ディスカバリーインドネシアⅡ〜第3弾北スマトラ、バンダアチェ前編。「想定外は想定内」
再開された「ディスカバリーインドネシア」。東西南北、四方を海に囲れ、年間を通じて良質なスウェルが打寄せるインドネシアの知られざる波の魅力 に迫る。 2シーズン目を迎える今年も、世界が認める有数なサ-フィンデェスティネ-ションをクロ-ズアップし、年間で5つのロケーションを紹介していく。 未だ見ぬ魅惑のサーフスポットへの旅を楽しんで欲しい。シーズン2の第3弾は、北スマトラのバンダアチェ。
アチェの人たちの心の傷は癒えているのだろうか。街は復興しているのだろうか。
アチェに行くことになった。ディスカバリーインドネシアというこの企画のおかげでボクはイドネシア中を旅させてもらっている。この旅を主催してくれているOMツアー、波伝説にはもうこのまま永遠に頭が上がらないという心境にすらなっているのだ。
アチェといえば2004年のスマトラ沖地震で甚大なる被害を受けた被災地としてのイメージが強く心に残っている。たしか、あのときの津波被害で相当な数の人たちが命を失ったはずだ。あれから11年の月日が流れている。アチェの人たちの心の傷は癒えているのだろうか。街は復興しているのだろうか。今回の旅では『波』より先にそういった様々なことが脳裏をかすめていったのだった。
まったくインドネシアという国はおおらかというかいい加減というかテキトーというか日本の常識などまったく通用しないお国柄だ。バリ島ングラライ空港国内線の電光掲示板に表示されているゲートナンバーですら、そのまますんなりと信用してはならない。
この日も結局掲示板に表示されていたゲートナンバーCからではなくAに変更になった。だいたい、『ングラライ空港』とはナニゴトだ。『ン』から始まる言葉などあってはならないはずだ。そう小学校で教わったではないか。だからこそシリトリは『ン』がついたら負けなのではあるまいか。そんなことをブツブツいいながらゲートAをくぐり飛行機に乗り込んだのであった。
心躍らせたのはほんの束の間のことであった。
バリ島で暮らすボクにとってアチェは国内旅行ということになる。しかしインドネシアは同じ国の中に時差があるほど広大な国土を有している。朝の早い時間にバリ島を飛び立ったわけであるが、バンダアチェ空港に降り立つころにはすでに陽が傾き始めていた。
サーフボードを車の屋根にくくりつけて我々がお世話になる「OZハウス」に向かった。空港から約20分で着くということだったので夕方のセッションには間に合いそうだった。初日にほんの少しでも海に入れると移動の疲れが取れるのでありがたい。
インドネシアのサーフスポットは往々にして空港から長時間のドライブを強いられることが多い。それに比べると20分というのは、なんとも体に優しいディスティネーションだろう。しかし、「いいじゃん、アチェ」と心躍らせたのはほんの束の間のことであった。
ポツリと雨粒が車のフロントガラスに当たったと思いきや、いきなり南国特有のスコールに見舞われてしまったのだ。「ワシら本気じゃけえ」といった具合の凶暴な雨粒が我々の車を叩きつけた。サーフボードを縛っていたロープから雨水が滝のように車中に流れ込んできた。
あえなく走行不能となり車ごとの雨宿りを強いられることになってしまった。「早く行かないとサーフィンできないぞ」と焦りつつ時計に目をやると4時を過ぎていた。鉛色の空を見上げ、チェッと舌打ちを一つして雨がやんでくれることを祈った。
またしても想定外の出来事が・・・。
30分ほどで雨脚が弱まってきたので「よし、もう行こうよ」とドライバーを急かし目的地へと再び車を走らせた。よしよし、5時には海に入れそうだな、まずはフィンを付けて、ワックスはどこに入れたっけかな、などと考えていると、またしても想定外の出来事が・・・。
雨で視界を失った二人乗りのバイクが我々の車の腹に追突してきたのである。バイクに乗っていた二人は路上でヒックリ返っているではないか。当然放っておくこともできず救出活動へと借り出されていった。
幸運なことに雨でうまい具合に滑ったのか、かすり傷程度で大事には至らなかった。再び車に乗り込む。時計に目をやる。すでに時計の針は5時をまわっていた。海に入れるのか?微妙なタイミングになってきた。
というわけで今回の旅でもやはり「ナニカ」が起きそうな気配を全身で感じつつ、沈みかけた太陽と争うように海へと向かったのであった。
後編に続く。
バリ島在住プロサーファー。2000年〜2007年までJPSA(日本プロサーフィン連盟)ロングボードツアーでシード選手として活躍。その後、雑誌、webなどで執筆活動を行い、サーフィンや旅をテーマに啓蒙活動を行っている。
有本圭のブログ→ http://sw-players.com/
サーファー&フォトグラファー。最高の波を求め1994年にインドネシアのバリ島へ移住。バリ島をベースにインドネシア各地で水中撮影をメインに活動、 サーファーの視点から自然の素晴しさを伝える作品創りに努める。
Nobu Fuku Photography http://www.nobufuku.com/
協力:波伝説、ガル-ダインドネシア航空、BLUE、OMtour、オ-シャンゾ-ン OZハウス