
公益社団法人 日本サーフィン連盟(以下 NSA)は、横浜みなとみらいで開催されている「INTERSTYLE 2025」にて「2025 年度 NSA パラサーフィン事業発表会」を行った。
まずは現状の説明から。パラリンピックのサーフィン競技については、ロサンゼルス2028では採用されないことが決まり、次回のブリスベン2032に向けて、現在も国際競技団体である「国際サーフィン連盟(ISA)」が「国際パラリンピック委員会(IPC)」に対し申請を行い、各国の競技団体と協力しながら認可を目指して活動を進めている。
日本国内では、NSAが国内競技団体として、公益財団法人 日本パラスポーツ協会(JPSA)および日本パラリンピック委員会(JPC)への加盟を申請中。また、パラサーフィンの普及を目的として、NSAは現在、障がいを持つ方々の登録人数を把握するための取り組みを進めている。
その一環として、2025年も「NSA全日本パラサーフィン選手権大会」を、昨年と同様三重県志摩市の国府の浜で6月(予定)に開催する。この大会は国内のパラサーフィン選手たちの競技会であり、同時にパラサーフィンを広く知ってもらう機会として、普及と発展を目的としている。
大会には最大で8~9のクラス(STAND1、STAND2、STAND3、KNEEL、SIT、PRONE1、PRONE2、VII、VI2)が予定されている。さらに、世界選手権大会で認められたクラス以外で、そこに当てはまらない選手も参加できる「オープンクラス」を設け、パラサーフィン体験会も実施し、普及を図るとした。

この「 NSA 全日本パラサーフィン選手権大会(2025)」の先には「ISA世界パラサーフィン選手権大会」があり、この国内大会がその選考会も兼ねている(今年の世界大会の開催場所と日程はまだ未定)。
昨年の「ISA世界パラサーフィン選手権大会」は、11月にアメリカ・カリフォルニア州ハンティントンビーチで開催され、日本チーム(11名)は国別総合6位で、4個のメダルを獲得した。

個人成績は、STAND 1-MEN 加藤真吾が1位、4 位に奈良優。STAND 1-WOMEN 高尾千香子が2位。STAND 3-MEN 勝倉直道が4 位。KNEEL MEN 釣井景介13位、PRONE 1-MEN 真栄城興和16位、PRONE 1-WOMEN 市川友美8位、VI2_MEN 藤崎滋7位、PRONE 2-MEN 藤原智貴3位、生方亮馬22位、STAND 2-MEN 山本晴一 怪我のため欠場という結果だった。

理事長の酒井厚志氏は、「パラサーフィンの大会で最も重要なのは地元ボランティアの存在です。彼らの協力がなければ大会の開催は不可能です。また、大会を開催することで、環境が大きく整備されます。例えば、海岸のバリアフリー化や、車椅子で波打ち際に行ける環境整備などが進むなど、地域全体の環境が整備されます。
こうした取り組みを通じて、障がいを持つ方々に優しい海岸を実現することができます。地元のサーフィンコミュニティだけでなく、さまざまな地元ボランティアの方々と協力しながら、この環境を整えていくことがとても重要だと考えています。」と述べ、パラサーフィンの大会が環境にも大きな変化をもたらすことを強調した。
NSAは「NSA全日本パラサーフィン選手権大会」を開催することで、パラサーフィン選手たちの日々の成果を発表する場を提供するとともに、多くの障がい者の方々にサーフィンの魅力を知ってもらう機会を創出することを目指す。今後もパラサーフィンの普及を進め、このスポーツをより多くの人々に広めるための活動を継続してくと述べた。
現在のNSAでの競技種目は下記の9クラス。
Para Surfing Sport Classes(パラサーフィンクラス分類)
◆Para Surfing Stand 1(スタンド 1)
上肢切断、先天性もしくはそれに相当する障害、低身長で立った状態で波に乗るサーフアー。
◆Para Surfing Stand 2(スタンド 2)
膝下の切断、先天性もしくはそれに相当する障害、または脚長差があり、立った状態で波に乗るサーファー。
◆Para Surfing Stand 3(スタンド 3)
膝上切断、両下肢切断、先天性もしくは障害同等の状態で、立った状態で波に乗るサーファー。
◆Para Surfing Kneel(ニール)
膝上切断、または両下肢切断、または先天性もしくはそれに相当する障害を持つ、膝をついてパドルを持たずに座った姿勢で波に乗るサーファー。
◆Para Surfing SIT(シット)
座った姿勢で波に乗るサーファーで、波に向かってパドリングし、安全にボードに戻るための補助を必要としないサーファー。
◆Para Surfing Prone 1(ブローン 1)
腹ばいの姿勢でパドリングして波に乗り、安全にボードに戻るのに助けを必要としないサーファー。
◆Para Surfing Prone 2(ブローン 2)
腹ばいの姿勢で波に乗り、パドリングやボードへの安全な乗り込みに補助が必要なサーファー。
◆Para Surfing Vision Impairment 1(視覚障害1)
IBSA分類B1レベル(視力0〜光覚まで)の立った状態で波に乗るサーファー。
◆Para Surfing Vision Impairment 2(視覚障害 2)
BSA分類 B2(視力0.03〜視野5°まで、あるいはその両方)、B3 レベル(視力0.1まで、あるいは視野20°まで、あるいはその両方)のスタンディングポジションで波に乗るサーファー。
今回、登壇したチーム日本は8名。それぞれ自身のクラスと障害を説明、昨年の大会での結果と次なる挑戦と想いをそれぞれ語った。
STAND 1-MEN 加藤真吾 1位
「加藤真吾です。私は17歳のときにバイク事故に遭い、右手が不自由になりました。事故直後は右手がぶらぶらの状態でしたが、肋間神経と右手の神経をつなぐ手術を受け、ある程度の回復を遂げました。しかし、現在も肘から先は動かない状態です。そんな状況の中、片手でテイクオフしながらサーフィンを続けています。もし今年も日本代表に選ばれることがあれば、もちろん世界チャンピオンを目指します。」
STAND 1-MEN 奈良優 4 位
「奈良優と申します。右の上肢を切断しており、肘から約5センチほどの長さが残っています。切断後にサーフィンを始めましたが、これからもさらに挑戦を続けていきます。どうぞよろしくお願いいたします。」
STAND 3-MEN 勝倉直道 4 位
「勝倉直道と申します。私は30歳のときに交通事故に遭い、バイクが炎上しました。その際、全身が火に包まれ、上半身だけが残るほどの大やけどを負いました。下半身はすべて背中の皮膚を移植する手術を受け、計11回の手術と約5年にわたるリハビリを経て、ようやく日常生活を取り戻しました。その後、サーフィンを再開し、現在に至ります。
私の足は見た目には普通に見えますが、可動域が制限されており、足首は固定されたままです。これはサーフィンにとって致命的とも言える状態ですが、私はSTAND 3というクラス(大腿部からの切断者と同じクラス)で競技を続けています。昨年は3年連続で4位という結果でしたが、今年こそはさらに上を目指し、全力で頑張りたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。」
STAND 1-WOMEN 高尾千香子 2位。
「高尾千香子と申します。私は生まれつき先天性の障害があり、左手が肘の下から欠損しています。しかし、肘を動かすことができるため、右手と肘を使ってテイクオフをしています。今年も日本代表として世界に挑戦するとともに、今回はぜひ金メダルを獲得したいと考えています。また、現在、女子選手の数が非常に少なく、前回の大会では私たち2人だけでした。そのため、今後は女子選手の増加にも力を入れていきたいと思っています。
さらに、パラサーフィンは、支えてくださる皆さんの力なくしては成り立たないスポーツです。だからこそ、一緒にパラサーフィンを盛り上げてくれる仲間を増やし、競技の発展に貢献していきたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。」
VI2_MEN 藤崎滋 7位
「藤崎滋と申します。視覚障害クラスのBSA分類 B2(全盲ではなく、わずかに見えるクラス)でサーフィンをしております。これまでに一度メダルを獲得しましたが、その後はなかなか表彰台に上がることができず、悔しい思いをしています。今後また挑戦の機会があれば、ぜひ表彰台を目指したいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。」
PRONE 1-WOMEN 市川友美 8位(初出場)
「市川友美です。PRONE 1のクラスで、腹ばいの姿勢でサーフィンをする競技に取り組んでいます。12年前、スノーボードのキッカーで飛びすぎてしまい、フラットに落下。その際に背骨が破裂し、脊髄を損傷して車椅子での生活となりました。毎年冬が訪れるたびにつらさを感じていましたが、元々サーフィンをしていたこともあり、昨年ついに海に戻ることができました。
これまでは、みんなが冬を楽しんでいるのを見るのが寂しく感じることもありましたが、今では私自身も海での時間を満喫できるようになり、冬を楽しむみんなの姿を心から一緒に楽しめるようになりました。本当に、海に戻ってこられてよかったです。今年も代表選手に選ばれることを目指し、全力で頑張りたいと思います。」
KNEEL MEN 釣井景介 13位
「釣井景介です。私は2016年に交通事故でバイクに乗っている際に乗用車にはねられ、下肢不全麻痺となりました。現在は日常生活を車いすで過ごしていますが、少しは動かせる状態です。事故から一、二年が経った頃、仲間たちのサポートを受け、再び海に戻ることができました。今日も会場に来てくださっている方々の応援のおかげで、こうして再びこの場に立つことができています。
障害を負って初めて、健常者と障害者の間に大きな境界があることを痛感しました。その壁を少しでもなくしたいという思いから、私にできることを考えた結果、サーフィンを続けることにしました。海に通いながら、より多くの人に障害者の存在を知ってもらいたいという思いで活動を続けています。その中で試合にも挑戦し、このような場に立つ機会をいただけたことを、とてもありがたく思っています。今年もチャレンジを重ね、世界の舞台に立つことを目指します。引き続き、応援よろしくお願いいたします。」
PRONE 1-MEN 真栄城興和 16位
「真栄城興和と申します。僕はPRONE 1という、自分でパドルして滑って乗るというクラスです。現在42歳ですが、30歳の時に「脊髄動静脈奇形」という先天性の病気を突然発症しました。それまで前兆はまったくなく、ある日突然、つま先からしびれが始まりました。わずか30分ほどでお腹のあたりまで広がり、気がつくと立てなくなっていました。
18歳からサーフィンを続け、12年間楽しんでいましたが、病気を発症してからは長い間サーフィンができませんでした。そんな中、昨年7月に「全日本パラサーフィン」に出場しないかと声をかけてもらい、それをきっかけに去年の夏からパラサーフィンを始めました。
そこから日本代表として派遣されましたが、勝手が全然違い、何もできず、波にも乗れずに良い結果が出せず悔しい思いをしました。その悔しさをバネに、次の挑戦として今年3月にオーストラリア・バイロンベイで開催される AASP(Association of Adaptive Surfing Professionals) という団体の大会に挑戦する予定です。
僕は健常者と障害者、両方の視点を持っており、パラサーフィンはサポートしてくれる人たちの存在なしには成り立たないスポーツだと強く感じています。だからこそ、彼らの存在やサポートの大切さをもっと多くの人に伝えたいと思っています。また、自分自身の障害者としての視点を活かし、ビーチや街づくりに少しでも貢献できるような活動をしていきたいです。どうぞよろしくお願いいたします。」
問合せ:公益社団法人 日本サーフィン連盟 / 担当:清水
メールアドレス:info@nsa-surf.org
電話:03-6434-7341
FAX:03-6434-7795