サーフボードのあるべき未来のカタチを創造する ケリーが示すSlater Designsという指針

 

Special Interview with Kelly Slater (Slater Designs)

 

8月にタヒチのビラボンプロで今シーズン初優勝を飾ったケリー・スレーター。40歳を過ぎてなおプロサーファーとして第一線でサーキットを回り結果を出すスーパースターである。近年は多方面で多岐にわたって独自のビジネスやプロジェクトを展開していることでも知られている。

サーフシーンにおいては、サーフボード・マニュファクチュアラーのファイヤーワイヤー社のオーナーでもある。そして今年、同社から満を持して自らのボードブランド「Slater Designs」を発表し、ケリー自身がデザイン開発に関わった3モデルをリリースした。タヒチでの勝利はそのSlater Designsで挑んだ今季ツアーでの初優勝でもあった。

 

そんなSlater Designsについて、ファイヤーワイヤー社の社長マーク・プライスと、3モデル中2モデルをデザインしたシェイパーのダニエル・トムソン、そしてSURFMEDIAの独占取材に応えてくれたオーナーのケリー本人の談話を交えて、その唯一無二のテクノロジーとデザイン、さらに気になる今後のブランド展開を探っていく。

 

 

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注目すべきケリー・スレーターの動向は、いまやコンペティションだけに留まらず、アパレルにウェイブプールにサーフボードと幅広い。しかしサーファーとして気になるのはやはりサーフボード、つまりSlater Designsについてだろう。いまケリーはコンペティターとして世界中のベストな波でサーフィンしながら、そのときどきの閃きやアイデアをデザインに落とし込み、自らが理想とするサーフボードを作ることができる立場にある。

 

サーフブランドやシェイパーが作るシグネチャー・モデルに乗らされるライダーではなく、彼はいま、長年の経験を活かし自身が主導してサーフボードのクオリティのすべてをコントロールするプロデューサーなのだ。とはいえSlater Designsのモデルを見る限り、その方向性がコンペティションに偏っていないこともよく分かる。ブランドオーナーとしてケリーは、SURFMEDIAの独占取材でSlater Designsの今後の展開についても語ってくれた。

 

 

ケリー自身がSlater Designsについて語る
デザインと今後の新たなモデルの展開

 


そもそもSlater Designsを始めようと思ったきっかけは何だったのですか?

 


ケリー(以下K):私はサーフボードのデザインが大好きなんだ。いろんな人たちとサーフボードの新しい方向性に取り組んでいるのをとても楽しんでいる。ファイヤーワイヤーを買収した時点で、ここで私独自のデザインを加えてボードを作ることは、とても意味があることだろうと思った。

 

それがボードデザインをさらに前進させるアプローチの一種だと考えている。つねに自分独自のものを求めながらね。自分のブランドSlater Designsが動き出したいま、私はそのすべてにとても満足しているよ。この満足感はさらに新しいデザインの方向性を他のシェイパーたちとも推し進めていこうと、私自身を奮い立たせるものだ。

 

 

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ダニエル・トムソンとシェアしたアイデアや、具体的にデザインにどのような要求をしたか教えてもらえますか?

 


K:主には私がシェイプに求める細かいことだね。具体的にはボード全体のボリュームかな。私はかねてからダニエルのもっている美意識の多くと彼自身がデザインしたサーフボードのパフォーマスの高さを気に入っていた。だから私の抱く基本的なデザインの方向性を彼のもつ素晴らしいデザインにブレンドしたいと思ったんだ。既存のサーフボードには見られない、オリジナルで特徴があるデザインにしたかったからね。

 

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Bananaモデルはグレッグ・ウェバーとのコラボですが、どういう意識でデザインをコラボしましたか?

 


K:グレッグが80年代後期~90年代初期に広めた彼のボードデザインを私は讃えたかったんだ。しかし実際にはそのデザインが本当の意味で輝いたのを一度も見たことがなかった。切れ目がないスムースなカーブのロッカーと増加したカーブは、ほかのボードでは対応できないような波にフィットするものだ。

 

すでに完成度の高いデザインだったので、グレッグと私は全体のボリュームとレールのシェイプを少しいじったくらい。コラボとはいえ、ほぼ全体のデザインはすべてグレッグのものだといえる。私はそれに乗り、より大きなステージでそのパフォーマンスを見せているだけなんだ。

 

 

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左からBanana、Sci-Fi、Omniの3モデル

 


ダニエルのSci-FiとOmniにグレッグのBananaと、Slater Designsのモデルは3つ。乗り手としてブランドオーナーとして、なぜこの3つのセレクションにしたのですか?

 


K:この3つのデザインはほとんどの波のコンディションをカバーし、十分対応しうるものなんだ。選択肢が多すぎてユーザーを惑わせたり負担をかけることはしたくなかった。それぞれのデザインが個性的で極めてはっきりとした役割があるので、むしろユーザーにとっては選びやすくなっていると思う。

 

 

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具体的にそれぞれのモデルに乗ったフィーリングや特性、気にいっている点などを教えてください。

 


K:まずBananaは、ボリュームとフォイルを調整しモダンに改良した。ロッカーが強めの復活モデルという感じかな。私がいままで経験したことがない波のセクションにフィットできるところが気に入っているよ。このボードを手に入れる前から、そのことしか考えていなかったんだけどね。

 


Sci-Fiは、もっともユニークな見た目だが実はもっとも乗りやすいモデル。ワイドめのテール幅にバットテールの組み合わせ、そして真ん中のチャンネル・ハル・デザインが機能し、ボードをよりリフトさせる。よくデザインされたスモールウェイブ・ボードで、回転性もすごくいいんだ。テールをルーズにもできるし、バイトさせることもできる。

 


Omniはまさにオールラウンド系のボードだろうね。どちらかというとコンディションの良い波で気持ちいいナイスなカーブを描くのに最適なボードデザインになっている。乗った人はみんな、あらゆるタイプの波でものすごく機能することに驚くと思うよ。そんなボードなんだ。

 


ファイヤーワイヤーのフレックス・テクノロジーについて、通常のボードと比べてフレックス性の違いやその他優れている点は何ですか?

 


K:ファイヤーワイヤーには異なる3つのフレックス・テクノロジーがあるが、そのうちの2つ、FST(FUTURE SHAPES TECHNOLOGY)とLFT(Linear Flex Technology)を私はSlater Designsに取り入れた。

 

まずファイヤーワイヤーのサーフボードに長年使われてきたフレックス・テクノロジーであるFSTをBananaに取り入れることが重要だと考えた。LFTはダニエルがもっとも気に入っているテクノロジーなので、彼とコラボしたSci-FiとOmniの2モデルにLFTを採用するのは理にかなっていた。感覚もトラディショナルなサーフボードに近いしね。

 


どちらのテクノロジーも、ウッドのセンター・ストリンガーを持つ一般的なボードに比べてフレックス性が増しているし、両方ともサンドイッチ構造なので従来のボードよりも軽量なだけでなくデッキの耐久性もさらに高くなっている。

 

こうした特性は私にとっても重要なことであった。さらにブランドとして持続可能性に対する責任の役割も大きいと感じている。有毒物質の使用を減らすだけでなく、長持ちするボードを作ることでその責任を果たしていきたい。

 

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日本の日常的な波で日本人サーファーが楽しむなら、どのモデルがオススメですか?

 


K:Sci-Fiだろうね。多くの面で日本人はテクノロジーと未来的なものを志向すると思う。このボードデザインはとても未来的に見えるし、実際にそういうサーフィン体験ができる。でも、もし良い波のデスティネーションへトリップするなら、ほかのモデルを検討するかもね。

 


今後のSlater Designsの構想や展開を教えてください。モデルはこれからも増えていくのでしょうか?

 


K:私たちは熟慮を重ね、まずはこの3つのモデルを厳選しマーケットに送り出した。3つのモデルに絞ったのは、大量のボードで市場を溢れさせるのではなく、ブランドとしてしっかりと経験を積み、そのうえで自然に成長をしたかったからだ。まじめに一歩ずつブランドを発展させ続けることが大事なんだ。だから2017年にはまた新たなモデルが1つか2つ加えられるだろうね。

 

さらに、すでに発表済みだがSlater Designsでは年内に藻類由来の素材を使用したトラクション・パッドやリーシュもリリースする(日本では10月中旬よりブラックのみ発売)。

 

とはいうものの、ファイヤーワイヤーとSlater Designsの目標はあくまでもサーフィンの世界における耐久消費財(1年以上永く継続的に使われるもの)のみにフォーカスし続けることであり、高いパフォーマンスを犠牲にすることなく、可能な限り毒性の少ない素材を使用し環境や人体に優しい製品を作ることに重点をおくことなんだ。

 

今シーズン初優勝のタヒチでのケリー Image: © WSL / Poullenot
今シーズン初優勝のタヒチでのケリー Image: © WSL / Poullenot

 


2016年のツアー中には自分のブランドのボードに乗っていますが、感触はどうですか?

 


K:最高、すごい気にっているよ! 実は私のなかで思い浮かんだデザインのアイデアがあって、それをシェイパーに頼んで作ってもらったんだ。ほぼ一年そのボードに乗っていて、そのデザインをかなり気に入っている。願わくば、これを次のモデルにしたいと考えているんだ。

 


最後に、Slater Designsに高い関心を持っている日本のサーファーにメッセージをいただけますか。

 


K:いつも私の行動や活動を支持してくれてありがとう! 本当に感謝している。近いうちに日本の海でみんなとSlater Designsのボードに乗って喜びをシェアできるのを、心から楽しみにしているよ!

 


ケリーが納得した新しいデザインや、今季ツアーのなかで得たインスピレーションをカタチにしたものが、次なるSlater Designsのモデルになることを今回のインタビューで彼は示唆した。

すでに市販されている3つのモデル以外に、ケリーがコンペティションにどんなボードで臨んでいるのか、どんなシェイパーとコラボするのかに今後は注目が集まることになるだろう。またエシカルなマインドをもつケリーらしくブランドとして環境に配慮する姿勢を貫くなど、今後のサーフインダストリーが目指すべき指針も自らが率先して示している。

いろんな意味でサーフボードのあるべき未来のカタチを創造しているともいえる。ケリー・スレーターは、サーフボードとサーフィンの未来的理想の実現をSlater Designsに託そうとしているのかもしれない。

 

 

Interview & Text:Takashi Tomita