辻裕次郎・インタビュー
2011年の裕次郎は国内を廻らず、海外中心の転戦を選んだ。ASPワールドランキングは、大野修聖の74位に次ぐ131位。本人自身は納得いかない結果だったものの、昨年、誰もが認める一番成長した選手だ。
帰国の合間、日本ではフリーサーフで台風の波を当てるものの、JPSAの大会には一切出なかった。そして、ツイッターでの脱原発の発言など。注目は浴びるものの、マスコミでは取り上げられることがなかった。今回のインタビューは、サーフィンだけでなく、その時、裕次郎が何を感じ、何を考え行動し、実現しようとしていたのか。
今、初めて明かされる、生の裕次郎の言葉を聞いてください。
Photo : Sadahiko Yamamoto 、Kenji Sahara
Text : Sadahiko Yamamoto
▶世界で131位という結果について |
「自分のやりたいスタンスでヒートができるようになりました。」
Q .先ずは昨年、世界を中心に廻ったよね。 一人で廻っていた所もあるようだったけど、131位という結果についてはどう? もっとやれたとか? 自分は見ていて、前に比べて攻め方とか、自信持ってやっているように見えたけど。 海外はだいぶ慣れてきましたね。昨年、一人で廻ったところは、ポルトガル、サンフランシスコ、サンタクルーズ。一人は不安があるけど、出られるならチャンスだし、前に鉄ちゃん(田嶋鉄兵)に連れていってもらったし、現地にマー君(大野修聖)がいたりしていたので。ドキドキしますけど、それでもなんとか行けました。 そう、フィンケースの件(ポルトガルでサーフボードから外せないという事件)もある意味、強くなりました(笑)。英語は必要最低限、何とかですね。向こうにいれば慣れるんですけど、日本に戻るとダメです。今は勉強中です。でも、ランキングで言えば、はあまり変わっていないですから、まだまだです。ただ、徐々にフリーサーフィンじゃないですけど、自分のやりたいスタンスでヒートができるようになりました。
Q .何か掴んだのかな? それとも、変えようと思っていることとかあるの? 変えていこうと思っているのは、少しずつ吸収しているので、変わっていると思うんですけど、やはり、なるべく固まりたくないというか、無難なサーフィンじゃなくて、そのコンディションや条件でできる技を、続けていきたいと考えています。 |
▶デーン・レイノルズとの旅 |
「みんな同じ考え方、スタイルでなくてもいい。」
Q .昨年、デーンレイノルズと一緒に旅したよね? そこで何かインスパイヤーされたこととかが影響あるの? それはけっこうあります。インスパイヤーされたこともあるんですけど、気付いたことがあって。デーンはトレーニングしてないんですよ。それで世界の5番になって。それを考えたら、サーフィンセンスの方が、やはり重要なんだなって。 トレーニングは大事なんですけど、もっと自由であるべきだと思ったんです。海外はサーフィンレベル高いし、考えが広い気がするんですよね。いろんなサーファーもいてるし。だから、こうじゃないとダメという考えも、いらんのじゃないのかなって。 あいつはあいつで自由にやっていて、身体は外人だから勝手に骨格がでかくなって、トレーニングやらんでもパワーのある身体なんですけど、その他の外人はトレーニングしてるじゃないですか。でも、トレーニング無しで生き残っているのは、やはりセンスがあるからで。自分が思ったラインを描いてきたからであって、そういう部分でも型にはまらない方が、後々、自分の色が出て、いいんじゃないだろうかって思ったんですよね。
Q .一番得たものは、そこかな? こうじゃなきゃではなくて、もっと自由にやること? そうですね。一緒にいて、あいつらの生活、スタイルも知れたし、すごく忙しい生活の中でも地元に留まっていないというか。四国にサーフィンしに来たり、US OPENのギリギリ前に帰ったり。それで、ヤンディンもコロへも2番、3番という結果残して。それを考えたら何か自分が思ったようにしていくことが、最終的には後悔せず、自分が求めていることに出会えるんじゃないかなって。 海外廻り出して、自分のやり方が出来て来て、この成績では、あまり偉そうなことは言えないですけど、今は自分で合っている方かなって。やりやすいようにやること。型にはめるということじゃなくて、自分ができると思った部分に対してやっていくことですね。個人個人でやり方が違うのは、当たり前ですから。みんな同じ考え方、スタイルでなくてもいいのだって。それを改めて今回、確信しました。
Q .じゃあ、それを試合の中で活かしていけたらって考えたの? 勝たなくては、食っていかれへん中で、試合に出ているじゃないですか。でも、実は自分、試合は好きなんですけど、フリーサーフィンがもっと好きで。テクニックやって、一般の人にサーフィンって、こんなんできるんやって部分を知ってもらいたいんですよ。 実際、試合に勝って優勝というよりも、そっちの方が楽しいし。サーフィンを始めた時、そこにはサーフィンを楽しんでいるという気持ちがあるんですよね。だから、みんなに「魅せて」の満足感もあるし。本当のサーフィンの凄さを知って欲しいというのがあります。 だから、試合で普通にやって、それが、自分のサーフィンと思われるのも嫌なんです。なので、試合では思いっきりやって、ダメやったらダメで。自分のサーフィンが、みんなと違うスタイルなんだってところも見せたいと思っています。
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▶JPSAを一戦も出なかった理由は |
「自分の態度でそれを示したんです。」
Q .さて、話題を変えて。昨年は世界を廻って、スケジュールの問題もあったけど、JPSAを一戦も出なかったよね。その理由は何なの? これについては、震災があって、僕個人から見て、今はそう言う方向じゃないのかなって、感じがしたんです。USTREAMとか新しい方向で、頑張っている人もいて、協力したい面もあったけど。やはり、賛成できない部分もあって。なので、今の体制のままでは出る気はなかったです。海も心配だし。で、それをこう主張していくんやったら、やはり自分が出るのはおかしいし。だから出なかった。みんなにはやっぱり海に入って欲しくないから、自分の態度でそれを示したんです。
Q .JPSAの東北復興と支援について。 これについては異論無いけど、震災の地域のそばで大会をやるってことについて、意義有りだったのかな? あの時点では何がどうなっているか、わからなかったし。確かに「やる、やらない」の二択じゃなくてもいいよね。 絶対みんな無知だったわけじゃないですか、しかも何をしていいのかわからん状況で、だからもっと話し合うべきだったと思うんです。それで、それを引っ張っていくのが、日本のプロサーファーをまとめているJPSAの役目だと思うし。 海じゃなくてもできることあるはずですし。大会やらなくても、そこにプロが来てサインするとか、そこからでもいいのかなって。もし、その時、海で開催するのなら、イベントみたいにして、チャリティー、お祭りでもいいんじゃないのかなって思うんですけど。
Q .裕次郎は震災後、何を考えたの? なんか、いっぱいいっぱいになってしまって。そんな風に言うとおかしいですけど、自分は無知やったなーと。なんも知らなくても、誰かがやってくれるというか、勝手に成っていくと思っていた部分もあるし。 いつも行っていた場所に行けなくなって。四国から上、太平洋は一切入らなかったです。日本海なら京都に入ったのと、南は四国、宮崎だけですね。 なんか複雑ですよね。こういう発言していたら、批判しているように捉えるじゃないですか。でも、こちらとしては、ただみんなに安全な方にいって欲しいだけなんですけど。
Q .ツイッターでいろいろな意見をつぶやいていたね。それに対して何か言われたりしたの? いや、同じ意見の人が多かったです。でも、プロサーファーからは、何人かはいましたけど、あまり反応なかったです。なんですかね、茨城とかの試合に出ているからなんでしょうか。一般の人は「そうや」とか、「それをサーファーが率先してやっていかな、あかん!」っていう意見があったり。それを見ていたら、住んでいる場所が違うからなのか、みんな言えないだけなのかなって。最終的には自分の考えを貫いた方がいいのかなって、考えるようになりました。 |
▶海をフィールドにしているサーファーとして、何をやらなければならないか |
「サーファーが社会に溶け込んで行く、きっかけになると思ったんです。」
Q .海をフィールドにしているサーファーとして、何をやらなければと考えたの? 海は避けて通れない問題ですよね。自分たちの生活じゃないですか。漁師はものが売れんようになると抗議したけど。もちろん、僕らも生活がかかっているんですけど、陸にいてるのと全然違うじゃないですか、海に浸かっているから。そこはまったく未知ですし。僕らの場合、さらに直接健康にも影響でるだろうし。それ考えたらやはり、サーファーがこの問題に係わっていくということが、今、一番大切なのかなって。逆に今やから、サーファーが認められるチャンスでもあるし、社会にとけ込んでいくきっかけになるかもしれないって思ったんです。
Q .この事で、今の自分のサーフィンの在り方みたいなものが、改めて自覚できたのかな? でも、それを通すのって度胸いるっていうか、やっぱり辛い部分もあります。発言に対しては、絶対に責任を取らなきゃいけないし。やはり、そこって自分で一歩踏み出すのは難しいですよね。だけど、それが昨年は、いろんな面で覚悟が決められて。自分が今まで逃げていた部分もそれで後押しされたというか、行けるようになって。でも、元々、僕はそういうのは好きじゃないんですよ。批判もされるし。今までは当たり障りないようにやっていたんですけど。それじゃダメだって。吹っ切れたというのは難しいですけど、でもそうやっていかないと何も変わらんと思うし。
Q .変えていくためには、まず自分を変えていかないと? でかいこと言ったら言ったで、それなりの結果を残さないと更に言われるし。気にしなかったらいいんですけど、やはり自分の性格上、打たれ弱いところもあるんで(笑)。まあ、そこも今回で覚悟できたというか。それぐらい、何て言うんですかね、今までじゃない自分がいました。 |
▶日本のサーフィンについて。 |
「基本は海外中心で、スケジュールが重ならなければ、日本の大会は出ます。」
Q .今年はどうするの? 海外中心にまわるの? 今回のことで、海外だけを廻るきっかけになったという部分が、正直あるんですよね。だから、基本は海外中心で。でも、スケジュールが重ならなければ、日本の大会は出ます。JPSAは選手会、ミーティングがあれば、出たいと思っています。でも、試合は今の所は出る気はないです。何か変わったところ、ライブとかじゃなくて本質的な部分が、もっと選手のことを考えてくれるようになったら、また出ようかなって思っているんですけど。 やはり、世界へ行けるときは今じゃないですか、言うても。何年かしたら30歳を超えるし。そこからやっても、今、やっていないと意味ないと思うし。できるだけやってみて、それで納得したいなって。実際、そこからですもんね、始まりは。そのきっかけをつくるのも、自分で決めることだし。今、そういう全体的な部分でやっと、自分がどうしたいというか、一番重要な部分が見えて来たとこです。
Q .では、日本のサーフィンについて。どうしたらいいと思う? みんな実は考えていると思うんですよね。協会を統一したらとか。でも、なんか折り合っていないというか、マイナス面が多過ぎて。ジャッジにしても違い過ぎだし。必要なのは、いろんなとこを噛み合わせないとダメだと思うんですよね。海外廻っていて、国内に帰ってくると基準が違い過ぎなんです。国内だけで勝てる基準を作っているからダメだと。それをやったら、国内だけで出来上がっちゃうじゃないですか。 それと、自分も前はそうでしたけど、選手にも甘えがあるというか。国内だと、回りはみんな見た顔で、優勝したらチヤホヤされるし、賞金ももらえるし、満足感も得られる。でも、それって楽しいだけで終わっちゃっているような気がします。自分の中で厳しいところに持っていくことが無くなってくると思うんです。 あと、選手自身が変わるのも必要ですけど、言うたら一番レベルの低い国で、ヨーロッパにも抜かれて、そこで何が違うかと言えば、世界へ出てほしいという日本のサーフィン関係の気持ちが薄いというのがあります。日本の中は、それはそれで自立していて、ビジネスを回していくことに対して、自分たちの中だけで出来上がっているからですかね。でも、海外はそこへ投資していくじゃないですか。日本は業界が上辺だけでなく、真の応援が必要だと思うんです。十分そのパワーというか、お金というか、メーカーが本当に海外へ出て行くサーファーのことを考えていけるようになるかどうか。やってくれたら間違いなく世界へ行けるようになると思います。
Q .では、選手自身について。国内でいいやって思っている人がたくさんいるよね。どう思う? 実際、海外を廻っていても、日本だけ廻っている選手と同じ給料で変わらないと思うんですよ。そうなると、辛い思いして世界を廻る人は、正直、出てこないと思うんです。でも、それじゃダメだって。 自分も国内を廻っていたし、自分もみんなと同じようにやろうと思えばできたんですけど、外に出て、それがわかったんです。でも、こういうこと言うと「海外廻れているから言えるやん」みたいなこと言われるんですけど、それは確かに自分が海外を廻れているからであって、他の人が廻れないからですけど。でも、逆に言えば、海外廻っている人にしか言えないことがあると思うんですよね。だったら、自分の言えることを言うべきかなって。 変えるのは自分自身。自分の中で個人個人が気づいて変われるんだということを言いたいです。それを変えるためにも自分が変わらなきゃいけないんです。 |
▶自分の目標について。 |
「今までマー君以外にメイクしてこなかった成績を出したい」
Q .最後に。自分の目標、目指すとこというか、夢というのはASP WT(ワールドツアー)とかかな?その為にやっていることとかはあるの? 自分はWTとかについては、言えないですよね。その圏内にも、いてないし。マー君の位置ですら厳しいし。自分は100番の中にも入っていないから。 今でもやりたいことは、とにかくランキングもあるんですけど、ベストを尽くしたいというのと、一番思っているのは、自分の中で年間ランキングというよりも、一つの6スターとか、一つの試合で、例えばファイナルとか、セミファイナルとか、やはり、今までマー君以外にメイクしてこなかった成績を出したいかなって。それによって自分も変わるし、それでまた回りも裕次郎が勝てるんやったら、俺も勝てるという選手が出て来てくれたら、もっとうれしいし。 一回、一回の試合で出していく目標という意味で。最初から全部うまくいかないですけど、マー君みたいに一段ずつ階段上がって、だんだんアベレージで何試合か残せるようになったと思うんで。それやったら一つの試合で勝たなって思っています。 そのためにやっていること、それが今のヒートのやり方っていうか、思いっきりやることです。自分がうまくマッチしたらいけるという自信もできたし。そういう部分で試合は、常にノッていきたいです。その結果を残していったら、次の目標としてWT(ワールドツアー)は、出てくるるかもしれないです。
Q .昨年、大きく変わったのは、サーフィンだけでなく、考え方やスタイルすべてなんだね。自分で自分を認める勇気を持てた。日本のサーフィンもそこかな。もしかして、みんな変わらなきゃいけない、変える時期なのかもしれないね。 震災を経験して、日本とか日本人としての気持ちが強くなったかもしれないですね。プロサーファーで食っていくなら、子供たちに夢を与える以外に一人の国民、日本人として考えていかなきゃいけないと思っているし。 |
▶あとがき |
辻裕次郎、26歳。 昨年、ツイートでも話題を呼ぶ。 自分は知らないことが多過ぎたし、考えなさ過ぎた。 ダメなとこを認め、それをさらけ出した。 だからこそ、改めて自分のサーフィンをやっている意味。 コンペは勝ち負けの世界だが、自分との戦いでもある。 裕次郎はさらに強くなろうとしている。 自分はこのインタビューで勇気をもらった。 ゴー!ユウジロー! |
▶辻裕次郎: |
スポンサー:303 Surfboards、Be Wet、Volcom、Tools、NIXON、Def Tech、H.L.N.A
今月出場予定のコンテスト 3月12~18日『Burton Toyota Pro – 6 star』at Newcastle 成績
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