目覚ましい活躍を見せる、ジュニア世代の「モモトとアムロ」都筑兄妹。都筑ファミリー・インタビュー

 

今シーズン、大きな成長を見せている二人の選手がいる。 それが都筑兄妹だ。

 

兄の百斗、18歳。 一昨年は、WSLジュニア初優勝でWJCの日本代表ともなったが、昨年は振るわず、代表も落選。 しかし、今シーズン、千葉で行われたWSL QS6000のジャパントライアルで準優勝し、本戦に出場。WSLジュニアシリーズ第1戦では優勝。QS1500湘南では自身初のクォーター進出と復調を見せる。

 

 

WSL QS6000のジャパントライアルで準優勝し、本戦に出場
WSL QS6000のジャパントライアルで準優勝し、本戦に出場したモモト

 

また、妹の有夢路、16歳。コンペキャリアは短いながら、今シーズンの活躍は目覚ましい。JPSA 第2戦の伊豆で初の決勝進出で準優勝。翌週に行われたWSLジュニアシリーズ第1戦では初優勝 と、こちらも存在を大きくアピール。今、勢いが一番ある選手だ。

 

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WSLジュニアシリーズ第1戦では初優勝のアムロ

 

ジュニア選手の世代。 ちょっとしたきっかけで大きく成長する。

百斗の不調からの復活。 有夢路の劇的なスキルアップ。

この大きな変化に何があったのか。 改めて都筑ファミリーに話を聞いた。

 

インタビュー、撮影:山本貞彦

 

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都筑 久美雄(くみお):父、 良子 (よしこ):母 、百斗 (ももと):兄 、有夢路(あむろ):妹 、典 (てん) :弟

 

百斗は幼稚園からサッカー少年。有夢路はクラシックバレエ

 

家族で湘南の鵠沼に引っ越したのは今から12年前。その当時の百斗は幼稚園児のときからサッカー少年。 小学校6年生まで続けたものの、休みの日にみんなでするサーフィンに次第にハマるようになって いったそうだ。しかし、自身がサーファーという父が、長男の百斗にはサーフィンをして欲しかっ たと言う。

 

 

父:「鵠沼に引っ越して。顔見知りな大人はサーフィンをやっている方が多かったですね。なの で、みんなで子育てという意味でもサーフィンやっていれば、回りの大人たちも認識してくれると 思ったんです。」

 

母:「サッカーの仲間たちと一緒にサーフィンをしていたんですよ。町の大会にみんな出てて、運 動会みたいな感じで楽しくやっていて。でも、唯一コンペに進んだのが、百斗でした。」

 

百斗:「サッカーは自体は幼稚園の時からやっていました。8歳ぐらいからサーフィンはサッカー の合間に始めたんですけど。でも、サーフィンの方が楽しくてなっちゃって。」

 

そのまま、百斗はサーフィンにはまる。 その当時、妹の有夢路はクラシックバレエに勤しむ女の子。ただ、特にバレエに興味があったわけじゃなかったそうだ。

 

母:「元々、足が速くて。運動能力も高かったので、何かさせたかったんですけど。バレエをやっ ておけば、きっと役に立つからって始めたんです。でも、4年生ぐらいで「ちょっと、私これじゃないかも。やめたい。」と言ってきて。」

 

その当時、バレエを辞めたことで時間ができたアムちゃんは、兄の遠征について行くことが増え た。当然、海に入る機会も増えて、そのままサーフィンの道に進む。

 

母:「お兄ちゃんの友達とかも百斗の妹っていうことで、海に入っていると「アムちゃんゴー ゴー!」とか声をかけてくれて。楽しみながら、どんどんハマっちゃったという感じです。」

 

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そして、楽しくサーフィンをしていた家族の転機。 それは百斗が真剣にコンペの道に進むと決めたことだった。

 

百斗:「試合が大好きですね。緊張感とか、やっている感じとかが好きです。ヒートを組み立て ること、普段、いろいろ試したことを発揮できるのが試合だと思うので。試合はすごく楽しいで す。」

 

母:「百斗は本当にコンペが大好きですね。試合があった方が練習も楽しめるタイプです。多分、 試合に出ないとなったら、サーフィンしなくなっちゃうぐらい。」

 

百斗:「サーフィン始めてすぐに出た試合で優勝したんですよ。小さな大会ですけど、そこからで すね。多分9歳ぐらいです。ローカルの鵠沼の大会でした。それで地元の試合に出て、支部予戦と かも出るようになって。力(堀越)くんのとこのショップに入っていたんですけど、そこの試合で 一番楽しく試合やれた時があって。これが自分のやりたいことだって、意識したのもこの時でし た。」

 

そこで家族会議。都筑家では本人の意思もあり、百斗に海外を経験させることを決め、QSを廻ら せることにした。しかし、本人はまだ16歳。未成年ということもあり、運転はできない。英語も未熟ということで、今回は先輩を頼りに送り出した。

 

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母:「百斗が最初のQS、オーストラリアに出る時に先輩を頼って行ったんですけど、連絡ミスが あってその日の宿がないと発覚。本人から連絡が来て、さあ、困った。それで、片っ端から見える モーテルに駆け込んでみなさいと指示。

 

それで、何とか宿を見つけることができて、一件落着かと思えば、次の大会の移動手段が無いと。急遽、現地の知り合いを頼って、連れて行ってもらった りとすごく苦労したようです。」

 

父:「帰国は朝便で、朝は電車がないから夕方に移動して早めに手配したらしんですけど、何と パスポートを知人の車の中に置き忘れたと。それで、シドニーまで戻ることになって。一人でバス に乗って、その人の家まで取りに行って。その後、フェリー乗って、電車乗って、空港で一泊したりと大変だった聞きました。」

 

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今年スマトラで行われたQSイベントで3位となった都築有夢路

 

今年の1月のオーストラリアにはアムちゃんが海外初参戦ということで、母が帯同。百斗にアムちゃ ん、3人で一ヶ月の旅に出た。

 

母:「オーストラリアには3人で行ったんですけど、実際に行ってみて思ったのは、宿や食事、怪 我や病気の心配など。やることはたくさんあります。百斗がこれを一人でやって来たのかと思う と、16歳そこそこで、ずいぶん過酷なことをさせちゃったなーと。」

 

都築百斗 @ Krui-Pro
都築百斗 @ Krui-Pro

 

それでも、無事一人で乗り切ったこと。家族は褒めた。父はトラブルを体験して、自分で解決する ということを学ばせたいと敢えて一人旅を勧めたと、その時を振り返った。

 

しかし、その経験は良いにしても、これで試合に勝て!と言うのは酷だと改めて思ったと言う。選手が大会へ行く。勝つことがマストなら、条件としてストレスをなくすこと。集中できる環境 を作ることも大切なことだと思ったそうだ。

 

母:「私かパパがついて行くことが、子供たちにとって、一番ストレスがない環境だと思うので、 そういう風にしていってあげたいなというのもあります。私たちも一緒に試合を見ればすごく成長もできるし、かける言葉やケアーの仕方もわかるので、お互いに成長もすると思います。なので、 極力、試合は一緒に行ってあげたいなって思っています。」

 

父:「実は昨年の計画は自分の失敗なんです。百斗には早く経験を積ませたいという気持ちがあっ て。QS6000を廻らせたい一存で、ポイントを稼がせようと転戦させました。自分の焦りだった んだと思います。

 

結局、去年はズタボロにされて、国内もWSLも何もかも上手くいかなくて。WJC 出場もコケて。上手くいかない一年となってしまいました。それでも、百斗は腐らずにいてくれた ことには感謝しています。」

 

母:「この子、全然めげないんですよ。すごいなーと思って。負けが続くと私たちの方が滅入っ ちゃって。でも、百斗は「そのうち勝てるよー」って。すごくプラス思考だから、強いなーと思っ て。」

 

父:「今までの経験があって今があると思います。今となってはもう勝つ方向で。勝たなきゃいけ にという部分が強くなっていますから、その為に家族でできることを最大限やっています。」

 

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昨年、8月に大きな決断。子供達のために千葉に家を借りた。もっと練習させたいという思いから 波のある千葉に拠点を作ったと言う。そこでの百斗、アムちゃんの共同生活。心配なので父が毎 日、千葉へ帰宅という形を取りながら、母と一番下の弟、典ちゃんは湘南と別れて過ごすことに。

 

母:「二人で自炊していますね。週末は私が千葉に行って冷蔵庫の食材を足して。パパは余り物 でどうにかしてもらってと言う感じなんですけど(笑)。最初のうちは行くと二人とも愚痴ばかり。 二人っきりで煮詰まるからでしょうね。皿洗わないとか、掃除しないとか。もう二人でよく喧嘩 をしている。こちらとしては、仲良くやってくれーって(笑)。」

 

でも、この千葉からの生活で大きく変わったのがアムちゃんだった。もともと地力はあったもの の、おっとりとした性格であまり自分は出さない性格だった。コンペを意識したのもここ最近の 話だと言う。

 

有夢路:「最初の頃はガールズサーキットに、ずーっと出ていました。ある程度、勝つことができていたので、NSAに出始めたんですけど全然勝てなくて。悔しいなって。もっと上手くなりたいと思いました。」

 

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母:「それ、ここ最近の話なんですよ。アムちゃんは他の選手と違って体が大きかったし、ちょっと波が小さ時の試合だとテイクオフするのが精一杯で。ガールズは年齢枠も広いから、すごく小さい子も出たりするじゃないですか。自分の体の半分ぐらいの子は2発ぐらい当てたりとか。体の大 きさは理由にできないけど、波のサイズがないとうまくできないって。」

 

「去年の級別はくるぶしぐらいの波で。ちょうど潮止まりで波も全く来なくて「絶対に優勝して 帰るね」とパパに言って出てきたのに、そんな感じになっちゃって。この子は4月生まれなんですね。ずーっと、お姉さんで来てたから、人より何かができないという経験が意外と少なくて。

 

だから、悔しいという気持ちもあまり持ってなかったんでしょうね。性格的にのんびりしていて。で も、今回負けた時に初めて心の底から悔しいって思ったみたいでした。初めて「お腹が痛い」っ て言って、泣いたんですよ。」

 

有夢路:「前の日とかはすごく調子が良くて。それなのに当日はいきなりスネサイズ。どうしようと思いました。」

 

父:「僕が悪いのかもしれないですけど、最初の頃、アムちゃんは百斗のついでみたいな感じで。 だから、負けても全然悔しくなくて。百斗を目一杯鍛えてましたから。だから、対照的にアムちゃ んは自由で。でも、今、考えるとそれが良かったのかもしれません。性格がおっとりしているか ら、何でも人の言うこと聞いちゃうからね。」

 

有夢路:「自分は自分の悪いところをすぐ認められるところです。注意を素直に聞けるところかな。」

 

父:「今までのんびり試合をやって、ある程度の成績を残してきたのに、NSAで他の上手い女の子たちと戦って負けを味わったこと。初めて自分の我で悔しいと思ったのが、アムちゃん自身を変えたんだと思いますね。自分でやらなきゃって思ったんだと思います。」

 

母:「それもあって、今年のオーストラリアに一ヶ月間行った時、一番影響を受けたみたいです。 サーフィン自体に。これならできるって思ったみたいなんですね。」

 

 

2位となった都筑有夢路
JPSA第2戦の伊豆で2位となった都筑有夢路

 

それは試合だけでなく、フリーサーフィンもそう。手応えを感じたと言う。感覚的ではあるものの 「あ!こうすればいいんだ!」と。そこで、もう目指すところが決まった言う。NSAには出ないで、プロとして活動すると。この半年で大きな環境変化をプラスに変えた才能。またその吸収力 には改めて舌を巻く。

君達が産まれた時の次に嬉しかったよ!

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最後に今まで一番嬉しかったことは、兄妹で優勝したことですか? とご両親に聞いた。

 

父:「嬉しかったですね。サーフィンに限って言えばですけど。百斗の一昨年のジュニアの優勝も 嬉しかったですね。あの時は未知数でしたから。今年は百斗は優勝するなと思っていたんですけ ど、アムちゃんがアレヨアレヨと勝っていったので。二人同時にっていうのは倍増でした。嬉しかっ たです。アムちゃんも最初の優勝でしたしね。」

 

母:「まあ、苦労が吹っ飛ぶぐらい嬉しいですけど、優勝は。でも、意外と実感がなくて。家族 みんなで帰って、パーティーだったんだろうねっていうイメージなんでしょうけど。帰ったらみん な疲れ切っていて。ソファーでグダーって(笑)。でも、その日には二人ともレーニングを始めてい ました。」

 

父:「結局、優勝してもその大会だけですから。最終的には子供達が追っている夢。CTに行くとか、CTで優勝するとか、本人たちはどう感じているのかわからないですけど。そこが目標なので。 もう僕なんか勝っても、次の試合が心配だし。次、勝てるかなーって。もう、勝ったからといっ て大喜びしている暇も本当はないですから。」

 

 

大好きなてんちゃん❤️😘本当に可愛い❤️

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アムちゃんもコンペの世界に入ったこともあり、家族でみんなでフォローして行くと決めた。ただ、 家族には一番下の弟、典ちゃんはまだ6歳の小学2年生だ。

 

母:「学校は小学校だから、そんなに休むわけにも行かなくて。お父さんも仕事を休める日が限られていますから、二人で分担しながら面倒見ています。それも難しい時は、同居している祖父母 にお願いしたり、典ちゃんのお友達のお母さんとかにも協力してもらって、一年過ごすという感 じです。」

 

頑張るという意味を子供達に毎日、教わっています。

 

家族一丸で夢を追う。ある時、一番下の典ちゃんが学校の行事で七夕の短冊作った。そこに書か れていたのは、言葉がとても嬉しかったと言う。

 

母:「典ちゃんが七夕の短冊に「俺のお兄ちゃんがサーフィンうまくなってぽしいです!」って。 この子はサーフィンしないし、お腹の中にいる時から、遠征にも一緒に廻っていますけど。勝って 欲しいじゃなくて、上手くなって欲しいと書いたんです。今の大きな優勝とかよりも、それまでに何を積み上げて行くかが大事だって家族でいつも話していて。その話を聞いていたんでしょうね。」

 

優勝した都築百斗
WSLジュニアシリーズ第1戦で優勝した都築百斗

 

父:「やはり、生活もお金もきつい時はあります。でも、それを苦労とは捉えていません。もし、 苦労があるとするならば、家族だけで話し、家族で動くから、全員が全員に甘えてしまうことですね。言いたいこと言っちゃうから、喧嘩も絶えないですから。僕が言うのも何ですけど、家の中で起きていることを一つ一つクリアしていって、今があるわけですから。でも、言い合えるこ とは良い関係だと思っています。」

 

母:「喧嘩もいっぱいしたし、迷ってきたこともいっぱいありましたけど、結果、一丸になっていたんだなっていうのが、典ちゃんの短冊を見て思いました。この子を含め、気づいたら家族の 目標が一つになって。家族がまとまっているんだなって。私はただのお母さんですから。子供達がこんなに頑張らなかったら、こんな経験させてもらってないですから。とにかく感謝ですね。頑張るという意味を子供達に毎日、教わっています。」

 

 

百斗はWJCに出て優勝、有夢路はWJCに出場と今年の目標は決まった。 二人はこの後、アメリカ、ヨーロッパへ遠征する。 照準を世界に合わせた兄妹と家族の戦いはまだ始まったばかりだ。

 

Go ! Momoto ! Go ! Amuro !
Go ! Tsuzuki Family !

 

都筑家は今、いろんな困難を乗り越え、新たな道を進み出した。家族全員で話し合い、ぶつかり 合いながらも、やれるべきことは全てやる。家族一丸。その結果が百斗、有夢路の優勝に繋がっ ているんだと今回、話を聞いて思った。

 

親として子供を育てるのは当たり前なことだが、スポーツ選手の育成となると、また違った意味 で難しい。身内なだけにぶつかれば、逃げ場がないこと。時として、大きな痛みを生み、バラバ ラになることだってある。

 

ジュニア選手の育成。基本はメーカーの仕事だと自分は考える。親でやれることには限界がある からだ。必要なのはコーチの存在。フィジカル、メンタル、スキル(+エキップメント)、タクティ クス。それぞれの専任コーチを揃えること。さらに選択できるぐらいの人材が欲しい。

 

選手個人の資質、性格、体格は人それぞれ。十人十色ではないけれど、十人いたら十通りの育て方があっていいはずだ。だから、コーチの人材も多種多様。客観的な視点で見ることができるコー チの育成が急務だろう。

 

そして、今、やらなきゃいけないこと。これからプロサーファーを目指すジュニア選手に対して、 このスポーツが一生をかけてやれるだけのスポーツなんだという土壌作り。プロの試合を見て、 すごい! 憧れるって、そう思ってくれるファンを作ること。プロとしての価値を作ることはこの業界の責務でもある。

 

でも、最後は家族なんだ。試合で勝とうが負けようが、最後まででエールを送るのが家族だ。どんな時でも支える存在。選手にとって一番の拠り所であり頑張れる源。これがあって初めて選手は輝ける。そう思わせてくれたインタビューだった。

 

プロフィール

都筑百斗

生年月日 :1999年1月21日
ホームポイント:湘南 鵠沼 銅像前
スポンサー :justice surfboard, BeWet, アルファ交通, radix surf, fcs, electric visual,ransom

都筑有夢路

生年月日 :2001年4月5日
ホームポイント:湘南 鵠沼 銅像前
スポンサー :Ripcurl, Justice surfboard, FCS