都築虹帆 〜挫折と挑戦を繰り返し、まだ見ぬ向こう側の世界へ Overcoming Setbacks and Achieving Success

文、写真:山本貞彦

 

昨年、3月に行われた千葉のWSL QS。CS(チャレンジャーシリーズ)への挑戦を、あと一息のところで逃した都築虹帆(つづき・ななほ)は、人目を憚からず涙を流した。この試合に賭けて練習をしてきたことを知る者にとって、その涙の意味は痛いほど理解できるものだった。

 

次年度のCSに向けて一から立て直しを誓った都築は、ジュニアの世界大会であるWJC( World Junior championships )に照準を合わせる。世界各地からジュニアのトップ選手が集まるこの大会で世界一を取れば、今年度のCSのワイルドカードがもらえるからだ。

 

3年ぶりに開催されたWJCは、カリフォルニはサンディエゴのシーサイドリーフで開催。ここでは WJCに絡む、いろいろな出来事を都築虹帆の言葉で語ってもらった。その時、何を感じて、何を考えていたのか。また、その3月の敗退からの復活劇に何があったのか。そして、念願のCSへ参戦が確定したことについての想いを聞いた。

 

都築虹帆がジャパンオープンで見せたビッグエア

 

ーこのWJCの予選となるアジアリージョナルでのジュニア大会は、全部で5戦。そのうちベスト3 の結果で、上位2名が本戦の世界大会に出場できる。これについて都築はどんな考えでいたのか。

 

目指してるのがまず、一番近い目標がCSに行くことです。昨年の3月にCSへの大会に負けたから、CSに行く準備の一つとしてWJCでした。もちろん、ベースにはQSがあるんですけど、ここでもチャンスがあるし。ただ、そのWJCもジュニアの試合数が少なかったので、一戦一戦が大事となりました。

 

御前崎で優勝した都築虹帆

 

今まで優勝できないのが続いて悔しい思いをしていたので、御前崎の大会で優勝することができたことは、やっと報われたと感じました。この後の大会は全て、それが自分のモチベーションになったことを覚えています。

 

ただ、その御前崎の優勝でも、上位2名に余裕で入れるような状況では無くて。それでもWJCにすごく行きたい気持ちが強かったからこそ、勝ちたいと思っていて。逆に南房総の最終戦では、そういう、何だかわからないプレッシャーにのまれてしまいました。

 

都築虹帆

 

でも、その大会でチームメイト(ROXY)の美来(池田)が勝ってくれたとか。それこそ、いろんなことが巡って、WJCに行けるようになって。自分の目標でしたから、すごく良かったなって思いました。

 

ーその初挑戦となったWJCは、エリミネーションラウンド(敗者復活戦)で敗退。今大会は17位という成績だった。本人評価は10点満点で5点。この結果について本人はこう語る。

 

サンディエゴのシーサイドリーフで行われたWJC 都築虹帆

 

すごく悔しかったです。これに向かって真剣に準備したし、試合も真剣にやったし。だからこその悔しさですけど。でも、自分のシードが低いから強い選手と当たれたことで、自分の足りないところが明確にわかりました。

 

自分の弱みは、単純に試合が下手なんです。自分の感情のままに動いちゃう時があるので。ちゃんと試合の流れを感じ取って、自分に必要なことを冷静に判断できるようになることが、まずは大事だと。

 

やはり、同世代だから。やる気というか、そういうのは増しましたね。これから自分が世界に出て行ったら、きっと現役の間はたくさん戦うことになるし。その同世代の選手が、実際にこういうサーフィンするのかとか、とても刺激になりました。

 

その中で感じたのは、やはり試合に関してはメンタル含めタフだなということ。あと体力も。試合で余裕な感じでやってくるから、すごいなって思いました。試合の組み立て方も、ちゃんと頭を使っているところとか。リスクを怖がらずに試合の中で100%攻め攻めで。男子は特にそうでしたね。

 

ー今回の会場となったサンディエゴのシーサイドリーフ。大きな低気圧からのウネリでサイズは8フィートまでアップし、選手にとっては厳しい戦いを強いられた。このコンディションで戦ったことで、さらに新たな課題も見つかったと言う。

 

 

 

あのコンディションは、今までで一番ハードな試合でしたね。すごいオープンフェイスで、だけど 最後はサンドバーという地形で。サイズで言ったら前のクルイが一番だったと思いますけど、コンディション的には3月の千葉のアジアオープンぐらい寒かったし。総合的に言うと、私が今までで経験した中では一番ハードな試合でした。

 

樹さん(田中コーチ)にも言われたんですけど、とにかくパドルが遅いというのがあるんです。手を抜いてるわけじゃないですけど。自分では最高スピードでピークに行ってるんですが、それでも遅いっていう現実があります。

 

WJCでコーチを受けた田中樹コーチと都築虹帆

 

なので、普段の練習から意識して、そういったトレーニングをやりつつ、自分のサーフィンをもっと進化させなきゃなって思っています。あと試合の運び方とか。今回はどちらかと言うと、そういうタクティクスの学びがすごく多かったので、試合の運び方とか考えて試合をするっていうことをやりたいです。

 

試合になったら、どんなコンディションでも勝たなきゃいけないということを今回、実感しましたね。そのためには時間内に自分のサーフィンを最大限発揮できる波を、まずはしっかりつかむことが大切です。

 

 

18年間しか生きていないですけど、自分の人生の中で一番落ち込みました。

 

 

ーCSを目指す都築にとって、2022年は大きな変革の年になった。3月のアジアオープン敗退により、CS挑戦からの離脱。仕切り直そうとするも、しばらくは立ち直れなかったと語る。

 

 

3月のアジアオープンで負けてCSに行くチャンスが無くなった時は、その時は落ち込みがすごかったんですよね。まだ18年間しか生きていないですけど。自分の人生の中で、一番努力した一年だったので。

 

コロナで試合も無かった時から、自分の競技人生の全てをそこに賭けていて。そういったことを全部詰め込んで、その試合に向けていましたから。それが負けて行けなくなって。そのCSへのチャンスが無くなった時の喪失感は、今までに経験が無いぐらい大きいものでした。

 

都築虹帆 ニアス WSL / Federico Vanno / Liquid Barrel

 

私って、負けても上がるのが早いんですよね。だけど、その時、初めてすごく落ちている時間が長くて。どうしようってなっていた時、田原に戻っても波は無いし。でも、ちょうど台風が出来て。その時にリアル(伊東李安琉)とモンちゃん(矢作紋乃丞)が宮崎に呼んでくれて。一緒に動画撮ろうよって。

 

毎日、あっちの波良いよー、こっちの波良いよーって、動きまくって。3週間も宮崎にいて。波の無い日もありましたけど。毎日、サーフィン。その時は本当に一日中、サーフィンだけをしていました。

 

それが救いというか。親もいない、自分一人でしたけど。友達とみんなでサーフィンという環境で 生活をしている中で、普通に何かメンタルが自然に戻って来て。トレーニングもたくさんはできなかったし、スケートも持って行かなかったんですけど。「サーフィン、超楽しいっ!」て、思うことができて。だから、みんなには本当に「ありがとう!」って、すごく感謝しています。

 

 

ーモチベーションを取り戻した都築は、再び自分のサーフィンを見つめ直す。そして、スキルアップために海外へと足を運んだ。

 

3月のアジアオープンで負けた直後は、スキルの差はもちろん感じたんですけど。やはり、パワーや技のバリエーションとかが足りないんだと。だから、点をもらえるサーフィンに進化させることが必要で、もっとより高いレベルに持っていかないとダメだと考えたんです。

 

コロナ禍が緩和して世界に少しずつ出られるようになったから、海外で一から学ぼうと。スポンサーを回ってトレーニング資金のお願いにまわりました。あと海外のコーチに繋げてもらったり。「頑張ってこい!」って言ってくれたスポンサーさんには感謝しかありません。自分はその応援してくれる人がいたことが、すごく嬉しいし、それも自信に繋がりました。

 

自分はもっとこの場所にたくさん立ちたいし、もっと世界に。もっと上に行きたい

 

 

 

大会ではアジア中心に回ったんですけど。この時は試合ではないですけど、オーストラリアへ行ったり、コスタリカやメンタワイにも行きました。そのやってきたことが、少しずつ形になってきて。インドネシアのQS5000で、良いところ(クルイ5位、二アス9位)まで行けて。

 

台湾のQS5000で優勝
喝采を受ける都筑虹帆 WSL / Tim Hain

 

何かどんどん上り調子になって。その中でも、やはり優勝(御前崎、台湾)したことが一番ですね。自分はもっとこの場所にたくさん立ちたいし、もっと世界に。もっと上に行きたいって、その時に思いました。

 

 

自分は身体が小さいですけど、それでもパワーを認めてくれたことが、何より自信になりました。

 

ーそして、今年3月のオーストラリア、QS最終戦でアジアランキングは1位となり、CSへのクオリファイを確定。5月からスタートするCSについてはこう語る。

 

オーストラリアのQS3000の試合で、セットで頭オーバーとか普通にあったんですけど。一発で 7.93ポイントを出せたんです。結果としては負けてしまったんですけど、そのエクセレント近いスコアが出せたことが嬉しくて。

 

自分は身体が小さいですけど、それでもパワーを認めてくれたことが、何より自信になりました。それが例えば2ターン、3ターン入れば、それだけのスコアが伸びてくるわけですし。技術と質を上げていったら、戦っていけるかもって。

 

ランキングを1位に上げれたので、オーストラリアに行った目標は達成できました。これでCSにも行けたし、アジア1位で行けたという理想の一番良い形でCSをクォリファイすることはできたのですけど。ただ、すごく嬉しいけど、想像してたよりは嬉しくなくて。

 

 

 

それはCS1位で上がれたからこそ、そういう実力で見られるし。でも、今の力ではCSで打ちのめされるのは見えているから。このオーストラリアでは強い選手と当たれたことで、自分の足りないところや、まだムラがあることにも気づきました。

 

だから、今よりもっとスキルを上げてCSレベルで戦いたいって思ったんです。そこで勝ちたいで すから。だから、その舞台で自分のベストが出せるように、準備はしっかりやっていきたいと 思っています。CSに行ったのなら、CTにクォリファイすることが最大のミッションだと思うし。 やれることは全てやって、シーズンに挑んでいきたいと思います。

 

 

努力したことが、必ず報われるとは限らない。でも絶対に頑張っていないとチャンスすら来ない。

 

 

 

ー最後に。見事な復活劇を見せた都築。なぜ、ここまで頑張ることができたのか、改めて聞い た。

 

あの(去年の)3月の負けの悔しさは、今でも忘れられないです。やっと、その結論にたどり着くのに、一年かかりました。

 

すごく勝ちたいから、たくさん頑張るじゃないですか。すごく頑張ったから、勝てるような気もするんですけど。でも、すごく頑張ったから勝てるとは、全く決まっていなくて。それこそ努力したことが、必ず報われるとは限らないんだということを、思い知らされました。

 

だから、自分は頑張ったということ対して、それを期待しないし、絶対に勝てるって思い込むことは止めました。でも、それでも絶対に頑張っていないと、そういうチャンスすら来ないんだって、自分は思うんですよね。

 

だからこそ、今は頑張ることも、全然、嫌じゃないと、改めて思えるようになりました。今はどの試合でも勝敗も大事ですけど。それだけにこだわらずに、やはりできる限り、頑張って乗り越えていきたいと思います。

 

フィリピン・クラウンド9

 

 

都築虹帆、19歳。

実直で努力家。 女子選手という枠にとらわれず、何でも新しいことに挑戦する。 粗削りだったサーフィンも、この一年で大きく進化した。 それは常に前向きな姿勢と謙虚な心。 そして、まわりへの感謝を忘れない。 夢への階段を一歩上がった虹帆の更なる活躍を期待! Go!Nanaho!

 

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ROXY channel
https://www.youtube.com/@ROXYchannel

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都築 虹帆(ツヅキ ナナホ):TSUZUKI NANAHO

https://watergrainbow.wixsite.com/prosurfer-nanaho

@nanaho_tsuzuki

●年齢:19歳
●出身地:愛知県
●ホームポイント:伊良湖
●スタンス:レギュラー
●所属支部: プロ
●スポンサー:ROXY、ムラサキスポーツ、FCS、STANCE、CARVER、Hydro Flask、三共食品、 渥美モータース

●主な戦歴
2022年
JPSA/千葉 一宮 9位、新島 3位、茨城 3位、千葉 鴨川 2位 :2022年JPSA ランキング 4位

2022-2023年
WSL/千葉 一宮 9位、インドネシア クルイ 5位、インドネシア 二アス 9位、静岡 御前崎 2位、 フィリピン 3位、台湾 1位、フィリピン 9位、宮崎 日向 3位、オーストラリア17位、 オーストラリア 5位 :2022-2023年 WSL ASIA ランキング 1位

2022年
WSL Jr/千葉 一宮 2位、インドネシア クルイ 4位、インドネシア 二アス 3位、静岡 御前崎 1位、 千葉 南房総 5位、アメリカ サンディエゴ WJC 17位:2022年WSL ASIA Jr ランキング 2位