「Rob Machado×Firewire」SPインタビュー ロブが世界に放った、渾身のボードデザイン

 

2月に横浜で行なわれた「インタースタイル」のために来日したロブ・マチャド。Firewireのブースで行なわれたサイン会イベントには文字どおり長蛇の列ができ、いまだその人気は衰えることを知らない。今回の来日の最大のミッションは、彼のデザインした2本のボードのお披露目だ。

ここ何年かシェイピングにも力を入れ、いわゆる最先端ハイパフォーマンス・ショートボードとは一線を画する、いかにも彼らしいスタイリッシュなサーフボードを削ってきたロブ。スラスターはもちろんのこと、ツインやクアッドやシングルフィン、ときにはミッドレングス・サイズのボードまで、そのデザインの引き出しはかなり多い。

そうしたデザインからは、シリアスさよりもサーフィン本来の魅力である“ファン”をシェアしたいというロブの想いが滲み出ている。彼は今回、その想いとコンセプトをFirewireのテクノロジーに込めた。自らがデザインした渾身の2本のボードを前に、ロブはそれらのデザインコンセプトや自らのシェイピングについて、さらにはいまのボードビルディングの現状や環境、彼自身のサーフボード観などを、余すところなく語ってくれた。

 

interview :Takashi Tomita

 

ロブのAlmond ButterとCreeperの2モデル photo:Mike Thomas

 

Firewireとボードを作ることは、完璧なコラボレーションなんだ

 

まずは、今回Firewireからリリースしたふたつのモデル、Almond ButterとCreeperについて主な特徴を聞かせて。


特徴は、何よりも扱いやすくて、とてもユーザーフレンドリーなボードであること。ハイパフォーマンスなアスリートのためにデザインされたものではないんだ。もちろん彼らも乗れるけど(笑)。スペシャルな波やコンテストで乗られているようなデザインではなく、むしろミディアムサイズの波でサーフィンすることが多い一般的なサーファーのためにデザインしいる。

 

ロッカーは抑えめで、少しボリュームをもたせ、乗りやすくしている。楽しいサーフボードだよ。そもそもサーフィンって楽しいもの。そうだろう? 海に行って悪戦苦闘して苦労すべきじゃない。そんなの楽しくないし、フラストレーションを感じるだけだろう。だから少しでも波をキャッチしやすくスピードが出やすいボードを作りたかった。なおかつマニューバー性もある。願わくば乗り手の楽しみを最大限に引き出せればいいなと思っている。


何度も来日しているから、日本の波は知っているよね。このボードは日本の波に向いていると思う?

 

もちろん日本の波にあっていると思う。これらのボードは僕の地元の波のタイプにあわせてデザインしてある。サンディエゴの自宅の前のカーディフの波は、とてもスローでパワーもあまりないんだ。そういうコンディションにあっている。それはとても日本に似ていると思うよ。実は今回も来日してすぐに平塚の海で乗ってみたんだ。すごく楽しかったよ。


桐のデッキスキンの感触はどう?


好きだよ。ちょっと硬めだけど悪くない。僕は慣れることに挑戦するのが好きなんだ(笑)。違うものを感じるっていいことだ。自分の可能性が広がるから。

 



デザイン的な特徴は?


僕のボードにはたくさんコンケーブをつけている。小さくてフラットな波でもスピードを得られて、揚力を生むようにね。みんなCreeperのこのテールのスクープ(凹んだ部分)について質問するけど、別に機能性はない(笑)。ただこの見た目が気に入っているんだ。テールをすごく薄くするのがクールだと思う。でも浮力が少ないということは、ボードをテールでターンさせるときにテールが沈みやすいというメリットもあるかも。

 



5フィンのセットアップになっているけど、どのセットアップがおすすめ?


僕はスリーフィン・セットアップで乗るのが好きだけど、乗り手にとって一番しっくりいくセットアップで乗ってほしいね。僕の周りにはいつも4フィンだけを乗っている人たちもいる。彼らは4フィンが大好き、信頼をおいているんだ。僕はまだ4フィンを理解するだけ十分に乗り込んではいないから、個人的についついスリーフィンに乗っちゃうけど、友だちが4フィンのほうが調子がいいと言っていたので、僕も少し4フィンを真剣に試そうかと思っている。

 

アーモンドバターで美しいカーブを描くロブ photo:Mike Thomas

 


Almond Butterの名前の由来は?


アーモンド・バターが大好きだから。すごくおいしい(笑)。毎日食べている。サーフボードに名前をつけるってすごく難しい。「なんて呼びたい?」って聞かれても、「んー、わかんないよ」って感じ。これをデザインしたときは、ノーズがアーモンドの形みたいだったし、テールは四角いバターのようだった。それがこの最高の名前を思いついた理由じゃないかな(笑)。アーモンド・バターは僕の大好物だし。


スムースとかスイートとかそんな隠喩もあったりする?


まさにそれ。アーモンドバターからもたらされるいろんなことすべて。とても風味がある。僕を笑顔にしてくれる。気分よくしてくれる。


もう一本のCreeperは、70年代からインスピレーションを得たボードだと聞いたけど。


古いバンを2台持っているんだけど、1台は1973年製のダッジのキャンパーバンで実は妻のもの。もう1台が僕の1977年製のダッジ。これをベージュっぽい色にスプレー塗装したら、みんなに“クリーパー(気味の悪いヤツ)”って呼ばれるようになった。ちょっと見た目が不気味なんだよね。そこから命名したんだ。

 

ラウンドテールとラウンドノーズ。クリーパー。この車がクリーパーだそうだ。photo:Mike Thomas

 


70年代からインスピレーションを受けたというのは、バンから?


そう、70年代のバンから(笑)。でも70年代は多くのボードがローロッカーだった。これはたしかに70年代風のアウトラインかな。スムースなラインにしたかった。いい感じのラウンドテールとラウンドノーズ。クリーンでシンプル。でも、ボトムコントゥアもレールもとても現代的にしてあるよ。


すこし丸みがあってエッグっぽい。シングルフィンでも乗れそうに見える。


そのとおり。実は一番最初にCreeperをデザインしたときは7’6″のシングルフィンだったんだ。カーディフリーフの小さい日のすごくマッシーな波にあうように作った。かなりローロッカーで、スキップ・フライのグライダー・ボードから影響を受けている感じかな。僕はしばらくそれに乗っていたんだけど、同じデザインで5’6″にしてみたらどんな感じだろうって想像してみた。それで5’6″に縮小してみたらすごく機能して楽しかったんだ。そこからボトムのデザインを改良し、もう少し機能的にした。基本的なアイデアはそうやって生まれた。


Creeperのフィンセットアップに関してはどう?


CreeperもAlmond Butterと同じ感じで、僕はスラスターで乗っている。最初の7’6″でスタートしたときはずっとシングルフィンで乗っていた。ミッドレングス・シングルフィンだね。いまは小さくしたからスラスターにしたけど、2本だけカスタムで小さいサイズのシングルフィンを作ったよ。いまそのフィードバックを待っているところ。

 



ロブはシングルフィン好きだよね?


もちろんシングルフィンは好きだよ。ジェリー・ロベスからインスピレーションを得たミニガンっぽいスワローテール・シングルフィンとかも削っているよ。ワイドポイントが少しノーズよりにあってスリークな感じのシングルフィン。すごく70年代っぽい。


今回はFirewireからプロダクションボードとして2つのモデルを作った。プロダクションボードを作る難しさはあった? ひとたびモデルを作ったら、自分ではもうデザインを変えられないでしょ。


そういう意味では難しかったよ。でもね、最初にまずハンドクラフトの美しいボードをマスターとして作り、それをFirewireに渡すんだけど、しばらく後にFirewireのボードとなってサンプルが返ってきたとき、僕はすごく感心した。すべてのディテールをチェックしたけど、その完璧なボードの出来上がりには大満足したよ。しかも現在もっとも環境に優しいボードを作っているFirewireとの仕事なので、ものすごく充足感もあった。製品としてこのボードが発表され、いまはこれに人びとが乗ってくれる機会を得たことにすごくワクワクしてる。

 

ファイヤーワイヤー

 


この2つのモデルに絞るまでにいろんなタイプのボードをデザインした?


そうだね。たぶん4~5タイプくらいかな。そんななかで、ここ2年間この2本が僕のなかではベストであり続けた。さらにいいボードにしようとして改良を加え、ここに行き着いたって感じ。この2本は僕がFirewireと協力をしてスタートを切るのにいいデザインだったと思う。僕のボードが業界に向けて発表される最良のデザインだともいえる。


両方とも一般のサーファー向きということも意識した?


そう、両方ともプロサーファーじゃなくて、普通のレベルのサーファーが楽しめるデザインにしたというのがミソだね。これらのデザイン・アイデアはすでにあったものだし、僕がずっと取り組んできたもの。だから仕事はとてもシンプルだった。ひとたびFirewireと一緒に仕事をすることが決まったら、急いで新しいものを作るんじゃなくて、自分が長年時間をかけて作り気に入っているこれらのデザインを、自信を持って提案できた。


シェイピングよりデザインをするのが好きなのかな?


いや、シェイピングも大好き。ただ僕はフルタイムでシェイピングをしていないだけ。毎日シェイプルームにこもって20本のボードをシェイピングすることはできない。まだまだサーフィンしたいし、たくさんトリップもしているし、他にもしたいことがいっぱいあるんだ。だからモデルをデザインしFirewireと一緒に仕事をするということは、実に理にかなっている。ボードデザインに取り組んで、少量のボードをシェイプし、本当に良いと思ったものを彼らに渡す。完璧なコラボレーションなのさ。

 

 


シェイプもサーフィンも、満足することなく、つねに創造的でありたい

 

 

ところで、以前インタビューしたときに、アル・メリックのシェイピングから多くを学んだと言っていたけど、いま彼以外にシェイピングについて話している人や影響を受けている人はいる?


もちろん、たくさんいるよ。いま、サーフシーンにはいろんなデザインを実験しているシェイパーがものすごくたくさんいる。たとえばダニエル・トムソン。彼はFirewireとも良い関係で仕事をしている。僕は彼のシェイプルームに行き、彼のやっていることを見て一緒に過ごすのが好きだな。彼が取り組んでいるデザインはつねに先進的で、唯一無二の特別なものだと思う。彼がカリフォルニアにいるときは、よく一緒にサーフィンもしてる。

 


 

あとはライアン・バーチのような若いシェイパーからも刺激を受けているね。ジョエル・チューダーのボードもいつもチェックしているよ。彼のは少しオールドスクールな感じだけど、かなりインスピレーションを得ている。それとライアン・ラブレースもつねに気になるシェイパーのひとりだね。いろんな人がいろんなことをエクスペリメントしているのを見るのって最高。シェイパーごとにデザインが違うし、ボードはどれも個性的。ひとつのデザインだけじゃなく、多様化している。それって良いことだよ。僕にもたくさんのインスピレーションをもたらしてくれる。いまの時代のこの実験的な世界にいられて最高だと思っている。

 

そうしたシェイパーたちとアイデアをシェアしたりコラボしてみたい?


うん。きっと楽しいと思う。あと、年上のシェイパーたちの多くが僕のことを支援してくれている。たとえば、トム・エバリー。彼はライトニング・ボルトでも削っていたレジェンド・シェイパーで、僕の地元のローカル・クラフツマンでもある。トムはある日「おいロブ、一緒にボードをシェイプしよう。私のシェイプの仕方を君に見せたい」って言ってきたんだ。僕が頼んだわけじゃないのに。僕は感激したよ。

 

トムはふたりで互いにボードをシェイプしあうことを僕に提案してきたんだ。最近言われたばかりで、実際にはまだやっていないけど。さらに「テンプレートを借りたかったら言ってくれ。必要なものは何でもあげるよ」と言ってくれている。こういう姿勢が、とても大事だって思った。テンプレートやデザインやテクニックを自分だけの秘密にするんじゃなくて、僕みたいな年下の世代にもシェアしてくれる。

 

 



テンプレートは簡単に人には渡さないものなのでは?


テンプレートはいわゆるアウトライン。アウトラインは重要だけど、サーフボードにはアウトラインだけではなく、もっとたくさんのエレメントが入っている。いかにそのアウトラインをロッカーやレールと合わせてひとつのサーフボードに仕上げるか。つまりフォイルがもっとも重要。シェイピングは簡単ではないんだ。でもトムと一緒にシェイプできたら、そのフォイルの仕方も学ぶことができる。


デザインをシェアし、伝承しようとしているのかな?


いまは多くの若い子たちがボードをシェイピングしているけど、お互いに影響を受けあっているし、みんなで経験をシェアしあっている。もし僕がライアン・バーチみたいな左右非対称のボードを作ったとしても、彼が僕に怒るとは思えない。僕は正直にライアンみたいなボードを作りたいから作ってみたって彼に言うよ。誰かが僕にそう言ってくれたら、僕は嬉しい。影響しあうってそういうことだから。

 

ロブのサーフボードは一般サーファーに向けたボードコンセプト photo:Mike Thomas

 

 

作ったとしてもそれはコピーじゃない。シェイパー一人ひとり個性があるからまったく同じにはならないし、たぶん僕のバージョンの左右非対称になるだろう。誰もが少なからず自分流に作る。それがまた影響や刺激を与えあうんだ。こうしたシェイパー同士の交流はクールだと思うし大切。「私のものだから真似をするな」って言うのはナンセンス。みんながお互いを支えてデザインが発展していくんだ。そういう意味でサーフボード・ビルディングにとっていまは、とても良い時代だと思う。

 


自分でシェイピングを始めて、他のサーファーやシェイパーとの関係や理解が深まった?


間違いなく変わったね。さっきも言ったけど、みんなでサポートし合って、いつもいろんなアイデアやデザインについて話しあっている。ふだん一緒にサーフィンしている友人のサーファーたちとは、それぞれがテストしたり学んだりしたものを見せあうだけでも最高に楽しい。ビーチのパーキングにいると誰かしら新しいボードを持っている。「僕の新しいボードをチェックしてみて」とか「これ、出来上がったばかりなんだ」とか。で、みんなでボードをチェックしては「おお、すごいじゃん」って感じ。

 

海のなかでもつねに「僕のボード試してみて」ってボードを交換してシェアしている。そんな感じで僕の周りには、つねにたくさんのインスピレーションが溢れているんだ。違う感覚を得られるのは楽しい。みんなサーフィンの仕方は違うし、デザインの考え方も違う。ある人にとっては最高なボードも、他の人にとっては最悪かも。僕はそういう交流のなかから、あらゆる違うフィーリングを感じて学ぼうとするのが好き。

 

異なるデザインのボードはあっても、実際にはひどいサーフボードってないと思うんだ。単に乗るサーファーがそのボードの乗り方を学びたいかどうかだけ。そう思わない? 乗り方を体得するのに時間をかけてちゃんと乗りこなせるようになれば、そのボードは楽しいものになる。だから、ひどいサーフボードなんてものは世の中に存在しない。それが僕の持論さ。サーフボードやデザインをそういうふうに捉えようと思っている。


オープンマインドだね。


そのとおり。僕は固定観念に縛られたくない。今朝、良い引用文を読んだんだ。『快適さは創造性を死に至らしめる。慣れすぎるな!』。そのとおりだって思った。僕は何ごとにも満足したくないし、安易に落ち着くのは嫌なんだ。シェイプルームでブランクスと向き合ったとき、デザインを変えるアイデアが何もなくなっていたら、その時点で終わり。インスピレーションの枯渇。

 

サーフボードを手に入れ、それに乗って素晴らしいと思ったら、僕はこのボードをさらにもっと素晴らしく作れないものかっていつも思うよ。絶対に現状に満足しないんだ。「ホワイト・ストライプ」というバンドのジャック・ホワイトが映画のなかで言ったセリフに「もし満足してしまったら、死んだようなものだ」っていうのがある。同感だね。

 



向上心とかチャレンジ精神とかだね?


そうそう、それって人間として自然に内に秘めているものだと思う。もっとよくなりたいと自分を駆り立てるような思いは誰もが持っているもの。あるときケリー・スレーターと一緒にインタビューを受けたことがあるんだけど、インタビュアーがケリーに「あなたはどうしてそんなに競争心が強いのか?」と質問したんだ。ケリーは「もっとサーフィンがうまくなりたいだけだよ。日々もっともっと上達したいと思っている」って答えた。

 

そして彼はそこにいる人みんなに聞いた。「誰か自分がやっていることが下手になりたい人はいる?」って。もし君が何かやっているなら、間違いなく君の目標はつねに上達することだろう、と。僕もそう思うよ。どんどんうまくなりたい。下手になりたい人なんていない。目標は絶えず向上することだろう。もっとうまくサーフィンしたい、もっと良いサーフボードを作りたい、そしてもっと良い人になりたい。それが人間だって思う。


いまは良いサーフボードを作るべく、新しいデザインを開発中なのかな?


そうだね。新しいデザインもすでに数カ月前から考え始めているんだ。Firewireのためのデザインをね。今後もAlmond ButterとCreeperに続くさらなるボードをラインナップに加えていこうと思っている。良いボードを作り続け、成長し続け、みんなにシェアしたい。さっきも言ったけど、ある意味これは自然なプロセスなんだよ。

 

 

取材協力:ファイヤーワイヤージャパン