文・写真/米地有理子
10月20日(日)に日本へ帰国中の五十嵐カノア(木下グループ)が「五十嵐カノアキッズサーフィンアカデミー」を千葉県長生郡一宮町の一宮海岸で開催した。
これは、資生堂が世界88の国と地域で展開しているブランド「SHISEIDO」とともに2019年よりカノアが推進している海洋保全活動『SHISEIDO BLUE PROJECT』の一環であり、子供たちに海を楽しむこと、海を守ることを伝えていきたいという思いから企画されたものだ。
当日は強風でサーフィンが危険ということもあり、子供たちとのサーフィンは中止とし、カノアと子供たちがビーチクリーンを行った。『SHISEIDO BLUE PROJECT』でカノアは世界各地でビーチクリーンを行っており、今まで約4,500人が参加、プロジェクトは今回で41回目とのことだ。
皆、風にも負けず、砂まみれになりながらも、子供たちはカノアとの触れ合いを楽しみながらゴミを拾った。カノアが居るのを知ってサインや握手、一緒に写真を撮ってもらうのを求めに来たファンたちにもカノアは快く応じて、ここでも彼の人気とスター性が垣間見られた。
ビーチクリーン後は、せっかく集まってくれた子供たちとの時間を大切にしたいと、ゲストハウスに事前に応募のあった子供たちを招き、カノアとトークセッションを。
ライフセーバーで世界選手権パドルボード競技の金メダリストの三井結里花さんもゲストとして参加し、子供たちは世界で活躍する二人の話を聞ける絶好の機会となった。
三井さんは自己紹介をしながら、パドルボードの競技について簡単に説明をして、「ライフセーバーって知っている?」と子供たちに問いかけ、子供たちが「海で助けて〜という人を助ける人」と答えると、「それもそうなのだけど、ライフセービングはその助けて〜という人を作らないように、事故を未然に防ぐ活動もしているの」とわかりやすく教えていた。
カノアには、まずはいつも朝起きて海に行く前にやっているというストレッチを教えてもらい、皆で実践。
カノアは「このストレッチはサーフィンやらない日も、ジムトレーニングの日もやっているんだ。夜寝る前にも。毎日ストレッチすること、1分でも5分でもルーティンを作るのが大切だよ。ルーティンを作って、毎日目標のことを考えてやっていけば目標に近づいていけるよ」と子供たちに大切なアドバイスを。
三井さんも自身のルーティンとして「海を見ることにしています。自分で自分のことを守るために。自然には敵わないこともあるので、今日はどんな海なのかとか。それからビーチクリーンをして、砂浜に危険なものがないかを確認することを準備運動として心がけています」と語ってくれた。
一緒に海を大切にしてもらいたい。
また、『SHISEIDO BLUE PROJECT』ではビーチクリーンだけではなく、様々な活動をしており、カノアはタヒチでは珊瑚礁を育てる活動、リーフレストレーションをしたそうだ。
それについてカノアは「ゴーグルをかけて、何も聞こえない中、自然と繋がっている感じがする。自分の力で潜って先生に言われた場所に珊瑚を置く。大変だったけど、どうにかして海を守りたい。すごいチャレンジで今も印象に残っている。いつかみんなと一緒にやりたいなと思う」と子供たちに語りかけていた。
また、ハンティントンでは、カノアファンのライフセーバーの子供たちが100人ぐらいついてきて一緒にビーチクリーンをやったことが印象に残っていると司会者が話すと、それについては「世界のいろんな場所で海を大切にしてくれている。皆んなと一緒にゴミ拾いをすると友達もできるし、これからも皆んなサーフィンすると思うから、一緒に海を大切にしてもらいたい」と語り、子供たちも真剣にカノアの言葉を聞いていた。
ロサンゼルスのオリンピックで金メダルを獲ること。
さらにこれからの目標について聞かれると、「これからの目標は2028年のロサンゼルスのオリンピックに向けて始まっているので、金メダルを獲ること。
そしてその自分の目標に向かって何をするのかというスケジュールを立てて、ちょっとしたストレッチをするとか、毎日することとか毎日サーフィンすることとかのルーティンを作っていて。来年の目標は世界チャンピオンになること。
それに向けて怪我をしないように、自分のサーフィンができるようにさっき話したストレッチをしたりしているよ」とあくまでも子供たちにわかりやすく、目標のために日々のルーティンが大切ということが伝わるように、ここでも回答をしていた。
また、カノアから子供たちに「目標は?」と問いかけ、子供たちの目標を聞くと、「頑張って下さい」と温かく励ました。
三井さんも自身の今後の目標を「日本人がまだ挑戦していないことに挑戦していきたい。具体的にはカタリナ・クラシックという32マイルのパドルボードレースに挑戦したい。日本人の可能性を広げるために先頭に立って挑戦していきたい。2032年にブリスベンでのオリンピックでもしかしたら競技種目となるかもしれないので出場できるように頑張りたい」と熱く語ってくれた。
最後に、子供たちからカノアへの質問タイム。「いつ最初のエアリバースをきめましたか?」という9歳の子の質問に、「11歳かな。じゃああと2年だね。エアリバースは後ろの手をちゃんと後ろに持ってきてから前にやるのが大切、回転が早くなるから」とアドバイスを。
「オリンピックに出るまで何年ぐらいかかったのですか?」との質問には、「22歳だったから22年かな(笑)。サーフィンがオリンピックに決まった時から大体3年ぐらい。オリンピックに出場できるイベント(大会)に参加して、オリンピック代表の枠を獲って、オリンピックに出場したんだ」と冗談を交えながら丁寧に答えていた。
また、保護者の方から「勉強を一生懸命されている目的は何ですか?」と聞かれると、「毎日1%でも何か上手くなりたいと思っていて。それはサーフィンだけではなくて、お兄ちゃんとして、息子として、友達として、よくなりたい、一生勉強したい。皆んなも一生勉強していると思うし、勉強のコースを取っていなくても。今、僕はハーバードでコースを受けているけど、ハーバードに行ってなくてもいつも勉強しているんだ」と語った。
その言葉にその場に居る誰もがなぜカノアがトップアスリートなのかということを理解したのではないだろうか。
東京から参加した5歳の男の子はお父さんがサーフィンをやっていてサーフィンを始め、名前もカノアくん。勉強も頑張っているそうだ。保護者にとってもとても参考になった話だろう。
「なんでサーフィンを始めたのですか?」という質問には、「お父さんがサーフィンをしていて、いつも海が好きで、皆んながやっているのを見ていてかっこいいなって思ったんだ。
海入るとさっぱりして気持ちいいし、周りの人たちもサーフィンしていたからサーフィンしたいなって思ったんだ」と語ると同時にカノアから「なんでサーフィンしたの?」と逆質問。
その質問に一生懸命答える子供が微笑ましく、カノアが皆んなに「サーフィン好き?」と笑顔で聞く場面も。子供たちと対等に語り合おうというカノアの真摯な姿勢を感じた。
そして子供たちに代わって司会者から「波が怖いとか、海が嫌だなって思う時はどう克服するのですか?」という質問については、「それもまたチャレンジ。どんどん経験していくこと。怖くない人は絶対にいないから。その分、準備をしてトレーニングをして強くなることだよ」と自身の経験をもとに語ってくれた。
今は頑張ることより楽しむことが大事。
子供たちにとっては、「今は頑張ることより楽しむことが大事」ということを最後の締めとして質問タイムが終わり、子供たちにカノアからラッシュガード、Tシャツ、ステッカーの嬉しいプレゼントが。記念撮影をして、皆んなにとってかけがえのない時間となった「五十嵐カノアキッズサーフィンアカデミー」は終了した。
【カノアへの合同インタビュー】
ー今日は子供たちとビーチクリーンをして触れ合ってどうでしたか?
今日は厳しいコンディションということで、子供たちとビーチクリーンだけをちょっとしたけど、これからも子供たちに、今日だけではなく、明日から海に行く時にゴミを拾ってもらうことが大切だと思っていて。今日は子供たちとこういう機会を持ててすごくうれしいです。
ー昔から子供たちとの交流を大切にしていると思いますが、LAには大谷翔平選手も居て、大谷選手も子供たちにグローブを渡すという活動をしていましたが、あらためて、子供たちとの触れ合いについて聞かせて下さい。
自分も子供の時にいろいろサポートしてもらって、いろいろ勉強になりました。ケリー・スレーターとか周りのトップ選手にすごく教えてもらって、一つ一つの言葉が印象に残っています。
その感じで、自分も次の世代に伝えたいと思っていて。海を守ることはこれからニューノーマル(新しい生活様式)をスタートすることなので、海を楽しむことと海を守ることを伝えたいと思っています。
ー今はCTが終わって休暇の時だと思いますが、あらためて、これからの目標を聞かせて下さい。
2024年のオリンピックが終わって、金メダルの目標が強く、モチベーションが強くなっています。これからの3、4年、自分のサーフィンを進化させて、もっと上手くなるためにどういうことが必要なのかを考えています。来年も世界チャンピオンになりたいということと、金メダルを獲るという目標は続いているので、頑張りたいです。
ー今シーズンを振り返って、どうですか?
すごく経験になったと思います。こうしたら結果がこう繋がるという考え方だったけど、自然相手のスポーツはちょっと新しいことをしたからといってそれがすぐ繋がる訳ではないということがすごく勉強になりました。
来年に向けて、いいリズムになっているので、そのまま続けていきたいと思っています。今年、ちょっとミスしたこともいろいろあったので、直して良くしていきたいと思います。
ードジャースの大谷選手の活躍についてはどう思われますか?
世界的に、野球をあまり観ていない人でも大谷選手のことは知っていると思うので、日本人ということで自分のモチベーションにもなるし、大谷選手のおかげで野球を観るようになりました。感謝の気持ちと頑張ってもらいたいという気持ちです。
ー日本で海に入られたと思いますが、波はどうでしたか?
今までも可能なときは日本の海に入っていて。一箇所一箇所に波にクセもあって、世界にはない感じの波です。この前は、一宮の波が面白くて皆んなでサーフィンしました。日本の波のチャレンジも面白いし、世界にない形の波だし、久しぶりの日本の波が気持ちよくて。いつも楽しんでいます。
ー今までのビーチクリーンでは子供たちとどんな会話を?
ゴミ拾いの説明をしたり、このゴミはどう繋がっているのかとかを話したり。それから、「世界のトップの選手たちと戦っているのはどういう気持ちなの?」とか、「世界を周っていて疲れないの?」とか、「どういう食べ物が好きなの?」とか聞かれたりして。
2時間、3時間ゴミ拾いしても、10分で終わっちゃった感じで。もっと一緒に一日中子供たちと居たいって思います。子供たちの質問には、すごく考えます。「ケリー・スレーターと戦う気持ちは?」って聞かれたら、自分で深く考えて、(彼らにとって)いい答えをあげたいって思うから。
ービーチクリーンをするとどういうゴミが多いですか?
一番見るのはペットボトルのキャップです。マイクロプラスチックという小さなプラスチックは魚とかが食べてしまって一番危ないです。大きいゴミよりも小さいゴミの方がより気をつけなくてはいけないですね。
今回の「五十嵐カノアキッズサーフィンアカデミー」は強風のために子供たちとのサーフィンはできなかったが、日本のサーフィン界に世界の風を吹き込んでくれたカノアは、今回も次世代の子供たちに新たな風を吹き込んでくれた。
そして、これからもさらに吹き込んでくれるだろう。記者は生カノアに会えて、まだまだ聞きたいことがあったが、嬉しさのあまりに頭が働かなくなってしまった。さらに進化するカノアにインタビューできるように日々のルーティン、一生勉強を頑張りたいと思う。