ROXYがガールズオンリーのサーフトレーニング・キャンプを開催。シリーズ:ジェンダーを考える② 

取材、撮影:山本貞彦

 

先月末、ROXYは所属ライダーに向けて「ガールズサーフトレーニング」を千葉東浪見海岸で行った。これはショートボードのコンペを目指すジュニア育成プログラムで、昨年の12月に続き、2回目の開催となる。コーチはROXYライダーの橋本恋プロが担当。参加選手はそれぞれの力量に合わせ、2組に分けて指導を行った。

 

初日は技術練習、2日目は試合形式練習とスキル向上と応用編とに分けて、実戦形式で学ぶ。参加選手のチーム分けを行い、さらに午前の部、午後の部と時間を分けることで、学ぶ方も教える方も集中して練習ができるシステムだ。

 

橋本恋 WSL / Laurent Masurel

 

また、サーフトレーニングの時間も飽きないように、2時間と決めて行う。それぞれ個人が課題としていることを中心に実践指導していく。コーチングは指図するのではなく本人の意思を尊重し、一緒に考えながら課題を克服していく指導方法になっている。

 

Aチームにはプロの都築虹帆、池田美来、アマの澤田七奈緒、佐藤李の4人。プロとそれを目指す選手が中心。Bチームは池田真央、小林咲喜、高橋結奈、登坂祐妃の4人で、こちらはまだ経験が浅く技術向上を目標とする選手に振り分けられた。

 

 

このサーフトレーニングは昨年、ROXYのマーケティング・マネージャーである花村朋彦氏と橋本恋プロがコンペティターの育成のために作られたもので、橋本プロの経験に基づいてプログラム化したもの。技術のレベルアップは当然だが、技術だけでは試合はなかなか勝てない。

 

そこで、考えられたのが各選手を分析するためにオリジナルで五角形のチャートを作成。戦力、試合に対しての考え方などに加え、ジャッジ基準のスピード、フロウなども取り込み、個々に適切にアドバイスできるようにしている。

 

さらに、コーチングも一方通行にならないように、コミュニケーションを取ることを重視している。これは橋本プロがオーストララリアに留学中にコーチングを受けて学んだことを、特に女の子に向けて作り直したものだと言う。その時の経験をこう語る。

 

四国の徳島でサーフィンを覚え、13歳でJPSA公認プロサーファーとなった橋本恋は、世界を目指すためにオーストラリアへのサーフィン留学を決意。2012年からホームステイ先のカランビンをベースに、学業を両立させながら、オーストラリア国内でのプロジュニアなどのコンテストに可能な限り出場しスキルを磨いた。

 

 

橋本プロがオーストラリア留学中にコーチングを受けて学んだこと

 

海外のコーチは、「僕はこう思うんだけど、どう思う?」と聞かれることが多くて。今まで自分はそんな経験をしたことがなかったので、こういう伝え方もあるんだということを初めて知りました。

 

一緒に考えてくれて、なおかつ、自分の意見を聞いてくれるということが、私はすごく嬉しかったんですね。私はこう思っているけど違うのかなって、それをコーチと会話にできるということが、すごく自分には合っているなと思ったんです。

 

 

また、今回のトレーニングでの注意点に「※練習時間はコーチ以外のアドバイスは禁止とします」とある。これは、保護者、身近な親御さんへのお願いだ。あくまでも、このトレーニング中は、選手とコーチの一対一の時間であることを徹底している。

 

 

 

 

練習時間はコーチ以外のアドバイスは禁止

 

 

親であれば、波に乗れないと「何で乗れないの?」と言ってしまうことは多々あると思います。男の子だったら、反発できるかもしれません。でも、女の子でそれを言える子は、なかなかいないんですよね。

 

頭ごなしに言われても理解できないし、何で怒られているかわからないんです。乗れないで怒られていることはわかるけど、その乗れない理由はわからない。何でそんなに怒るんだろうみたいになりますから。

 

 

男の子と女の子の教え方は違うと橋本プロは語る。女の子を教える場合「何でダメだったと思う?」って質問してあげること。まずはそれを自分で考えさせる。まずは考えさせて、気づきを促す。その方が本人は理解をしやすいと言う。

 

Aチーム

 

男の子と女の子の教え方は違う。

 

波に乗れないのは、人がたくさんいたからなのか、自分の行けると思っている波が来なかったのか。なぜ乗れなかったのか、自分で理由を考えること。それは波が大きかったからなのか、待つ位置が悪かったからなのか。逆に待つ位置が良かったら乗れたのかなって、いろいろ理由は出てくるじゃないですか。

 

乗れないのは、人それぞれです。人が多くて乗れないのだったら、もっと早くから動くしかないし、怖くて乗れないのだったら、手前の波を選択しても良いし。それを考えて欲しいんです。答えは一つじゃないかもしれないですけど、それを分析することが大切なんです。

 

それを自分で考えないと、一人でいる時に乗れないということになりかねません。だから、試合で戦略を指示するのは良いと思うんですけど、普段から指示しすぎはダメなんです。いざ、自分で判断しなきゃいけない時に、困ることになるからです。

 

 

試合形式の練習でも、試合前の時間も自由にさせている。それは本人のやり方を尊重していることもあるが、やはり、自分のことをまず理解させるために行っていると言う。そこを橋本プロはこう説明する。

 

 

自分で自分のコンディションを知ること。

 

私はあれしろ、これしろとは言いません。本人のウォームアップの仕方がそれぞれあるから。フリーサーフィンした方が良いという子もいるし、逆に波を見てストレッチする方が良いという子もいます。

 

自分はフィジカルトレーナーではありませんし、自分の身体の調子は本人しかわからないことなので、そこまで踏み込みません。自分で今の体調を客観的に見ることも必要ですし、調子を上げるのは自分しかできないことですから。

 

試合の時に波を見て教えることはできるけど、海に入るのは自分じゃないですか。だから、必要なのは、自分で自分のコンディションを知ること。それがわからないと試合では何もできないと思います。

 

 

女性だからわかること、女性だから言えること

 

 

また、女性の心と身体の問題についても心配りも忘れない。女性だからわかること、女性だから言えること、そのケアーは男性ではなかなかサポートできるものではない。普段の練習時や、試合の時の心構えなどは、自分の体験を元に話す。

 

 

若い子はなかなか言えないと思うので、こちらから聞いてあげるようにしています。思春期なら、親にも言わなくなることもあるでしょうから。やはり、練習中の仕種で、しんどそうな時って何となくわかるので「大丈夫?」って聞くようにしています。

 

 

今回のトレーニングを終えて、橋本プロはこの短期間で成長を見れたのが、すごい嬉しいとも語る。前回の課題を個々が理解して今日まで練習してきたことがよくわかったので、今回は次のステップに進んだことも明かしてくれた。そして、Aチームに関してはこう分析する。

 

 

新しいことに挑むことで、その意識が変わる

 

前回行った12月からこの3ヶ月で、だいぶ上手くなったと思います。それに2回目と言うことで、たくさんコミュニケーションが取れるようになりました。個人の課題に対して、いろいろ思っていることも聞けるようになって、教え方を変えることができたと思います。

 

Aチームはプロの子もいますし、プロを目指している子もいるので、やはりまず点数が出せること。そして、今回の練習では勝つために、キメなければいけない時にキメることができる練習と、転けても構わないから新しいことに挑戦してもらうという、二通りの練習をしました。

 

初日の練習ではまず失敗しても良いから、新しいことに挑戦すること。上手くなるには失敗もないと、上手くならないと自分は思っています。だから、みんなには新しいことに挑むことで、その意識が変わるというお話をさせていただいて、2日目の試合練習では、逆にキメて来てくださいという課題を出しました。

 

やはり、試合で転けてしまったら、点数にもならないですし。もちろん、スキルがあってのことですけど、その前に自分はできるという意識もないとダメです。必ずキメることで点数に繋がるという意識を持ってもらう練習をやってもらいました。

 

 

自分が抱えている問題を見つけて答えを考えることが大事。

 

 

Bチームは経験を増やすことが必要だと言う。言われたからやるのではなく、まずは自分から考えて行動してもらう。それに小さいとか、女の子だからとか、できない理由を自分から作らないで欲しいと諭す。

 

Bチーム

 

Bチームは身体も小さいので、パドル力もが無かったりというのもあると思います。でも、NSAのガールズクラスって、男子と違って18歳まで一緒なんですね。コンテストに勝つとなった時に、背が大きい子に比べて、小さい子はハンディがあるとは思うんですけど、小さいからこその挑戦者であってほしいんです。

 

私自身も背が低いですけど、体が小さいというのは、別にハンディだとは全然思っていません。それで大会では優勝させていただいたりとかもしているので。ただ大切なのはそれをどうプラスに変えていくか、ということなんだと思います。

 

小さいからこそ、まずは波にはたくさん乗るとか。人より早く波に気づいてパドルすることだったりとか。波にたくさん乗っているうちに良い波にも当たりますし、それで他の選手にプレッシャーをかけることにもつながります。

 

試合練習で技術が上がるのは前提ですけど、試合でどうやったら勝てるかをまず各々が考えること。他の人よりパドルが遅いと思うなら、他の人より早くパドルを始めなきゃいけないとか。自分が抱えている問題を見つけて答えを考えること、それが大事です。

 

その結果、NSAでもWSLでも、どんな大会でも1コケだったのが、2回戦に行けたとか、3回戦に行けたとか、そんな話を聞けるようになったら、嬉しいですね。

 

 

千葉東浪見にあるシンプルサーフが今回の集合場所。ここから東浪見海岸まで歩いて行くことができる。

 

橋本プロはこのトレーニングでの成果を成績のような評価はしない。また比べることもしない。それは元々、個人のレベルが違うし、成長速度も違うから。その子が少しでもやる気になって、前に進めているなら良いと考えている。

 

自分が言ったことから、少しでもヒントを受け取ってくれたら嬉しいなと思います。特にこのトレーニングでは合格もなければ、不合格もないです。それぞれが少しでも自分の言ったことで気づいてくれて、それが本人のプラスになれば良いと思っています。

 

 

また、自分のコーチングはあくまでも自分の経験からのもので、これが全てだとも思っていないと言う。世界や日本でもたくさんコーチがいること。選手が学びたいことを得意とするコーチを、適宜に選ぶのが選手とコーチの正しい関係だとも言う。

 

 

私は自分の意見が全てだとは思わないですし、やはり、世の中にはたくさん、良いコーチがいるのは、私自身が知っています。私の意見は一つの案として、受け取ってもらって構わないです。いろんな選択肢もあるということ。それで自分で考えてもらって、上手くなっていってくれたら嬉しいなと思っています。

 

 

今までの男性社会の中で構築されたプログラムは、コンペの世界でも男性に合わせて作られたもの。女性向けに改善は行われていたものの、やはり評価は男性目線で行われていたと思う。相互理解を進める中、身体的な特徴を踏まえ、女性が中心となって作り上げるプログラムが必要とされる。

 

このROXYサーフトレーニングは、今まで男性中心であったサーフトレーニングを、女性だからわかる、できることに特化したもの。女性にも男性同様のチャンスを与えること。ジェンダー平等の視点で考えれば女性コーチによる育成システムは、今の時代には必要不可欠なものだ。

 

その上で、コンペという人と評価を争う競技の中で、ジェンダー平等の視点で語られる橋本プロの言葉には男性女性に関係なく、コーチング、選手育成という部分で取り入れるべき考え方がたくさんあった。技術面のスキルアップだけが、育成トレーニングではない。女子であれ、男子であれ、ジュニアであれ、小さいからとか、それがハンディだとかは抜きにして、まずは自分を知ることが大切だということ。

 

それを知った上で、自分には何が必要で、何をすべきなのか。そこから目標を立てて、常に考えて行動すること。どんなトレーニングをしようと、誰からコーチを受けようと、まずはそれが基本であり、そこからがスタートだということをこのサーフトレーニングは教えてくれた。

 

 

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Aチーム

 

 

池田 美来 (イケダ ミライ):PRO

@miraiikeda1107

年齢:13歳 出身地:静岡県 ホームポイント:御前崎ロングビーチ

今回の課題:ボトムターンが少しまだ浅いところとターンをする場所が自分が思うようにできないところが課題です。

この練習会の感想:恋ちゃんにいろいろ教えてもらって、今まで自分の気づかなかったポイントとか、こうした方がいいよというのを聞いて、前よりもターンがやりやすくなりました。

今後の目標:今年はJPSAで活躍できるようにして、今後は世界で活躍できるサーファーになりたいです。

 

 

 

佐藤 李 (サトウ スモモ):AM

@sumomo_sato

年齢:15歳 出身地:静岡県 ホームポイント:御前崎

今回の課題   :今回は縦のターンをできるようにしたいです。

この練習会の感想:恋ちゃんは的確なアドバイスをくれるのでわかりやすいのと、みんながいるので、楽しくサーフィンができるところです。

今後の目標 :今年はプロに合格できるようになりたくて、将来はWSLのCT選手が目標です。

 

 

 

澤田 七奈緒 (サワダ ナナオ):AM

@nanaosawada

年齢 :18歳 出身地 :神奈川県茅ヶ崎 ホームポイント :パーク

今回の課題 :サーフィンの上達はもちろんのこと、ROXYのみんなと仲良くなれたらいいなって思っています。

この練習会の感想 :恋ちゃんが的確にわかりやすくアドバイスをくれるので、意識しながら少しずつ改善できていると感じています。女の子だけなので、仲良くなれます。女の子だけの雰囲気でわちゃわちゃできるのもいいなって思います。

今後の目標 :今年の目標はプロになることです。将来はJPSAを回って、一歩ずつ進んで経験を積んでいきたいです。

 

 

 

都築 虹帆 (ツヅキ ナナホ):PRO

@nanaho_tsuzuki

年齢:17歳 出身地:愛知県 ホームポイント:伊良湖

今回の課題:今回のキャンプでは千葉の波が苦手なので、まずそういう波に慣れたいということと、その波で応用ができるようなサーフィンをしたいので、恋ちゃんのアドバイスを聞きながら、その課題を一つ一つ克服できていけたらとて思っています。

この練習会の感想:女子選手目線から教えてもらうのは初めてでした。違った目線で腑に落ちるアドバイスが多かったので、楽しく自分の上達も少しずつ感じながらできたのが嬉しいです。

今後の目標:将来はワールドチャンピオンになりたいです。そのために今年はジュニアがラストの年なので、WSLとか、ISAのワールドジュニアに出てタイトルを獲れるように頑張りたいです。

 

 

Bチーム

 

 

 

池田 真央 (イケダ マオ):AM

@mao.ikeda0430

年齢 :11歳 出身地 :静岡県 ホームポイント:御前崎ロングビーチ
今回の課題:前回、ボトムターンの時に、ボトムまで降りてやった方が縦に上がれるというのを聞いたので、それを課題にしています。

この練習会の感想:そのボトムターンをしっかりやってみたら、縦に上がることができるようになって、スピードもついて良いサーフィンができるようになりました。また、ROXYの女の子たちが集まっているから、みんなで話すのも楽しいし、相談もできるから、とても良いです。

今後の目標:NSAのポイントランキングで5位までに入りたいです。

 

 

 

小林 咲喜 (コバヤシ サキ):AM

@saki_kobayashi_sun

年齢:13歳 出身地:茨城県 ホームポイント:クソ下

今回の課題:前回は違うポイントで緊張してしまって波選びに迷ってしまったので、今回はちゃんと波を見て、良い波に乗ることです。

この練習会の感想:同世代の子たちで、みんな上手な子とかが多いので、そこから見て学べるところが多いところです。

今後の目標:今回、学んだアドバイスを自分なりに考えて、できるように練習を頑りたいです。

 

 

 

髙橋 結奈 (タカハシ ユナ):AM

@yuna_takahashiii

年齢:13歳 出身地:千葉県 ホームポイント:旧かんぽ前

今回の課題:トップで当てた後に後ろ重心になって、失敗してしまうことが多いから、それを前重心にすることです。

この練習会の感想:みんな優しくて、恋ちゃんも教え方がとてもわかりやすくて、すごい楽しいキャンプです。

今後の目標:今回の課題を克服することと、もっとレベルを上げることです。

 

 

 

登坂 祐妃 (トサカ ユウヒ):AM

@yuuhi_tosaka

年齢 :13歳 出身地 :神奈川県藤沢市 ホームポイント :鵠沼

今回の課題:前回、恋ちゃんに教わったことです。ボードの上に立った時に後ろ足の膝が外側に向いてしまうので、その後ろ足の膝を内側にすること。スピードも出るし、技の安定感も出るので、膝を内側にするのが課題です。

この練習会の感想:みんなとの絆も深まるし、知り合いとかも増えるのですごく良いと思います。

今後の目標:プロサーファーになって、世界で活躍できるサーファーになりたいです。

 

 

 

 

橋本 恋 (ハシモト レン)

@renhashimoto0607

生年月日:1998年6月7日
出身地:大阪府
ホームポイント:生見