現地からオーストラリアの最新情報を伝える【SURFMEDIAオーストラリアSURFNEWS】。第47回となる今回は、スナッパーで行われたチャレンジャー・シリーズ第1戦 Bonsoy Gold Coast Proの舞台裏、2032年ブリスベン・オリンピック開催に向けたジュニア世代の強化、サーフィン・コーチなど。
取材、文、写真:菅野大典
5月のゴールドコースト。
例年は毎日のように天気の良い季節なのですが、今月は天候の崩れる日が多く、気温も朝晩はだいぶ冷え込むようになりました。
ストームに覆われるサーファーズパラダイス。以前は365日中300日が晴れなどと言われていましたが、ここ数年で気候もだいぶ変化したように感じます。 晴れた日は空気が澄んでいて、とても気持ちのいい景色が広がります。気温が下がったとはいえ海水温はまだまだ温かくボードショーツ1枚で海を楽しんでいる人の姿も見られます。今月も綺麗な夕焼けを見ることができました。快晴になれば、これぞゴールドコーストという景色を見せてくれます。
日本のゴールデンウィークと重なる時期ともあり、陸でも海でも多くの日本人を見かけることが多く、円安の状況でありながら日本人観光者の数も増えているように感じます。
コロナの規制が明けてから2年が経ちますが、ゴールドコーストの人口は国内外からの移住者で増加しており、ひと昔前までは考えられなかった交通渋滞も多く、ここ数年で街の様子も劇的に変わっているように感じます。
以前はガラガラだった大通りも渋滞が当たり前のように。街中で見られるロータリーも渋滞を引き起こす原因となり、信号機を設置するなど街が変化しています。
波の状況は今月もコンスタントにサーフィンができるうねりが届き、毎日のようにサーフィンを楽しめる日が続きました。
ポイントブレイクだけでなくオープンビーチでも地形のある場所があり、ゴールドコースト全体で良いコンディション。1年を通して初心者から上級者までの幅広いサーファーがサーフィンできるのがゴールドコーストの魅力の一つ。 日が出るとすぐにオンショアが強く吹く夏とは違い、午後になってもゆるい風が吹く日も多く、夕方遅くでもたくさんの人が集まっていました。
今月も波の豊富なサウスストラディの島へ。夏場はスナッパーロックス、冬場はサウスストラディと言えるほど、ゴールドコーストの中でもクオリティの高い波がブレイクする人気のサーフスポットの一つ。年々沖に停まっているジェットスキーや、船の数が増えているように感じます。
サンドパンピングシステムにより、川の底から汲み上げられた砂が放出されているので、常に地形がある状態に。底掘れする波を堪能できます。 第二の故郷であるゴールドコーストに久しぶりに戻ってきていた和光大。相変わらず綺麗なサーフィンをしていました。グリーンマウントの丘の上には常に波チェックをする人が。夏の時期からずっと良い地形を保っているスナッパーロックス。ピーク付近はサイズが小さくても掘れ掘れのチューブが巻いています。 スナッパーに行けば必ずと言っていいほど見かけるスーパーグロムのケイデン・フランシス。グロメッツのコンテストシーズンとなり、毎日日が暮れるまで切磋琢磨にキッズがサーフィンに打ち込んでいます。 スナッパーロックスと並び混雑するポイントでお馴染みのD-BAHも地形が良く、うねりの大小関わらずに毎日のようにセッションが行われていました。レジェンドサーファーのネーサン・ヘッジも暗くなるまでサーフィン。日照時間が短くなり暗くなるギリギリまでたくさんのサーファーが海にステイしていました。
オーストラリアの南部の地域も本格的にシーズンイン。サウスオーストラリアやビクトリア、タスマニアといった地域にもうねりが入り、5月はオーストラリア全域でコンディションの良い月となりました。
多くの人がラインナップに並んでいるビクトリア州のウィンキーポップ。ゴールドコーストとは正反対で今年の南部の地域の水温はかなり冷たいそうで、この時期で既にブーツ着用している人も多いそうです。PHOTO:Steve Ryan
月の終盤にはオーストラリアの南西から巨大スウェルが入り、ウエスタンオーストラリアのビッグウェーブポイントでは記録的なセッションが繰り広げられていました。
巨大な波にチャージするレティー・モーテンセン。写真を見るだけでもゾクゾクする波がブレイク。PHOTO:@matttmacphoto
国内のイベントも今月から一気に増え、各地域では毎週のようにステートタイトル(州予選)やシリーズ戦などが行われています。
特にジュニアイベントのU18とU16のシリーズ年間チャンピオンには、イルカンジスチーム(オーストラリアナショナルチーム)として選出され、ISA WORLD JUNIOR CHAMPIONSHIPの出場枠を獲得できるなど、WSLのプロジュニアと共に若いオージーサーファーにとっては重要なシリーズとなっています。
サーフィンオーストラリアジュニアランキングシステム
https://assets.surfinginaustralia.com/wp-content/uploads/sites/6/2023/12/19084137/Surfing_Australia_Junior_Series_24_V02.pdf
以前までは単体で行われていた国内の大きなイベントも全てシリーズのランキングに反映され、充実したシステムに。ハイグレードのイベントには、ランキングによるシードが設けられエントリーしても出場できない選手がいるなど、プロツアーさながらのような感じになっています。
今月エルサルバドルで行われたISA World Junior Surfing Championshipで金メダルを獲得したオーストラリア。数年前まではあまりISAのイベントには力を入れていなかったように感じますが、現在はオリンピック競技になった事もあるせいか組織全体で底上げをしているように感じます。PHOTO : @theirukandjis
男子U18で優勝したデーン・ヘンリー。2位には同じオーストラリアのフレッチャー・ケレハー、女子U16の優勝にもオーストラリアのジギー・マッケンジーとサーフィン大国の強さを示した大会となりました。
2032年ブリスベン・オリンピック開催に向けてジュニア世代を強化。
2032年にブリスベンでオリンピックが開催されることが決まり、主役になるのは今のジュニア世代。以前まではサーフィン選手=WSLのCT選手という感じでしたが、今の世代にとってはオリンピアンという目標も加わっている感じがします。
ジュニアイベントのエントリー人数の多さに対して、オープンクラス以上の年齢、特に日本で人気のあるシニアやマスタークラスに出場する選手は本当に少なく、今回行われていたのクイーンズランドステートタイトルの各ディビジョンの参加者を見ていてもわずか数名足らずの出場(ほとんどがストレートファイナル又はセミファイナルからのスタート)となっており、いかに今のオーストラリアのアマチュアの大会というものが、ジュニア世代に力を入れているかが感じとれます。
サーフィンオーストラリアのランキングシステムには反映されませんが、Australian Interschool Championship (中、高の学生チャンピオン)を決める大会もゴールドコーストで開催。
会場となったノビーズビーチ。PHOTO:SURFING AUSTRALIA/Andrew Shield
現在パームビーチカランビンステートハイスクール(PBC)に留学中の高橋花音が個人で見事銀メダルを獲得。チーム戦でも、PBCの代表として双子の姉妹である高橋花梨を含むメンバー構成で見事銀メダルを獲得した。
際どいセクションに当て込む花音。最近ではベスト1ウェーブ方式を採用することの多いオーストラリアの試合。リスクをとれるライディングであったり、短い試合時間でも最後まで逆転の可能性が残っている事など、選手の育成を目的とした試合などではメリットの高いフォーマット。PHOTO:SURFING AUSTRALIA/Andy Morris
CS第1戦 Bonsoy ゴールドコースト・プロの舞台裏。
今月の1番のイベントといえばWSL チャレンジャーシリーズのオーストラリアレッグ。サーフメディアの記事でも連日レポートしてきましたが、今回のCS第1戦 Bonsoy ゴールドコースト・プロは波のコンディションも良く、レジェンドヒートや人気DJポールフィッシャーのイベントもあり盛大な盛り上がりを見せてくれました。
CS第1戦 Bonsoy ゴールドコースト・プロ ファイナルデイレポート
https://surfmedia.jp/2024/05/04/bonsoy-gold-coast-pro-06/
会場となったスナッパーロックスには連日大勢の観客が集まっていました。 セット間は長いもののイベントを通してクオリティの高い波がブレイク。世界で一番混雑するポイントと呼ばれる場所を数名で貸切にできるのは、選手にとって1番のモチベーションになっていたように感じます。
日本人選手の結果は、大原洋人がひとり好調なサーフィンを見せベスト16に進出するも、マンオンマンラウンドで今大会の優勝者であるマイキー・マクドナーに敗れ9位でフィニッシュ。残念ながらファイナルデイまでに全員が姿を消す結果となってしまいました。
試合運び、ライディング共に絶好調だった洋人。コンスタントにグッドスコアを出しラウンドオブ16までは全て1位通過を果たした。
ヒート後に勝利を分かち合う洋人とコーチを務めた相澤日向。クロスヒートとなったラウンドオブ32のヒートでは、『自分がプライオリティを持っていて、行こうとした波に引っかからず、もしキャラム・ロブソンがあと1mでも離れたところにいて、その波を乗られていたらやばかった。
そのあとも、自分が行きたかったけどプライオリティを持っていないで、キャラムが乗った波は先が崩れて2ターンしか入らない波になって助かった。』など、他にもいろいろスナッパーロックスの岩裏での攻防について細かく話をしてくれました。
外から見ていれば綺麗にブレイクするライトハンドの波で、プライオリティがあればサイズがあってショルダーのある波に簡単に乗れると思うが、この岩の裏のポディションはバックウォッシュが入ったり、水の集まり方や掘れ上がり方などもあって意外とミスを犯しやすい。それに加えてセット間が長いとなると波の選択は難しくなる。
点差以上にギリギリの試合だったようで、点数の差、時間、プライオリティの順番によって選択しなければいけない波も異なったりと、サーフィンの勝負の奥深さを感じさせられました。
その後2日間のレイデイを挟んで行われたラウンドオブ16の試合では、それまでの完璧な試合運びができずに敗退。
試合後、陸に上がってからもしばらく波を見ていた洋人。コンディションが変わったせいか、自分のサーフィンを出せずに悔しい敗退となってしまった。
ラウンドオブ32で負けてしまったものの、CTを経験する選手を相手に堂々と素晴らしいサーフィンを披露したCS2年目の松岡亜音。昨年の初舞台から1年ですごく成長して戻ってきました。 同じくラウンドオブ32まで勝ち上がるも、不運にもプライオリティがない状態でそれまでに来なかったセットを相手3人に乗られてしまい、敗退してしまった脇田沙良。サーフィン自体はスナッパーロックスの波と合っていて、良い波さえ掴めればエクセレントスコアを出せる実力があるだけに悔しい結果となってしまった。
男子優勝者のマイキー・マクドナー。何か特別すごい事をするわけではないが、淡々と自分のできる事をこなし、会場に来た地元LE-BAボードライダーズの大応援団の後押しもあってか、嬉しいビッグタイトルを獲得。 女子優勝者はエリン・ブルックス。セミファイナルでは素晴らしいチューブライドを決め10ptをメイクするなど、間違いなく今大会の主役となった。
チューブやエアーだけでなく基本的なマニューバーもレベルが高く、若干16歳ながら女子の中でも飛び抜けた実力の存在に。
続いて行われたCS第2戦GWMシドニー・サーフ・プロでもファイナルに進出し2位となったエリン・ブルックス。昨年のCS最終戦から数えて3戦連続のファイナル進出という脅威的な結果を残しています。
GWMシドニー・サーフ・プロのファイナリスト。男子はワイルドカードで出場したジョーダン・ローラーが見事地元での勝利。女子はイザベラ・ニコルズがゴールドコーストプロでのセミファイナルでのリベンジを果たし優勝した。
日本人選手の結果は男子は伊東李安琉、女子は都築虹帆、松岡亜音、都筑有夢路がラウンドオブ32まで進出するも、残念ながらそこで敗退。またしてもファイナルデイを前に全員が姿を消す形となってしまった。
CS第2戦GWMシドニー・サーフ・プロ、ファイナルデイレポート
https://surfmedia.jp/2024/05/14/2024-gwm-sydney-surf-pro-presented-by-bonsoy-05/
Bonsoy ゴールドコースト・プロを現場で見ていて、全体的にブラジリアンサーファーはやはり強く、取りこぼしなく勝ち上がってくるというのが印象的でしたが、個人的に印象に残った選手はオージーの若手サーファーやアメリカの渡部太郎。
ラウンド2で早々に敗退してしまいましたが、バリエーションのある素晴らしいサーフィンを披露していた渡部太郎。2戦目のGWMシドニー・サーフ・プロではクォーターファイナルまで進出し、今後ある4戦に期待がかかります。 以前にワイルドカードで出場した事もあるが、今年が実質CS1年目となるオスカー・ベリー。常に奥のポディションに座り、自分のサーフィンを貫いていて、見ていて非常に楽しいサーフィンをしていた。
昨年に続き陸の雰囲気も印象的で、男子ファイナルが行われている時のマイキー・マクドナーを後押しするような大応援団は、選手にとってもとても力になるし、このような応援団のような形ではないにしろ、コーチや友人が陸にいるというのはとても大きな存在に感じました。
ファイナルデイでは土砂降りの雨が降る中でもたくさんの応援団が駆けつけ、ライディングのたびに陸から大歓声が上がり、雰囲気で圧倒したマイキー。相手選手はとてもやりにくかったと思います。 セミファイナルまで進出したジョージ・ピターとコーチを務めるティム・マクドナルド。選手が海から陸を見た時にコーチとコンタクトとれるというのは安心が広がる。 昨年の優勝者であるキャラム・ロブソンやイザベラ・ニコルズをコーチするマーク・リチャードソン。基本的にはジャッジブースと同じ場所に陣取るコーチが主流だが、地形マニアで知られるリッチョはいつもいろんな角度や高い位置から地形を見ています。 ナット・ヤング、アリッサ・スペンサー、リーバイ・スローソンなどのコーチを務めていたマット・マイヤーズ。時間帯やライディング後の様子を見て蛍光の帽子をふって指示をしているのが印象的でした。
サーフィンのコーチといっても、知識や技術を教える人、試合の戦略を選手と共に考える人、選手のゴールに向けてプランを共に考えて寄り添いながら支える人など、それぞれ特色は違いますが、外から選手とコーチのやりとりや周りにいる人達との雰囲気を見てると、改めてサーフィンの試合は個人競技でありながら、チームとしての雰囲気作りというものが重要な事だと感じました。
今回、大原洋人、伊東李安流、都築虹帆、松岡亜音といった選手のコーチを務めた相澤日向。本人は、今は試合を回る事は考えてなく、1番のプライオリティはウェーブハントをして映像を残す事と話していました。
幼い頃から一緒に育ってきた仲の良いサーファーが何人もCTにクオリファイしているのを間近で見ている事や、今でもサーフバディとして一緒にトリップに行っている事、オーストラリアのナショナルコーチを務めているジェイ・トンプソンと共に働いている事などは、誰もが得れる事ではなくとても大きな経験。まだ若い日向がどのようなコーチに成長していくかも楽しみに感じました。
今大会、日本人の女子選手は全員がCS2年目以上でしたが、男子は大原洋人以外の3名は初出場。特にレジェンドヒート開催の直前ともあって会場には大人数が押し寄せ、今まで経験したことのない雰囲気に圧倒された部分もあったと思いました。
結果だけで見てしまうとCTへのクオリファイはまだまだのように感じてしまいますが、実際に現場で見ていたらそこまでの実力差は感じず、何かほんの少しの事のように思いました。第2戦のナラビーンは現場で直接見ていないのでわかりませんが、来年からCTとして開催されるスナッパーロックスでのゴールドコーストプロに、1人でも多くの日本人が出場することを願っています。
そして、間違いなく今大会1番に会場を盛り上げたのはレジェンドヒート。
ケリー、ステフ、ミック、パーコ、オッキー、この人たちが試合をやるっていったら誰もが会場に足を運びたくなる。日が暮れる間際のスナッパーロックスはCTのファイナルの時よりも人が集まっているように感じました。
久しぶりに大観衆の前に姿を表したステファニー・ギルモア。何歳になっても色褪せずに素晴らしいサーフィンをし、人々を魅了するサーファーの力はものすごく大きなものだと感じました。
イベントというものは人を集めて視聴者を増やして成立するもので、ただシリーズの1戦を行うのではなく、見たくなる波、見たくなる選手、見たくなる演出など、様々な要素が合わさって成功するのだと感じさせられました。
コメンテイターとして大会を盛り上げたステイス・ガルブレイス。LIVE中継を見ている人楽しませる喋りは、影のMVPと呼ばれるほど評価が高く、CTにクオリファイしてほしいとの声も上がっていました。
イベント開催には、選手だけでなく企画から裏方であるジャッジまで、様々な人が関わって行われるものであって、自然の中でやるサーフィンのイベントともなると本当に難しく思いますが、3月に行われたオーストラリアン・ボードライダーズバトルのイベントもそうでしたが、今年のゴールドコーストの2大サーフィンイベントは今までにない成功を収めたように感じます。
季節は冬に変わっていきますが、5月のゴールドコーストのサーフシーンはとても熱く盛り上がっていました。
菅野大典:オーストラリアのゴールドコーストを拠点にして13年余り。サーフボード・クラフトマンとして働きながら、サーフィン修行のために来豪する日本のサーファーをサポート。写真や動画撮影のほか、大村奈央の試合に帯同するなど大会のジャッジやサーフコーチなどマルチに活動している。
INSTAGRAM :https://www.instagram.com/nojiland/