マヒナ前田のインタビュー。ジャパニーズハワイアンとしての生き方

一昨年にISA、WSLのジュニアタイトルを獲り、昨年はクォリファイにあと一歩と迫ったマヒナ前田。まだ弱冠18歳だ。ハワイで生まれ、ハワイで育ったが、純然たる日本人でもある。そんな彼女にハワイの事、日本の事、コンペティションの話を聞いた。

 

interview & photo :  sadahiko yamamoto

 

自信過剰でした。変な自信が自分のサーフィンを変えていたのかもしれません。


2014年度はISA、WSLでチャンプを獲り、2015年初戦QSの中国では優勝というグッドスタートでした。その後、一進一退でワールドランキングは11位という結果で終了しました。昨年を振り返ってみて、どんなシーズンでしたか?

 

そうですね。一言で言うとアップンダウンの一年でした。最初の大会で優勝したから、イケルと思ってしまって。波に乗りさえすれば、勝てると考えていました。オーバーコンフィデンス(Over-confidence=自信過剰)ですね。マインドはやれると思っていたのですが、チャレンジャーじゃなくなっていました。変な自信が自分のサーフィンを変えていたのかもしれません。

 

 

生まれ育ったハワイで自分のスタイルを磨くマヒナ

 

 

 

CTに入ることをメイクしたかったけれど、今、考えると逆に良かったなと思っています。自分のサーフィンのレベルは、まだQSのままだから。それに18歳だし、これからやらなきゃいけないことは、たくさんあると自覚しました。今のCT選手は19 、20歳で入っているので、そこまでに自分のスキルと経験値をもっとレベルアップして、再度挑戦したいと思っています。

 

昨年はQSを一年フルに廻ったのは、初めてでした。一年を通して、どのモデル、板を使えるのかというエキップメントのこと。フィジカル面では体調含めどう整えたら良いか、いろいろ経験することができました。改めて何か忘れていることはないかなど。初心に戻れたシーズンだったと思います。



彼女のサンセットの自宅には多くのトロフィーが並ぶ

 

 

昨年、大会を廻ったところは初めての場所が多かったですか?初めての場所ではどう試合に臨んだのですか?

 

今まで行ったところは8戦目のカボ、10戦目のカリフォルニアのオーシャンサイド、13戦目のスペイン以外は初でした。新しい場所で、毎日、コンディションも違うわけですから、自分の場合、既成概念はなるべく持たないようにしていました。当たり前ですけど、いつもと違うのだと、最初から「違う」という気持ちで臨みました。だから、一から学ぶ感じです。

 

自分は大会前にとりあえずって、サーフィンをするのはあまり好きじゃないんです。だから、見ている方が多いかもしれません。あと友人からいろいろ聞いて、自分なりにフィードバックして。イメージトレーニングが多いと思います。

 

 

いつもライバルである親友たちと切磋琢磨しサーフィンスキルを磨く

 

 

 

では、トレーニングについて。どんなトレーニングやっているのですか?

 

今はカへア・ハートのところで、ジムトレーニングをやっています。主にサーキット・トレーニングの混合でクロスフィットと言います。コアを鍛えたり、コンディションを整えるプログラムで、パワー、スピードをつける筋力アップに加え、持久力をつけることもします。で、たまにボクシングも入れて。ボクシングはパドルみたいなものなのですけど、ファイティングスピリッツを植え付けるものだそうです。マシンは使いません。使える筋肉を作るメニューでできています。

 

子供の時からやっているので、カへアとやるのがやりやすいですね。もう12歳の時からですから、長いですね。最初は「ノースショアサーフクリニック」というのをやっていて。そこはサーフィンがメインなのですけど、フィジカルの方ができていなかったので、そこを辞めてカヘアのところへ行くようになりました。

 

 

サイズのある波でも際どいセクションで板を切り返す

 

 

サーフィンやっていなかったら、ドクターになりたいと思っていました。

 

 

WCTを目指すことで、何か新しいアプローチとかありますか?

 

特には無いですけど、これからはメンタルトレーニングです。メンタルは大切なので。今、父やクリス・ギャラガーと相談していて。そこの強化をしていかないといけないなと話しています。あと身体を柔らかくするためのヨガですね。メンテナンス含めて役に立つので。でも、これから学校もあって勉強が忙しくなるから、時間が欲しいですね。

 

数学が好きだと聞きましたけど、勉強は何が得意なのですか?

 

サーフィンやっていなかったら、ドクターになりたいと思っていました。ドクターかフィジカルセラピスト(Physical Therapist=身体の怪我などを負った患者回復させるために手助けをする療法士)。2歳上の姉(カエナ)は今、大学2年生で「PT」を目指しているんですよ。あと家の設計をする設計士(Architect=建築家)にもなりたいって思っています。

 

 

 


プロサーファーはライフスタイルだと思います。

 

 

でも、今はプロサーファーですよね。プロスポーツの中でサーフィンを選んだ理由は? そのプロサーファーっていう職業はどんなものだと思いますか?

 

小さい時から海で遊んでいたから。サーフィンがすごく気になっていました。海のことが大好きで、自然とサーフィンにするようになったんです。でも、はじめの頃はただ遊んでいただけですけど。あまり恐怖心とかなくて、みんなまっすぐ滑っていたけど、自分はレール入れて横に滑っていました。波に力が無いから、横に行くと波が無くなって、ロングライディングはできないですけど。

 

それで、メネフネの大会に出るチャンスがあって、小学校1年生から出たんですけど、最初は勝てなくて、とても悲しかったです。それで、もう一度サーフィンをじっくり見ることに集中しました。サーフィンを理解したくての「観察」です。それで、自分なりに理解することができて。体力もついてきたから、3、4年生、そして6年生で優勝できました。その後もハワイ州のチャンピオン、全米タイトルも獲ることができて。コンテストが楽しくなりました。サーフィンでやっていこうと思い始めたのはその頃からですね。

 

プロサーファーはライフスタイルだと思います。コンテストに出て、ゼッケンつけたら試合のことを考える。でも、サーフィンというのはコンテストが全てではないです。フリーサーファーとかもいますよね。こんなスポーツは、他にはないと思います。プロサーファーはコンペが基本だけれども、それだけではありません。どんな形で自分を表現するか、フリーダム、自由です。ライフスタイルになり得るスポーツだからこそ、プロとして憧れも持っています。

 

 

尊敬する、影響を受けた人物を教えて下さい。


ミック・ファニングですね。ミックの人柄がすごく好きです。ASP(現WSL)のバンケットで表彰式の時、ジュニアの選手に対してお祝いの言葉を最初に述べたのはミックだけでした。心配りができる、誰にでもリスペクトできる人なのです。私もこういう人になりたいと思います。

 

今年のWJCはハワイ代表でディフェンディング・チャンピオンとして出場

 

 

ハワイとアメリカと日本人のミックスがちょうど良いって思います。

 


さて、マヒナはハワイ生まれでアメリカ人ですけど、日本人でもある。自分のアイデンティティはどこにあると思いますか?

 

うーん、敢えて言うならジャパニーズハワイアンでしょうか。プライドは完全にハワイアンよりです。17年もハワイで暮らしているので。自分は今の環境を気に入っています。ハワイとアメリカと日本、それぞれの良いとこ、悪いとこ全部知っているから。

 

アメリカはアグレッシブ(aggressive=積極的な)で、押しが強いですよね。日本はハンブル(Humble=控えめな)で、出しゃばりじゃない。ハワイはアメリカとも違うのかなって。ハワイはいつもリスペクトでアロハの気持ち。だから、ハワイとアメリカと日本人のミックスがちょうど良いって思います。世界に出て行くためには、私はジャパニーズハワイアンがベストだと思っています。


 

サンセットの自宅には家族の写真などが飾られている

 

サポートしてくれたみんながとても大切です。

 

自分にとって大切なものは何ですか?

 

家族、友人です。ここまでやって来られたのはみんなのおかげ。だから、サポートしてくれたみんながとても大切です。だから、これは広い意味でのファミリーと考えています。どこにいても、家族、友人が自分を守り、奮い立たせてくれる。いつも感謝でいっぱいです。

 

ここで2020年東京オリンピックについて。サーフィン競技が正式に決まったとします。国籍問題やアメリカ代表経験があることで、クリアする課題はいろいろあると思いますが、日本代表として出場可能となり、もし、日本代表になって欲しいとオファーがあったら、どうしますか?

 

それはぜひ出てみたいです!でも、出るのは難しいかもしれません。WSLにはルールがあって、CTの選手は他の試合に出られないという決まりがあるんです。でも、そんなことよりも今は、先にCTにクォリファイするのが一番の目標です。オリンピック候補とかを期待するより、今、自分がやらなきゃいけないことをまず率先していきたいと思っています。

 


 

友達とプッシュしあうこと。ライバルが必要なのだと思います。

 

では、話題を変えて。日本のサーフィンを客観的に見て、こうしたらもっと上手くなるよというアドバイスがあれば教えてください?特に女子について。日本にも女子のサーファーがたくさんいます。どうしたらプッシュできると思いますか?

 

サーフィンに対してコンシステンシー(consistency=一貫性)の気持ちだと思います。もっと「続ける」ことが大事です。だから、気持ちを強く持つこと。

それには友達とプッシュしあうこと。ライバルが必要なのだと思います。だからこそ、友達を選ぶことが重要です。

 

自分には小さい時から、タチアナ(Tatiana Weston-Webb)、ダックス(Dax Mcgill)、ベリー(Bailey Nagy)という友達兼ライバルがいました。サーフィンもみんながやっているからっていうのもあり、お互いスタイルは全然違うのですが、プッシュしあって今に至っています。タチアナは「早くクォリファイして来なさい」っていつも言ってくれます。最近ではISAで優勝したテッサ(tessa thyssen)とも行動していました。


 


 

 

日本は友人同士のプッシュが少ない気がします。もし、近くに女の子がいないなら、男の子を探せば良いと思います。自分はジョイ(Joey Johnston、ドン・ジョンストンの息子)とは幼なじみだったし、それに男の子のチームにも入って、カイレン・ヤマカワ、喜納海人、ジーク (Ezekiel Lau) もファミリーでした。みんなプッシュしてくれるし、サーフィンも上手くなります。

 

もしかしたら、女の子の同士の方が難しいかもしれませんね。女子はすぐ怒るし、フレンドシップがすぐ崩れちゃう時もあるから。男の子の方がサバサバして、喧嘩してもすぐ仲直りができる気がします。だから、サーフィンに限って言えば、ジュニアの時から男の子とサーフィンをした方が良いかもしれません。

 

 

ポルトガルのWJCで

 

 

いくら環境が良くても、自分から入っていけないと何も始まらないです。

 

ー そういう環境を自分で作らなければダメということですか?

 

日本だからできないではなくて、そういう考えを持っていれば、どこでもできると思います。

もちろん、ジュニアなら親のヘルプは必要ですけど。それには強い気持ちを持って、サーフィンを続けるという気持ちがなかったら、もうそういう環境に入っていけないですから。そこをカンファタブル(Comfortable=快適なさま)なのだって、思えるようにならないと無理ですね。

 

いくら環境が良くても、自分から入っていけないと何も始まらないです。だから、極端な話、カリフォルニア、オーストラリアに行かなくても良いと思います。どこでもできるんだって信じること。こうでなきゃいけないという考え、思い込みを変えなきゃだめだと思います。

 


ー 日本のサーフィンのスタイルについてはどうでしょうか?

 

日本のサーフィンはみんな同じに見えてしまいます。いつもみんな友達のことだけ見て、真似っこしたいって思っているのでしょうか。同じようなスタイルが多いですね。ハワイ、アメリカ、他の国はみんな違うスタイルです。みんな違って当たり前という考え方。自分の気持ちをサーフィンにもう少し入れた方が良い気がします。一人ぐらい同じなのは仕方ないですけど、みんなすべて同じなのは良くないと思います。ユニーク(unique=独特な)が必要なのかなって。

 

 

 

 

日本人に少ないのは個性かな。なぜスペシャルじゃダメなのって思います。同じと見られることがいいのって。それを変えなきゃだめだと思います。もっと自分で、自分の好きなスタイルを見つけて練習すること。そうすれば、もっと上手くなれると思います。自分の持っている個性の中で力を伸ばすことができれば、コンペということでは無くても、サーフィンが楽しくなるはずです。

 

 

 

 

 

一昨年にISA、WSLのジュニアタイトルを獲り、昨年はクォリファイにあと一歩と迫ったマヒナ前田。まだ弱冠18歳だ。ハワイで生まれ、ハワイで育ったが、純然たる日本人でもある。小さい時から、やる前に何でも観察して、理解してからやる子供だったという。ハワイで勉強も両立。飛び級で卒業する秀才でもある。今はサーフィンに夢中だが、この道を進みながらでも「フィジカルセラピスト」や「設計士」もやりたいと夢を語る。

 

海外は元々、実力主義。結果が出なければいつでも交代がいる。それに学生時代は勉強もできなければ、メーカーからサポートすらしてもらえない。この環境で自らの力で道を切り開いた。彼女の活躍にはもちろん本人の努力があったからではあるものの、それをバックアップしたご両親、お姉さん家族の力も大きい。だからこそ、マヒナも自分の大切なものは、自分を取り巻くファミリーだと感謝を忘れない。

 

世界へ挑戦するために必要なこと。それはもちろん環境が大きく左右されることは間違いない。日本よりハワイ。そこにいる方が世界へ近いことは間違いないだろう。しかし、マヒナはそんなことが問題ではないとキッパリ否定する。どんな所にいても、自分がそれにどう係わって、自分のものにしていくのか。それはどこで生まれようが、何人だろうが関係ない。与えられたチャンスを無駄にせず、努力することが大切と語る。

 

これこそがアスリートだと自分は思う。日本だから世界へ出て行けないとか、日本の環境は遅れているとか、これは間違いだ。世界へ出て行く選手は、どこにいても出て行く。今いる環境を否定せず、そこで最大限努力すること。このインタビューで、マヒナをこれからも応援するとともに、世界を目指す日本人選手にも改めてエールを送りたい。

 


名前:マヒナ前田 / Mahina Maeda

生年月日:1998.2/15  18歳

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アメリカ、ハワイ生まれ サンセットビーチ在住

サーフィン歴: 13年

実績:

2014年

Allianz ASP World Junior Championships 優勝

Vissla ISA World Junior Surfing Championship(U-16) 優勝

2015年

WSL QS6000 Samsung Galaxy Hainan Pro 優勝

WSL Sunset Beach Pro Junior 9位

WSL Pro Junior Hurley Australian Open 3位

WSL QS6000 Port Taranaki Pro NZ Home Loans Surf Festival 9位

WSL PRO Junior Los Cabos Open of SurF  3位

WSL Junior Women’s Vans US Open of Surfing 9位

WSL QS1500 Pro Anglet 5位

WSL QS6000 Pantin Classic Galicia Pro 9位

WSL Ericeira World Junior Championships  2位

2015年 WSL Women’s Qualifying Series最終ランキング 11位  11200pts