生まれながらに類い希なる才能を持ち、それをアメリカという環境で開化させたカノア五十嵐。昨年、日本国籍を持つサーファーとして初めてCT(チャンピオンシップ・ツアー)へ出場。
そして、チャンスをものして今年再びCTで戦う機会を手に入れた。そんなカノア五十嵐が今シーズン開幕を前に来日。昨年のツアーのことやオリンピックのことなどサーフメディアのインタビューに答えてくれた。
世界のトップ34と戦うCT(チャンピオンシップ・ツアー)のルーキーイヤーはどうだった?
カノア五十嵐:やること全てが初めのルーキーイヤーは一番難しい時でしたが、多くのことを学べました。そんな中で最終戦のパイプ・マスターズでファイナルまで勝ち上がれてことが、昨年のハイライトでした。
念願のリクオリファイをし、今年CT2年目を迎えられる気持ちは?
去年、学んだことを活かしたいですね。サーフボードとかもコンテストが行われる波に合ったサーフボードを用意したい。スナッパー用にチューンナップしたり、フィージーにはもっとロッカーをつけるとか。細かいことですけど、去年の経験が今年に活かせるようにしたいですね。
去年CTを戦ってみて、サーフボードのチューンナップが必要だって感じたということ?
そうですね。CTの波は、QS(クオリファイ・シリーズ)やプロジュニアの試合が行われる波とは全然違うんです。スナッパー(オーストラリア)とかトラッソルズ(カリフォルニア)などでは、たくさん練習したことはあるんですけど、ヒートでのサーフィンは全く変わるんです。
気持ちも違うし、コンディションが良くなれば、乗る波も全く違う。だから、CTではQSで使っているボードと違うものを使う必要があると感じました。
ケリーに勝てたことは一生忘れられない。
昨年のCTのなかで一番印象に残っているのは、もちろんパイプでの試合だと思うけど。サーフィン界のキングであるケリー・スレーターを破ったというのは、どんな気分だったの?
ケリーはサーフィンの神様だから。ケリーと一緒にやるだけで本当に嬉しかったですね。しかもパイプ・マスターズのセミファイナルをケリーと戦うなんて夢にも思わなかったです。そして、ケリーに勝てたことは一生忘れられないと思います。
それからパイプでは、同じチームでハワイアンのQSサーファーであるジーク(イズキール・ラウ)のクオリファイがカノアの結果に掛かっていたよね。それはプレッシャーだった?
いつも自分が感じるプレッシャーとは別のプレッシャーが凄くありました。ジークは僕が負けても絶対に怒ったりすることはなかったと思うけど、友達のためにやりたいって気持ちでした。ジークとは一年中同じ部屋に泊まっている仲なんです。
今回ジークはクオリファイのギリギリのラインにいたので、ジークのためにも自分のためにも頑張ってみようって思いました。そして、クオーターファイナルで、ジョディ・スミスに勝つことが出来て。僕だけじゃなくて、周りに居たみんなが本当に喜んでくれたんです。
昨年は2度のQS6,000イベントで優勝。QSイベントには、これまでもたくさん出てきたと思うけど、CTを経験したことで、QSイベントの戦い方や、自分のサーフィンのレベルが変わったと思う?
自分自身のサーフィンは上手くなったと思いますけど、CTとQSは違うサーフィンの仕方だし、違う波で違うジャッジが行われます。もちろん使用するサーフボードも違う。イベントのなかにはQSのサーファーもいるし、CTサーファーもいる。同じスポーツですけど、全てが違うんです。そんな中で、どちらのイベントでも上手くやれたと思っています。
いまの自分のサーフィンスタイルを聞かれたら、なんて説明する?
スピードのあるサーフィンをするのが好きなんですけど、それでいてパワーのあるサーフィン。見ていて面白いサーフィンが好きなんで、それを目指しています。
カノアが一番影響を受けたサーファーは?
やっぱりケリー・スレーター。子供の頃からずっとケリー・スレーターのムービーとか、大会をずっと見てきて彼にインスパイヤーされてきました。ケリーのファンです。ケリーの白いウエットとかケリーのカットバックのスタイルとか、子供の頃から真似していましたね。
日本人としてオリンピックに挑戦してみたい。
最後にカノアは東京オリンピックに関して、日本人としてコメントを求められていることがあるよね。現在はカノア五十嵐 from USAって呼ばれているけど、これが fromジャパンってことになる可能性はあるのかな?
サーフィンの世界で言えば3回ワールドチャンピオンになれるチャンスもあるし、3年後というと、まだ少し時間があると思いますが、日本人としてオリンピックに挑戦してみたいです。東京という場所は家族の育った場所でもあるし、日本のファンにも喜んでもらえると思うので、目指したいと思います。
まだ、どんなフォーマットで選考が行われるかはわかりませんけど、チャンスがあれば日本でやってみたいです。
ありがとう。今年も応援しているよ。頑張ってね。
ありがとうございます。
アメリカと日本の国籍を持つカノア五十嵐にとって、気になるのはオリンピック出場時の国籍選択問題。現状ではオリンピック憲章46の項目の一つに「同時に2つ以上の国籍をもつ競技者は、自己の判断により、どちらの国を代表してもよい」とあるが、サーフィンの国際競技団体による取り決め等はまだ明確になっていないのが現状だ。
今回の来日で行われた、TV、新聞などの一般メディアを含め、サーフィン専門メディアなどの取材で語られたカノアの意思は、「オリンピックに日本代表として出場したい」ということだった。
このインタビューが行われる前に、日本のサーフィン連盟が合同で決定した81名の「2017年 強化指定選手」にカノアの名前がないことに疑問を抱いた読者もいたようだが、これはあくまでも2017年度のものであり、強化指定選手は毎年、成績などにもよって変更が加えられていくもの。
今年の日本代表を決める強化指定選手の選定基準を見れば、そこにカノアが入るものではないのがわかる。ただ日本国籍を保持するサーファーとして、世界のトップ34と肩を並べて戦っているのは現状としてカノアしかいないことは誰もが認める事実である。
日本のサーフィン連盟関係者は「サーフィンというオリンピック競技の表彰台で日の丸が掲げられるかというのが重要なんです。それに向かって最善を尽くしたい。」と、コメント。
「ただ現状ではオリンピックでサーフィン競技が行われるということが決まっただけで、これから色々な事を決めていくという段階。サーフィンが初めてオリンピック競技となり、選手の教育なども含め、今後やらなければならないことだらけなのです。」とコメント。
オリンピックとしてのサーフィン競技。まだまだ課題は山積みのようだが、ひとつひとつ解決して次のステップに進んでいくしかない。
今回のカノア五十嵐の正式な日本代表としての意思表明を受けて、各連盟では今後の対応を検討していくことになりそうだ。兎にも角にも、サーフィンというもののスポーツ振興を図る上でも、代表選手選考は、公平で透明性の高い方法によって公正に実施されることが不可欠なのだから。
取材協力:クイックシルバー・ジャパン