田嶋鉄兵インタビュー

Photo : Sadahiko Yamamoto、Gordinho

Text  : Sadahiko Yamamoto

 

田嶋鉄兵。2008年に結婚。その年にJPSAとASP JAPANのグランドチャンピオンの両タイトルを獲得。その後、海外の大会を中心に転戦し、大野修聖に次ぐ日本人選手として活躍。さらに競技人生の充実を求め、ハワイへ移住した。
しかし、そこで知る現実。自身のスキルや才能に対し、自問自答の繰り返し。そして、敢えて自らを厳しい環境に置き、自身をさらすことを選んだ。そこから生まれる責任と得た自信。
今回は自分のことだけでなく、海外に住んでいるからこそ分かったことや、日本のサーフィンの状況やジュニアについても語ってもらった。
OFF THE WALL photo:Gordinho

 

“自分は人と同じことをやる必要はないと思っています。
一生懸命やってベストを尽くせば、それで良いと思っていますから。”

 

Q. ハワイをベースに活動しているけど、普段のハワイの生活は?

 

ノースのシーズンは、前日にWEBCASTとブイを見て、波がありそうだったら渋滞を避けるために、5時前に起きて行きます。普通は1ラウンドやって帰るんですけど、波が良い時は残って、友人と一緒にサーフィンします。

 

これからのシーズンはサウスにシフトしてくるから、朝早く起きてサーフィンして、午後にトレーニング。波次第では、サーフィンとトレーニングを入れ替えます。あとの時間は家族サービスです。子供も2人目が生まれて、てんてこ舞いですけど、生きていると実感しています。今はそのすべてを受け入れてやって行く感じです。

 

Q.ノースに住もうとは思わなかったの?

 

奥さんも子供いるし、タウンには友人も多いので。それに治安も良いですから。あと、学校ですよね。学校のランキングで言うとタウンが良い。奥さんと決めました。何よりも良い病院もあるし、買い物にしても食材も豊富だし、いろいろ経験できますから。

 

それにタウンではフラットは無いんですよ。どこかしらで、サーフィンできます。ケアロだったり、ダイヤモンドヘッドだったり。それに、タウンの良さはイースト、サウス、ノースといろんなとこに行きやすいんですよね。朝一にノースのでかいヘビーな波にアタックして、帰って来てメローな波だったり、コンテストウェイブだったり、2つのタイプの波を練習できるんです。そこがタウンを選んだ理由でもあります。

 

Q.でも、タウンだと批判されることもあるよね。なんでノースにいないんだって。日本では体育会系ノリで言われることもあるけど、気になったりする?

 

特に気になりません。それを聞いて、感情的になるわけでもないですし。もちろん、そういう意見の人もいるのはわかります。ノースショアのシーンでは、ノースを1年待っている人もいるので。ハワイに拠点を置いているのに、ぬるくやってんじゃないのと言われても、それは一見方だと思うし。でも、そういう意見もあることを、自分は否定しないです。ただ、自分は人と同じことをやる必要はないと思っています。それに一生懸命やってベストを尽くせば、それで良いと思っていますから。

 

 

photo:Gordinho

 

 

 

“初年度は自分の不甲斐なさに腹が立ちました。”

 

Q.特にパイプでは、スポンサ—のVOLCOMが大会を開催しているよね。今まで出た感想は?

 

やはり、初年度は自分の不甲斐なさに、すごい腹が立ちました。自分はパイプの経験がなかったですから。自分の避けていた場所だったし、練習もしてこなかった。出来ないのは当たり前ですね、悔しいけど。

 

ビビリだとか、腰抜けみたいな感じで言われましたけど。ただ、周りの意見よりも自分に対して反省して。じゃあ、どうするんだ。なら、やるしかないって。それで自分は今、パイプで滑るようにしているし、トレーニングやっています。

 

去年は体調不良で出られなかったんですけど、今年はパイプマスターズが終わったぐらいから、通いつめて練習しました。なので、準備はできていましたね。自分のヒートのサイズは小さかったですけど、やるぞという気合い、気力とか、今までと全然違いました。結果は出せませんでしたけど、良い経験になっています。やはり、あそこしか得られない経験ですから。

 

これで逆を言えば、チャンスって思っています。ダメだと言われて、見られて。でも、そこで決めちゃったら、一発逆転じゃないですか。だから、ステップと考えて。土台作りだと、自分は思っています。

 

Q. ハワイの年末は大会もあるし、人も多いから滑れないという理由で、数年前から日本人選手は、ノースを年が明けてから入るようになっていたよね。オーストラリアへ行く選手も増えてきて。鉄兵たち3Tのメンバーがその当時、ずらすようになったのは、体育会系のノリが嫌だったからかな? 自分たちのやり方でやります的なムードが、3Tにあった感じがしたけど?

 

ハワイは14歳から通っていました。必ずノースには1ヶ月は滞在していたんですけど、その時はそう思っていましたね。日本人の定番スケジュールには、はまりたくなかったんです。変えたかったんだと思います。それと年齢ですよね。若気の至り。まあ、今思えば浅はかだったし、何をやっちゃっていたんだろうって思います。

 

結局、1ヶ月いた間もバックドア、パイプをサーフィンして、サンセットもやっていたんですけど、やっぱり、ザ・デイのパイプにいなかった。サンセット、ハレイワだって半端じゃないですけど、結局、ステージはパイプなんですよね。今、思えばそこから逃げていたという言い方しかないです。心の弱さがあったのかなって。今さらですけど、そこ行かないやつは逃げていると思います。やはりハワイは乗らなきゃいけないし、選手である以上ここに来なきゃいけない。できないにしても、ここに来て緊張感を持っていなくてはいけないと思いました。

 

今、自分にとってハワイは試されるし、わからされるし、自分を変えて行ける場所なんですね。年間通してハワイの効果が出ると言うか、ハワイの修行の成果が、1年間どこのコンペ会場でも出るんじゃないかと思います。そのぐらいハワイはすごい場所なんです。

 

Q.ハワイの重要さを身にしみて感じたんだね。やはり、ビッグウェイブが重要だと思ったの?

 

もっと上に行きたいという自分の意志があるので、そこはかなり重点を置いています。自分の弱点もそこだと思うので、ノースショアシーン、ビッグウェイブシーンをもっと磨いていかないとと思っています。

ハワイに住んでから、それをさらに重要だなと思いました。だけど、逆に言えば、それだけにはなりたくないと思う自分もいます。だから、本当にそう言う意味でやはり、ワールドレベルになるには、オールラウンドにならなくてはいけないということもわかりました。

 

photo:Gordinho

 

“世界に出ない若手が多いことに、すごく歯痒く感じています。”

 

Q.鉄兵は若い子たちに世界を廻ろうって声をかけているよね? それは何で?

 

世界へ出て戦いたいという若手が、少ないんですよね。自分と温度差を感じているのかわからないですけど。自分がツアーに行こうよって誘っています。せっかく、そういうチャンスがあるなら、行かないっていうのはもったいないって思います。若い頃、自分とか樹とか、お金はそんなにもらっていたわけじゃなかったですけど、けっこう廻りましたから。

 

自分たちは直さん(小川直久プロ)、牛さん(現JPSA理事長の牛越峰統プロ)の諸先輩たちがいて、お願いしますって。今でも先輩たちにすごく助けられたと思っています。なので、今は自分らが出ているし、いるんだから来いよと言いたいです。プロ選手としてやるからには、世界に出るしかチャンスはないんですから。だから、それをしない若手が多いことに、すごく歯痒く感じています。

 

Q.ジュニアの面倒をみようと思ったのも、それがきっかけ?

 

自分はパイプのことがあって、気付いたんです。ものごとを広く見られるようになったんですよね。思えば反発した時は、考えが狭かったなって。だから、大人が言い過ぎたり、頭ごなしの批判はいけないんだということも、自分なら理解できるし。だから、ハワイのことで言うなら、ノースに来なきゃいけないのは事実。それはスキルアップのためのノースなんだって言ってあげます。文句言うんじゃなくて、教えるんです。プッシュするということはそういうことだと思いますから。

 

最終的にノースに来る来ない、オーストラリアに行く行かない、トレーニングするしないは、個人が決めること。要は結果を残せば、誰も文句は言わないじゃないですか。でも、誰も結果を残していない、WTに入ってないから、言うし、言われるんだと思います。ただ、言ったところで、本人が変わるかって、そうじゃないんですよね。だから、言うんじゃなくて、導いてあげなきゃいけないんです。

 

今のジュニアは技術面から徹底的にやって行く必要があります。育成システムを確立して、やったら可能性はゼロじゃない。それをやればWTのチャンスは、それは誰に対してもあると思います。実際の試合というのは、わからないですから。コンスタントに成績出せれば、いけると思います。でも、それが難しいところですけど、日本人選手でも無理ではないと思っています。

 

Q.日本でもやっと重視されてきたけど、コーチングについてはどう思う?

 

いろんなコーチがいて、いろんな意見がありますよね。でも、コーチって自分に合うかのチョイスだと思います。正しいか正しくないかではなく、自分に合うか、どうか。でも、その為には、まず自分を知ることが必要です。

 

そして、自分がベストだと思ったことを信じてやるべきじゃないですかね。ただ、結果を出していくには、同じことをやっていたらダメだと思います。それでは勝てないですから。コーチの役目って、あくまでも指導だと思うんです。そして、それを聞いて最後は選手自身が決めることだと思います。

 

Q.選手を自立させるということかな?

 

そうです。やらなきゃいけないことは、やらせる。ただ、本当に言えるのは、楽しんでやることを教えるんです。ちょっとのきっかけで、グンと伸びるのが子供ですからね。やいやい言ってるだけでは、ぜったい聞かないですから。コーチがいることで、初めてサーフィンに集中できるじゃないですか。負けたら負けたで、サーフィンの敗因を一緒に考える。自分は、そういう環境を作っていかなければいけないと思っています。

 

自分のジュニアの頃は試合があまり無かったんですけど、今はたくさんありますよね。試合の感覚も忘れないし、世界も近くなる気はします。でも、反対に結果ばかり気にするサーフィンしかしなくなると思うんですよね。それに大人が結果を求めすぎていますし。これが、ジュニアの成長を止めている原因だと思います。

 

大人が日本のジュニアは、ダメだって言い過ぎても良くないです。日本でも上手い子たくさんいますよ。でも、大人になって海外選手との差が出ちゃうのは、どれだけ楽しんできたか、経験したかの差だと思うんです。結果が出ないとジュニアは萎縮しちゃうから。だから、ダメなら、それでもいいじゃんって言うぐらい、それぐらい太っ腹のある大人でないと。ジュニアは楽しんで、サーフィン。それが一番です。

 

ただ、ノースには来てください。あとで楽しんでもいいけど、そこは我慢してでも来る所だよって。自分にアメと鞭ですね。メリハリが必要。そういう風に指導することが大事だと思います。

 

自分はジュニアの選手が聞いてくれれば、教えます。そして、「みんなで世界へ行こう」って、言います。みんなで海外へ行くと背すじが伸びるし。周りにも負けないように、自分も頑張ろうってなるし。サポートして、みんなで盛り上げるから安心もできる。そういう場所を作るのが、大人の役目だとも思います。

 

Q.誰も大人がやっていなかったから、君たちがそれに気付いて始めたの?

 

そういう歴史があったからですかね。自分たちも7、8年ツアーを経験して、それを現役の自分が伝えていかないといけないと思ったまでです。

自分は「鉄は熱いうちに打て」のタイプなんです。現役が終わって始めるよりも、今からやれば、直接教えられますから。逆に子供たちから教わることもたくさんあるし、子供たちをコーチングすることで、自分がよりコンペにも集中できることもあります。お互い良くなると思うんですよね。

リスペクトされるマー君(大野修聖プロ)や脇田さん(脇田貴之プロ)がいて、そして、僕らみたいなタイプの人を巻き込みながら成長していくサーファーがいてもいいんじゃないか、と思ったんですよね。

 

 

Q.あと日本の大会についてなんだけど、JPSA伊豆の大会のつぶやきで、「波無いなら無理してやる必要はない。」「波小さいところでチャンプ決めても世界で通用しない。」と書き込んだよね。この意図は?

 

これでやったら、上手いやつ勝てないし、どうなのかな?それで決めちゃうの?って思ったまでで。波が無いなら、その日をキャンセルして欲しいということだったんです。大会をキャンセルして欲しいという意味ではなかったです。ましては、JPSA批判でもないです。ASPの日向の時も、波が小さくてそう思ったこともあって、日本の大会の在り方について言ったまでです。

 

Q.観客動員を考えても、日本は土日の週末に限るイベントが多いよね。自然相手のスポーツのサーフィンには合わないんじゃないかなってこと?

 

その問題、全体的に難しいですよね。正直、協会の言っていることもわかるし、運営が大変なのもわかります。でも、プロフェッショナルな試合ですよね。一般の人は結果しか見てないですから。波がどうだったとか、運営がどう動いているなんかは見ていません。

 

もちろん運営については、感謝しています。先輩たちがいないと大会はできないですけど。でも、確かに大変なのはわかりますけど、このままだと運営の為の大会なのかって思ってしまいます。

 

Q.日本のイベントの在り方については、ウェイティング方式を導入したらっていうこと?

 

プロとしての試合だったら、よっぽどじゃない限り、海外の大会はどこでもそのクォリティをキープしています。昨年の6スターのスペインのイベントでは波が無くて、1週間のうち5日間ウェイティングしました。で、波が上がって、ダブルバンクで消化して。運営もそれぐらいの覚悟っていうか、それが必要かと。選手も真剣ですから。費用もかかるけど、運営ももっと考えて、真剣になるべきだと思います。

 

Q.協会も選手自身も、プロとして携わっている人間が、もっと意識を変えることが求められているのかな?

 

運営だけでなく、もちろん選手もですね。海外に出ていないJPSAのプロ、経験無いプロはそれに甘んじていると思います。もっと責任を持った方が良いですね。改革を望みます。波が小さくて、イベント在りきの大会のままでは、世界で活躍する選手は出なくなります。JPSAだけを廻っている人も、無理しているかもしれないけど、プロって何だっていうことです。自分はこれだけお金を掛けて、いろんなものを犠牲にしてやっています。自分は完璧だと思っていないからこそ、それでもチャレンンジしているつもりです。それだけの覚悟を持ってやっていますから。プロって、本来そういうもんじゃないでしょうか。

 

ASP日向プロ photo:s.yamamoto

 

Q.プロ意識を持つようになったきっかけは?

 

世界中心にツアーを廻っていたんですけど、結果も出なくて。何か中途半端過ぎていたんですね。果たして、これで自分は日本でやって、チャンピオンが獲れるのかなって思ったんです。だから、もう一度JPSAツアーを廻ろうと戻りました。試合に出たらランキング2位になって。それはそれで悔しい思いもしましたけれど、その後、4戦連勝して。そこで自信がついたというのがありますけど、次の年にはグラチャンが獲れました。これでやっと心置きなく海外へ出られるって思いました。

 

みんなに言いたいのは、どんな環境でも常に目標を持つことだと思います。その目標を達成するために何をしたらいいのか。それを考えて、実行することです。あと、プロとしてやっている自覚を忘れて欲しくないですね。

 

Q.では、最後にサーフィンでの目標は?

 

サーフィンのコンペシーンで言えば、当面の目標はWTに入るより、US OPENで優勝することですね。あの観客数で、出ているすごいメンバーの中で勝ちたいです。WTで活躍するよりもUS OPENで優勝できれば、自分のコンペティター人生を振り返った時、納得できると思いますから。

10万人でしたっけ?あのステージで優勝するのは感動ものです。ケリーさんもスゴいですけど、自分の中の価値観としては、それに匹敵するぐらいです。ワールドチャンピオンと同じぐらいですかね。それと一緒です。比較しちゃいけないですけど、それぐらいUS OPENに価値があると思っています。

そのためにツアーでポイント稼いで、そこにフォーカスして、自分としては、その気持ちが強いですね。今はそのためのハワイだし、そのための日本だし、そのための他のWQSだし。で、結局、そこで優勝すれば、たぶんWTに繋がると思います。結果はついてくると思うので。今、自分が集中しているのは、そこですね。

 

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田嶋鉄兵、27歳。
ハワイへ移住。
ものごとをワールドワイドに見ることが出来るようになったと言う。
自分を客観視することで、若い時の自分の反発を反省。
改めて自分のスキルを知り、そのために何をすべきなのか。
それは、一からやり直すという選択。
そして、外から見てわかった、日本のサーフィンの現実。
それを伝えるのが、自分の役目と発言。
さらに「みんなで世界へ行こう」と声を掛け、将来の子供たちのために取った行動。
鉄兵は競技者としてのキャリアを全うするだけでなく、日本のサーフィンを変えたいと願う。
外に出たから、わかることがある。
弱さを知ったからこそ、強くなれる。
そう、鉄兵なら絶対できる。
全力で応援するよ。
ゴー!テッペー!

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