13歳という若さで最年少プロサーファーとなり注目を集めた少年も、今年成人式を迎えた。稲葉玲王、彼が日本を代表するサーファーのひとりであることは今更説明するまでもない。昨年WSLのリージョナル・チャンピオンとなり、世界と戦うためのシード権を獲得。そんな彼の笑顔の裏側にある秘めた闘志を聞いてみた。
まずはWSLジャパンのリージョナル・チャンピオンおめでとう。レオにとって初のビッグ・タイトルかと思うけど、どんな気持ちですか?
ありがとうございます。凄く嬉しいですけど、本当はQSランキングで上位に入って、プライム(QS10000)に出たかったんです。だからリージョナルのチャンピオンから出れようになってしまったのは、少し心残りではあるんです。でも、どんな形にせよ去年の目標を達成できたことは嬉しいですね。
昨年を振り返ると、チャンピオンとなったWSLジャパンの試合では、日向で2位、台湾で5位、一宮のQS6000で9位、JPSAでは最終戦の志田で2位。去年の試合で海外も含めて、一番印象に残っている試合とかある?
それは、やはり一宮のQS6000ですね。地元開催のビッグな大会で、まずまずの結果を残せたと思っています。去年の中ではベスト・リザルトでしたね。
人によっては、JPSAのグランドチャンピオンに重みを感じる選手もいるけど、世界を目指すレオにとってはどうなのかな?
あまり考えていないですね。JPSAはもう少し時間が経ってからでも回れると思うんです。でも年齢的に考えても世界を回ることは今しかできないと思うんです。今はJPSAは考えずに、QSにフォーカスしています。JPSAはタイミングが合えば出たいと思います。
お父さんがプロサーファーで千葉の海の目の前でサーフショップを経営するという素晴らしい環境があって、6歳でサーフィンを始めたんだよね。
そうですね。それこそ洋人(大原)とか小学校も同じだったので、一緒に海行っていましたね。今もそうですけど、サーフィンしかしていなかったので、友達と遊んだりとかも出来なかったし、もっと学校も休まずに行きたかったなって思う時もあります。
サーフィン一筋で生きてきたって感じ?
そうですね(笑)。
2010年にJPSAのプロトライアルで合格して、13歳という若さで最年少プロサーファーになったけど、周囲の期待も大きかったんじゃない? 子供ながらにプレッシャーとか感じなかった?
あまり覚えてないですけど、そのころは結構あったかもしれないですね。精神的なストレスからか10円ハゲなんかも出来たりしました。中一ぐらいの時ですかね。
忘れもしない2013年ニカラグアで行われたISA世界ジュニアのアンダ−16で表彰台に上がって4位になったよね。あれがそこから抜け出るきっかけになったの?
あれは自分の中ですごく大きかったですね。実際これまでの人生の中で一番だったかもしれないです。メンバーもCTに入った選手もいるくらい凄い選手が揃っていたし、あのような世界大会で試合する機会もなかった。勝ち上がる毎に楽しくなって、初めて武者震いみたいのを感じました。ヒート終わった後とかに「ウォー!」みたいな感じでしたから。
自分もあの試合はライブでずっと見ていたけど、負ける気がしなかったもんね。本当に感動したよ。
小さい頃から親元を離れ、ひとりでオーストラリアやハワイへサーフィン修行に出たよね? あれは何歳ぐらいだったっけ?
オーストラリアは中2ぐらいの頃で1年ぐら行っていました。知り合いを頼ってホームステイさせてもらって、スナッパーロックスの目の前の家でしたね。ハワイは11歳ぐらいから毎冬ひとりで行っています。
ノースにサーフィンの全てがあると思うんです。
ハワイは最初からシェイパーのウェイド・トコロにお世話になっていたの?
そうですね。小学生の頃とかは親と行ったりすることもあったんですけど、ちゃんとサーフィンするようになってからは、ずっとトコロの所です。
レオのサーフィン人生のなかで、ノースショアの存在は?
ハワイは自分の中でデカイですね。あの波は、ノースの波は凄いですからね。毎冬、世界中の凄いサーファーがあそこに集まるし、どんなサーファーも避けては通れない道だと思うんです。サーフィンの全てが、あそこにあるって思うんです。
トコロとの出会いが
そんなレオにとって、トコロとの関係は大きいんだよね?
いや〜物凄くデカイですね。トコロを通じてハワイの知り合いも増えました。サーフィンする時でも、どのポイントに入っても、ラインナップした時に挨拶できるってだけで周りの見る目が変わるんです。パイプとかに入っていた時に、凄いサーファーばかりいた時でも「ハーイ‼︎」とか挨拶できるだけで、周りの見方が違うんですよね。
ハワイのコミュニティに入っていけるというものあるし、あとCT選手とかもトコロのサーフボードをオーダーしにくるので、そういう面でも色々と知り合いになれたりとか、本当にメリットが大きいと思います。
今シーズンのハワイは自分的にはどうでしたか?
ん〜。波もなかなか良い時が少なくて、ちょっと難しかったです。全然満足はいかないです。でもパイプとかで乗りたい波や狙う波も定まって、乗り方も少し分かって来ているとは感じていますね。でもあの波でメンバーも全員トップという状況で、波に乗ること自体が大変です。
でも相当な数の波を食らったので、恐怖心はだいぶ無くなりましたね。今回も凄いワイプアウトがあったんですけど、あれもみんなが辞めたのをギリギリで板をひっくり返して乗るんで、レイトなテイクオフになっちゃうのは仕方ないんです。でも楽しいです。
今年のQS3,000ボルコム・パイプ・プロはどうだった?
去年よりは良かったですけど、ボルコム・パイプに掛けていたんで自分的には納得いかなかったです。ヒート中は4人だけでパイプをやれるチャンスでもあるし、もっとやりたかったですね。パイプで結果を残したいんです。だから結構ショックでした。
ボルコム・パイプが終わって、気分的にハワイ終わっちゃったかな?みたいな感じでした。ラウンドアップできた日はバックドアが良い日で、負けた日はパイプだったんですけど、綺麗なパイプだったから尚更ショックでしたね。
でも、あの7.33をスコアしたバレルは強烈だったんじゃない?
そうですね。でもプライオリティのタイミングと、自分がどのタイミングでプライオリティを持っていられるかっていうのが難しいです。狙いは悪くなかったんですけどね。パイプは1本でいきなり逆転できちゃう場所なんで怖いです。
昨年は世界のQSランクで119位。ここ数年で少しづつランキングも上がってきているよね。この2年ぐらいで体も凄く大きくなったし、サーフィンのスピードとか技のダイナミックさが一段とパワーアップしたと思うんだけど、特別なトレーニングとかやっているの?
日本にいる間はトレーニングしていて、トレーナーはアテネ・オリンピックの水泳で銅メダルをとった森田智己さんにトレーニング・メニューを作ってもらってやっています。
ハワイではタイミングが合えば、イズキール・ラウとかセス・モニーツとかが通っているジムへ行っていました。そこはUFCっていう格闘技のチャンピオンとかも来ていて、アスリートがたくさん来る場所なんですけど。今回のハワイではそこで何回かトレーニングしました。
今回日本のリージョナル・チャンピオンになったことで今シーズンの前半は、6000とか10,000のハイグレードの試合にシード権を得られて出場できるんだよね? どんな所を回る予定ですか?
そうですね。7月のUSオープンまで出れることになっていて、6000とか10,000は全て出る予定です。あと3,000とかも自分にあっている場所とかは、できるだけ出ようと思っています。3,000のマルティニークは、あまり良い結果は残せていないけど、波も良いし自分のサーフィンと合っている感じなので今年も行くつもりなんです。今年のスケジュールはちょっとハードですけど、チャンスなんで頑張るしかないですね。
そして、3年後のオリンピック。地元の千葉で開催が決まったけど。それに対する思いとかったら聞かせてくれる。
どのように選考が行われるかもわからないですよね。オリンピックというより、これまで通りWSLのCTへのクオリファイという目標に向かって頑張っていれば、それに繋がっていくことなのかなって思っています。どっちにしてもトップでないといけない話だと思うので。
今年の目標は50番以内でのフィニッシュ
今後の自分のサーフィン人生の計画とかあれば教えてくれる?
最近やっと考えるようになった感じですけど。選手もそう長くはやれないと思うし。とりあえず今年がんばって、目標としては50番以内でフィニッシュして、来年クオリファイ出来る位置に入りたいですね。オリンピックが終わる25歳ぐらいまでは必死に頑張りたいです。選手が終わってから何をやるかはまだ考え中です。
やりたいことは色々あります。でもやっぱり結果次第ですね。結果を残して実績がないと何も始まらないですからね。お金も着いてこない。試合で世界を回るのもお金がかかるし、体力的にも厳しい。若いうちだけだと思っているんですよね。だから今年、来年、再来年が勝負かなって感じです。今はやるしかないです。
彼のいつも絶やさない笑顔の裏には大きなプレッシャーが潜んでいる。稲葉玲王はそのプレッシャーをパワーに変えて、いま大きく世界に羽ばたこうとしている。小手先だけのテクニックだけでなく、目標とするハワイで魂を鍛えられ、自分のやるべきことを見極め深めていく。
どのような結果であろうが、常に自分の目標を設定し、何ができるか、何をすべきなのかを考える行動が次に繋がっていく。今年与えられたチャンスを生かすも殺すも自分次第。自分の力を信じて、大きく羽ばたけ! 稲葉玲王。
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取材協力:リップカール・ジャパン