーでいる様に頑張ろう」とか「良い人でいる様にしよう」とか。(笑)

 

SM:波乗りの技術の話に変えるけど、あのエアーはどうやって身につけたの?誰にも真似できないほど、高く飛ぶし、完成度も高いよね。

 

イタロ:いつも練習してる地元の波がかなり悪いからね。ウネリがあまり入らないんだよ。だから、オンショアで風吹いた時に波乗りできるというパターンで、チョッピーな変な波でどれだけ得点を叩き出すかというのにフォーカスしてる。そうすると、エアーが有効になるんだよね。選手として始めたときからそうだけど、どんなクソ波でも10点満点が出せる可能性はあると信じて練習してきたから。

 

このエアでパーフェクト10をスコアしたフェレイラ。PHOTO: © WSL / Cestari

 

 

SM:そうやってきて、今、頂点に立っちゃった。これからの計画は?

 

イタロ:長い目で見れば、若手に良い影響を与える人間になりたい。近い将来の話だと、チャンピオンをディフェンディングしなきゃというプレッシャーは持たないでいる。意識的にね。良い状況を続ける為には、考えすぎないことだと思ってるから。プレッシャーなんか何の役にも立たない代わりに体にも良くないでしょ。ハッピーでいることが一番だと思ってるんだよね。一瞬一瞬を楽しめる様にマインドをコントロールして行く。パワーはさ、(頭を指差し)ココで決まるんだよ。体じゃないんだ。

 

SM:マインドコントロールって簡単にはいかないと思うんだけど、メンターとか宗教とか信じてる?

 

イタロ:うん、俺、宗教家。たくさん拝むよ。だから俺、信念が強いんだ。他人が何言っても曲げなられない信念がを持ってるっていうのには自信がある。

 

Evangelical (福音主義)というんだけど、日本にもあるのかな? カソリックとはちょっと違うよ。カソリックは神の像があるけど、銅像とか目に見えるものはなくて、心の中に神が生きてると、俺のその宗教では信じているんだ。

 

イタロ・フェレイラ Credit: © WSL/ Masurel

 

SM:それにしても、いまブラジリアンの勢いが凄いよね。ブラジリアン同士の戦いが世界の戦いっていう感じになってるし。お互いの仲は? 以外と険悪だったりして。

 

イタロ:はははは。。悪くない、悪くない。もちろん海の中で戦ってる時は、敵意識は強いよ。けど、陸に上がったら友達同士。一緒に食べに行くし、リスペクトしあってる。いろんな話するよ、みんなで。

 

SM:ブラジリアンの強さの秘訣ってなんなんだろうね。

 

イタロ:うん、説明できる。俺たちゼロから来た人間だから強いんだ。最初に何もないところから始まったから、落ちようがない。上に登る以外ないんだよ。何もないところからでも出来るぞと見せたい意地があるんだ。ゼロの人間でも、ツアーを周りだして、大会で勝って、でかいスポンサーをつけて、トラベルして回れて、世界のトップに君臨出来るってことを、世界の人たちに、見せつけてやりたいって気持ちでいるからだと思う。

 

実際にブラジリアンそれぞれの選手を調べてごらん。驚くと思うよ。例えばガブリエル。お金に恵まれないで育ったし、デ・スーザは、スラム街の出身だよ。俺自身、何もない田舎の漁師村で育ったし。。。俺なんかも、子供の時はイベントに参加したいから、農家から仕入れた野菜をスーパーに届けたりしてさ、エントリー費を自分で稼いでたくらいだもん。ハングリー精神がどこの国の選手よりも強いんだ。

 

SM:イタロ自身はどんな家族で育ったの?

 

イタロ:俺の家族はいい家族だよ。産まれてからいままで、いつも俺の側にいて応援し続けてくれている。初めてのボードは、父からの贈り物だったんだ。獲った魚を売って稼いだお金で、ボードを買ってくれたんだ。きっと多くの人から俺の子供の頃の生活は、想像つかないと思うよ。サーフィンのイベントに出る為に俺自身、いろんなことをして、お金を稼いでいた時期があったんだから。あそこから来た自分が、世界チャンピオンになれたことは、夢のようだよ、ほんとに。

 

SM:ハワイのノースショアの子供達は、ジュニアプロになるとスゴイよ、親が子供にコーチをあてがったりして、相当、投資してるからね。

 

イタロ:だよね。まだ子供なのに板を5枚も6枚も持ってたりしてて。ブラジルでは一枚だよ。自分のボードが持てたら、すごいね、という。(笑)

 

SM:ちなみに今は何枚、板持ってるの?

 

イタロ:えー、、、今か(笑)わからない。多分、、100枚くらい。WCT選手一年目に数えたら120枚はあったよ。去年は75枚くらいだった。

 

イタロと彼女のマリ Photo by @liljboogphotography
彼女と抱き合い勝利の感動を分かち合うイタロ© WSL / Cestari

 

SM:彼女のマリの話を聞かせて。いつから付き合ってるの?

 

イタロ:マリとは2018年のハワイ入りする前にあって、ビラボンハウスに12月に来た時には一緒だった。

 

SM:君たち、ほんと、見てて、微笑ましいというか。。。

 

イタロ:うん、すごく信頼しあってる。良い関係を保ててるよ。一緒にトラベルして、彼女が写真や動画を撮ってくれる時もあるし、たっぷりサポートしてもらってる。俺の人生にマッチする素晴らしい人と出会ったと思ってるんだ。

 

SM:喧嘩することもある?

 

イタロ:あはははは。。喧嘩っていうものでもないけどぉ~、、いや、やっぱり喧嘩か、、あるよ、もちろん。みんな同じだよね。喧嘩もリレーションシップの一部だからさ(笑)。同じだよ、誰も、悪い時もあれば良い時もある。良い時はそのままで嬉しいけど、悪い時は話し合うし。俺自身あまり喋る方じゃないから、話をするのは苦手だけど。うん、でも、マリは素晴らしい人。素晴らしい人に巡り合ったよ。

 

SM:イタロの性格は静かな方?

 

イタロ:うん、そうだね、基本的に静かなのが好きなんだ。パーティーとか好きじゃないし。お酒も飲まない。

 

SM:そこもチャンピオンになる鍵だと思うけど。だって、才能ある子がどんどん消えていくんだよね、道を外れてしまうっていうか、パーティーのやりすぎで。

 

イタロ:俺もそう思う。問題だよね。せっかく技術を積み上げたのに。

 

SM:今、イタロはいくつだっけ?

 

イタロ:25歳

 

SM:25っていったら、まだまだ遊びたい盛りだよね。道を外さないようにするには、イタロの場合、どうしてるの?

 

イタロ:一般論では語れないかも。さっきも言ったけど、俺が育った場所とか環境が全くこっちの先進国の子達とは違うから。だってこっちの人がやるようなパーティーなんかみたことないよ、地元では。だから、行っても面白くない。大会で負けたら、次の日から次のイベントに向けたトレーニングしたいし、勝ったら勝ったで次の試合に向けて調整したい。パーティーなんかで体を酷使するのが出来ないタイプなんだよね。

 

実際、パイプマスターズで勝ってタイトルを取った夜に、宿泊先でパーティーやってくれたんだけど、途中で抜け出しちゃったんだ。俺が抜け出したこと誰も気づいてなかったみただよ(笑)。抜け出して、静かな友達の家に寝かせてもらった。そういうのが好きなんだ。個人的に。信頼できる仲間と時間を使うってのが好き。大勢でワイワイっていうのはちょっとね、ついていけない感じなんだ。

 

 

嵐が過ぎるまで、じっくりと力を蓄えておくよ。

 

 

SM:ところで、このコロナ騒動のこと、どう思ってる? せっかくチャンピオンになってこれからだって時に。。

 

イタロ:ほんとだったら今、第一戦のために、オーストラリアにいるはずだったのに、正直、とっても残念。たくさんトレーニング積んできたのに。新たなチャレンジのために三ヶ月たっぷり。残念なのは俺だけじゃないよね、選手全員。サーファー以外のアスリートも、みんなこの件にはがっかりしてるはずだよ。

 

でもさ、俺たち戦争も知らないし、はじめてなんか考えさせられたというか、家族のありがたみとか、守らなければならない人たちとか、、そういう人として基本的なものを意識する機会になってると思う。

 

冷静に考えたら良かったよ、イベントはキャンセルされて。クールダウンする必要もあったと思うし。。。とは言いつつ、俺の中に煮えたつ炎のようなものが鎮まらずにいて(笑)。。。戦いたいよぉ! ほんと。でも、これもゲームの一部。早くこの嵐が過ぎてくれたらいいよね。嵐が過ぎるまで、じっくりと力を蓄えておこうと思ってる。

 

SM:いい話を聞かせてもらいました。ありがとう。

 

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