新しいサーフィンイベントの形として世界に衝撃をもたらしたオーストラリアン・ボードライダーズ・バトルとは。

現地からオーストラリアの最新情報を伝える【SURFMEDIAオーストラリアSURFNEWS】。今回はオーストラリアにステイしトレーニングをしている伊東李安流、カノア準優勝のWSL CTオーストラリアレッグ開幕、オーストラリアン・ボードライダーズ・バトル(ABB)がバーレーヘッズで開催のニュースです。

 

取材、文、写真:菅野大典

 

4月のゴールドコースト。

 日照時間も短くなり、秋の雰囲気が感じられる季節となっています。

 

 

 朝晩はひんやりとしているものの、晴れた日の日中はまだまだ暖かく快適に過ごせる日々。空気が澄んでいて、夕焼けも綺麗な時期にもなっています。

 

 

 

 4月はイースターホリデーに加え、アンザックデイといった祝日もあり、日本でいうとゴールデンウィークのような月。スクールホリデーも重なり街は賑やかな日が続いております。

 

 

相変わらずゴールドコーストの祝日はビーチにガゼボが並びます。

 

 

 ゴールドコーストの波の状況は、先月初旬に直撃したサイクロンアルフレッドの影響でゴールドコースト全体のビーチは侵食されたものの、コンディションの良いオープンビーチもあり、コンスタントにうねりが届きサーフィンを楽しめる日が続きました。

 

 


安定して波のあるD-BAH。本来の波のクオリティではないものの楽しめる日が続きました。

 

 

 

 サーファーズパラダイス近郊には、侵食したビーチを戻すために砂を流す船が稼働。この船は砂浜を取り戻すだけでなく、サーフィンに適した地形も作ってくれます。ゴールドコースト北側にはあちらこちらにバンクができており、風さえ合えばグッドコンディションの日が続いています。

 

 

オーストラリアにステイしトレーニングをしている伊東李安流。

 

今年に入ってから3ヶ月以上オーストラリアにステイしトレーニングをしている伊東李安流。ゴールドコーストでも南側と北側ではレベルも混雑度も違う。この日はほぼ貸切のようなコンディションでチューブを何本もメイクしていました。

 月末にはクーランガッタにあるボードライダーズカフェで自身のサーフィンフィルムである『Free Bird』の上映会を開催。現地にいる日本人をはじめ、多くの外国人も集まり大盛況の1日となりました。

 長期滞在によりゴールドコースト生活にも慣れ、刺激のある日々を過ごしている伊東李安流。日本人離れしたアプローチとサーフィンスタイルは誰から見ても魅力的な存在。今後の活躍にも是非期待したい。

 

波がブレイクせず岩が剥き出しのままのスナッパーロックス。

 

 ただゴールドコーストを代表するライトハンドブレイクがあるスナッパーロックスには砂が戻らず、いまだに地形のない状態。

 サンドパンピングによる砂の投入も何度もされましたが、地形が良くなる南うねりの日が少なく、数年ぶりに戻ってきたCTイベントの会場も、地形の残っているバーレーヘッズに変更されてしまいました。

 

 グリーンマウントにはそこそこ地形があるものの、何かいまいち物足りないコンディション。通年この時期は毎日のようにグッドセッションが繰り広げられているのですが、サイクロン以降の今年のクーランガッタは物足りないサーフ状況となっています。

 

 クーランガッタのサーフィン状況が物足りない一方で、シドニーを含む南部の地域は巨大スウェルによるビッグセッションが繰り広げられていました。

 

 

 4月上旬、そしてイースターホリデー中に巨大低気圧とサイクロンTAMからのうねりによりオーストラリア南東部はXLサイズの波がブレイク。クイーンズクリフでは、今までのシドニーのベストウェーブと呼ばれるほどのセッションが繰り広げられていました。

 

今月はいよいよWSL CTオーストラリアレッグも開催。

 

 

 毎年ミッドシーズンカット前のイベントとして注目を浴びるオーストラリアレッグですが、今年からは、3つのイベントがシリーズ化し「GWMオージー・トレブル」としてポイントが競われ、トップランキングの男女共にGWM Tank 300が与えられます。

 第1戦目には長い歴史ある大会であるベルズビーチでのリップカールプロが4月17日から28日の日程で開催。

 

毎年イースターホリデーの日と合わせて開催されるリップカールプロ。PHOTO : WSL / Ed SloaneCredit: WSL / Ed Sloane

 

 サーフメディアでも連日のようにお伝えしてきましたが(https://surfmedia.jp/2025/04/27/rip-curl-pro-bells-beach-presented-by-bonsoy-2025-06-2/)、今年はトライアルイベントを勝ち上がり、カレントリーダーのイタロ・フェレイラを倒したザビア・ハックスタブル
やセミファイナルまで進出したモーガン・シビリックの活躍をはじめ、イーサン・ユーイングのみせたレールサーフィンのライディングなど、イベントを通してとても見応えのあるものとなりました。

 

コナー・オレアリーと対戦したクウォーターファイナルでみせたイーサン・ユーイングのサーフィンはまさに今の若い世代がお手本としたいレールサーフィン。CTイベントで披露されるレベルの高いライディングにより、一気にサーフィンのスタンダードが上がっていくように感じます。PHOTO : WSL / Cait-Miers

 

 

 そしてなんといっても五十嵐カノアの準優勝の活躍。

 

好調なサーフィンを見せ優勝目前まで迫った五十嵐カノア。あと一歩の所で優勝を逃したもののイベントを通して勝負強さを発揮していた。PHOTO : WSL / Ed Sloane
五十嵐カノアと優勝したジャック・ロビンソン。カノアはワールドランキングを6位まであげ、トップ5はすぐ手の届く所までジャンプアップ。次はゴールドコーストに舞台を変え、またしても熱いバトルが期待される。PHOTO : WSL / Cait-Miers

 

オーストラリアン・ボードライダーズ・バトル(ABB)がバーレーヘッズで開催。

 昨年、新しいサーフィンイベントの形として世界に衝撃をもたらしたオーストラリアン・ボードライダーズ・バトル(ABB)が4月12、13日にバーレーヘッズで開催。

 サイクロンの影響により先月開催予定でしたが4月12、13日に延期され、オーストラリア中にある各州の予選を勝ち抜いたボードライダーズとワイルドカードチームを含む42チームがバーレーヘッズに集結しました。

 


会場のバーレーヘッズ。今年も巨大なスクリーンが何台も設置され、海の目の前にバーが出店するなど、広大な丘全体のどの場所でもイベントを楽しめる大規模なセットアップにより、どの場所に行っても大きな人だかりができていました。

 

 イベントは各チーム5人(オープン2人、18歳以下1人、女子1人、35歳以上1人)のメンバーによるリレー方式の70分ヒートで行われ、それぞれのサーファーのベスト1ウェーブに加えてパワーサーファー(5名の中から選出した1人が最後に2回目の演技をする)のライディングの合計6つのスコアによる戦い。

各サーファーは何本でも波に乗っていいが、パワーサーファーは1本しか波に乗れない、時間内に帰ってこれなければマイナス5ポイントなど、オーストラリアでは定番となっているチームイベントのフォーマットが採用。

 

1ヒート6チームで行われるスタートラインには錚々たるメンバーが集結。自分のクラブのトップ選手を1番手と最後のパワーサーファーにする事で時間も多く、体力も回復できる
リレー方式と言ってもこのバーレーヘッズでは一味違う。ただビーチと海を行き来するのではなく、岩からゲッティングアウトなのでスタートしてからアウトに行くまでの時間も重要となる。
イベント期間中はサイドオンショアの3-4ftのコンディション。1本乗ればだいぶ流されるコンディションとなる中で、時間配分やスコアの状況など、考えることがたくさん。いかに素早く良い波をゲットする事が重要だがそれがなかなか難しい。
メンバーの実力があっても、チームの状況をコントロールするコーチも重要。強いチームはしっかりと指示をできるように用意周到の準備をしています。
リレー方式なので演技した後は500mの上り坂のランニングトラックを走り、丘の頂上で次の選手とタッチして交代。元CTサーファーであるマット・ウィルキンソンもこの表情でダッシュしていました。
スタート地点でタッチするカルブラボードライダーズのマイキー・ライトとオーウェン・ライト。普段試合に出場しないサーファーでも、ボードライダーズのイベントとなれば別。多くのレジェンドサーファーが集結します。
スタートから演技をしてゴールまで約6分というスピードで戻ってきたマイキー・ライト。なかなか試合では見かけることのないですが、終始笑顔で本当にイベントを楽しんでいる様子でした。
7回の世界王者を誇るレイン・ビーチュリーもフレッシュウォーターボードライダーズのメンバーとして参加。ラフなコンディションの中で演技し、全力で走って戻ってきた時には大きな歓声が上がっていました。

 

 リスクを犯すというよりも、きっちり仕事をするという事が重要だが、最初の2人の演技を終えて、7点2本と5点2本では点数の差は歴然。1人のミスをみんなでカバーしたり、みんながうまくいかなくても1人の力で流れを変えるなど、個人戦では見られないチーム戦ならではの展開が多く見られました。

 また、1秒差でゴールに届かなかったり、1つのミスで敗退だったりと、大混戦の試合が続き、2日間のイベントは最初から最後までとても見応えのあるものとなりました。

 

 

 

 1秒差でゴールに間に合わず敗退してしまったスカボローボードライダーズのパワーサーファーを務めたニック・スクイアーズ。落胆の表情を隠しきれずに立ちすくんでいました。

また、今年初めに行われたワールドクラブチャレンジで優勝したノースナラビーンボードライダーズも、パワーサーファーのネーサン・ヘッジが2本乗ってしまいマイナス5ptでまさかの1回戦敗退となるなど、初日からたくさんのドラマが生まれる展開となりました。

 


 セミファイナルが始まる頃の会場には、どこを見回しても人の山。バーレーヘッズ全体が大きな熱気に包まれていました。過去に何度も優勝を誇るスナッパーロックスボードライダーズも子供から大人までメンバー総出でサポートに。身近に自分のヒーローがいて一緒になって戦える事は若い世代のサーファーにとってとても刺激のある事。41歳ながらキレキレのサーフィンをするスナッパーロックスボードライダーズのジョッシュ・カー。このようなレジェンドサーファーがチームにいるのは心強い。パワーサーファーとしてノースシェリーボードライダーズを引っ張っていたヒューイ・ヴォーン。最後の波で逆転するもギリギリゴールに間に合わず、ファイナル進出を逃してしまった。チームの顔となるパワーサーファーにはそれだけプレッシャーものしかかる。終了後もうずくまりしばらく動けなかった姿が印象的でした。  セミファイナルヒート2でチームが劣勢の中、3番手として9.13ポイントを出しファイナル進出に大きく貢献した、バイロンベイボードライダーズのレイハニ・ゾイック。若干12歳ながらこの大舞台での活躍は多くの人の目に映り、今年のABBのヒロインとなった。ファイナルに向かう代表メンバーをトンネルを作って送り出すノースエンドボードライダーズ。数多くあるクラブの中でも一番応援に熱が入ってい流ように感じました。 大混戦となったファイナルで、8.45ptのビッグスコアを叩き出したトーキーボードライダーズのタリー・ワイリー。チームはわずかに優勝に届かず2位の結果でしたが、ビクトリア州代表として高い実力を示した。 メレウェザーボードライダーズの1番手として8.5ptをスコアしたモーガン・シビリックだが、パワーサーファーとしてのラストライドではワイプアウトしてしまい逆転できず。 ニードポイントや残り時間などに加え、個人戦とはまた別のチーム代表の責任感というプレッシャーがあったのか、動きがとても硬くなっていたモーガン。残念な結果に終わってしまったが、ゴールラインではチームに暖かく迎え入れられ健闘を讃えられていました。優勝を飾ったノースショアボードライダーズ。フィニッシュラインでパワーサーファーを務めたアリスター・レジナートが帰ってきた時には、一般人もみんながもみくちゃになる騒ぎに。  飛び抜けたスコアは出ないながらも、時間配分、必要なスコアなど、まさにチーム全員が仕事をしたノースショアボードライダーズ。アリスター・レジナート、ソフィ・マクロックといったメンバーを中心に安定した試合をし見事2回目となるオーストラリア王者に輝いた。

 

 昨年同様、大盛り上がりとなった第12回のオーストラリアンボードライダーズバトル。今年もサーフィンの枠を超えたイベントとなり、会場にいた人やライブ中継を通して放送された映像によってたくさんの人の心に焼き付けられるイベントとなりました。

 今大会でも1番に感じたのは会場の一体感。運営側も選手も会場にいるチームメンバーや一般人さえも巻き込むように、みんなが大会を盛り上げているように感じました。

 

 

 イベントを支えるコメンテイターにはWSLでお馴染みのヴォーン・ブレイキー、ローラ・エネバー、ステイス・ガルブレイス・ジェス・スターリンといったメンバー。カメラの回ってない所でも、選手を含めたみんなと仲良く話したり写真を撮ったりと仕事としてだけではなくサーフィンイベントを心から楽しんでいるように感じました。

 

 

 丘全体を使っているリレー方式なので一般人が身近で感じられるという演出も素晴らしいし、みんな息切らしながらコメントしてる姿には躍動感も感じるし、何よりもライディングを待つ時間の飽きが来ない。

 

 

 

 実際に出場するメンバーは5名だが、クラブのプライドを賭けたこのイベントには子供から大人までチーム総出となって代表メンバーをサポートするメンバーの姿が。どのクラブもマイクロバスを借りたりするなどしてこのイベントに参加したりしていました。

 

 1つ1つのライディングに大きな歓声が起こり敵味方関係なく笑顔で話していて、純粋にいいライディングしたら拍手したり、勝った人負けた人関わらずこれはベストイベントだとコメントする人が多い。ファンイベントでありながら真剣勝負のこのチームイベントでは、互いをリスペクトするシーンがたくさん見られました。

 

 

 

 

ファイナル終了時に握手を交わすアリスターとモーガン。このような大舞台でサーフィンできるのは選手にとって最高な事。クラブ員は次は自分がと刺激になるし、キッズにとっても目指す目標が明確になる。こんな試合を組んでくれて選手は幸せだろうなと感じました。

 

 

 

セミファイナル以降のライブ中継は有料チャンネルでしか放送されていなかったがYouTubeでアップロードされました。新しい形のサーフィンのイベントを是非見てください。

 

 5月はまたWSL CT ゴールドコーストプロが、このバーレーヘッズで開催されます。すでに現地入りしているCT選手の姿も目撃しており、熱いサーフシーンが続きます。

 

 

菅野大典オーストラリアのゴールドコーストを拠点にして13年余り。サーフボード・クラフトマンとして働きながら、サーフィン修行のために来豪する日本のサーファーをサポート。写真や動画撮影のほか、昨年は大村奈央の試合に帯同、大会のジャッジやサーフコーチなどマルチに活動している。