緊急特集。Strong Brazilian
ブラジルの強さの秘密はどこにある
今シーズンのASPは、ブラジリアンのガブリエル・メディーナが、ワールドチャンピオンのジョエル・パーキンソを下して、開幕優勝を果たすというセンセーショナルなスタートを切った。完全なアウェイにもかかわらず、会場は歓喜のブラジリアン達が圧倒。そんなブラジリアン・パワーの源を探ってみた。
interview & text by Emiko Cohen photo:ASP, GORDINHO
世界の舞台でのブラジリアンの活躍が著しい。勢いに乗るガブリエル・メディーナをはじめ、今回のWCT開幕戦でも3位となり、開幕前の6スターでも優勝したエイドリアーノ・デ・スーザ、エアー系の最新のマニューバーを組み入れたパフォーマンスをみせるフリーペ・トリード、ミゲール・プポ、パワーハウスのラオニ・モンテイロ、アレホ・ムニーツ、ジャドソン・アンドレなど。若手たちも続々とWCT入りを果たしている。
選手の数から分析するとオーストラリア勢には叶わないものの、アメリカ勢(ハワイを除く)を完全に追い越してしまっているのだ。サーフィンが普及したのはアメリカに比べて一足遅かったからこれは改革的な事だ。
また、サーフィンの歴史という意味では、ほぼ同じだったはずの日本とブラジル。勢力を伸ばし続けるブラジルに対し、日本から今まで誰一人としてWCT入りを果たしたものはいない。なぜにこんなに差が出てしまったのかを、来日の経験もあるブラジリアン・ジャーナリストで、ビクター・リーバスのコーチングも勤めたリカルド・ボカオ氏に見解を聞いてみることにした。
このところの世界の舞台でのブラジリアンの活躍が目立っていますけど、その理由はなんだと思いますか。
いろいろな理由が重なって、こうなってると思うんだ。まずは理由1《地理的な理由で波乗り人口が多い》ということ。ブラジルの国を地図でみてくれ。海岸線ばかりだよね。海岸線は切り立った崖ではなく、ほとんどの場所が砂浜なんだ。ようするにビーチブレイクがあちこちにある。しかもその海岸線にはハワイのワイキキの様に住宅地が広がっているんだ。ビーチブレイクの優しい波が割れる近くに家が密集している。だから波乗りをやる人間がものすごく多いんだ。
理由2つめは《サーフィンメディアが成功している》ということ。 25年前は海外に出なければトップレベルのサーフィンをみることが出来なかった。けど今はテレビでもサーフィンの番組を24時間やっているし雑誌も何冊もある。もちろんインターネットも充実してるから若手サーファーたちが絶えず上手い連中の演技をみて刺激を受けることもできるんだ。世界のあちこちを廻ったけど、たぶんブラジルほどサーフィンメディアが充実している国はないと思うよ。
理由の3つめ。《コンテストが充実している》ということ。地元の子供たちが気軽に競える様に《エントリー費ただのサーフィンコンテスト》が国のあちこちで行なわれているんだ。地元の大会で勝ち上がった子供たちは州の大会への出場権を貰える。州の大会で勝ち上がれば国の大会の出場権を貰える。国の大会で活躍すればスポンサーがついて海外の大会に出場できるようになる。どの子供たちにも平等にプロへの階段を登れるチャンスがセットされているんだ。
理由4つめ。《80年代のサーファーが上手く活躍してくれた》から。80年代にちょうどエコノミーが充実していた頃、サーフィン市場も満たされていたからファビオ・ゴーベイヤ、ピーターソン・ロサ、フラビオ”テコ”パダラッツ、ビクター・リーバスなどのブラジル国内でトップの成績を出す連中が海外ツアーを廻れる様になったんだ。ファビオやテコはいきなり海外で活躍し、結果を出してくれた。それがブラジル国内のサーファーのもの凄い刺激になったんだ。
《やつが出来るんだったら俺にも出来る》ってね。世界で活躍するから今までサーフィンを扱ってなかったメディア、とくにテレビなんかが、飛びついてきたんだ。世界で活躍した奴らのサーフィンがテレビでもやるし、地元でもみることが出来る。子供たちにとってはもってこいの条件になったんだよね。《俺も世界を目指すぞ!》と意気込んで地元のサーフィン大会で自分を試せる。良いサイクルが出来上がったというわけなんだ。
理由5、《ブラジリアンの性格》だね。ラテン系の血が流れるブラジリアンたちは、性格がアグレッシブ。すぐにエキサイトするし夢中になる。そんな熱くなる性格がコンテストシーンで上手く作動していると思うんだ。
理由6は《波に恵まれている》ということ。一年中、海水が温かいし、誰でも楽しめるファンウエイブがある。思う存分に練習できる波があるというのは最大の強みだと思うよ。
大きな大会で活躍すれば、スポンサーがついて生活が楽になる
ブラジルは貧富の差が激しいと聞いてますが、世界に出れるサーファーは裕福な家のサーファーということになりますか。生活環境の厳しい場所からは選手は生まれにくいのではないですか。
『ノーノー。実は出てきているんだよ。地元の大会はタダで出れるし、サーフィンスクールも地元の行事としてボランティアで子供たちに施しているベテランサーファーもいるし、板を寄付するシェイパーもいるから、家が貧乏な子供たちでもサーフィンを体験できる様になっているんだ。
大会に出て活躍すればスポンサーがつき、大きな大会にも出れる様になる。大きな大会で活躍すれば、スポンサーがつくから、生活も楽になることも多々ある。皆にほぼ平等にチャンスが与えられているんだ。代表例をあげればジャクリーン・シルバ。彼女の家族はビーチの小屋に住んでいたんだよ。彼女が活躍したお陰で家族みんなで小屋でなくて家に住める様になったんだ。』
しかし、トップになるには専属コーチとかが必要になり、そのような費用を出せる家庭でないと難しいですか。
『アメリカだと高いお金を出してコーチングを受けている人がいるっていうのは聞いたけど、ブラジルはその点まだまだだよ。それでも世界に出て活躍しているブラジリアンが多いってことは、コーチの必要性はないんじゃないかなと思うよ。やっぱり個人の意思、やる気だと思うな。これだけ情報が出回っているんだから、上手くなるタクティクスのゲットは簡単だと思う。コーチに頼らなくてもね。』
人間として出来てなかったら成功はしない。
でもボカオさんは、ビクター・リーバスのマネージャ兼コーチもやっていたんですよね。キッズたちに本格的にサーフィンさせるとしたら何歳くらいが適齢だと思いますか?
『俺は14歳から17歳くらいだと思うよ。14歳前は、まだ人間として出来てない時期だから、たとえばツアーに連れていっても、不安の方が大きくてサーフィンに集中できない。早くから成功したらしたで、鼻ばかり高くなってすぐに消えていくし。悪い方向に向かうってことが多々あるからね。小さい時にはサーフィンというよりも、サーフィンをやりながらも人間形成に力を入れた方がいいと思う。結局プロになったとしても言葉が上手く使えなかったり、、、それよりも人間として出来てなかったら成功はしないよ。』
日本人は言ってみれば大人し過ぎるのかもしれない。
ところでブラジルアンと同時期にサーフィンがメジャーになった日本。ボカオさんは日本にも行ったことあるから、どの様な環境だかわかっていると思いますが、今だに日本から世界でコンスタントに活躍する選手が出てきてないのはどうしてだと思いますか?
『う~~ん、、、わからない。。。。日本にはシェイプの為に2ヶ月滞在したことがあるんだけどね。ものすごく良い人たちばかりだった。しいていえば、そういうところなのかもしれないな。例えばアメリカとオーストリアの人間を比べてみるとする。アメリカからはケリーの後に繋がる人間が出てきてないが、オーストラリアからは続々と強い選手が出てきている。
自分の頑張りで生活が楽になるんだと確信した子供たちの勢い。
人種を分析してみると、アメリカ人は洗礼されているけどオーストラリアの人間はワイルド。オージたちは大声で喋り、やる波も大きいし、ときにはシャークと戦いながらサーフィンしなければならない。試合の場面ではワイルドでラフな人間の方が強いんだ。日本人は言ってみれば大人し過ぎるのかもしれない。それとハングリー精神だろうな。ブラジリアンはチャンスがあれば、かぶり付いていくタイプ。
というのはブラジルは、日本に比べるとお金に余裕がない。日本人たちには選択肢が用意されてる。《もしサーフィンでダメだったら学校で勉強し直してビジネスマンになろうとか、医者になろう》とか。でも選択肢がないのが、ほとんどのブラジリアンの実情だ。もしサーファーとして成功しなければ、また日々の厳しい暮らしに戻るだけ。だったら是が非でも成功させたいと思うんだよね。実際に見ていてもの凄いよ。
例えば地元の大会で勝った子供のリアクションなんて。ヨレヨレのトランクスで波乗りしていた子が、勝って表彰台で新しいTシャツと新しいトランクスを賞品として手にしたりするわけ。涙流して喜んでるよ。勝った事以上に新しいトランクスを貰えたことが。《自分の頑張りで生活が楽になるんだ》と確信した子供たちの勢いは停めようと思っても、そう簡単には停められるものじゃない。(笑)。』
最近は、ブラジルで世界大会が開かれることが多いですよね。6スターとかWCTも行なわれているし。
『ブラジルはデカイ。しかもサーファーが多いから、サーフィンブランドを成功させるのには、もってこいの場所なんだ。スポンサーにお金が潤えば世界大会をも招くことができるって絡繰り。』
ちょっと余談になりますが、ボカオさんは今ブラジルでサーフィンのテレビの作成をしていましたよね。
『もう初めてかれこれ20年近くなる。今はケーブルテレビで24時間のスポーツチャンネルを作っていて、サーフィンだけじゃなくスケートなんかのエキストリームなスポーツを取り上げて、若者にうける番組を作っているんだ。ケーブルになってからはチャンネル登録者がどんどん増えて、今や十二万人の人が俺たちが作る番組をみてくれているよ。』
独自のトークショーもやっていたと思いますが、オッキーが出演したときは、薬物にハマっていた時代などのシビアな質問を本人に直接ぶつけて感心しましたが、印象に残っているインタービューはありますか?
『うん、通常は一人だけでなく二人の有名人を呼んで話を聞くんだけど、一度ラリー・バートルマンとトム・キャロルを呼んだことがあるんだ。その時に印象に残っていることといえばラリーに《長身だという事が大きい波に役立つの?》と聞いた。
そうしたら《大きくても小さくても、どの様にどのバランスで板に乗り、どの様に波にアプローチするのかだから、自分の身体の大きさは全く関係ないよ》という答えが返ってきて、なんだかそれがとても印象に残っているんだ。トムには好きなサーフスポットはどこかと聞いたら直ぐさま《パイプライン》という答えが返ってきた。世界のどこを廻ってもパイプに叶う場所はないと。』
ちょうどボカオ氏と話をした一週間後、ビッグ・ウェイバーで知られるカルロス・バーリー氏と話しをする機会に恵まれた。ギネスに乗るか乗らないかのポルトガルにあるナザレの大波に乗り、アメリカで一番メジャーなニュース番組”CNN”でインタビューされた彼。《巨大波に乗る》という分野でも日本は世界と水をあけられているが、彼から何らかの答えが出てくるんじゃないかと期待して話しを進めてみたのだ。
『とてつもなくデカイ波に乗るということは、命のリスクも考えなければならない。それでもチャージをする為には自分を見失ってはいけないし、それだけでなく家族(廻り)に理解してもらえる=廻りの人を理解できる力も必要になってくるんだ。人間としてデカくならなければ、大波には乗れないんだ。今、若手を育てている中で《サーファーである前に人間として立派であること》は肝に銘じるように伝えている。』
ボカオ氏の話にも出てきた様に《人間力を鍛えられる》ことが、
日本人サーファーが殻を破って世界に飛び出す鍵になるのかもしれない。