ボディサーフィンをテーマにした映画で監督デビューを果たしたキース・マロイ氏が、今回は『FISHPEOPLE(フィッシュピープル)』というユニークなタイトルの映画を掲げて、再び我々のまえに姿を現した。
さて、フィッシュ(魚)? ピープル(人々)? っていったい何だろう? パタゴニアサーフ東京のベンチに座りリラックスした雰囲気のなかでインタビューははじまった。
インタビュアー、李リョウ
キース・マロイ監督インタビュー(以下KM)
お住まいはどちらですか?
KM:カリフォルニアのサンタバーバラから少し郊外に行ったところに住んでいます。
生まれもサンタバーバラですか?
KM:サンタバーバラの山側にあるオーハイという町で生まれました。それから18才のときにハワイに移って15年くらいそこで暮らしながら世界中を旅したりしていました。
サーフィンを始めたのはいつから?
KM:3才くらいですね。父親が押したサーフボードに僕が立っている写真があります。昔は父親と兄弟でよく一緒にサーフィンをしました。
お父さんは牧場を経営されていると聞きましたが?
KM:父は小さなランチ(牧場)のオーナーです。ブラックアンガスという種類の牛を育てています。僕も妻と、ランチじゃないけどファーム(農場)をやっていて食用の牛や乳牛や鶏や豚を自分たちで育てています。
僕が小さい頃、父親は土木建築の仕事から収入を得ていましたが、動物が好きで馬や家畜を家で飼っていました。その昔の環境が好きだった僕は自分の子供(娘2人)にもその経験をさせたくて今の暮らしを始めたんです。
さて、映画の話をお聞きしたいのですが、前作「映画Come hell or high water(以下カムヘル)」ではボディサーフィンという、まだ誰もテーマにしたことのない映画を作られましたが、そのきっかけというか特別な理由はあったのですか?
KM:はい、まず最初にボディサーフィンをテーマにした映画はまだ誰も作っていないなとあの頃は思っていたんです。それと面白い映画には個性を持った人が登場しているってことも感じていました。ボディサーファーというのはちょっと風変わりな人たちの集まりなんです。
だから面白い映画ができるかもしれないと思いました。ボディサーファーってボディサーフィンしかしない人がほとんどなんです。もうその時点で彼らにはユニークな個性があるわけなんですよね。だから面白い映画ができるんじゃないかって思ったんです。
ボードに乗るサーフィンとはまた別の世界がボディーサーフィンにはあるんでしょうか?
KM:僕は今もボードに乗るサーフィンが大好きです。でもボードに乗っているときはパフォーマンス(演技)に近いところがあるといえるんじゃないでしょうか、つまり人の目を意識するというか、でもボディサーフィンはよりピュアな感じがします。
こんな表現をすると誤解されるかもしれません。でもボディサーフィンは誰かに見られるという意識は無く、人と海との対話がよりダイレクトに伝わってくると思います。
ボディサーフィンはいつ始めたんですか?
KM:子供の頃からやってましたが、本格的にやるようになったのはハワイに移ってマーク・カニングハムたちの本当のボディサーフィンを見てからです。僕は若い頃はコンテストで戦っていましたから、その合間にリラックスする目的もあってボディサーフィンをやっていました。
いまはどんなタイプのサーフィンを好んでしていますか?
KM:なんでもします。波が小さいときはボードを使いますが、波のコンデションに合わせてチョイスしていますよ。でも波が良いとボディサーフィンを選びますね。
サーフボードでビッグウェーブはいまでもチャージしますか?
KM:いまでもビックウェーブは好きだけど、映画作りも子育てもありますから、昔のようにスェウルの動きを毎日チェックというような感じではしていないです。でもチャンスがあればチャージしたいとは思っていますね。
『FISHPEOPLE』は海とコネクトする人にフォーカスしています。
さて新作の『FISHPEOPLE(フィッシュピープル)』についてお聞きしますが、前作と異なる点はどこでしょうか?
KM:前作の「カムヘル」では映画を作る楽しさを知りました。だからもう一つボディサーフィンの映画を作ろうと思っていたんです。でもボディサーフィンじゃなくて、海と人を結びつける映画を作ろうというインスピレーションがある日沸いたんです。
『FISHPEOPLE(フィッシュピープル)』は海とコネクトする人にフォーカスしています。前作の「カムヘル」はボディサーフィンの映画でしたが、新作は言わば「海とつながる人」の映画なんです。スピアフィッシング・ダイバーや長距離スイマーなども登場しますから、サーファーでなくても、サーフィンを知らなくても楽しんで観ることができます。
以前はコンテストのプロサーファーでしたが、映画を作る知識や技術はどこで習得したんですか?
KM:兄のクリスが映画を作ったことが大きなきっかけだったと思います。僕は選手のころに映画の出演者としてカメラの前に立っていましたが、すでに映画には興味を持っていました。それから時間が経過して兄弟のダンもクリスも、そして僕も選手としてやり尽くしました。同時に年齢も重ねてきて次の人生の目標として映画製作があったのだと思います。
新作ではあなたは監督業の他になにか携わったことはありましたか、それとも監督だけ?
KM:前作の「カムヘル」では撮影もしたんですが、今回はコンセプトをまず考えて必要な人材を選ぶところから始まり撮影やその他の作業は全て任せました。
「カムヘル」では16mmフィルムが中心でしたから僕にもカメラを操作できたんですが、今回はRED社製の最新デジタルカメラで撮影したから、それは専門のカメラマンを信用して任せようということになったんです。音楽は製作に入る3ヶ月前からトッド・ハニガン氏に映画のコンセプトを説明して曲を依頼しました。
製作期間はどのくらいですか?
KM:映画の製作には2年かかりましたが最初の1年はコンセプトや準備だけで撮影はしていませんでした。
当初の構想とおりに映画は完成しましたか?
KM:ドキュメンタリー映画ですから、構想はそれほど緻密には設定しませんでした。登場人物とコラボレーションして、彼らの話を聞きながら新しいアイデアが湧いてくるようにして製作を進めました。でも構想の段階でこのくらいはと思っていたクオリティーの作品にできて満足しています。
どんな人に観てもらいたいと思っていますか?
KM:『FISHPEOPLE(フィッシュピープル)』は海とコネクトする人々の映画です。サーファーだけでなく、さまざまな場所でできるだけ多くの人に観てもらいたいんです。この映画から海の美しさを知って、人生をインスパイア(鼓舞)していただけたらうれしいですね。
サーフィンに没頭しているとつい海のことを忘れてしまう。あまりに海に近づきすぎているからだと思う。ときにはサーフボードをラックに置き去りにして、海との「間合い」や「立ち位置」をふり返る必要をこの映画を観て感じた。
『FISHPEOPLE(フィッシュピープル)』は海に人生を捧げる人たちをテーマにしたドキュメンタリー映画である。それぞれの人生にそれぞれの海がある。我々人間は水の惑星に生きているのだと痛感した。
※監督キース・マロイ、制作パタゴニアによるドキュメンタリー映画『FISHPEOPLE(フィッシュピープル)』は、今年7月よりiTunesやAmazonなどの動画配信サービスを通じて発売予定。動画配信に先駆け、パタゴニア直営店を含む全国20会場にて上映ツアーを実施。詳しくは下記のオフィシャルサイトをご覧ください。
http://www.patagonia.jp/fishpeople.html