これからの日本サーフィンの在り方を議論する「あくがれサーフサミット2023日向」が開催された。

取材:山本貞彦 JPSA ツアーの最終戦が行われていた宮崎県日向市において、サーフィン競技の国内3団体である JPSA(日本プロサーフィン連盟)NSA(日本サーフィン連盟)NSSA(日本学生サーフィン連盟)が一同に集まり、これからの日本サーフィンの在り方を議論する「あくがれサーフサミット2023日向」が行われた。

 

司会進行はJPSA久米寿朗事務局長

 

この会合は日向で行われたこともあり、シニアプロスポンサーでもある「あくがれ蒸留所」社長の黒木繁人氏の声掛けから実現。日向の地元からサーフィン関係団体や行政にも出席してもらい、さらにイベントを作る広告代理店も参加するという、今までにない会合となった。

 

出席者はJPSAから細川哲夫理事長 。名誉顧問であり、NSA強化部強化委員長も兼任する牛越峰統氏。理事であり、NSA強化部コーチを兼任する田中樹氏。司会進行は久米寿朗事務局長という顔ぶれ。

 

NSAからは関口嘉雄事務局長。NSSAからは長岡新一郎 NSSA理事長。地元からは日向サーフィン連盟の甲斐拓郎氏、甲斐俊作氏。日向サーフィン業組合からは窪田聡会長と海埜士氏が参加。

 

そして、地元の行政からは日向市観光交流課の寺田雅彦氏。日向市観光協会から 立石一真氏。そして、広告代理店からは博報堂DYスポーツ局の田中稔久氏と柴切五輝氏が加わり、サーフィン競技の現状や課題など、今後の方向性について多様な意見交換が行われた。

 

JPSA細川哲夫理事長

 

より良いサーフィン環境を形成し、日本の海洋スポーツとして確立していきたい。

 

最初に各団体からサーフィンの競技の大会運営の現状と展望、問題点が報告された。JPSAの細川理事長は「来年からの『Sリーグ』がスタートするにあたり、より良いサーフィン環境を形成し、日本の海洋スポーツとして確立していきたい。そのうえでプロのイベントとして、サーフィンを知らない人も会場に来て楽しめるイベントを作るためには、地元の協力は不可欠と考えています」と発言した。

 

NSA関口事務局長

 

NSAの関口事務局長は「現在の大会の規模、参加選手の人数が少なくて500人、多くて1300人という規模になる。それを4日から1週間という日程で行うことで、運営は手一杯ですね。イベントを同時開催することは難しいかもしれません」とアマチュア組織最大のNSAが抱える現状を吐露。

 

NSSA長岡理事長

 

NSSAの長岡理事長は「うちは参加選手は200人ぐらいで、OBも含めて2日間という規模です。基本的には大学生中心ですが、大学から始めた人と経験者のレベルの差があるので、そこを何とか埋めていきたいというのが課題です。ただ、こちらは一般の方に来てもらうというスタンスは無かったので、そこを考えるのは一つの策として有りかと思います」とサーフィン競技以外も視野に入れていきたいと述べた。

 

日向市観光交流課の寺田雅彦氏
日向市観光協会 立石一真氏

 

場所を借りる立場だからこその地元への還元も重要なファクター。行政からの立場で、日向市観光協会の立石氏は「私ども受け入れ側としては、サーフィンの大会に地元の人たちが興味を持って来ていただいたりして、地元の人たちと参加してるサーファーの方たちとの交流ななどを促進できれば、非常に良いのかなとは思っております」と語る。

 

イベント開催については地元での消費を促進するために、地域の店舗や宿泊施設の情報提供を促進していきたいと方針を掲げる。

 

 

子供たちが見に行きたいと思ってもらえるような環境をつくること。

 

JPSAは来年度から『Sリーグ』として活動を始める。そこでは NSA や NSSA の選手が参加できる枠を作るという。各団体のトップアマチュア選手がシードとして『Sリーグ』に参戦し、プロと戦う場が設けられる。「『Sリーグ』では、よりプロスポーツとしてサーフィンの魅力を伝えていきたいと考えています」と細川理事長は続ける。

 

「野球やバスケットボールのように、試合やキャンプでプロが各地方に遠征に行った時に、子供たちが見に行きたいと思ってもらえるような環境をつくること。そこで集客を得て、町が盛り上がることが理想です」とも語る。

 

日向サーフィン業組合 窪田聡会長
日向サーフィン業組合の海埜士氏

 

また、地元で作るサーフィン業組合の窪田氏、海埜氏は「サーフィンで生計を立てていくサーフィン業組合というものを作った中で、サーフィン連盟の人たちと連携を取って、ある程度のルールに基づいて、どんどん広げていかないといけない」と大会の推進の意見を述べた。

 

 

選手育成の環境を整えると共に、選手にはモチベーションを与え、大会ではステータスを持たせる。

 

サーフィンの競技の一本化。ピラミッドの形を作り、選手育成の環境を整えると共に、選手にはモチベーションを与え、大会ではステータスを持たせる。さらに大会を興行にすることで、一般の方も楽しめるイベントにして、地域貢献にも寄与する。これが今の青写真だ。

 

日向サーフィン連盟の甲斐拓郎氏
日向サーフィン連盟の甲斐俊作氏

 

日向サーフィン連盟の甲斐拓郎氏、甲斐俊作氏からは目指す形をサッカーを例に挙げ「『Sリーグ』としてプロサーファーの人数は少ないけれども、技術がある団体が旗を持って、選手育成の環境を整えると共に、選手にはモチベーションを与え、大会ではステータスを持たせる。日本の先頭でマネージメントの部分を担っていくが一番ではないか」との意見。

 

しかし、大事なのサーフィンを身近に思ってもらうこと。「正直そういう競技に特化した話じゃなくて、子供たちにサーフィンの授業をやったり、県や教育委員会と連携して、海への取り組みが大切ではないでしょうか」とも語る。

 

JPSA 名誉顧問の牛越峰統氏
JPSA 理事の田中樹氏

 

現実、他のスポーツと比べると、サーフィンを始めるのはハードルが高い。それは「海が危ないところだと大人が指導している現実。サーフィンをやる環境が普通の家庭では少ない。サーフィンがやりたいというスポーツになっていない」と併せて語る。選手育成で世界に通用する選手の輩出。スーパースターを生み出すには「裾野を広げることも大事ではないか」と教育の大切さを訴えた。

 

 

博報堂DYスポーツ局の田中稔久氏
博報堂DYスポーツ局の柴切五輝氏

 

広告代理店のスポーツのビジネスの立場から博報堂DYスポーツ局の田中稔久氏は「サーフィンはオリンピックを契機に盛り上がりを見せました。やはり、日本代表が一つきっかけにはなると思います。サーフィンをしない人にとって、その選手を知れば、出ているところ見たいと思うのが人情ですから」と言う。

 

「とにかくロゴを出して、それがいかに多くの観客とテレビの視聴者で見られるかということを企業は求めていたけれども、今は見方が変わってきています。

 

例えば、サーフィンならば、環境的なSDGsみたいな文脈であったりとか、それこそ地域貢献みたいな部分だったり、そういったところに魅力を感じてスポンサーなる企業が増えてきています。」野球やサッカーと違う魅力があるからこそ、今はいかに裾野を広げていくことも大事だと甲斐氏の意見に賛同した。

 

また「サーフィンをより発展させるために、この3団体が協力していろいろ仕事ができるのであれば、共同でイベントをやることを提案したい」と3団体の提携に賛成の意見を述べた。

 

 

今会合では各団体の現状の問題共有から始まり、大会運営、地域への貢献、競技力向上のための選手育成などに関する様々な意見が出され、特にサーフィンの裾野を広げるために、子供たちへの教育の重要性も確認された。

 

単純に団体をすぐに一本化するということではなく、まずは各団体と連携を取りながら、『Sリーグ』で一つのモデルを作ること。それに加えて、各地域の地元団体、行政と連絡を取り、地域住民との交流イベントを実施し、サーフィン文化の理解を深めることを目標とするとして、この会合は閉幕した。

 

今まで国内のサーフィン組織は、自らの団体の選手ために活動を行なって来た。しかし、時代は動き、サーフィンがオリンピック種目になったことを契機に、世界のサーフィン組織が改革に乗り出している。

 

日本も選手のために、ここで新たに組織の在り方を見直す時期が来ている。まずはこの国内サーフィン3団体が集まって、話し合いを行ったことを評価したい。『Sリーグ』の構想に併せて、特に裾野拡大のために、学校でのサーフィン授業実施やジュニア層の大会開催なども積極的に取り組んでいってもらいたいと切に願う。