オーストラリアSURFNEWSは、憧れのゴールドコーストに暮らすサーフィン留学生たちの現状について

現地からオーストラリアの最新情報を伝える【SURFMEDIAオーストラリアSURFNEWS】。第36回となる今回はゴールドコーストの高校に留学しているサーファー達の話。生活面や勉強、サーフィンの環境などの話を聞いた。

取材、文、写真:菅野大典

 

 

6月のゴールドコースト。

先月と同様に朝晩冷え込む冬の気候が続いています。

と言っても、日中晴れ間が広がれば薄着で過ごせる暖かさ。

 

晴天の日が続き、空気も澄んでいて気持ちの良い時間が流れています。

 

 

週末のヘイスティングの丘には、この時期に沖合に現れるクジラを見にたくさんの人が集まっていました。

 

 

ホエールウォッチングを楽しむ人達。冬のゴールドコースト付近は海も景色も綺麗。

 

 

夕焼けも毎日がこのような感じに。日本とは逆の南半球に位置するオーストラリアはこの時期が一番日照時間が短い季節。夏の忙しさとは反対に静かなビーチの時間が続いています。

波の状況は、上旬は冬型の気圧配置が続きゴールドコーストにはあまり波の入らない状況に。

 

 

それでも地形の良い場所も多く、オフショアになりやすいこの時期は小波ながらもサーフィンを楽しめる日が続きました。

波を求めて南の方へ車を走らせれば、南うねりに敏感な場所ではこのようなコンディションが。

 

 

 

この日のゴールドコーストは一番うねりを拾いやすいD-BAHで1-2ftほどで、他の場所ではフラットなコンディション。この場所ではほぼ貸切のような極上の波を堪能できました。

 

波のサイズが小さくオフショアが続く冬はいろいろな場所の地形をチェックするには絶好の季節。以前から気になっていた場所に足を運んでみたらまたしても貸切の形の良い波を発見。

 

 

 

オーストラリアに住んで15年ほどになりますが、まだまだ近場でも知らないポイントや入った事のないポイントがたくさん。最近は自然が舞台のサーフィンの魅力によりいっそう引き込まれてます。

 

 

州の代表を決めるグロメッツのイベント

 

先月までの怒涛のWSLイベントが終わり、クイーンズランド州では”WOOLWORTHS QLD GROM & JUNIOR EVENT SERIES” という、州の代表を決めるグロメッツのイベントが毎週のように行われてます。

 

6月10-11日にタラバジュラビーチで行われたWoolworths QLD Grommet Titles(14歳、12歳未満のディビジョン)
この時期は波がクローズになる事が滅多になく、程よいサイズで風も合いやすい。夏とは違い子供の試合がやりやすい時期でもあります。
この年代では親も一緒に波を見て指示を出しているのがほとんど。親の方が真剣になっています(笑)。
程よいサイズと言ってもグロムには十分すぎる大きさ。セーフティーなライディングにはポイントが付かず、ワンターンでもクリティカルセクションでの思い切った演技にスコアがついているのが印象的でした。
今月12歳になったばかりのオーストラリア生まれの福田ロイ。クォーターファイナルでは8.5ptを含むトータルスコア15.67ptをマーク。1学年上の選手がいるU-14のディビジョンの中でもセミファイナルまで勝ちあがっていました。
試合後健闘を讃えあうロイ君。最近は2世となる日本人移住者の子供達をたくさん目にします。コンテストに出てくる子も多くなってきました。

 

2歳ごととはいえまだまだ1年の差がとても大きいこの年齢。実力が十分な選手は別として、無理して1歳年上の選手がいる試合に出るのではなく、地元で行われる試合のみにエントリーしている選手も少なくありませんでした。

 

理由としてはインフレによりアコモデーション等が高額になっている事で、同じ州内とはいえ、ゴールドコーストからサンシャインコーストに家族で週末に遠征に行くと2000ドル近くの大きな出費となるので参加をしないとの事。インフレの影響がこういった所にも影響しているようです。

 

中旬以降は波はさらに小さくなり、ゴールドコースト付近はほぼフラットなコンディション。

 

ロングボードでゆったりとサーフィンするには程よいサイズ。
南のうねりをよく拾うポイントもこの通り。フラットのコンディションが数日続きました。

 

 

サンシャインコーストで行われる予定だったWoolworths Queensland State Junior Surfing Titles(18歳、16歳未満のディビジョン)の第2戦も波が無く来月へ延期となり、今年に入り一番波のない週となりました。

 

その後ようやくサイズが上がった時はキッズがたくさん。水を得た魚のようにたくさんのサーファーが入水していましたが、そのうねりもすぐに収まりまたしても小さなサイズに逆戻り。波の小さな6月のゴールドコーストとなりました。

 

 

留学生達のオーストラリアでの生活

 

現在サザンクロス大学に留学中の井上龍一とヒルクレスト・クリスチャン・カレッジに在学中の高橋花梨と花音。

 

最近は移住や留学を考えていると個人的にも相談を持ちかけられる事も多く、オーストラリアの生活の様子を聞かれる事が多くあります。

 

以前、留学生プロサーファーである馬庭彩にインタビューさせていただき、ゴールドコーストでの高校生活についての記事を書かせていただきましたが(https://surfmedia.jp/2020/12/01/d-ske-news-5/)、今回は、現在ゴールドコーストにいる留学生達と一緒にセッションし、お話を聞かせてもらいました。 

 

 

ゴールドコーストでサーファーの留学といえば、ミック・ファニングやジョエル・パーキンソンが在籍していた事で有名なパームビーチ・カランビン・ステート(以下PBC)。馬庭彩の記事でも紹介したように、学校の授業でサーフィンを受ける事ができるサーフィンのスポーツエクセレンスというものがあります。

 

 

現在PBCに在籍中の荒川正宗、丸山晴凧、鈴木亜麻。
昨年の4月にゴールドコーストに来てすぐにPBCに入学し、サーフィンエクセレンスにいる北海道出身の晴凧(はるた)。リコ・ハイビトルなどといったレベルの高い同世代のサーファーと共に刺激のある学生生活を送っている。

 

 

日本ではそれぞれ1学年差の3人だが、オーストラリアでの学年の順序はバラバラ。学校の始まる時期も日本と違い、早生まれだったり、語学力やアプライした時期によっても変わってきます。それに加えて飛び級の生徒もいるので、同じクラス内でも年齢がバラバラとなっています。
 

昨年10月にPBC入学した亜麻。こっちでは年齢の差は全然気になる事はなく、オージーとすごく気が合い仲の良い友達がすぐにできたそう。

 

 

過去に遡ると、和光大や石川拳大、飯田航太、橋本恋などといった数えたらキリがないほどのサーファーが留学経験を持ち、毎年のようにこのPBCに入学する生徒がいましたが、コロナの時期にはそれがストップ。

 

約2年間は留学生が来ない年が続きましたが、昨年オーストラリアでコロナの規制がある程度解除され、新たにまた留学する生徒が増えました。

 

 

今年の4月にゴールドコーストに来た正宗。”日常生活の事は全て自分でやらなければならない環境なので、親のありがたみを感じます。”と、親元を離れてまだ3ヶ月程度だが早くも自立心が芽生えていました。

 

 

ゴールドコーストのコロナの前と後では、国内からの移住者も増え、物価もだいぶ高騰しました。中古車やシェアハウスも不足し、ここ3、4年で約2倍の値段に変わるほど。

 

仕事の給料も上がってはいますが、簡単にできる仕事には人がたくさん人が集まるので、職につけずに生活が難しくなっている人もいます。新たにワーキングホリデーで来た人もホームレスになっていたり、1年間滞在できずに帰国してしまう人も多く耳にします。

 

 

コロナになる前から4年間オーストラリアに住んでいる黒川カイト。留学生ではないが移住して感じた事を色々話してくれた。

 

金銭面で苦労する部分が増えたのが現状

 

大部分の留学生が利用しているホームステイの値段はあまり変わってないようですが、受け入れ先がだいぶ少なくなっているようで、”今の家を追い出されたら強制帰国になるかも”とも言っていました。

コロナ以前はより良い環境を求めてホームステイ先を変えている生徒がいたりしましたが、今は変えたくても変えれない現状のようです。

以前よりも生活面ではコストがかかったり、金銭面で苦労する部分が増えたのが現状ですが、サーフィンの環境は日本よりもよく刺激があるとみんなが口を揃えて言っていました。

ただ波がいいだけでなく、身近にうまい選手がたくさんいる事。何よりもワールドチャンピオンが何人もいる事が1番の理由です。

 

インパクトのある得意の縦リップをする龍一。留学して1年で見違えるように実力がついた。

 

 

元々留学に興味があり海外の大学に行こうと決意していた井上龍一。現在通っているサザンクロス大学のビジネス学科(Bachelor of Business and Enterprise)は年間6ターム(6学期)に分かれていて、1タームの期間は6週間。タームごとの間には長いホリデーがあり、年間で合計8教科を受講してるとの事。

 

今回のタームは1教科のみで、週に1回2時間の対面授業かオンライン授業が選択できる。

 

”ゆとりがあって自由になる時間も多いけど、課題の量も多いのでサボっていると大変になります。”と言いながらも、”サーフィンする時間を多く作れるし、自分次第で最高の環境を作れる。”

 

 

現在同じ大学には日本人はそこまでいないけどアジアからの留学生がたくさんいるそうで、オーストラリアの大学の授業は日本と比べてより実践的なものが多く学びがいがあるそう。

 

”もちろんサーフィンが大事で、そこで成果を出すことを目標としていますが、今は学べるものを多く学びたいです。本格的には大学卒業後にツアーを回る事を考えていて、今は大きい試合や出場できるコンテストだけ出ています。”

”卒業後には長期間滞在できるグラディエーションビザがもらえるし、MBAに進学やワーホリというオプションもあるので、今ある大学の環境に専念したいです。”と話してくれました。

 

井上龍一 @ryuichiinoue_surf

 

話しながらも自分の意志がしっかりとしているのが感じとれる龍一。今回のQS5000のクルイの試合では伝染病にかかり、体調不良のまま思うように試合ができずプロジュニアの方は棄権。

しかし、散々な結果になったものの初めてのインドネシアでの試合でたくさん学んだとの事。人生の視野を広く長く持ち、一つ一つ突き詰めていっている強さが感じとれます。

 

 

サーフィンと英語を学べる環境で生活したい

 

コロナ以前から海外留学を考えていた高橋花梨と花音。サーフィンと英語を学べる環境で生活したいという思いがあり、2人が主導になって両親がそれに応える形で家族移住を果たした。

オーストラリア以外の国にもいくつか選択肢があったが、いろいろな条件を考慮した上でゴールドコーストに留学という事になった。

 

 

昨年5月にゴールドコーストに来た花梨と花音。”コロナの影響で留学のシステムもいろいろ変わり、初めは手探り状態の中での移住と苦労したが、今では生活にも慣れ特に不自由さを感じる事なく生活できています。”と、話してくれました。

 

 

 

 

過去にたくさん成功したサーフィン留学生のいるPBCに行くことも考えていたが、留学生に対するケアがしっかりとしているという理由でヒルクレスト・カレッジに行く事を選択。

難しい授業などは個別の部屋で教えてくれながらアセスメントを一緒にやってくたり、先生と留学生の親御さん達との交流を深める取り組みがあったりと、留学生にとってはとてもいい環境の学校。

 

大きな身体を活かししっかりとラインを描く花梨、”学校の先生も生徒みんなも優しいし、学生生活が楽しい。せっかくオーストラリアに留学しているので、英語やサーフィンだけでなく何か違う特技も見つけたいです。”と留学に対する思いを話してくれた。
ゴールドコーストに来て2ヶ月後に出場したオッキーグロムコンプでいきなり優勝し、その後にもウールワースサーファーグロムコンプで2位となるなど、移住して早々に結果を出している花音。前から大きい波は好きでチャレンジしたいという気持ちが強かったが、来た当初は怖かったそう。しかし今は環境にも慣れサイズのあるコンディションにもどんどんチャレンジしている。
 昨年のオッキーグロムで見事優勝した花音。

 

国籍が日本なので出場できる大会が限られている(WOOLWORTHS GROM & JUNIOR EVENT SERIES等、オーストラリア代表を決める試合などには参加資格がない)が、それでも昨年度のサーフィンクイーンズランドのランキング上位に入り、先月にはサーフィンクイーンズランドアカデミーのハイパフォーマンスキャンプにも招待された。

 

U-14〜U-18の約20名程の選手が参加したこの合宿は、2泊3日サーフィンオーストラリアのハイパフォーマンスセンターで行われ、個々のライディングのビデオアナライズやヒート形式だけでなく、呼吸が上がった時の対処方や焦っている状況でも自分のサーフィンができるようにする対応など、一般的には味わえない特殊なコーチングが行われた。

 

リカバリーの為でなくアイスバスを使ってのメンタル強化。他にもゲーム形式の遊びを交えたビーチでのコーチングもあり、参加した選手が楽しみながら学べる合宿となっていた。
ただ楽しい合宿というだけでなく真剣な講義もあり、課題を与えられ個々のライディングを分析してくれるなど、有意義な時間を過ごした。

 

合宿が行われた後も、後日イザベラ・ニコルズによるオンライン講義が行われ、そこでは栄養学やサーファーとしての心得など、現役サーファーならではの言葉をもらった。

 

 

”オージーのサーファーと一緒に入っていて感じることが、転んでもいいから攻めているサーフィンをしているという事。驚くようなライディングをしたり、いろんな技にチャレンジしていたり、思い切ってサーフィンをしている事を間近で感じ、最近は自分のサーフィンも思い切ってチャレンジするようになりました。”

”日本では強化合宿に参加したりしてきたが、オーストラリアでの合宿は初めてでとてもいい経験になりました。”と話してくれた。

 

夜には近くのスーパーに行きみんなで髪の毛をピンクに染めたりと、ティーンネイジャーならではの遊びも。将来一緒に世界を回ろうと約束した子もできたそうで、同世代サーファーと泊まりながらの合宿経験はとても刺激になった様子でした。

 

 

オーストラリアの教育というのは、人生に対する考えに広い視野を持たせてくれる

 

 

今回新しく来た留学生と話していても、以前ゴールドコーストにいた留学生と話した時と同様に、オーストラリアの教育は自由で選択科目も多く、得意分野を学びやすい環境という印象を受けました。

 

内容に関しても日本で習う事とは違い実践的なものが多く、日本ではありえないびっくりするような授業内容もあり、授業も生徒が指名されるのではなく、自分から挙手して発言することが多く、生徒の自主性が養われる環境でもあります。

 

ただ一方で、”教える先生も楽しそうだし、学ぶ側も勉強を楽しいと感じることができるけど、楽しい部分や自由な部分が多い分、自主的にやる人は伸びるし、逆にやらない子は本当にできないから差ができやすいということも感じました。”という意見もありました。

 

もちろん通っている学校や個人で感じることは違いますが、自由で自主性が問われる環境というのは皆同じ意見で、それはゴールドコーストのサーフィンの環境に対してもそうなのかなと感じました。

 

 

ジュニア世代にとってサーフィンを学ぶ環境は、世界でトップクラス

 

 

ゴールドコースト特有の掘れていてパワーのあるビーチブレイクという波の質はもちろんの事、サーフィンを学ぶ環境、特にジュニア世代にとってのコーチングのシステムや、トレーニング施設の充実さ、地域にあるボードライダーズのシステムというのは、紛れもなく世界でトップクラスのものだと思います。

 

しかし、その最高の環境があるにも関わらず、それを利用できない子も多くいました。

 

最高な波が割れているにもかかわらず、ホームステイ先が海から離れていてサーフィンできなかったり、誰からも注意を受ける事もなくただ自由で怠惰な日々を過ごしている人。留学生だけでなく、ワーキングホリデーなどで来た人もそうですが、親元を離れて自由になるという事は全て自分次第で、成長していった人は自分から率先して環境作りをしていたと思います。

 

最近は電動バイクをゲットして移動距離が飛躍的に上がったPBCの3人組。電動バイクなど無い昔はよく留学生の家までよく迎えに行った事を思い出しました。

 

 

過去に来ていたサーフィン留学生はみんな個性あふれるサーファーばかりで、試合以外の活動にも目につきます。自分の個性を活かした事、好きな事をやることに対しての後押し、なんでもルールで縛る事なく伸び伸びとしたオーストラリアの教育というのは、人生に対する考えに広い視野を持たせてくれるように感じます。

 

もちろん、こちらに来た人全てが成功した充実の生活を送れていたわけではありませんが、成功していった大部分の人は意志がしっかりしていて、自分で考えて行動していた人ばかり。何かのレールに沿うのではなく、前例が無い事にも立ち向かうようなチャレンジ精神旺盛な人ばかりでした。

 

今年はコロナの規制がなくなり始めての夏を迎えたゴールドコーストにはたくさんの日本人サーファーが訪れ、懐かしい再会や新しい出会いがありました。

 

 

日本人オーストラリアサマーセッション

 

 

コロナの規制がなくなった今、またより多くの人がゴールドコーストの良い環境と魅力を感じてくれたらと思います。長文になりましたが最後まで読んでくれてありがとうございました。

 

 

菅野大典オーストラリアのゴールドコーストを拠点にして13年余り。サーフボード・クラフトマンとして働きながら、サーフィン修行のために来豪する日本のサーファーをサポート。写真や動画撮影のほか、昨年は大村奈央の試合に帯同、大会のジャッジやサーフコーチなどマルチに活動している。