サーフィン界で絶大な人気を誇る企画『Stab in the Dark』。その記念すべき第10弾は、11度のワールドチャンピオン、ケリー・スレーターをテスターに迎え、過去の優勝シェイパーたちが集うという、まさに夢のような布陣でスタートした。
しかし、蓋を開けてみれば、その結末は「史上最も物議を醸したシーズン」として、ファンの間で激しい議論を巻き起こすこととなった。
一体、何が問題だったのか。企画の裏側と、浮き彫りになったサーフインダストリーの複雑な力学を考察する。
疑惑の核心:ケリーは「身内」のボードを知っていたのか?
炎上の最大の原因は、ケリーが最終的にウィナーとして選んだのが、彼自身のサーフボードカンパニー「Slater Designs」で長年タッグを組むシェイパー、ダン・マンのボードだったことだ。
企画の公平性を担保するため、全てのボードはロゴが隠され、匿名でテストされるのが『Stab in the Dark』の鉄則。しかし、最も近しい関係者であるダン・マンが優勝したことで、「ヤラセではないか」「ケリーは事前に知っていたのではないか」という疑惑の声が噴出した。
Stabの編集長サム・マッキントッシュは、「私の正直な直感では、彼は知らなかったと思う」としながらも、それが最も重要な問題ではないと示唆する。ケリー自身も映像の中で、そのボードに乗った際に「非常に馴染みがある」と感じたことを認めている。
そのフィーリングは、15年前の自身のボードにルーツを持つ、数奇な運命によってもたらされたものだった。
しかし、結果として「身内」が勝ったという事実は、企画の純粋性を信じていたファンを失望させるには十分だった。
不平等なテスト環境と、編集長の弁明
さらに、ファンからは「全てのボードが平等にテストされていない」という批判も相次いだ。
これに対しサム・マッキントッシュは、「それは単にケリーの判断だった」と説明。「Stab in the Darkは実験室での実験ではない。不完全な状況下での意思決定の物語なのだ」と述べ、天候や波のコンディションといった不確定要素の中で、リアルタイムの判断が下された結果であると弁明した。
しかし、結果的に全てのボードに平等なチャンスが与えられなかったことは、企画の信頼性を揺るがす一因となった。

なぜダン・マンは参加できたのか? ビジネスの論理
そもそも、なぜケリー自身のシェイパーであるダン・マンの参加が許されたのか。Stabは、その背景に商業的な事情があったことを明かしている。
当初、優勝シェイパーとSlater Designsとの限定コラボレーションモデルを制作するという企画があったが、一部のシェイパーが難色を示し、頓挫。Slater Designs側からすれば、ダン・マンを参加させることが、この巨大プロジェクトを実現させるための唯一の道だったのだ。
ビジネスの論理と、企画の純粋性との間で、Stabもまた難しい舵取りを迫られていた。
『Stab in the Dark』が失ったもの、そして得たもの
あるコメントは、この状況を完璧に要約している。「SITDのエピソードとしてはクソだったが、エゴとビジネスとナルシシズムの研究としては、これはゴールドだった」。
『Stab in the Dark X』は、その公平性に大きな疑問符を投げかけ、多くのファンを怒らせた。しかし同時に、ケリー・スレーターというスーパースターの複雑な内面、サーフインダストリーが抱える商業的な側面、そしてボード選びという行為の極めて主観的な性質を、かつてないほど生々しく描き出した。
Stabは、この教訓を元に、次回以降の企画では「もしサーファー自身のシェイパーが参加する場合、そのボードは優勝対象外とする」というルールを明記した。
混乱と論争の末に、企画は原点回帰を誓った。この”炎上”は、『Stab in the Dark』というフォーマットが、より成熟し、進化していくための、避けられない通過儀礼だったのかもしれない。




