
撮影:佐原健司
素材開発と技術力で日本のウエットスーツ界をリードするBEWETの株式会社サンコーが、積水ナノコートテクノロジー社と30年に及ぶ共同開発を経て誕生した最新素材AGT210。
熱伝導率が最も小さいチタンを裏地にコーティングしたことで、冬の時期でも、より長い時間のサーフィンを可能にし、また素材のアップグレードと軽量化で可動性能をさらにアップした。
そんな夢のようなハイテク素材AGT210を使用し、現在考えられる最高性能を具現化したカットを施したスーツを日本を代表するレジェンドサーファーでシェイパーの千葉公平氏にテストを依頼。忖度のない意見とフィードバックで更なる技術開発と品質向上に繋げていく。
昨年末サンコーから受け取ったウエットスーツを着て、テストを始めた千葉公平氏。年始は千葉北で、その後は四国に戻ってテストを繰り返した。今回の企画では、成熟したミドルエイジユーザーが求める「軽く、暖かく、動きやすい」に関してをレジェンドの言葉に耳を傾けてみたい。


この数ヶ月間テストした中での公平さんのインプレッション
SURFMEDIA(SM):最初にスーツを手に持った感触はいかがでしたか?
千葉公平(KC):製品としてクオリティが高いと感じましたね。造りが細やかで良いなと思いました。
SM:初めてスーツを着た時のフィット感はいかがでしたか?
KC:ちょっとキツイかなと思っていて、採寸の仕方も(自分が着ているフィットシステムズとは)違うみたいだから、タイトな感じがした。フィットネスのタイツみたいのを履いている感じかな。2.5mmよりは、3mmの方が良い感じだったね。
生地感と寒さがあってないかもしれないね。薄いから良いんんじゃなくて、3mmの素材は凄く良いと思う。(2.5mmは)全部がテーピングというのがあまり良くないのかもしれない。
SM:公平さん的には2.5mmより、3mmの方が全体的に良い印象でしたか?
KC:2.5はキツい感じ。生地は柔らかいけど、伸びるところと伸びないところがあって、テーピングで損している感じがしましたね。
SM:ステッチがあった方が良いってことですか?
KC:そうかな。
SM:薄い方が軽くて動きやすいと感じがちですが、3mmの方が良いってことですか。
KC:この3mmなら真冬でも充分だね。あえて2.5mmを使うことはないかなって思う。
SM:今までの5mmとかを考えると全然軽いじやないですか。この3mmでいけると言うことは、やはり保温性能が優れているってことですね。
KC:そうだね。でも着ていくうちに欲が出てきて2.5mmの方が良いってなるかもしれないですけどね。笑。生地(AGT210)に関しては素晴らしいと思います。乾きの良さも抜群です。
SM:海に入ったときの保温力は感じましたか? 長時間保温力が持続するとのことなんですが。
KC:普通のウエットスーツよりも30分か1時間ぐらいは暖かさが持続する感じです。どのウエットよりも海水が染み込んでくる感じが遅いよね。あれは生地のお陰だと思う。だから海に入っていて寒さを感じるのが遅いと感じた。
SM:友人と千葉北で一緒にサーフィンをされた時に、その違いを感じられましたか?
KC:長い時間サーフィンしていると友人のウエットはどんどん水が染み込んでいって、僕が着ているウエットスーツは染み込む速度が遅かったですね。その友人のウエットスーツは中まで濡れてた。3mmでこの軽さでこの保温力なら良いですよね。
しかもコンペティターみたいに、どんどん乗っているわけじゃないし、素材的には余計に優れているってことなのかもしれませんね。体にフィットしたものだから、保温性を保てるというのもあるのかもしれません。
最初作った時に、BEWETの社長さんも、ぴったり作った方が良いですよって言っていた。だから、そういった部分もあるのかなって思ってます。採寸の仕方も大事だと思うんです。ジャストフィットは大切ですからね。
SM:乾きの速さは感じられましたか?
KC:海から上がって、ウエット脱いで濡れた状態だと重くなるね。それは多分、中空糸の目が細かいって言う証拠だよね。(空気を含んでいる部分が多いから)水を吸収する部分が多いんじゃないかな。確かに水を含んだ時は、今までのモノよりも重くなる感じはあるかもしれないけど、乾いてくるのが凄く早い。
SM:起毛素材の細かさは感じましたか?
KC:多くのウエットスーツ・メーカーが使っている起毛素材はどこも一緒だけど、この起毛(AGT210)はものすごく目が細かくて、生地が凄く良いと思います。
年齢の高い人向けに、もっと脱ぎやすいものを
SM:エントリーシステムの FREESLIDER と TORNADO®の使用感はどうでしたか? 着脱ぎに関して窮屈さとか難しさを感じませんでしたか?
KC:悪くはないけど、これから年齢の高い人向けに作っていくんだったら、もっと脱ぎやすいものを作った方が良いかもしれないですね。
脱ぎ易さ優先でドルフィンとかしなかったら、バックジップとかが良いと思う。チェストのジップなどは背中がゴワゴワしなくて良いんだけどね。これから楽な脱ぎ着を完成させた人が勝ちだね。
SM:今後も着たいと思いましたか?
KC:この素材は着たいと思いましたね。もっと脱ぎやすいとか、足がスポッと脱げるとか、こうなったら良いなとかは色々あるけど。現状としては素晴らしい生地、ウエットスーツだと思いますよ。
今回一番感じたのは生地と採寸が大切だって事です。
最初は驚いたね。ピチピチのウエットスーツは着たことがなかったから。あそこまでピッタリしたウエットが必要なのかなって思ったけど、そうなんだなって思うところもある、初めてだったから。全体にもうちょっと緩いよね。股やお尻とかもスパッツ履いているみたいだったから。

今回、2.5mmと3mmのウエットを2つ作ってもらって、海に行く時、どっちにしようかなって悩むんだけど、いつも3mmを選んでました。何故か分からないけど、違和感とか、生地とか、着た感じとか。2つ並んでて、いつも3mmを持って海に行ってしまった。
だからね、年配の人にはパツパツで薄いウエットっていうのは不安だし、違和感があるんじゃないかなと思う。スパッツみたいな感じは。少しは生地があった方が安心というか良いよね。2.5とか1.5とか言われても不安に思うかもしれませんね。

公平さんの愛弟子である辻裕次郎は、徳島県海部で育ち、小学校5年生でサーフィンを始め、公平さんと出会い、それから公平さんのシェイプする303サーフボードのライダーとして活躍。現在はプロ選手としての活動の傍ら、海陽町でサーフショップと宿の「ビーチハウス」を営んでいる。

辻裕次郎がサンコーのウエットスーツを着るきっかけとなったのは、公平さんのサンコーとの古くからの親交があってのこと。17歳でプロになり、世界へのチャレンジした辻裕次郎をBEWETがサポートした。浮き沈みのある選手生活の中で、常に寄り添って応援してきた。

フィットシステムズを着る公平さんが、サンコーの製品をテスト
日本のミドルエイジサーファーのトップランクにいる公平さんが独自の開発を続ける日本のトップメーカーのサンコーの製品をブランドを超えてテストしたのは、AGT210で真冬に未知のウエットスーツを着てサーフィンする楽しみがあったこと。
そして手作りのウエットスーツを着るなら、確かな生地、確かな採寸、確かな裁断、確かな縫製、確かなテーピング。全てが整ったブランドを選んで欲しいと思ったからだ。
今回の公平さんの感想にあった「2.5mmはキツく感じる」について、同時期に行ったテストライダーの評価でも、経験値の高いライダーから同じ意見があった。
そこで現在では、2.5mm の縮率(実体型に対して生地の伸びを勘案した出来上がりサイズの割合)を緩和するよう見直す事となった。
また「テーピングで伸びが止められてしまう感触」についても、より伸縮性の高い素材をメーカーとテストしており、次期モデルでの採用を目指している。
AGT210別注アイテムの製作が実現へ。
2025年秋、サンコーから千葉公平氏へのテスター依頼を終えて、今度は千葉公平が着るフィットシステムズから株式会社サンコーへ、ミドルエイジに向けAGT210別注アイテムの製作が実現する。今後の展開に期待したい。