稲葉玲王・佐藤魁、今日のフランス。WSL-QS1500「アングレット・プロ」その2

稲葉玲王・佐藤魁、今日のフランス。WSL-QS1500「アングレット・プロ」その2 


ラウンド4からの登場となった稲葉玲王

 

ラスト1分で逆転された佐藤、見せ場を作れなかった稲葉。2人のフランスレッグは本日で終了。次のスペインへ向け、今後の課題はプライオリティの使い方か。

 

 

「やっちゃったなー。……ラカナウよりできなかった」。
自分のヒート後に選手用バックヤードへと戻ってきた稲葉玲王。そこで自分の1つ前にヒートを終えていた佐藤魁を見つけると、そう話しかけた。その言葉にうなずく佐藤。ラウンド3で敗退した2人にしかわかりあえない言葉、空気が醸し出されていた。

 


 

フランスWSL-QS1500「アングレット・プロ」大会3日目の8月27日。前日の予想どおり波のサイズは上がり、頭〜オーバーヘッド。ホレた波はときおりバレルを形成した。初日を思い起こさせる波だったが、会場の雰囲気は明らかに別物。トップシード選手が出てくるというのは、そういうことなのか。

 

佐藤魁


朝7時のファーストコールから始まったのは、そのトップシード選手が出てくるメンズのラウンド4。12ヒート目に佐藤魁、続く13ヒート目に稲葉玲王がクレジットされていた。「アングレットは潮の満ち引きが激しい」と前日試合を経験した佐藤がいうように、朝のロータイドから潮が上げてくるにつれ、波は刻々と変化。佐藤のヒートが始まる昼過ぎにはサイズはさらに上がり、波の崩れるスピードも早まり、バレルともダンパーともなりうる状態。

 

そんなコンディションの中で始まった12ヒート目。スロースタートの前日と違い、試合開始の口火を切ったのは佐藤。レフトのチューブ狙い。スコアは出なかったが、前日のラウンド3とは違う試合運びを予感させる1本だった。

 


 

しかしそこからの2本目までが遠く、実に7分ほど経過。その間にも他の選手は順調にスコアを重ねていく。途中経過を告げるアナウンスがされ始め、当然「Guy SATO」は一番最後に呼ばれる。とそのタイミングでアナウンスを打ち消すかのように佐藤がレフトにテイクオフ。チューブを抜け、ターンを2発。6.20ポイントを出し順位を一つ上げた。

 

この時点で勝ち上がるのに必要なのは4.74ポイント。可能性は多いにある。レフトのビッグターンで8.00ポイントを出し、頭一つ完全に抜きん出たヴィセント・ロメロESPはこの際、別次元に置き、的を絞るのは2位争い。膠着状態が続くまま残り9分を過ぎた頃、セットがやってきた。

 

 

そこで三者三様に仕掛けるなか、佐藤がキャッチしたのはサイズのあるレフト。最初に大きなターン、続けて際どいセクションへ当てた。これに6.73ポイントがコールされ2位へと浮上。そのまま残り5分を切り、次のヒートを戦う選手がパドルアウトを開始。稲葉も海に入ってきた。このまま終了し、いい流れをバトンタッチするが理想。

 

しかし残り1分。このヒート最後となるセットが入ってくると、反応したのがシェーン・キャンベルAUS。これまでのレフトでなくライトに乗ると、鋭角なファーストターンを繰り出し、追加でターン2発。これに点数が出なければ佐藤はよっぽどツイていると思わせる1本。終了間際にコールされた数字は7.80。悔しい敗退。海から上がってきた佐藤は険しい表情のままコンテスト会場を後にした。

 

稲葉玲王

 

 

続いて行われたのは13ヒート目、稲葉玲王の登場だ。稲葉はトップシードなのでこれが「アングレット・プロ」の初戦となる。波は先ほどよりさらにサイズは上がり、よりジャンクなコンディションに見えた。ヒートが始まってすぐに存在をアピールしたのはアンディ・クリエールFRA。ラウンド2から勝ち上がってきたペイバスクローカル。

 


 

レフトでターンを3発繰り返すと、8.67ポイントを叩き出す。開始直後に出た高ポイントに、白熱したヒートになることが期待された。しかし選手たちはそれから波選びに慎重になり、試合自体のリズムが少し平坦なものに。肝心の稲葉も波に苦戦しているのがわかる。

 

その中で後半から勢いを出してきたのがデイヴィッド・シルバBRA。波のスピードに合わせた高速カーヴィングターンから繋いで、最後にターンをもう一発。これだけが稲葉のサーフィンではない。そう思わせながらも試合終了のホーンは鳴った。

 

この堤防の左側がメインポイント、右側がサブ

 

 

試合直後、まだ頭の中が整理されていない状態というのをわかりつつも、話を少し聞かせてもらった。

 

稲葉「イメージしていた波に乗れなかった。波選びとプライオリティ、そのタイミングが合わなかった。緊張はしてなかったけど、パドルアウトしたときに“ちょっと調子悪いかも”と思ってしまった。一番の敗因はそこかもしれない」

 

佐藤「終わって率直な感想……。……うーん……。悔しい。負けた後は頭が回らない」

 

今日で2人の「アングレット・プロ」は終了したが、ヨーロピアン・サマー・レッグの前半戦が終わっただけで、後半戦は来週からまたすぐ始まる。まずは9月1日〜6日までスペインで「パンタン・クラシック・ガルシア・プロ」、その翌週9月8日〜12日はモロッコでの「クイックシルバー・プロ・カサブランカ」が待っている。つまり感傷を引きずる時間はない。

 

稲葉「ラカナウ、アングレットとフランスでの2戦をムダにしたので、後半頑張る。自分に足りないものはたくさんある。うまく表現できるかわからないけど、メンタル、技術、頭。頭というのはプライオリティの使い方、そういった戦術とか」

 

最後にSURFMEDIAを読んでくれる日本のみなさんにメッセージがあればと聞いてみた。

 

稲葉「まだこの先もあるので応援してください」

 

にこやかに対応してくれた稲葉も心の中は悔しさや、自分に対するふがいなさで溢れている。「落ち込んだらダメだから(深みにはまってしまうから)」と、あえて自分を明るく保とうとしていた。

2人はまだ18歳。フランスでのこの悔しい経験を次のスペイン、モロッコにどう生かしていくのだろうか。

 

ちなみに稲葉のヒートをトップ通過したアンディ・クリエールFRAは次のラウンド5も勝ち上がるという快進撃をみせた20歳。2人と同世代といえるだろう。彼は試合後のインタビューでプライオリティについてこう延べていた。「プライオリティルールがどんどん使われるようになり、それとともにハイレベルで競わなければいけないことがたくさんある。ヒートが始まってからでなく、その前の準備が大事だ。それ次第で結果が変わってくる」。

 

「アングレット・プロ」現地レポートはここで終了。早めの終了は寂しいが、その分スペイン戦への準備に充てることができる。気持ちを切り替え、まだまだ続くヨーロピアン・サマー・レッグの後半線へと備えてほしい。2人の活躍を祈りながら、最後まで見届けていきたい。

 

 

 

選手用のバックヤードは一段高いところから波チェックができる場所。朝9時過ぎ。このときのガイくん、ネットで調べもの中。日本と違いいつでもネットに繋がっているわけではないから、Wi-Fiネットワークは見つけたら即チェック

ヒート前のフリーサーフィンから上がってきたガイくんと、これから入るレオくん。会話の内容は「モロッコ暑いってよ」

そしてガイくんはヒート準備に、レオくんはフリーサーフィンへ

ヒート前のウォーミングアップにフリーサーフィン15分のレオくん

このとき海に入っているのは選手ばかり

今日は望遠レンズを備え付けたカメラをのぞくギャラリーが多かった

ヒートまで1時間を切ったレオくん。リラックスした表情

波を見に行くと、ヒート表の前で立ち止まる

一緒に動いているフランス人のジョーガンがラウンド4を通過。おめでとうを言うガイくん。このまま同じ流れに乗っかりたい

集中して波を見るレオくん

ヒート前のビーチに降りてきたガイくん、波を見るレオくん

今日の板も昨日と同じ板。一緒に動いているジョーガンと同じフランス人シェイパー。日本にいるときにオーダーしてフランスへ来てから受け取った

6.73ポイントを出した4本目

波を見ていたときは真剣な眼差しだったが、ビーチに降りてきたらリラックスした雰囲気だったレオくん

試合後半から徐々にエンジンがかかってきたが、かかりきる前にヒートは終了してしまった

ヒート直後の2人

フランス自体レオくんは3度目、ガイくんは初めて。アングレットでのサーフィンは2人とも初。次にくるときはよい思い出を! さらには米の炊き方を覚えてくるとよりよいかもね

ここフランス・アングレットと、次のスペイン・ガリシアの2戦をレオくんと一緒に動くアメリカ人チーム。当初は田中海周くんと回る予定がケガで来れなくなってしまい、急遽探したのがこの2人。食事は朝、昼はパンにチーズとハムを挟んだサンドイッチ、夜はパスタとサラダを食べているそう

18歳でレンタカーを借りられないレオくんは、1人で行動ができない。それは大変でストレスのたまることでは?「でも、その中で自分のペースをつかまないといけないから」と

ヨーロピアン・サマー・レッグを選んだ理由を聞くと「冬にパイプラインである大会に出たいから。その為のポイントを稼ぎたい。だからこんなところで負けている場合じゃない」。試合後、少し時間が経ってからそう答えてくれた

 

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photo&TEXT BY  Michiko NAGASHIMA

オフィシャルサイト:

http://www.worldsurfleague.com/events/2015/mqs/1276/pro-anglet