シリーズ:ジェンダーを考える① 日本サーフィン連盟に初の女性理事が誕生。強化本部には間屋口香氏が選出

 

取材、写真 :山本貞彦

 

先月末の28日、NSA(日本サーフィン連盟)は、2021年度の定時社員総会において事業報告、決算報告等を行った。併せて理事など役員の改選も行なわれ、初めて女性理事が誕生することとなった。

 

選手から現役の大村奈央氏、現川崎支部長の佐藤正麗穂氏、アンチドーピング医科学委員会に所属しているスポーツ栄養士の松本恵氏の3人が、4月から2年の任期で理事として活動する。

 

前回13名だった理事は10名となり、その内、6名(酒井厚志氏、宗像富次郎氏、井本公文氏、関口嘉雄氏、清水雅裕氏、立山勝己氏)が留任。そして、新たにサーフィン大会でアンバサダーを務めていたオリンピアンの松田丈志氏が新任された。

 

これでNSAでの理事の割合は女性が30%となり、東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会の20%よりも上回る(その組織委員会も定数を増やした上で、女性理事を新任し割合を40%に増やす予定)。

 

さらに、今回、強化本部の国際委員会に間屋口香氏が入った。間屋口氏は2001年に全日本選手権大会で優勝。プロに転向後、2003年、05年、08年と3度のJPSAグランドチャンピオンを獲得。その後、フリーサーフィンをメインに現在も活躍している女性サーファーである。

 

WSLの国内大会、NSAの全日本やISAの世界選手権大会、さらにジャパンオープンでもMCを担当。現在の日本のサーフィンを現場で見ている一人でもある。コンペティター出身で、選手の立場をよく理解していることから、NSAにとって必要な人材として今回の委員会入りとなった。

 

彼女はフリーサーフィンだけでなく、近年はフリーダイビングやスノーボードなど国内だけでなく、世界を舞台にアクティブに活動を広げている。だから、組織に参加することについては、最初は悩んだと言う。

 

間屋口香

 

女性のインターナショナル・ジャッジとコーチの育成。

 

「2年前に一度、打診みたいなものはあったのですが、関東にいなかったし、自分は組織に向いていないというか、難しいかなとお断りしていたんです。でも、今回、改めてお声をかけていただき、自分のできること、できないことをお話しさせていただき、それでも構わないということで、お受けすることにしました。」

 

その国際委員会では、女性の立場からの意見と実務を行なってほしいと言われているそうで、ISAからの至上命令でもある女性ジャッジを増やすことが最初の任務となりそうだ。また、コーチングに関しても女性コーチの育成も急務だと言う。

 

「今、決まっている仕事の内容は、インターナショナルのジャッジとコーチの育成です。そこに女子を必ず入れたいと言われています。昨年末にISA主催の女性だけの「ジャッジプログラム」があって、世界中の女の人がZoomの会議で集まったんですね。

 

その内容がすごく良くて。34カ国から127人の女性が参加したそうで、私も含めて日本からは4人かな。NSAとしてもそのシステムを積極的に活用して、女性のジャッジを増やしていくというのが当面の目標です。」

 

 

 

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ジェンダー平等を推進するにはその当事者である女性の進出は不可欠だ。参加することで、新たに女性の意見が取り入れられ、今までの不利益は減る。今期、NSAで理事に女性が登用されたことは、大いに評価すべきだと語る。

 

 

「女性の理事が入ったことは最高です。人数については、まず3人で良いと思います。役員という役職を今まで女性が関わってきていないので、数合わせで多くしても戸惑うと思うんですよね。仕事内容が把握できていないわけですから。だから、まずその3人が第一歩として、実務をこなして次に繋げらるようにすることが大事です。」

 

 

 

 

その理事の一人である大村奈央氏は現役プロサーファー。酒井理事長は大村氏の選手経験を活かし組織の中で活用していきたいと期待も大きい。現役アスリートとしての経験と知恵が選手育成に大きく役立つとも語る。

 

 

「奈央とも話したんですけど、奈央が理事になってやる仕事は、強化本部でジュニアの育成をメインに見ていくことになると思います。まだ選手として現役ですし、並行してやっていくこと考えると多くを望むのは難しいですから。今後の奈央の成長をサポートしていきながら、ゆくゆくは指導に回れるような体制を作っていければと思っています。」

 

 

 

 

私の名前がそこにあることで、みんなの選択肢が広がればと思ったんです。

 

 

世界で求められているジェンダー平等。NSAでもその一歩を踏み出したばかりだが、なぜ苦手としていた組織に入ることにしたのか。それは彼女が見て感じた男女の格差。日本では女性の仕事など活動の選択肢が少ないことを実感したからだ。

 

 

「NSAに参加したのは、まずは組織として本当に選手のために、選手ファーストでやってほしいと考えたからです。アマチュアの選手はそこしかないじゃないですか。そこから世界選手権の選手たちも選出して、プロになる子たちもいる。でも、そこしか無いんですよね。だから、まずはコンペティションの不均等を無くしたいんです。

 

そして、私が組織に入ることによって、後輩のプロでやっている子達の道が一つでも増えれば良いなって思っているんです。ジャッジを目指す女の子が出てきたり、そういう、役員、理事という仕事もあるよとか。

 

サーフコンテストの裏方とかも、たくさんあるじゃないですか。コンテストディレクターに女性がいても良いだろうし。そういう道が一つでも増える助けになれば。私の名前がそこにあることで、みんなの選択肢が広がればと思ったんです。」

 

 

先頭立って道を切り開いて行くんだという大袈裟なことではないけれど、自分がいることで、後輩の可能性を広げたいと語る。そこで、女性でも普通に仕事を選べるんだという、当たり前の世界を作りたいと彼女は考えている。

 

 

「今まで男性社会だから、プロサーファーだった女子がサーフショップのオーナーになるなんてあり得ないし、シェイパーになるのもあり得なかった。ヘッドジャッジになることなんかも無かった。でも、今、それがなくなってくる時代になろうとしているから、そこを目指す子が増えても良いと思うんですよね。もっと自分の可能性に気づいて欲しいんです。」

 

 

女性がいろいろなところに進出できるようにしたいと思っています。

 

 

選択肢を広げると同時に、女性もサーフィンを続けて欲しいと言う。プロサーファーを辞めて次にやることが無い、どうしようとなって、サーフィンを続けるのか、辞めるのかという選択しかないという考えにも疑問を呈す。

 

 

「もったい無いですよね。アスリートでずーっとやってきて。私はみんなサーフィンをやって欲しいんですよね。私の中ではあり得ない選択なんですけど、みんなその選択で悩んでいるのが残念すぎて。

 

サーフィンは続けて欲しいんですよね。もっといろんなことができるし、いろんなところに進めるんだって、もっと自由なんだと気づいて欲しいんです。そのために女性がいろいろなところに進出できるようにしたいと思っています。」

 

WSLの国内大会、NSAの全日本やISAの世界選手権大会、さらにジャパンオープンでもMCを担当。現在の日本のサーフィンを現場で見ている一人でもある間屋口香。水野亜彩子、脇田貴之と

 

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先月の31日、WEF(世界経済フォーラム)から「ジェンダーギャップ指数」の最新ランキングが発表された。2020年の日本の順位は156ヶ国中、120位という結果。前年121位であり、一つ順位を上げたものの、この格差はなかなか埋まらない。

 

SDGs(持続可能な開発目標)にも掲げられている「ジェンダー平等」。サーフィン界ではWSL(ワールドサーフリーグ)がこの問題に早くから取り組み、CT(チャンピオンツアー)選手の賞金を男女同額にして待遇を改善。また、今年からツアーマネージャーにジェシー・マイリー・ダイアーが就任するなど女子が活躍できる体制になっている。

 

また、ISA(インターナショナルサーフィンアソシエーション)では参加選手の数だけでなく、役員もジェンダー平等になることに目標掲げている。その一つが女性ジャッジを増やす活動。「ISA WOMEN’S JUDGING PROGRAM」というジャッジトレーニングをオンラインで開催し、組織的に女性をバックアップしてジャッジ育成に力を入れている。

 

日本でも組織は女性にも門戸は開いていたのかもしれない。でも、誰もそこを目指す女性がいなかったのはなぜか。それは社会やサーフィンが男性中心だったから。男性が物事を全て決めていたから、女性が目指すことは少なかったし、入る余地もなかった。

 

男性中心に社会が構築され、それが常識となることで、無意識のうちに女性への偏見が生まれた。世にある「こうあるべき」論の類いもそうだろう。生まれる前から生きていく為の経済活動自体が男性中心なのだから、そこに合わさざるおえなかったのだ。

 

ジェンダーの平等は、まずは男の方からの意識改革が必要だ。今の社会は男性優位の中で作られた社会体制であることをまず知ること。そして、生物学的な性別でものを考えるのではなく、社会的に作られる性別を理解して、男女の役割が平等になる環境を作ること。それはまず男性から始めなくてはいけない。

 

 

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間屋口 香(マヤグチ カオリ)

中学、高校はハワイのマウイ島・オアフ島で過ごしサーフィンの腕を磨く。16歳で帰国後、18歳で全日本タイトルを獲得し、20歳でJPSAプロツアーチャンピオンとなり、計3回のツアーチャンピオンとなる。WSLのQS6スターにて5位の自己最高記録保持。2010年に25歳でコンペシーンから引退。現在は国内外の様々なスポットに出向きグローバルに動く。執筆やコンテストでの解説やビーチアナウンサーでも活動。

 

ニックネーム:カオリン
生年月日:1983年4月22日
出身地:京都府舞鶴市
今の住居:徳島県海部郡
身長:158cm
体重:52kg
スタンス:ナチュラル
スポンサ-:Roxy, SnipeSports, HLNA, Reef, Kosmic market
板サイズ:5’8, 17″ 3/4, 2″
練習場所:四国
好きな波:河口
好きなマニューバー:ダウンザライン
影響を受けた人、物は?:ハワイアン&四国ローカルのリズム