辻裕次郎インタビュー:僕がオンリーワンであり続けるために。

辻裕次郎インタビュー:

 

今、辻裕次郎が気になる。何かが変わった。まず笑顔がイイ。その笑みからエネルギーも満ち溢れている。今年のJPSAの初戦、バリのクラマスで優勝。五月の連休には地元の徳島で自身のお店もオープンした。なので、ASP QSのメキシコ戦へ行く前に早速、話を聞いた。

インタビュー:山本貞彦、撮影:山本貞彦、Nobu fuku



 

昨年、同じ時期にインタビューさせてもらって、これが三回目だよね。このSurfMediaでは、前年のASP世界ランキング「日本人トップ3」ということで、大野修聖、辻裕次郎、田嶋鉄兵の三人に世界を廻っての結果と自身の思い、それに日本のサーフィンについて語ってもらった。(インタビューはこちら。大野修聖田嶋鉄兵


でも、その後、裕次郎から「インタビューを先送りにして欲しい」と連絡があって、結果、お蔵入りにしたんだよね、実は。SL誌への中止は間に合わず掲載されてしまったけど、実際にインタビューを止めたかった理由は何だったの?


 

極限まで絞り込まれたボディで、クラマスのセクションを攻めるユウジロウ。

 

 

 

何て言うんですかね。その時はそれどころじゃなかったというのが、正直なところ。自分は優勝もしてないし、何か気分的なところも大きかったです。自分が「言う」ことには、当然、責任があるじゃないですか。自分が苦手なことでも覚悟して進むと決めていたんですけど、あの時は試合の疲れとミックスしてフラストレーション抱えてしまっていたんです。

 

これがダメだったというより、ただただ疲れていたというのもあって。雑誌に出るということは、見る人がいるってことですから。たぶん、それが掲載してしまったら、また自分でカバーできないようなことになると思ったので。その時は集中する仕方を知らなかったのもありますけど。

 

 

 

 

 

掲載していなけど、前回の話では「結果的にみたら、もっとできることもあったけど、マイナスではなかったし、全然ダメでもなかったかなって思います。」と言っていたよね。「理想論ではなく、勝つためにはグレーな部分も必要」って、何か吹っ切れたのかなって思っていたけど。有言実行へのプレッシャーかな?

 


 

そうですね。プレッシャーは無いというよりはありました。けっこう自分のストレスがたまっていった感じですかね。身体的にも疲れていたから。でも、いろいろとスタンスが変わって来ているというか、変わる時だったんですね。ちょうど、あの時はヨガを始めたばかりで、自分をどう変えていったらいいか、そこに集中したかったんです。

 

昨年の10月は宮崎の日向で行われたASPイベントで4位となり、確実に調子を上げていた

 

 

それもあってなのかな?昨年は海外の試合もあまり出ていなかった印象だけど。廻りたくないとか思ってしまったの?

 

 

昨年は試合数自体も少なかったし、プライムも出られていなかったので。それとQS田原の前ぐらいから腰の調子が悪くなってしまって。とりあえず大会は無理矢理出ましたけど。今まで試合を多く廻って気付いたのは、気持ちを上げて試合に持っていける場所と、ちょっと合わない場所があることがわかったんです。

 

波のフィーリングとか、自分のサーフィンと合わないとか、当たり前ですけど、あっち行くのは時間も体力もお金もかかるし。だから、自分があまり合わないところには行かない。まず、その前に身体を整えてからでないと勝てるわけないし、そのぐらいの期間を取ることも必要かなって。

 

そして、昨年の11月に台湾で史上初の開催となったASPスターイベントでは2位となりシーズンを締めくくった。

 

 

試合に出たくても身体がついて来なかったし、プレッシャーもあった。だから、自分を一から見直そうと思ったの?

 

そうですね。自分の中でもっとやることが出てきて。やることっていうか、やらなければならないことですけど。ヨガのおかげで、ちょっとずつですけど身体のことが細かく見えていくじゃないですか。もっと、こうしないといけないと思っている時に、ちょうどインタビューが重なったりして。

 

でも、今、自分がやるべきことはこれだと。呼吸は呼吸で、また身体を動かすのは動かすで簡単じゃないんです。それで新しいパターン、セクションが来たらまた難しいし。一個覚えるのに半年ぐらいかかります。その上で先生が身体を治すだけでなくて、自分自身でも治していけるように教えてくれるんです。一回一回やった時に自分の身体がどう変わっているかも見ないといけないよ、みたいな。

 

 

 

それを去年、一年かけて学んだんだ。それで、JPSAのバリの話になるけど、今年優勝でしょ。マー(大野修聖)やショータ(中村昭太)やカイト(大橋海人)など、錚々たるメンバーでの試合は楽じゃなかったのでは?ヒートを勝ち進んでいく中で、何か自信になったもの、心の支えるになったものがヨガだったの?

 


 

まあ、やはり身体の部分ですかね、でっかいのは。それまで腰が悪かったし。それで試合に出ても良い成績も出せなくて。でも、身体が治って来て、普通にサーフィンできるようになって。それが単純に一番大きいかもしれません。やはり、身体がしんどかったら、メンタルも弱くなると思うし。勝ち進んで行く中では、やはり今年も相変わらず一回戦、二回戦目が危なくて。

 

 

バリ島で開催されたJPSA開幕戦では2010年の鴨川以来となるJPSAでの優勝を手にした

 

 

“ヒート前にヨガをやることで、集中できるようになり、自分の世界に入れるようになったのが大きいかもしれません。”

 

 

ただ、そのヒート前にヨガをやることで、自分で集中できるようになって。前から自分の苦手な部分だったんですけど、ヒートの直前でも自分の世界に入れるようになったのが大きいかもしれません。何か余計なことを考えていないというのが、集中できているのに繋がっているのかなって。気になるものが無くなったから、ちゃんとヒートに集中するというか。他にエネルギーを使わなくて済むようになったことが良かったのだと思います。

 

クラマスで辻裕次郎らしいサーフィンを爆発させた

 

 

 

優勝は久々だったよね。これで結果がついて来た。では、更にこうしたいとか、何か変えようということはある?

 

 

うーん、今はヨガを続けることの方が自分の中で大変なので。その方が今、必要だと思うんです。たぶん、ちょっとでもサボったらまた身体が戻ると思うし、飛行機に乗ったりとか、サーフィンを二、三日やり過ぎて、何もやっていなかったら、すぐ戻ってしまうんです。それぐらいデリケートというか、身体は簡単に変わってしまうということに気付けたので。

 

試合の中でどうこうというよりは、この覚えたことをタイミングもあるんですけど、ちょっとプラスというか、前よりは良くなった部分もあるので、あとはどこまで通用するか、今年試してみたいというのが、正直言ったところです。

 

 

 

 

ヨガのおかげで表情が明るいのか。生き生きしているものね。これも前のインタビューで話してくれたことだけど、自分の性格を分析してくれたよね。ネガティブというか、自身の評価を低くするのは、自分の実力を過信したくないからと。それは傷つきたくないという性格から来ている。だから、自信を持たないようにしているって。で、その時、自信値が10としたら、それでも1から2ぐらいまで持てるようになったって。すごく慎重だったけど、今はどのくらいになった?

 


 

自信はたぶん、あまり変わっていないと思いますけど。性格ですから(笑)。だけど、自信が無い考え方の自分が、自信を持とうと思っても簡単じゃないですよね。また、そこで勘違いしたくないし、間違えたくないんです。自分の実力を過信したくないっていうか。元々、自信というものは持って持てるもんではないと思うんです。

 

ですけど、勝つためには持つしかないし。やっぱり、自信が無いと勝てないじゃないですか。だから、今は多少、自分を信頼してサーフィンをできるようになったかなって感じで。なので、少しずつですけど3から4ぐらいですかね。

 

“準備ができたという感じです。「試合やりたい」という気持ちが強いですね。”

 

 

では、今後のスケジュール。やはりASPをメインに、国内のJPSAにスケジュール合えば出るという感じ?

 

 

決まっているのはメキシコ行って、その後はフランス、アメリカのバージニア、スペインと続くスケジュールですけど、今年も試合数が少ないので今、考え中です。ただ、身体を整えることができたというのと、それで身体が調子良くなれば気分も上がってくるし、そういう部分でその新しい覚えたこと、吸収したことを踏まえて、今年は海外のQSへ再挑戦しようって思っています。

 

海外廻り出した最初の頃は身体のメンテなんかしてなくて、若かったからいけたんですけど。今また、ワクワク感というか。気持ち的には何か同じで、チャレンジしてみたいというか、どういう所まで行けるのか。一コケするかもわからないし、勝てるかもわからないし、でもそれをすごく試してみたいというか。今はその準備ができたという感じです。「試合やりたい」という気持ちが強いですね。

 

 

shishikui beachの玄関口にオープンした辻裕次郎のショップ

 

 

さて、話題を変えて、自身のお店のこと。一年前に場所は決めたので、これからいろいろ準備していくって言っていたけど、いつから始動していたの?選手活動しながらだと大変だったんじゃない?

 


昨年末ぐらいから、パパッと動き出して。そうですね。やはりやったことがない分野だったので大変でした。いろいろ細かい書類から何からすべてやって。もちろん手伝ってもらいながらでしたけど。オープンする直前もバリに試合で行っていて、帰って来てからは、やることがたくさんたまっている感じでバタバタでした。

 

 

お店はサーフショップなの?

 

 

そうです。サーフショップで自分のセレクトした商品を紹介する感じです。スポンサーのものがメインで303サーフボード、ビーウェット、ボルコムとか置いています。あと四国に遊びに来る友達に泊まってもらえるように、併せて部屋も作りました。

 

 

店の名前は?内装とか特にこだわったところとかあるの?

 


公平さん(303サーフボード・シェイパーの千葉公平氏)が「店の名前はいらんのちゃうか?」って。そのままで良いということで「ビーチハウス」にしました。「バハティ(裕次郎のお父さんが経営するレストラン)」の横にあります。僕自身がこだわったというより、基本的にはお任せのデザイン料も込みで、お金はできるだけ節約して作ってもらいました。今回お願いしたのは湘南の方で、公平さんのところも作った方なんですけど、ショップの中の構造を道路側から海まで突き抜けるようにしたりとか、ほとんど木で作ったりとか、まんま「ビーチハウス」っていうラフな感じです。

 

 

そっか。イイね!でも、大会とか、海外行っているときはどうしているの?

 

 

その時は閉めています。オープンしているのは自分が四国に戻っている時だけです。ゆくゆく、良い人がいたら雇っていけたらなと思っていますけど。でも、今は自分がいる時だけのスタンスでやっていこうと考えています。

 

 

でも、お店には固定費もあるし、店を閉めていると大変じゃないの?

 

 

そうですね。銀行だけでなく、毎月払う保険とか商品代もありますから。でも、もともと大きく売って儲けようというコンセプトで作った店ではないので。あくまでも自分でできる範囲で営業していく店ですし。自分の夏のいる間がちょうど忙しい夏休みシーズンなので、そこで少しでも稼げたらいいかなという感じです。

 

 

 

 

今、29歳にして店も構え、選手としてはもう一度世界を廻る気持ちに戻れている。では、今シーズンの目標は?

 

 

今年ですか?「ビーチハウス」ができたので、やることが増えたんですけど、そこを上手く自分をコントロールして疲れないようにというか、それでも試合に自分を万全に持っていけるようにというのが、したいことですかね。ショップの横に自分の部屋があるので、朝に店を開けて掃除をしたり準備したりとか。

 

今までだったら来た人と自分も一緒に遊んだりとかできたんですけど、今は他のこともしないといけないようになったし、やはり、時間も体力も限られたものだから、時間の組み立てじゃないですけど、自分で決めていく癖がこれでついたらいいなと思います。今まではサーフィンだけで自由な時間が多かったですから。「ビーチハウス」ができたことで、普段からすべての時間を管理して、その上で試合にも活かせたら良いですね。

 

 

最後にみんなに伝えたいことある?

 

 

何かこう本当にその影響を受けたのが、自分にとってはヨガで。初めて自分が「知る」ことに対しての面白さとかですかね。興味が無くても、自分の場合、そのサーフィンをやっていたから、ヨガが必要だって言われて入ったんですけど。初めて腹式呼吸を教わって。息を止めて、お腹を動かしたり肺を動かしたりとか。

 

催眠術でも掛かってみないと信じないだろうけど、それと一緒でヨガもやってみないとわからない。呼吸の仕方だけで、自分の疲れが簡単に取れたりとか。今までそういうのを自分もそこまで信じてなかったんですけど、今になって新しいことを「知る」ことに対して、面白いなって改めて思いましたから。みんなも新しいことにどんどん挑戦して欲しいと思います。

 

 

 

辻裕次郎。

 

三年前のインタビューでは、「みんな違って当たり前なのだから、型にはまらず、自分の色を出すこと。できるだけやって納得したい。だから、自分を変えるんだ」。また、「発言に対しての責任も自覚して、苦手だけど変えるために一歩踏み出す」と話してくれた。

 

昨年、文中でもあるようにインタビューの掲載延期を希望。実はその時の話では「負けても自分のサーフィンで魅せたいということが理想だった。勝つためには自分の中でコントロールする押さえたサーフィンも必要」と真逆の結論に直面したことを語った。世界を転戦するも結果が出ず、お金と体力だけを消耗する日々。さらに腰の不調が追い打ちをかけ、裕次郎の心を蝕んでいった。

 

しかし、そんな中でも明るい材料もあった。自分のサーフィンを見る機会が増えたことで、自信を持ち始めたこと。さらに、自分の性格をも客観的にみることができたことだ。その時には「落ち着いて自分のサーフィンができているというか、今はやるべきことをやって行こうと考えています。」とも語ってくれていた。

 

そして、大きな転機がやってくる。それは公平さんからの紹介で始めたヨガ。当初は身体のメンテナンスと思っていた裕次郎だったが、これが劇的な変化をもたらす。それは身体だけでなく、メンタルをも変えていった。アスリートで重要なのは心技体と言われるが、最後は「自信」を持つ心。勝負の分かれ目に最後に頼れるのは自分だけだからだ。

 

若くして勢いでやってきた、しかし、挫折。アスリートだけでなく、それは生きていれば誰でも味わうこと。悩みは誰にでもある。しかし、それを乗り越えることができるのは自身の力。今、裕次郎はその力を手に入れた。この出会いがサーフィンだけでなく、人生においても一つの指針となるものとなった。今、その先生は裕次郎をヨガにおいても指導者として育てたいと言っている。

 

自分の店が出来たことで限られた時間、今あるプレッシャーすらもすべて受け止めた。すべて在るがまま、為すがまま。そして、自分のやるべきことがわかった。自分を世界に示すのは、自分でしかないんだと。自分が選手としてどこまでできるのか、やれるとこまでやってみたいと笑顔で語った裕次郎。これから世界でどんな活躍を魅せてくれるのか注目したい。

 

 

辻裕次郎オフィシャルサイト:

http://yujirotsuji.com/

https://www.facebook.com/yujirotsuji.official