パフォーマンス性と環境配慮を両立したファイヤーワイヤーの独自のテクノロジーに注目が集まっている。エシカルなマインドをもつケリー・スレーターが所有するブランドとして環境に配慮する姿勢を貫くなど、今後のサーフインダストリーが目指すべき指針も自らが率先して示している。
サーフメディアでは、そんなブランドのキーマンであるケリー、3モデル中2モデルをデザインしたシェイパーのダニエル・トムソン、そしてファイヤーワイヤー社の社長マーク・プライスにインタビューし、これからのサーフボードのあり方を探った。
パフォーマンス性と環境配慮を両立した
ファイヤーワイヤーの独自のテクノロジー
Interview & Text:Takashi Tomita
ファイヤーワイヤーのサーフボードのテクノロジーや構造について教えてください。
マーク・プライス(以下M):一般のサーフボードとの主な違いは、私たちのボードがEPSフォームとエポキシ・バイオレジンのみを使用しているところだろう。さらにはどのボードにもウッドのセンターストリンガーをまったく使用していない。ほかにも違いはあるが、これらが主な違いであり、私たちの特異性を物語るものだ。
私たちのサーフボードの基本的なコンセプトは、従来のボードとは違う方法でサーフボードのフレックス性を高めることにある。つまりフレックス性を最大限に高めるために、従来のボードと同じように機能するよう微妙に異なるテクノロジーを用いているんだ。
ファイヤーワイヤーではバイオレジンを使っていますが、これはほかの一般的なレジンとまったく違うものですか?
M:ほとんどの一般的なサーフボードはポリエステルレジンで作られている。バイオレジンはポリエステルレジンに比べるとはるかに毒性が低いのが特徴なんだ。カーボン・フットプリント(二酸化炭素排出量)も少ない。VOC(揮発性有機化合物)を調べると顕著だ。
エポキシレジン+EPSフォームのサーフボードはポリエステルレジン+ポリウレタンフォームのサーフボードに比べると、製造工程からサーフボードの寿命が終わるまでのすべての過程を通して、VOC排出量が50分の1で済むんだ。そのぶん環境はもちろん製造過程においても人体に与える悪影響が少ないということ。これはとても重要なことだと私たちは考えている。
ではSlater Designsの構造はどういうものですか?
M:私たちが提供している3つの異なるフレックス・テクノロジーのなかで、Slater DesignsのボードにはFST(Future Shapes Technology)とLFT(Linear Flex Technology)を採用している。FSTはファイヤーワイヤーのオリジナルのフレックス・テクノロジーで、過去10年の実積がある。
ボードの中にストリンガーが入っているのですよね?
M:そうだが、ただ通常のボードに入っている4mm程度のウッドのストリンガーとは全然違うものだ。私たちは従来のウッドストリンガーを幅18mmの宇宙航空合成物に置き換えた。人が一般的なボードと勘違いしないように私たちはこれを“スプリンガー”と呼んでいる。ウッドストリンガーよりもフレックスする特性を持っているものだ。
もともとウッドストリンガーがつけられた理由は、ボードに強度を与えるのとたわみすぎるのを防ぐためだった。しかし私たちはウッドストリンガーがサーフボードのフレックス性を減らしていると感じていた。そのためフレックス特性を高めるテクノロジーを開発してきたんだ。ボードはもっとイキイキしたものであるべきだからね。
フレックス性を通してパフォーマンスをより向上させているギアとしては、パラボリックスキーやスノーボード、スケートボードがある。柔軟性はパフォーマンスの特徴のひとつなんだ。サーフボードだけ違うという理由はないと私は思っている。とても軽量かつ浮力があり強度もある、そのうえでフレックス性を実現させている。かなり難易度の高い技術を擁しているんだ。
ボードビルダーの立場としてダニエルもこのフレックス性を高く評価しているのですよね?
ダニエル(以下D):シェイパーとしてサーファーとして個人的に僕がファイヤーワイヤーのフレックス・テクノロジーに感じるのは、しなりの一貫性だね。それは航空宇宙用複合材料ならではの一貫性なんだと思う。しなり方が毎回どのボードも同じなんだ。
ウッドのストリンガーの場合は木の種類や質によって強度と重量が変わってしまう。だからストリンガー毎にボードのフレックスは違うものになる。でもファイヤーワイヤーなら同じデザインのボードにもかかわらずウッドストリンガーの質に左右されてフレックスの仕方が変わってしまうなんてことはないんだ。そこがこのフレックス・テクノロジーの利点だと思う。
M:断面のサンプルを見るとスプリンガーがどんなに太いかわかるだろう。そしてフォームの芯材の上に吸着させているデッキスキンがすごく薄いのもわかる。厚さは1mm。しかも内部のフォームはすごく軽量。このデッキスキンが圧縮強度を与え、スプリンガーがフレックスさをコントロールする。オールドスクールのサーフボードよりもはるかに最新のテクノロジーで私たちがサーフボードを作っていることを理解してもらえると思う。
エキストラでボトム側にカーボンファイバーもつけていますね?
M:ケリーのボードにはボトムとデッキの両面につけている。それも工学的に考えられてのこと。理想的な硬さや強度を得るためには、通常やや重めにグラッシングしないといけないのだが、カーボンを使うことではるかに軽くグラッシングすることが可能となる。スプリンガーの最高のフレックス性も維持でき、高い強度とパフォーマンス性を併せ持つボードとなるんだ。