今回、第2回となる【SURFMEDIAオーストラリアNEWS】。今回もNOJILAND FILMこと菅野大典氏がオーストラリアの最新情報を伝えてくれています。今回は、サーフィン大国オーストラリアの強さの源とも言える、オーストラリア中のサーフエリアに存在するサーフィンクラブ「ボードライダーズ」について。ぜひ最後までご覧ください。
取材、文、写真:菅野大典
7月からまたコロナ感染者が増加傾向にあるオーストラリア。最近ではブリスベンやシドニーの都心部でも新陽性者が確認され、各州で様々な規制が施されています。
1番感染が広がっているビクトリア州のメルボルンではピーク時よりも感染者は減少しているものの、引き続きマスク着用の義務付や夜間外出禁止令(午後8時から午前5時)など、厳しい規制が行われており、クイーンズランド州でも再び州境の封鎖を行ったりと、依然厳しい状況が続いております。
「NUDIE AUSTRALIAN BOARDRIDERS BATTLE」クイーンズランド予選
8月半ば以降は、ようやくいつもの春先に戻った感じで、波の小さな日が続くようになり、海の中も少し混雑から解放されたような穏やかな日々が続いています。そんな中、「NUDIE AUSTRALIAN BOARDRIDERS BATTLE」のQLD(クイーンズランド)予選が8月22日にDバーで開催されました。
この「NUDIE AUSTRALIAN BOARDRIDERS BATTLE」 というのは、オーストラリア中のボードライダーズクラブのナンバー1を決める、ボードライダーズイベントの中でも一番大きな大会で、6つの州で予選が行われ、ワイルドカードを含む24の代表クラブが(各州によって代表と なるクラブ数が違う)本戦となるナショナルファイナルに進みます。
毎年試合の形式が違うのですが、今年は5人のメンバー(18歳以下1名、オープン2名、35 歳以上1名、女子1名)のリレー方式。岸からスタートし、1人のサーファーに対してベスト1 ウェーブがカウントされ、その5人の合計点とパワーサーファー(5人のうち1人が最後にまた2回目のサーフィンをできる)の得点の合計点で競われる。何回でも波に乗っていいが、パワーサーファーは一回しか乗ることはできず、制限時間は50分で、時間内に全員が帰ってきたら更に5 ポイントが追加されます。
賞金総額はなんと$112700(日本円で約800万円)、何よりもクラブのプライドを賭 け、どのボードライダーズもこの1年に1度のビッグイベントに本気で立ち向かっています。
オーストラリアも世代交代が進んでいるのか、若手の活躍が目立った今大会。パワーサーファー にもジュニアの選手が起用される場面が多いように感じました。
QLD州の代表枠は4つのためファイナルに進んだボードライダーズが、本戦となるナショナル ファイナルへの権利を得れます。
昨年のUSオープンで準優勝になったことでも有名なBURLEIGH HEADS BOARDRIDERSの リアム・オブライエン。セミファイナルで最後の最後に8.67をスコアし、見事チームを3位から1位へ 浮上させ本戦への権利を手に入れた。
イーサン・ユーイングやキーリー・アンドリューといったCTサーファーも出場。また元CTサーファーのビード・ダービッジもイーサンらと共にPOINT LOOKOUT BOARDRIDERS のメンバーとして出場。波の小さいコンディションながらも、さすがと思わせるライディングが続出。とても迫力ある白熱した戦いが見られました。
結果は昨年のオーストラリア王者であるNORTH SHOREが優勝、1番活躍した選手に与えられ るOakley Prizm Awardはリアム・オブライエンが獲得しました。
1位 North Shore Boardriders
2位 Snapper Rocks Surfriders
3位 Noosa Boardriders
4位 Burleigh Boardriders
上記の4チームが本戦であるナショナルファイナルで戦う、クイーンズランド代表チームとなりました。
Oakley Prizm Award (Top Performer) : Liam O’Brien (Burleigh Boardriders)
ボードライダーズとは何なのか。
さて、このボードライダーズ、日本のみなさまには馴染みのあるようで無いような団体だと思いますが、今回はこの”BOARDRIDERS”について詳しく書きたいと思います。
このボードライダーズという団体はオーストラリア中の各地域のサーフエリアに存在するサー フィンクラブの事で、オーストラリアのサーフィンの根底になっているような団体です。
規模や活動内容はそれぞれのボードライダーズによって異なりますが、僕の所属する CURRUNBIN ALLEY BOARDRIDERSをベースに説明しますと、年会費は100ドルでメンバー登録ができ、ライフメンバー(長年クラブに貢献してきた人は終身会員となっている)、子供から60歳以上の年配のサーファー、サーフィンを始めたばかりの人からプロサーファーとして活躍する選手まで100人以上で構成され、役職としてプレジデント、 バイスプレジデント、秘書、ヘッドコーチ、コンテストダイレクターが決められクラブが運営されています。
CURRUNBIN ALLEYのポイントの目の前にあるクラブハウス。中には歴代クラブ王者の名前やトロフィーが飾られている。
ボードライダーズの活動費は、スポンサー支援、ボランティア活動(メンバーで出店を開いてそ の売り上げなど)からの収入、メンバーの年会費からまかなわれています。
グリーンベーコンというビール会社、地元の企業やクラブのメンバーと関わる企業がスポンサー になる事もあります。
活動として週に1回のコーチングセッション、クラブラウンドと呼ばれる年間シリーズになって いるクラブ内の試合、ボードライダーズバトルのような他のクラブとのチーム戦が主な活動内容となっております。
コーチングセッション。日本でいう少年野球や少年サッカーのような感覚でコーチングが行われている。
CURRUNBIN ALLEY BOARDRIDERSでは毎週水曜日15:45~17:15の時間帯でレベ ル別(初級者、中級者、上級者)に分かれてコーチングセッションを行っています。
メインにコーチングを受けているのは18歳以下のメンバーで、ここでサーフィンの技術だけで なく、サーフィンのルールであったり、海でのマナーなどを学び、立派なサーファーとして成長していきます。
こうして一般サーファーが、きちんと知識を学べる場所があるということは非常に大きく、ゴール ドコーストでは日本でいう少年野球や少年サッカーのような感覚でコーチングが取り入れられています。
中級者~上級者アドバンスクラスを受け持つライフメンバーのマーク・リチャードソンは、ISAワールドマスターズのチャンピオンにも輝き、オーストラリア国内の6度のチャンピオン経 験を持つ。
WCTサーファーのコートニー・コンローグをはじめ、多数のQSサーファーのコーチを 務めている経験の持ち主で、ISAジュニアのコーチにも就任していた。CURRUNBIN ALLEY BOARDRIDERSだけでなくSNAPPER SURFRIDERSのコーチも務めている。
ボードライダーズのコーチングのある日はポイントがキッズでいっぱいに、それでも地元のサー ファーの理解度は高く、邪魔されることなく(邪魔されることもあるが)練習に打ち込めています。
月に1度のペースで年間9戦行われるクラブ内の試合、クラブラウンド。
ボードライダーズ1番のメイン部分と呼べるのが、このクラブラウンドと呼ばれるクラブ内の試合。
月に1度のペースで年間9戦行われ上位7戦の結果(今年はコロナの影響で9戦全ては消化できていない)によって年間の総合順位が決められます。
ディビジョンはParent Assist(10歳以下)、Micro Grom(12歳以下)、Grom(14歳以下)、 Cadets(16歳以下)、Juniors(18歳以下)、Open(年齢制限なし)、Junior Women’s(18歳以下 の女子)、Women’s(年齢制限なしの女子)、 Masters(35歳以上)、Legends(50歳以上) と男女年齢別に分かれています。
試合時間はその時のコンディションによって異なりますが、殆どが20分ヒートで、ファイナルは25分か30分で行われ、50%プログレス(3人か4人ヒートであれば2人、5人ヒート であれば3人がラウンドアップ)の形式で行われています。
それぞれのボードライダーズで形式は異なるものの、サーフィンオーストラリアはどの試合もヒート 時間は20分以上、50%プログレスを推奨しており、基本的にはこのようなフォーマットが採用されています。
クラブ員はジャッジを教えてもらいながら、サーフィンの試合をするだけでなく、自分達で ジャッジも行っています。試合後には選手にアドバイスする姿も良く目にします。
シリーズ終了後はプレゼンテーションが行われ、いろいろなアワードなど表彰パーティーが行われます。
橋本恋も以前にCURRUNBIN ALLEY BOARDRIDERSのオープンウィメンズの年間チャンピオ ンに輝いている。
各ボードライダーズによって違いますが、年間チャンピオンは賞金であったり、イベントのワイルド カードであったりと様々で、最近ではゴールドコーストに滞在している日本人の活躍も目立ってい ます。
前回の記事でも書いたのですが村松爽香が2019年度のNORTH END BOARDRIDERSの オープンウィメンズの年間チャンピオンになり、GRAND SLAMのワイルドカードを獲得。
田中透生は2018年度のBURLEIGH HEADS BOARDRIDERSのオープンチャンピオンになり、2019年度のQS1500GOLD COAST OPENのワイルドカードを獲得。
このクラブラウンドは、海外遠征や撮影などで忙しいQSサーファーなどは全戦参加することが 難しいため、毎回参加出来ているメンバーにチャンスがあり、チームの代表を決める選考も兼ねて いながら、同世代との競争力も高めていて、ワイルドカードなどを得て次のステップに繋げれる大 きなチャンスにもなっています。
チーム対抗戦
ボードライダーズバトルのような賞金の出る大きな大会から、一定の地域内のボードライダーズ のみで行われる対抗戦まで、大小様々な大会が毎年4、5イベント開催されています。
試合の形式も大会によって様々で、代表選手5人によるリレー方式の試合(ビーチからスタート しゲッティングアウトしてライディングしビーチに戻って次の選手と交代を制限時間内に繰り返 す)であったり、代表1名ずつが各ヒートを戦う方式(1位が4pt、以下3、2、1ptとなり、 チームの総合点で順位を決める試合であったりします。
大きな大会であれば、CTサーファーのようなレベルの高い選手も所属するクラブの代表選手として出場することも多く、ボードライダーズバトルのナショナルファイナルにはオーストラリアのCT サーファーも数多く出場します。
チーム戦になると作戦を遂行することや役割が決められチームワークの重要性を学ぶと共に、 自分たちの同じクラブのヒーロー達と一緒に戦うということでクラブメンバーのモチベーションも上がるように感じます。
ボードライダーズには、コンペ派、エンジョイ派などクラブごとに特色がある。
CURRUNBIN ALLEY BOARDRIDERSをベースにボードライダーズの主な活動を書きましたが、年会費100ドル(各ボードライダーズによって違うが、だいたい100ドル前後)で週一回のコー チングや、月1での試合だけでなく、このような活動ができるのは驚きだと思います。
他にもメンバーの特典として、フィジカルトレーニングやピラティスなどの受講を割安で受けれたり、メーカーがボードライダーズをスポンサーしているところも多く、サーフボード、サーフギアが割安で購入できたり、または個人的にビッグスポンサーを得る事につながる事もあります。
また、SNAPPAER ROCKS SURFRIDERSとKIRRA SURFRIDERS では、毎年ゴールドコーストで行われるWCTのトライアル出場権(来年度は不明)の枠が1つづつ与えられており、選考方法はそれぞれ異なりますがクラブ員にとってはとても大きなモチベーションとなっています。
今後世界で活躍したいというビジョンを持ったサーファーなどは、同じクラブ内にすでにお手本となるサーファーが身近にいるという事が、とても心強く感じると共に一緒に世界の大会を回るバディができる場所ともなっています。
もちろん、そのようなごく一部のうまいサーファーのみで行われるのではなく、各ボードライダー ズによって活動のコンセプトが違い、サーファーの育成を重視してシリアスに活動をしているクラブもあれば、楽しさに重点を置いて活動しているクラブもあり、人によってより強い活動盛んなボードライダーズに転入したり、またその逆も多くあります。
ボードライダー ズという場所はサーフィンを通して、たくさんの事を学ばせてくれる場所
ただボードライダーズの1番の存在意義はどのサーファーに対してもサーフィンというものが身近であることを感じさせてくれる事、ルールや知識を学ばせてくれる事、そして純粋にサーフィンを楽しむ場である事だと思います。
クラブ員みんなで試合の準備をするために道具を運んで、テントを立て、ジャッジをして、試合が終わったら全員で片付けをする。サーフィンは個人スポーツですが、このボードライダー ズという場所はサーフィンを通してたくさんの事を学ばせてくれる場所だと思います。
オーストラリアはWSL、サーフィンオーストラリア、それぞれの州の各団体がそれぞれボードラ イダーズと結びつきがあり、例えばバーレーヘッズで行われるQS1500やシングルフィンコンテス トはWSLやサーフィンクイーンズランドとバーレーボードライダーズの協力の元で行われたり、毎年行われているバーレーヘッズのシングルフィンコンテストは、たくさんの人が集まり盛り上 がるイベント。
QCCと呼ばれるサーフィンクイーンズランドのサーキットのアーリークラシックは CURRUNBIN ALLEY BOARDRIDERSが関わって運営していたりと、各団体が連動して行われて いるので選手としても、スタッフとしてもボードライダーズを通じて関わりやすくなっています。
もちろんちゃんと活動を行なっているボードライダーズが全てということではないが、このような素晴らしいシステムが日本でも浸透されたらいいなと思います。
オーストラリア国民のサーフィンへの理解度とサーフィンの知識は高く、サーファーという種類 の人を変な意味で特別扱いする感じがありません。その背景にあるのは、このボードライダーズのような統一された団体が、日常的に活動していて、一般人の間にも海での知識やマナーが根付いているからではないかと思います。
菅野大典:オーストラリアのゴールドコーストを拠点にして13年余り。サーフボード・クラフトマンとして働きながら、サーフィン修行のために来豪する日本のサーファーをサポート。写真や動画撮影のほか、昨年は大村奈央の試合に帯同、大会のジャッジやサーフコーチなどマルチに活動している。
INSTAGRAM : https://www.instagram.com/nojiland/?hl=ja