文、写真:山本貞彦
コロナ禍の中、日本人選手たちの活躍は素晴らしいものだった。現チャンピオンシップツアー(CT)選手である五十嵐カノアやCTで戦った都筑有夢路だけでなく、多くの日本人選手たちがクォリファイできるランキングまで上がって来たことは、男女とも無かったことだ。
昨年の最終ランキングで村上舜は22位、脇田紗良が23位という結果だった2人の選手。チャレンジャーシリーズの初戦であるUS OPENで好成績を残し、CT入りも可能な位置に付けていた。
あと一試合でも決めることができたなら、そのままクォリファイだったのではと自分は考えてしまう。シリーズ後半では思うような成績を残せなかったものの、それでも彼らはある手応えを感じたと言う。
その時に感じたものとは何だったのか。今までとは何が違ったのか。そして、目指すCTのビジョンについてどう考えているのか。そこから見えた未来について、二人から話を聞いた。
※今回の村上舜と脇田紗良の対談インタビュー記事は、今週末にBEWETディーラーにて配布予定の『BEWET STYLE BOOK 2022 SPRING SUMMER』にも掲載されております。
「自分のサーフィンは世界で通用するって思っています」舜
「本当にCTに入れるんだっていう確信が生まれました」紗良
昨年のチャレンジャーシリーズの4戦を戦ってみてどうでしたか?普段のQSと違って何か違ったのでしょうか?
村上舜:そうですね。サーフィン自体のスキルとか、そのフィジカルの差というのは、あまり感じませんでした。でも、自分はそのモチベーションだったりとか。どんなコンディションでも対応する力っていうのが必要だと改めて思いました。
去年のシリーズ3戦ぐらいは自分のサーフィンを出せずに負ける試合が、あまりにも多くて。USオープンの試合では、波が止まってしまって負けたり。そういうヒートで勝ち上がれないのって、さすがに運じゃないなって感じました。
やはり、そういう厳しいコンディションでも勝ってる選手は絶対に勝っていますから。その対応力っていうのを、もっと身につけられたらなと思いました。
脇田紗良:うちの場合は、チャレンジャーシリーズに出られるランキングにいなかったんですけど、昨年はワイルドカードで選ばれて出ることができました。
コロナ前の年とかは、チャレンジャーシリーズが2戦ぐらいあったと思うんですけど、その時は全部1コケしちゃっていて。だから、昨年、参加してみたら、いきなりレベルが変わったなっていうのを感じました。
去年は最終ランキングのところで決勝まで行けば、CTのチャンスがあったので。そう考えると、自分でも戦えるレベルなのだというのを、すごく実感しましたね。それが、自分の自信にも繋がりました。
ーそのチャンピオンツアー(CT)に挑戦する中で、今回、自分の中で手応えを感じたと聞きました。その挑戦が確信に変わったのは、何があったんですか?
紗良:そうですね、それはやはり、USオープンで。それがチャレンジャーシリーズの初戦だったんですけど、それが自分にとって、一番大きくて。
前の年に初めてUSオープンに出た時は1コケで、自分のサーフィンも出せずに負けちゃっていましたから。会場のハンティントンって本当に難しい波ですけど、波次第で自分が持っているサーフィンのレベルも変わるので。
そこでクォーターまで行けて、マンオンマンも初めてチャレンジャーシリーズでも戦えて、本当に自分の自信になりました。そういう部分で、このままこのリザルトが続けば、本当にCTに入れるんだっていう確信が生まれました。
舜:自分は2019年のISAの大会で自信がついたのは確かで。そこから自分のサーフィンでも戦えるんだって思えるようになれました。
自分のサーフィンは世界で通用するって思っていますから。それは自分のサーフィンの映像を見てもわかるし。だから、あとはその試合の作戦とか、試合運びとかが課題だけになるのかなって思います。
ーでは、そのチャレンジャーシリーズの4戦が終わって、課題は見つかりましたか?
舜:約1時間とか、2時間ぐらい前には会場入りして、前のヒートとかの波を見ていて。この波に乗りたいとか、ポジショニングについても、そこで待ってということを考えるんですけど。
やはり、自分のヒートとかになると、絶対にコンディションが変わりますから。そこが対応できていなかったというのが、すごく考えた結果でしたね。
なので、その対応力。上手い選手は波が止まることなど最悪のケースを考えて、点数を積み重ねていくっていうことができるので。
ここが自分にはまだ足りないところです。切り替えっていうのが、自分ではまだ考えられないですから。そういうことも全て課題なのかなと思いました。
紗良:やはり、何だろう。その世界に対して自分の実力は、まだまだだなと思っていて。そこは本当にもっと成長したいなっていうのがあります。
あとはやはりメンタルの部分でも他の選手って、本当に自分に自信があって。それが、その試合をやっていても、こちらに伝わってくるんですよね。
その自信っていうのは、その日々の積み重ねであったりとか、自分がやってきたことが自信に繋がってるので。そういう面でも、本当に自分も自信を持ちたいなっていうのがあります。
自信を持つために、もっと努力したりとか。もっと自分ができることがあるんじゃないかって、すごく思うので。今年は自分に自信を持てるような年にしたいです。
ーチャンピオンツアー(CT)にクォリファイするために、自分の環境含め、あと何が必要で、どうしたら良いと思っていますか?
舜:そうですね。自信をつけたいから、とりあえずトレーニングしています。そこで自分の変化が感じられるようになったなら、試合までにどんどん自信が積み重なっていくと思いますから。まずは肉体改造をやろうかなと思っています。
自分はもう、環境はもう整っていると思います。その試合をやることにストレスなく臨めているから。良い環境でできてると思います。
紗良:うちも自分に自信を持ちたいって思っています。その試合で自分を信じられるようになるというか。自分の意思に自信を持てるようになるのは、やはり、日々の積み重ねだと思っていますから。
同じトレーニングでも、前までは1人の人と話し合ってやっていたんですけど。今はいろんな方の意見を聞きながら、その良いところを取り入れたいなって思っていて。自分に合うものを、探していけたらなって思っています。
うちは、その今、宮城のプロジェクトに参加していて。それで金銭面的な部分でも、本当にヘルプになっていて。そういった面でも、私も今はストレスなく、環境がすごく整っています。あとはどう自分が動くか次第だと思っていいます。
ーオリンピックでサーフィンが選ばれ、日本は結果も出して世間に認知されたと思います。しかし、他のスポーツに比べて、選手のスポンサーについては、まだ厳しいのが現状です。選手が不自由なく世界に挑戦できる環境を手に入れるためには、あと何が必要でしょうか?
舜:自分は一般の人たちに知ってもらうには、やはりメディア次第だと思っていて。野球とかサッカーとかって、いつも放送されていますし。そうなるためにはどうしたらいいのか。
紗良:サッカーとか野球ってボールがあればできますけど。でも、サーフィンって自然相手だし、その波が無いとできないし。
それにウエットスーツだったり、サーフボードを揃えるとなると、本格的に始める人じゃないと難しいと思います。だから、他のスポーツとの差が開いちゃうというのもありますよね。
舜:確かなのは、自分たちがもっと世界で活躍すること。すればするだけメディアも注目すると思いますから。まずはそこですかね。実際、カノア以外はCTに入れていないわけだし。まだ世界との差があるから、世間に知ってもらえてないのかなって思います。
「フリーサーフィンで自分が飯を食えるようになるための仕事」舜
「コンペはできるところまでは続けたい」紗良
ーサーフィンにはコンペとフリーサーフィンがあります。本来、フリーサーフィンが好きな2人が、コンペに挑戦する理由は何でしょうか?
紗良:うちの場合は、やっぱりフリーも好きで、本当にサーフィン自体のことが好きなんですけど。ただ、コンペっていうのは、特に女性は限られた年齢でしかできないと思っていて。なので、自分はそこまでの時間はコンペに使いたいなっていうのもあります。
フリーも好きだけど、心のどこかでやっぱりコンペも本当に好きで。そういう駆け引きとか、悔しい思いとか、嬉しい思いっていうのを本当に経験できるのは、今の年しかないと思っているので。
サーフィンって本当に魅力が、すごくたくさんあって。フリーサーフィンの方が、人生としては楽しいと思いますけど。コンペでアップダウンがあった方が、サーファーとしての人生は楽しいのかなって、自分は考えているので。そういった面でもコンペはできるところまでは続けたいなって思っています。
舜:自分は何だろう。自分で目標(CTに入る)を掲げちゃったから。それは達成したいなっていう気持ちでやっているんですけど。やはり、本音は試合はあまり好きではなくて。試合って、大半は辛い思いをするし。プレッシャーが掛かれば、それはそれですごいストレスだし。でも、人と戦うのは、そういうことだと思うんですけど。
自分の中だとやはりサーフィンの試合とか。メディアの対応とかも仕事で。自分はフリーサーフィンが一番好きなことですから。そのフリーサーフィンで自分が飯を食えるようになるために、この仕事をしているんです。
紗良:その、誰だって褒められるのは嬉しいじゃないですか。そこで勝った時には、その試合に出てる中で1位というのは、たった1人なので。そういった時の感覚が自分はすごく好きで。
負けることの方がサーフィンの試合って多いと思っているので、そこは辛いですけど。その勝った時の感覚があれば、うちは永遠に頑張れるかなっていうのはあります。
ーチャンピオンツアー(CT)を達成した後のビジョンはありますか?
「フリーをやるためにCTに入ることが目標」舜
「CTに入ったら、そこで1位を取るのが目標」紗良
舜:自分は将来、フリーをやるためにCTに入ることが目標なんです。CTに入れずにフリーサーフィンに行くっていうのが、自分にとっては逃げに感じたので。でも、もちろんCTに入れたら、ベストを尽くします。
紗良:自分が好きなサーフィンのコンペが好きな理由は、やはり、その優勝した時の感覚とかなので。その、今はCTに入ることが目標ですけど、CTに入ったら、そこで1位を取るのが目標になると思います。
それが小さい頃からの夢でもあって。やはり、CTに入ったら、一番上に行くっていうのが、自分が想像する自分なのかなって思います。
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日本のコンペティションが大きく変わったここ数年。日本人選手の実力も大きく飛躍した。それは協会のバックアップ体制が整ってきたことや、選手にマネージメントの会社がついたことも後押しとなっているのだろう。
今まで選手は自身の肉体と身銭を切って、個人で戦っていた。だから、当然のように限界があったし、やりたくてもできないことも多かった。それが「サーフィン」のスポーツという部分で、世間に認知されるようになったことで待遇が変わってきたのだ。
でも、一番変わったのはは選手自身。環境が整い始めたことで、よりコンペティションにフォーカスできるようになったこと。そして、何より自分も世界で戦えるんだというマインドを持つことができるようになったことだ。
その目指すトップオブトップのCTは厳しい世界。そこはフィジカルやスキル、エキップメント等がすべて揃い、さらにメンタルを鍛えた上でのシビアな戦いとなる。ただ、すべてを突き詰めた頂点での戦いに、本人の決意と努力だけで臨むのは無理な話だ。
だからこそ、彼らの努力を無駄にしないためにも、これからもサポートをより充実させること。環境を整えて、選手が十分に力を発揮できるようにすることが必要だ。世界と対等に戦えるようになれば、日本のコンペティションは変わる。
そのコンペティションの地位が上がれば、日本のフリーサーフィンの世界もさらに輝く事になるはずだ。スポーツを通して、サーフィンカルチャーが広く知れ渡れば、彼らが望む本当の「サーフィン」が実現できるのではないだろうか。