ROXYチームの活躍が目覚しい。現在、WSLのチャレンジャーシリーズに参戦している野中美波は今年度のQSアジアランキングでトップを走る。また、都築虹帆も野中に続いて2位、さらにジュニアランキングでも2位につけている。
同じくジュニアのプロである池田美来は、ISAジュニアの世界選手権U-16において3位という快挙を達成。佐藤李もNSAジュニア選手権で4位に入賞し、初の海外遠征になったWSLでも健闘、アジアランキングで4位という成績だ。
なぜ、ここ数年でライダーが大きく飛躍ができたのか。チームマネージャーであり、マーケティングマネージャーも務めるの花村朋彦氏にライダーの意義やが考える選手育成について、改めて話を聞いた。
取材:山本貞彦
ー まず、メーカーが選手と契約してライダーになることについて。一般的にライダーはそのブランドを使用し、広告宣伝する役割と認識されています。このことについてどうお考えでしょうか?
商品を売るためにライダーが必要だよねって、選手と契約して宣伝して売るという図式が一般的になっていると思うんですけど。元々、QUIKSILVER もそうですけど、ROXYのその根底にあるのは、その人たちのために商品作るっていうコンセプトがあるんです。
例えば、ライダーのリサ・アンダーソンが最初にQUIKSILVER にいて。リサが新しくROXYというレディースブランド作ろうってなった時に、彼女を象徴的にして、彼女に合わせたプロダクトにしようとなったんです。
モノを作ることの意義が、そもそも「その人たちのために作る」から始まっているわけです。その人たちをサポートすることで、その人たちが必要なものがわかってくるから、それが商品となる。
商品を売る前に、まず使う人がいて。その循環がそもそも前提にあるので、だからライダーはブランドを形成するに当たって、必要な一つの要素なんです。
ー宣伝するためにライダーを雇うのではなく、ブランドの根源となるモノ作りに必要なのがライダーということなんですね。
そう、それが原点です。サーフカルチャー、サーフメーカーって、そこから生まれてるメーカーがほとんどだと思うんですよ。物を作ってから、宣伝のためにサーファーをスポンサードしようなんて思った会社はたぶん、ほとんど無くて。
みんなサーフィンをやっていて、こういうのが欲しいな、かっこいいの欲しいとなって。ならば、自分で作っちゃおうみたいな人たちから始まっていますから。そのライダーの意義は、ブランドの性質上いなきゃいけないものっていう、人間で言ったら心臓みたいなものですね。
今はそれぞれの年代で欲しいものが揃っているブランドが、ROXYなのだということです。
ー ROXYのライダーは年代の幅がありますが、そこはどのように考えているのでしょうか?
僕らの付き合ってるライダーとか、スポンサーしている選手の年齢の幅は広くて。上はもう50近いし、下はもう10歳とかですね。
昔はブランドの方向性が20歳とか、20代後半ぐらいに向けてだったんですけど。今はいろんな世代に向けて、サーフィン好きな人に向けて展開しています。今は60歳になってもそういうスポーツブランド着るよっていう時代だと思うんですよね。だからその年代もマーケティングターゲットになるんです。
そこに行き着くまでに時間はかかったと思うんですけど、ROXYって30年ちょっとしか経っていないので。ここ10年ぐらいで、やっと年齢の幅ができたかなという感覚です。今はそれぞれの年代で欲しいものが揃っているブランドが、ROXYなのだということです。
ROXYが好きな子を選手として受け入れたい。
ー 年代に合わせ幅広くサポートするということですが、ライダーの入れ替わりについてはどう考えていますか?
なぜ、ライダーをどんどん入れていくかっていうのは、そこはやはり循環が必要で。ブランドが時が経つにつれ、新しいものに変わっていくためには、新しい世代も入れて更新していかなきゃいけないわけです。
先ほど言ったリサ・アンダーソンが今、50代ですけど。次の10代の子供たちが、将来のリサ・アンダーソンになるからという循環のためにも絶対、新しい子たちが必要なんですね。
年齢層が広がったというのもあって、いろんな人たちに商品を送り届けなくてはいけない。日本ではライダーに間屋口香がいて、大村奈央、橋本恋らがいて。その年代ごとにアイコンがいます。
実は次の時代のアイコンを考えた時に、1人だけを育てるっていう考え方もあります。でも、その1人を見つけるのが相当大変なんです。簡単には才能を見抜けないし、そうそう出会えないし、そういう関係にならないかもしれない。
だから、ROXYではこのブランドが好きな人たちで、選手を目指した人がいるんであれば、こちらとしてはバックアップしたいという考えです。もちろんタイミングや状況で選定しているので、すべて受け入れるわけではないです。
ROXYは 2019年に「アスリートプログラム」をスタートしました。
ー自社でライダーを決めるには担当者が大会に行ったり、結果をリサーチしたり、もしくは、取引店の関係でサポートしたりとかしますが、ROXYはどうしているんですか?
そうですね。一般的にはその方法で探すことが、日本では多いと思います。ROXYもそうだったんですが、ライダーが後輩を紹介するケースもありました。ただ、それも少なくなりましたね。ショップの中でそういった上下関係を形成できてるところも、今はそんなに多くないんですよ。
それに加えて、このやり方だと本人の意思というより、人間関係もあって周りに左右されることも多かったと思うんです。それで、埋もれてしまう選手もたくさんいるんだろうなって。だったら、いっその事、一般応募にしたらどうだろうと。
そこで、ROXYは 2019年に「アスリートプログラム」というものをスタートしました。専用の窓口を作って、そこに戦歴などを送って応募してもらう形です。これだと何のしがらみもありませんし、本人の入りたいという意志だけで、誰でも応募できます。
ーその応募してきた人の選択基準はどのようにしているのでしょうか?
そのスタートした時は、みんなROXYに入りたいと応募してくれたので、基本は受け入れ態勢で。スキルが伴っていれば取りました。ただ、現在はチーム形成ができてきたので、応募してくる人をちゃんと見た上で、入れていくという感じです。
ROXYにサポートされたい層が増え、売上が上がる。それを選手に還元する循環を作りたい。
今でも登録してくれる方々がいて、たぶん600人ぐらいになっていると思います。その中で最初の2019年の時に応募してきてくれたのが、池田美来と佐藤李なんです。
今のジュニアの合宿に入った子たちも、その時に応募してきてくれた子が大半ですね。スノーボードで言えば、2019年に応募してくれた子が北京オリンピックにも出ています。
今、考えているのはサーフィンで言えば、ショートだけでなくロングもそうですが、このシステムができたので、ライダーについては一から育てたいと考えています。それなので例外はありますが、よくあるブランド同士でのライダーの引き抜きとか、移籍とかでTOPライダーを増やすようなことはあまり考えていません。
そうなると、対象がどんどん若くなっていて、いつからそのロキシーと関係性を持ってサーフィンをしますかってことですから。それだと10歳ぐらいがちょうど今、関わらなきゃいけない年齢なのかなって思っています。
僕らとしてはそういう子たちが来てくれることによって、ROXYが好きだし、ROXYにサポートされたいっていう層が増えることが、結果、売上げにも繋がると思っています。それで得たものを、また選手に還元するっていう循環を作りたいと考えています。
まず世界へ行きやすい環境の土台をROXYが作ることが使命。
ーそこまでこだわって、一から育ていきたいという理由は何でしょうか?
サーフィンは個人競技ですから、今まで個人でやらなきゃいけないっていう気持ちが強かったと思うんです。よく聞くことですけど「スポンサーが無いから、世界へ出て行けない」とか、経済的な理由で諦める選手がいるのも事実です。
せっかく才能があるのに、お金が無いから諦めなくてはいけないって。それほど悲しい理由は無いじゃないですか。そういう選手が出ないようにしたいんですよね。それを変えたいんです。
もちろん、成績によってメーカー側のサポートは変わりますけど。できるだけ親御さんの負担も軽減してあげたい。だから、まず世界へ行きやすい環境の土台をROXYが作ることが使命だと思っています。
ここからがビジネスなんですけど、そういう意味でROXYに行きたい、行かせたいという選手や親の気持ちと声がみんなに伝わって。そのお友達との会話で「ROXYすごいね」「ROXYに入れて良かったね」とか話題になれば嬉しいです。それは回り回って、モノが売れる環境もできるわけですから。
ーROXYがコンペに力を入れて世界を回らせるようになってから、その成果が現れていますね。個々のライダーについて、それぞれ役割とかはあるんでしょうか?
そうですね。間屋口香は日本のリサ・アンダーソンではないですけど、日本のROXYが発展する時から常にいた人で、今はフリーサーファーとしてROXYというブランドを体現してくれています。
彼女をサポートすることで、次の人たちのサポートはこうすべきだなっていうのが見えてくるというか。彼女の年代でやりたいことが、これからの見本になると思っています。
橋本恋はアマチュア向けのCAMPでコンペの基礎を教えてくれていましたが、今はジャッジの道に進んでいます。大村奈央は、この前のインドネシアでは引率をお願いしました。
この2人はASP(WSLの前身)の時代からQSを個人で回っていて、いろいろ苦労もしてきているので。今のROXYチームのイズムになるだろうなって、すごく思っています。
今回のインドネシアで行われた2つのQSイベントは、ROXYチームでの遠征となりました。その引率役をお願いした大村奈央は「私は連れて行くけど、私を見てね」と。これから自分で何でもできるようにならなきゃダメだよっていうメッセージを出しています。私が連れて行くから「任せてよ」ではないんです。そのイズムがとても大事なんです。
虹帆(都築)、李(佐藤)にしても美来(池田)にしても、奈央を見て覚えてほしいですね。歳を重ねて今度、自分が下の代を連れていく時に「私がいるからね」ではなくて、自分でできるようになってね! とメッセージが出せるようになってほしいと思っています。
ープロとしての活動。やはり、コンペは厳しい世界で成績は可視化されます。個々のライダーの評価についてはどう考えていますか?
まず、考えているのはライダーたちの給料を増やすためには、自分たちの売上を上げなくてはいけないんだっていうことが大前提。売上げを上げて、それをライダーに還元することを考えてやっています。
だから、払う側ともらう側という単なる雇用ではなく、会社とライダーが一緒になって、このROXYを盛り上げていくんだという気持ちでやってもらいたいんですよね。その活動の一環で、ROXYではプロモーション活動も行なっています。
この投稿をInstagramで見る
グローバルでは前から行なっているんですが、YouTubeとInstagramがメイン。TikTokやTwitterもやっていますけど、やはり、更新頻度が多いのは InstagramのストーリーとYouTubeのROXYチャンネルですね。ライダーの活動状況の報告みたいな感じです。
そこではライダーのやりたいこと、伝えたいことを表現してもらいます。もちろん、会社側からこうしようという提案もしますけど。基本的には本人たちがコンテンツを作ります。もちろん、これに対しては報酬があり、選手に還元される仕組みにしています。
サーフィンの上手い下手だけじゃない。大事なのは人となり。個性を見極めてサポートします。
確かに個々のライダーに対しての評価は必要です。どこかで線引きしなくてはいけませんから。今、作っているチームを考えた時、ジュニアの子たちの中で成長していって、エリートでコンペする子たちと、やはり、どこかで競技に挫折する子も出てくると思うんです。
もちろん成績が出ている子は、給料が高くなることは考えられるんですけど。うちは大会からドロップアウトしたからって安くなるというわけでもなくて。ドロップアウトしたけど、例えば YouTubeを頑張りますっていうなら、それはそれで評価をします。
結局、サーファーにはいろんな種類がいますから。頂点を極められば良いですけど、それは限られた人数ですし、サーフィンはそれだけではないと思っています。スクールですごく人気になる選手もいるかもしれないし。何かいろんな方向性があると思うんですよね。
ライダー自身のキャラクター設定は、本人次第です。なので、なるべくそれに寄り添おうと思っています。サーフィンが上手い下手だけじゃないですよ。大事なのは人となりですから。
コンペで活躍したい子たちには、大会フォローのヘルプをします。でも、そこから外れても、この子はビジネスでやっていけるから、こういう応援の仕方があるよねって。人にはそれぞれ合った役割がありますから。ROXYではその個性を見極めてサポートしていきます。
ROXYが提言しているのは、女性でもできますよ精神なんです。
ーROXYにはいろんなスタイルがあって、個々のライダーが輝ける場所があるんですね。
日本でもフリーサーファーとか、やっと出てきましたけど。女性の方でコンペを辞めた後が何も無いというか、趣味としてサーフィンやりますぐらいしかない方が多かったと思うんですよ。
でも、このROXYが提言しているのは、女性でもできますよ精神なんです。サーフィンに関わることで、例えばお店だけでなく、コーチ業だって、ジャッジ業もできるんです。また、それ以外の場所でも女性の方が活躍できることは、たくさんありますよ。
サーフィンと向き合いますっていう人で、ROXYでやりたいことがあるならばウェルカムです。そして、共に歩むことになったなら、どういう形であっても、ずっとサポートしていくつもりです。
単に選手をサポートして試合に専念させるとにとどまらず、ライダーの個性を重視し、彼女たちのやりたいことを応援する。ライダーが自身が自分の夢に向かって進む環境がここにある。
そして、彼女たちの意見や希望を聞きながら、それをフィードバッグして商品として一般に販売。単に商品を売るだけの会社ではなく、彼女たちを通して提示されたライフスタイルを提案する。それがROXYというブランドだ。