文:山本貞彦
5月25日に政府は残っていた東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県と北海道の緊急事態宣言の解除を発表。この全国の解除に合わせて新型コロナウイルスへの「基本的対処方針」も改定し、経済活動を段階的に再開する指針を出した。ただし、次なる感染拡大の恐れは常にあるとし、再び流行が始まればこの宣言を発令するとの考えも示した。
今後は約3週間ごとに状況を調べ、外出やイベントなどの開催制限の緩和を進めていき、8月1日を目処に全面再開するとされている。プロ野球は無観客となるものの6月19日に開幕となり、他のスポーツもこの流れで対策を施した上で、収容人数の条件はあるものの段階的に開催することができるようになる。
NSA(日本サーフィン連盟)はこの政府の発表を受け、サーフィンは健康維持に適したスポーツであり、野外で行うことで3密に値しないと改めて解説。しかし、海への移動やサーフィンする前後の集まりなどに感染リスクがあるとし「サーフィンのルール」を発表した。
これは誰もが安全にサーフィンができるように、新しい生活様式の実践例を挙げ、新型コロナウイルス感染回避に取り組むことを提案したものだ。また、今後も政府、都道府県、市町村からの発表や指示を守ること。そして、サーフポイントの状況がそれぞれ違う為、地元地域から出されるルールに従うことも併せて付け加えた。
また、大会やイベントの開催については政府発表の段階的緩和の目安を確認の上、開催地の都道府県、市町村の指示に従いながら、 感染防止を前提とした新しいサーフイベントの基本ガイドラインを今後、発表するとした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「新しい生活様式」を基礎とした、安全にサーフィンを続けるための環境作り
全国、自粛一色となった約1ヶ月半。NSAの各支部や地元のローカルが中心となり、行政や地元住民との取り組みで海の秩序は保たれた。プロサーファーが一般サーファーへ向けてメッセージを送り、サーファー自らが自粛という形を世間に示したことで、一定の評価を得ることができたと思う。
テレ朝news「サーファーも我慢を・・・」千葉の“聖地”も閉鎖(20/04/10)
しかし、当初、海に浮かぶ映像で自粛しない人の代表としてマスコミに取り上げられたことで、一般の人のイメージは良くないものになったことは否めない。一部の媒体では解除明けの海を取材し、自粛を行ってきたサーファーを好意的に取り上げてくれたものの、この悪いイメージは簡単に払拭されるものではない。
実際、他県から来たサーファーと地元の漁業組合のトラブルなども発生し、サーフィンが禁止となったサーフポイントもある。いくら全国で宣言が解除されたと言っても、コロナウィルスが消えたわけではなく、お年寄りが多い田舎では引き続き厳しい目で見られているのが現実だ。
テレ朝news「2カ月ぶりに波乗るサーファー笑顔も一部では閉鎖」(20/05/26)
今年の夏の海水浴についても神奈川県では、海の家の利用する場合、完全予約制にするよう要請することを決めた。海水浴場の運営ガイドライン案を作り、海水浴場では来場客に一定間隔を開けることや、ライフセーバーにはフェイスシールドやマスクなどの徹底を指示するとした。
こんな中、ガイドラインを守りながらの海水浴場の運営は困難として、湘南茅ヶ崎の「サザンビーチちがさき海水浴場」、大磯の「大磯海水浴場」は、今年度の海水浴場の開設中止と発表。これから海開きを控える各地域では苦悩の決断が待っている。
サーフィンは遊泳禁止区域で行うものではあるが、時間を区切って開放している海水浴場もあることで、海での過ごし方については行政のガイドラインに合わせる必要がある。各サーフポイントで地域ごとのガイドラインが作られているものの、ここでは調整も必要となるであろう。
しかし、海でのマナーやルールの徹底には行政だけでは限界がある。ならば、ここはローカルが中心となってそのポイントの保全を担当するのはどうだろうか。ビジターに対しての古い強権的なローカリズムではなく、NSAが提唱する「新しい生活様式」を基礎としたルール。そして、新たな枠組みを地域ごとに作り、サーファー一丸となることで、安全にサーフィンを続けることができる環境を作れるのではないだろうか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
プロサーファーたちの新しい動き。次々とYouTubeチャンネルをスタート。
この自粛期間中、プロサーファーやコンペティターはどうしていたか。家にいる時間が増えたことで、トレーニングや近況報告などをSNSで発信する者が多かったが、その中でも今のネット社会の代表でもあるYouTubeに大きく踏み出したプロもいた。
コロナ以前から活動場所をYouTubeに求めた粂兄弟(兄 悠平、弟 浩平)の「Channel KumeBro’s」 や、大橋海人の「Oceanpeople by kaitoohashi」 、野呂海利、野呂玲花、安井拓海、金尾玲生の「SURFERS」があり、プロサーファーならではの視点で動画を公開。
最近では村田嵐の「アラシムラタ」 、軽部太氣の「かるたいTV」、鈴木仁の「Jin Suzuki プロサーファー鈴木仁」 、上山キアヌ久里朱は「KEANU/キアヌ」をスタート。飛田剛は「プロサーファー&大洗港漁師『飛田剛のユーチューブチャンネル』《FlyboyLifeVlog》」を今年から始めている。
ハウツーものでは現役ながらコーチも行う河村海沙の「プロサーファー河村海沙」、クリエイターでありコーチングの資格も持つ和光大の「和光大」 など、わかりやすい解説が高評価を得ている。
そして、オンラインでの講師を始めた須田那月は「パーソナル・オンライン・サーフィンレッスン」 LINE検索ID : @ 375kgksi で男女問わず、個人に寄り添ったレッスンを始め、Yahoo ! JAPAN クリエイターズプログラムに在籍している山中海輝は「KAIKI YMAMNAKA ONLINESALON」を開講。
堀越力はサーフィンとSUPのスクール「RIKI SCHOOL」 を今年から始めているし、同じくサーフスクールを開講していた川畑友吾はプロサーファー、動画クリエイター、ライター、モデル、シンガーなどの友人と共に「Yugo’s Online Surf School」を開設と新しい動きは止まらない。
JPSAの選手会長である田中英義はコンテンツを作れるメディアプラットフォームnote「Hideyoshi_surf_note」で、自分の考えを明確にするため、コロナのこと、自粛について書き記すことを始めた。
また、クラウドファンディングで舟橋(門井)大吾が代表となって、田中樹、稲葉玲王、大原洋人、村上舜、河谷佐助、佐藤魁、牛越峰統、浜瀬海、細川哲夫、高貫佑麻、大原沙莉と錚々たるメンバーがサーフィンの講師を務める「モバレク」というアプリを立ち上げた。
さらに田中樹は個人でサブスクリプション(月額定額)のサーフィン塾「IZUKI SURF CLUB」をスタートし、即日募集定員に達するという人気ぶりを示した。コロナ感染拡大で開校が一時危ぶまれたものの、国内の自粛で逆に注目を集める結果となった。
世の中の仕事がテレワークとなり、Zoomをはじめオンラインミーティングでリモート参加することも当たり前になった今、これが新しいプロの活動の一つになりつつあるのは間違いないだろう。プロとしての成績だけでなく、サーフィンを通じて自らがやりたいことに取り組んだ結果、新たな仕事の創出に繋がったのではないだろうか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
世界に通用する日本人プロを輩出するための新たな一歩を踏み出そう。
それでもこれはあくまでも活動の一つであって、プロサーファーの活躍の場所がコンペティションにあるのは万人の知るところ。その大会についてはこのまま収束に向かっていけば、大会開催も可能になるだろう。スポーツ観戦が希少となっている今、大会を開催することができれば、新たなファンを獲得することもできるかもしれない。
しかし、この自粛により経済活動は危機に瀕している。世界も同様だ。大会はスポンサーがあってできるものと考えれば、今後、通常通りに大会が開催されるかどうかは不確定だ。さらに再び感染の波が押し寄せ、緊急事態宣言が発令されたらどうなるか。大会は先延ばしとなり、誰も海に入れない状況になる事は想像に難くない。
また、世界を目指す選手にとっても各国が収束しない限り大会は難しく、たとえ開催されたとしても出入国の条件を満たさないと転戦もできないだろう。選手にとって非常に厳しい状況が続くことは想像できる。
今回、緊急事態宣言は解除されたが、これはあくまでも収束に向けた一過程だ。いつ再び感染が始まるかもしれない。そして、たとえ新型コロナウィルスが終息したとしても、今まで通りに戻ることは決してないだろう。新常態が普通となり、通常となってしまうことも想定しなくてはいけない。
アスリートの不安を取り除き、安心して練習できるシステム
だから、緊急事態宣言が再び出ることも予想して、協会が率先してコンペティター向けに練習場所を確保するプランを立ち上げられないだろうか。例えば、全国に支部があるNSA(日本サーフィン連盟)が各地域に住んでいる強化指定選手(プロ、アマ含む)に加え、その地域に居住のあるJPSA(日本プロサーフィン連盟)に所属する選手とも連携を取り、練習する場所、日程時間を調整して行うとしてはどうだろうか。
このようにすれば、そのサーフポイントではプロ、強化選手が公開練習していることがわかり、一般サーファーと分けることで誤解は解けるのではないだろうか。そして、これが地元の人の不安を解くと共に、一般人の「サーフィン=悪い」というイメージを解消することにも繋がるはずだ。
この自粛期間中にプロサーファー、コンペティターは自分ができることを見つけ、新たな一歩を踏み出した。目標やモチベーションを無くさない為に練習は欠かさず、さらに空いた時間で英語を勉強したり、本を読んだり、料理を覚えたりしている。また、新たにYouTubeを始めたり、オンラインでのレッスンも始めた。彼らは自分たちに今できることを全てやっている。
NSA(日本サーフィン連盟)の「新しい生活様式」は、一般を含む全てのサーファーに出したものだ。ここでは敢えてサーフィンを仕事としているプロやコンペティターに向けての施策を作る提案をしたい。協会は選手のためにあるはずだ。大事なのはアスリートサーファーの不安を取り除くこと。選手が後ろ指差されず、安心して練習ができるシステムを今、作っておくことも必要ではないだろうか。
再び感染拡大が始まったとしても、その限られた中でアスリートは自分の道を信じて日々鍛錬を怠らないだろう。しかし、個人ができることには限界がある。彼らに任せっきりではなく、協会もこの緊急事態宣言が解除されたタイミングで、新しい指針を出せないものだろうか。世界に通用する日本人プロサーファーを輩出したいのなら、国内の協会が一致協力し、コンペティターに向けた施策も打ち出して欲しいと願う。