脇田貴之インタビュー「パイプラインに自分の名のついた居場所を持つ男」

脇田貴之インタビュー

パイプラインの波に魅せられ、20年余り。その波を常に追い求め続けてきた、 日本が誇るサムライ・サーファー「タカユキ・ワキタ」。そんな彼の姿を18年もの間、海の中から見守り続けてきた、日本屈指のサーフィン水中カメラマンである神尾光輝。お互いをリスペクトし合う二人だからこそ実現したインタビュー。神尾光輝が脇田貴之の心の中を解き明かした。

 

脇田貴之インタビュー/撮影、インタビュー:神尾光輝

 

Q :今シーズンもエディ・アイカウ・メモリアルに招待されましたが、率直な気持ちはどうでしたか?

 

A :未だ信じられない気持ちですが、ほんとうに「感謝」の気持ちでいっぱいです。やっぱり自分がサーフィンを続けて来て一番、光栄に思います。

 

Q:ちなみに、このエディ・アイカウ・インビテーショナルはどうやって選考されるのかな?

 

A :聞いた話しでは、まずアイカウ・ファミリーの中で意向が決まり、その他、ジョージ・ダウニングさん、クイックシルバー関係者、他ワイメアにゆかりのあるサーファーなどの意見も入ると思います。その辺の詳しいところまでは把握してないですが、そう聞いてます。今年で6年目の招待になるんですが、その中で1度だけオンして参加させてもらった年があって、その年以降は、9月頃に世界の名だたるビックウェーバーたちのリストがメールで送られて来て、その中から28人のメイン・イベントサーファーと28人オートネサーファーを選んで送り返します。そして11月頃に突然メールが送られて来るんです。

 

脇田貴之インタビュー
ワイメアで行われたエディのオープニングセレモニーで世界のビッグウェイバー達と肩を並べる

 

 

Q そのメールは直接本人に送られて来るの?と言う事は、それぞれ本人が一番に知らされるの?

 

A 今までスポンサーなどを通して聞かされた事はないので、そう言う事だと思います

 

Q 今シーズンはワイメアでサーフィンしましたか?

 

脇田貴之インタビュー
パイプラインで世界的にリスペクされる脇田貴之

 

 

A 2012年の年末辺りのスウェルでやりました。年末にワイメアサイズになったのですが、そのカミングアップのパイプラインで怪我をしてしまって、その時のスウェルでは出来ませんでした。でも、その数日前のスウェルでワイメアが15フィートぐらいになった時にサーフィンしたんですよ。それほどサイズはなく、潮の動きかスウェルピークか分からないけど、セットで18フィート、20フィート近い波がブレイクし始めて1本だけど18フィート以上のセットに乗れたんです。それは自分の中でもいい感触で今まで培って来たものが出せて、それなりに満足できる1本でした。

 

 

Q 今シーズンのノースショアの波はどうだった?

 

A パイプラインで言えば、けっこう出来ましたけど、ワイメアで言ったら全然ダメでしたね。そのエディが1回オンされた年は、ガンガンにビックスウェルが来ていて、その年は逆にパイプラインがクローズする日が続いてたんですよ。その時に比べると全く比べ物にはならないですね。

 

“パイプラインでサーフィンする事が一番自分が生きている事が実感出来る”

 

Q ノースショアは今年で何年目のシーズンを迎えるの?

 

A 18歳の時からなんで、今年で24年目になります。

 

Q 24年間来続けるモチベーションってどこから来るの?

 

A 初めは試合で勝ちたいとか、チャンプになるとか、スゴいサーファーになりたいとか漠然としていたんです。でもパイプラインを知ってからパイプラインに魅せられて本当に好きになって、パイプラインでサーフィンする事が一番自分が生きている事が実感出来るようになって、それで毎年毎年パイプラインでサーフィンしたくて来てます。

 

Q ようするに「好き」だからと言うシンプルな気持ちだよね?

 

A 基本的には、そうですね。初めのころはヒロミチさん(添田博道)やイマスさん今須 伸政)高津佐さん(高津佐浩行)、などの先輩についていって、「やりたい・・」と言うより「やらないと・・」と言う気持ちでしたけど、「ある時期」からパイプラインが異常に好きになって・・・

 

Q 「ある時期」っていつ頃の事なの?

 

A それは、先輩たちに着いて行ってパイプラインでサーフィンすることで、近藤さんやキンちゃんなどカメラマンが写真を撮ってくれてたりして、「リスクよりもリターンの大きさ」を感じるようになりました。18歳ころにリアム・マクナマラさんと出逢い、ノースに通い続ける事でいっしょにパイプラインでサーフィンするようになって、さらに奥の深さを知るようになってからですね・・・その辺りから「追求」に変わって行きました。かれこれ21年ぐらいですね。

 

ローカルとのポジショニング争いを避け、 脇田はその奥に自分の居場所を見つけた。

 

 

Q  そのパイプラインで、今シーズン「これだ!」みたいなライディングは出来てる?

 

A  すごいありますよ・・・その中でも・・・と言うと・・・ん~~・・・昨シーズン(2012年)の3月2、3日だと思います、その時に1本スゴいのキメたんですよ。すでに3月だったからsurflineにも投稿されなかった時期だったんですが、チューブの大きさといいスピッツの量といいハンパなくて、今思い返せばそれが昨シーズンから今シーズンにかけてはべストだったんじゃないか?と思ってて、それ以上を求めて今シーズンもやってるんですけど、正直それを越える1本はまだないです。ただ今シーズンでベストと言えば、1月22日の夕方、日が落ちるギリギリの時間帯に乗った1本は、サイズもあっていい感じでした、あれはハッキリ覚えてますね。

 

Q  あっ、それがあの Wave of the winter にエントリーされてた1本だ!? あれハンパなかったね~~、オレはそのぎりぎりまで泳いでいたんだけど暗くなって限界を感じてあがったんだよね。それでワキタが乗る気配感じてて、急いでビラボンハウスに戻って、ウェットのままランドで撮影し始めて10分もしなかったかな「うわっ、これヤバイ、ワキタ乗るっ」てなって、ビラボンハウスでもサーファーが騒いでたぐらいだった。

 

後で映像を見て、もうちょっと粘って入ってるべきだったな・・・と後悔したけど、ぎりぎりランドでおさえられて救われたよ。それにしても、あの映像はハンパなかったね、波とライディングと光、映像のクオリティがマッチしていた・・・オレだったらWOTW(WAVE OF THE WINTER)だよ。ちなみに、あれはREDのシネマカメラでここ数年で増えてきた、あの映像 はランドだったけど、200万円以上するカメラをハウジング入れて泳ぐのは究極、緊張感が全く違うよ。・・・オレもあのレベルの機材で撮影したいよ。

 

※サーフラインドットコムで話題となった脇田貴之のライディング映像はこちら。

 

A あとは・・・年末にやっちゃったワイプアウトですか。もう一度あの状況でやったら絶対にメイクする自信ありますよ。最終的にそれでケガしちゃって、12月30日時点での今シーズンのベストパイプをやれなかったのは今シーズン一番悔やまれますね。

 

Q 今シーズンはジュニア世代のサーファーの頑張りが目立ってるように感じたけど、ワキタから見て誰かめざましいキッズはいた?

 

A  パイプラインに関して言えば、ガイ(佐藤 魁)とシュン(村上舜)ですね、一番インプルーブしたと思います。カイサ(河村海砂)、ケイト(松岡 慧斗)、カイシュウ(田中海周)、ヤスイタクミ(安井拓海)なんかはよくやってますよね。ユウジロウ(辻裕次郎)も今年は頑張ってましたし、みんなそれぞれ頑張ってた気がします。今年はうれしかったですよ。

 

“パイプラインが大好きでパイプラインのチューブに入っていたいんですよ。”

 

Q 今年で42歳になり、年齢的にも次のステップに来てると思うんだけど、これからの目標とかビジョンしてる事はある?

 

 

A ・・・正直言って、自分がサーフィンをやめて他の事に対して、パイプラインに注ぐような情熱を持ってやれることが見つからないんですよ。でも親がやっているシルフィード(ウィンドサーフィンショップ)は子供の頃から見て来ていて、ここ数年はロックダンスのサーフボードも置かせてもらえるようになっています。サーフィンチームも少しずつ出来てきて、スクールなどをやる事で共感出来たり、良いフィーリングなので、これは続けて行きたいと思っています。でも、今、本当にそれに情熱を注げられるものか?と言えばそうでもないし・・・それが見つけられるようにしては行きたいとは思うんです。でも僕は未だにパイプラインが大好きでパイプラインのチューブに入っていたいんですよ・・・なんでそこは出来 る限りやれれるように頑張りたいと思います。

 

 

“何かひとつでも真剣に打ち込めるものがあれば良いと思うんです。”

 

Q ワキタファミリーはサーフィンファミリーのアイコン的存在で、2人の子供達も成長して来たけど、具体的に「こうなってほしい」とかある?

 

A ん~~、まずはサーファーと言うよりも一人の人間としてちゃんと成長してほしいですね。サーフィンじゃなくてもいいんですけど、何かひとつでも真剣に打ち込めるものがあれば良いと思うんです。そういうものがないとフラフラして時間を無駄にしてしまう年齢ですからね。自分も経験して来た事ですけど・・・運良くそのままサーフィンにハマってくれたので率直にうれしいです。

 

長男の脇田泰地くん

 

特に娘には打ち込める何かを持ってほしい。海から学べる事って沢山あるじゃないですか。サーフィンにハマってサーフィンしていてくれれば安心だし、うれしいです。僕がプロサーファーでいて、常にその最前線にいる影響からか、2人ともコンテストで優勝するようになって、さらに上を目指して頑張るようになってます。でもどうなるかは分からないですけど、出来る限り頑張らせてあげたいですし、応援したいと思います。

 

長女の脇田サラちゃん
妻の小百合さんをはじめ、 脇田家は全員、数々のコンテストで優勝や入賞をしている

 

Q 2013年、今年の予定などは?

 

 

A とりあえず、3月いっぱいまでハワイで、ゴールデンウィークまでにシルフィードをサーフィンとウィンドを分けて、もっとサーフィンに力を入れれるようにしたいですね。あとは、去年インドネシアに行けなかったので、またペペンのところに行きたいです。あとは国内のWQSには出たいと思います。

 

“やっぱりパイプの試合出たいんですよね”

 


脇田貴之インタビュー
『日本人がいないようなパイプでも神尾くんがいてくれたことで大和魂が湧き上がってきました。』

 

 

Q WQSというコトバが出たので聞きたいんだけど・・・昨年ワキタは「ボルコムパイプに出たい!」という思いで、必要とされるポイント目指してWQSに出てたよね。でも今年はちょっとポイントが足りなくて出れなかった。その野望はまだまだ続くの?それとも引き際なの?

 

 

A ん~~~~・・・両方ですね・・・と言うのは毎年状況が変わるんですよね。去年だったら今年のポイントで余裕で出れてるんですよね。でもグレードもあがった事でもっとポイントを持ってるサーファーが増えて過酷になってるのは事実です。ただ、今年は国内でミドルグレードのコンテストが増えたから頑張ってポイントは稼ぎたいですし、金銭的に賄えそうなところがあったら行きたいですね・・・やっぱりパイプの試合出たいんですよね・・・でも現実は200番以内をキープし続けないと出れない状況なんで・・・厳しい事は分かってます。

 

 

Q 今年、マー(大野修聖)がボルコムパイプやフリーサーフィンで実力を発揮していたけど、どう見てた?

 

 

A 今年のマー(大野修聖)は本当に刺激になったし、勇気をもらいました。フリーの時はいっしょにやってて、あの強い精神力、ブレない気持ちや動きを見ていて学んだというかインスピレーションを受けました。こうやってマーが、またパイプにフォーカスしてやってくれてうれしいですよ。ちょっと前まではナオ(小川直久)がいて、ジリさん(沼尻和則)関谷くん(関谷利博)アッチくん(今村厚)とか居た訳じゃないですか・・・なので同じ日本人がいっしょにやってる、しかも待ってる場所も近いじゃないですか。うれしいですよ。みんな刺激されてそれが次の世代に繋がるし・・・今年はそれが出てたんじゃないですかね・・・。

 

 

Q そうだね、今年は見ていて世代交代を感じた、すごく成長を感じたシーズンだった微笑ましいことだよ

 

 

A いや~~今年のパイプはデレックさん、ジョンジョン、ジェイミーは別として、マーク・ヒーリー、アンソニー・ウォルシュ、リカルド・ドス・サントス、マー、この4人はハンパなかったですよ・・・・僕も頑張ります!!

 

 

Q くれぐれもケガには気を付けてチャージし続けて下さい・・・ありがとうございました

 

A   ありがとうございました

 

 

 

このインタビューは2月末私が帰国する前日に行われた。先日、ワキタと話す機会があり、気になっていた3月21日の「パイプセッション」について聞くと、3月に入りじょじょにコンディションが整い始めて来たらしい、すでにレイトシーズンと言う事もあってサーファーもカメラマンも減って行ったが、3月21日の「パイプデイ」にはローカルセッションとなり、なかなかいい波に乗る事が出来ずに居たが、粘って粘って渾身の一本を掴み獲ってメイクしたとのこと・・・振り返って見れば、この時の一本が今シーズンのベストだったのかも・・・との事だった。
プロサーファーの42歳、それぞれ環境は異なってくるが「サーファー」であることには変わりはない。しかしながら、現実的にネクストライフも考えさせられる立場である。「TAKAYUKI WAKITA」の野望は未だ純粋に燃え続けている。カメラマンである自分が18年間見て来た、ワキタのパイプアタック、お互いベテランになり環境も大きく変わった、「パイプラインで居場所がある」ワキタのブレない信念の賜物だと心得ている、「継続は力なり」・・・日本が誇るサムライ・サーファー「タカユキ・ワキタ」の伝説はこれから始まる。

 

※今回インタビュアーを務めてくれた神尾光輝のスライド&トークショーが4月28日(日)に千葉のパタゴニアで開催。当日は脇田貴之もトークショーにゲストとして出演予定なので是非チェックして欲しい。サーフィン水中カメラマン神尾光輝のスライド&トークショー開催。

 

脇田貴之オフィシャルブログhttp://www.dovewet.com/wakita/

シルフィード http://sylphideclub.jp/

関連リンク:

脇田貴之のプロショップが4月26日、江ノ島にオープン。