THE DAY~ロングボードその深遠の魅力に迫る~ 文:Emiko Cohen
「え~っ、ロングボードぉ~」極端な例えを言えば人種差別かと思うほど、ロングボードを煙たがる波乗り人がいるのは、嘆かわしいことに否定できな事実だ。「ありゃあオッサンの乗るものだ」書きながらもそんな声が聞こえてくる様だ。(笑)
「ロングボーダーたちは《古き良き時代》を思い出させてくれる。ジェリー(ロペス)や、シェーン(ホラン)、マーク(リチャード)やトム(キャロル)等の時代。賞金をもらってもポケットにお金を入れたままで何週間も忘れてしまうくらい、《純粋に波にのる》ことしか考えていなかったやつらが元気だったあの時代を。」
娘がロングボードに凝りだし、それを切っ掛けに、世界トップのロングボーダーたちのパフォーマンスをカメラに収めることにした写真家のゴルディーニョの言葉だ。
それを感じているのは、きっとゴルディーニョだけではないはず。ロングの魅力はやったことのあるもにしかわからない「何かがある」様だ。
シーズンも終わりかけたハワイ・ノースショアのチャンズリーフ。頭オーバーのジワジワ崩れてゆく波を占領した世界トップのロングボーダーたち。彼らの声をここに集めてみた。その「何か」を君に探ってもらいたいから。
「そんな役にも立たないロングをやってて何になるのか」という質問をよく受ける。答えは簡単「好きだから。」
KAPONO NAHINA カポノ・ナヒナ
カポノ・ナヒナは数々のアマチュア・タイトルを持つハワイアン・コンペティター。日本で行われるWSLイベントにも出場する日本でもおなじみのハワイを代表するロングボーダーのひとり。
あの日、僕はカイルアの家を早めに出て、ワクワクしながらノースショアに向かった。一時間はかかる道も全く大変だなんて思わなかった。電話で知らされていたチャンズリーフの波のこと。これから会う友人たちの笑顔。先に起きるであろうことを想像してながらの道すがら。渋滞にあったことすらも気がつかなかった。
少し遅れてチャンズに到着。皆が駐車場でスタンバイしているのが見えた。車を出てすぐに俺たちはシェイクハンドをし、それぞれ自分の板を抱えて浜に降り立った。沖で割れてる5フィートの波に向かい皆パドルアウトしだした。
ヒンヤリの肌にしみていく海水。貯まっていたダストが海に溶けてゆく。パドルアウトし出すと腹の底からなんとも言えない嬉しさが突き上げてきた。それを感じているのは俺だけでない様だ。
スコットもサリーもクリスタルもユウジも皆、笑顔。僕らの間には言葉はいらない。あるのは清々しいバイブスだけ。順番を決めたわけでもないのに、ちょうど波が行儀よく順番守って割れてゆく様に、俺たちも順番に波を捕まえた。
年々裕福になるショートボードに反比例して俺たちロングボーダーたちは波乗りをしてての報酬はない。トレーニングをつみ、体を整えメンタルを強め、大会に出てゆくが優勝しても飛行機代の半分にもならない。
「そんな役にも立たないロングをやってて何になるのか」という質問をよく受ける。答えは簡単「好きだから。」
俺たちロングボーダーは波乗りだけが世界じゃない。俺は大工。スコットはパイロット。他の連中もみんな仕事を持っている。だからこそ週に一回、こうやって皆が集まり波に乗ることが最高のクレンジングになる。君は水の上を歩いたことがあるかい? ノーズへ5や10はそれを実現させてくれるんだ。
基本、波乗りは楽しくなくてはならないもの。板の種類は関係ないの。
Crystal walsh クリスタル・ウォルシュ
2015年WSLロングボード世界2位の実力を持つクリスタルは、世界の女性ロングボーダーから注目されるハワイアン・サーファー。
「あの日のチャンズはちょっとトリッキーだったわ。スウェルがあちこちから来てまとまりがなかった。カレントがあったし。ただセットに乗れて楽しかった。巻かれたけどね。
私がロングボードを始めたのは20年前。ボディボードをやっていた時にショートをやりたくてね。周りに波乗りを極めている人がいなかったんで、観光客の様に高校生のときに、ワイキキのレンタルボードを借りてトライしたの。その時、初めてボードの上に立つということを味わった。それから病みつき(笑)。」
「最初の板は9’2”だったわ。ショートもやったけど、またロングに戻ってしまったわけは、ロングならではのあの感覚。テイクオフの後、ボトムに降りる前にノーズに歩くエキサイトメント。
ショートとロングの差を大きくつけたいらしく、WSLが今後、ロングはシングルフィンでなければならないという決まりを検討中らしいけど、それは疑問ね。
でも周りの状況が変化しても、心に正直でありたい。ちなみに私、今でもボディボードもやってるの。好きな板を手にして好きな様に波をキャッチすればいい。基本は波乗りは楽しくなくてはならないもの。板の種類は関係ないの。」
自分を知れば他人を理解できる。混乱しそうな時は海。海がリセットしてくれるから。
Scott Fong スコット・フォング
ボンガの弟子であるハワイアンのスコット・フォング。師匠のボンガ・パーキンスのような、ラディカルさと巧みなノーズさばきによるハイパフォーマンスを見せる。
「ショートボードで波乗りの世界にハマった僕だが、膝の故障で手術を受けることになったんだ。リハビリ最中にどうしても海に浸かりたくなった時に、膝に負担がかかりすぎない様にとロングを手にした。
それが僕とロングの出会いだった。膝の方は治ったけれど、ロングに乗る癖は取れないまま(笑)。20歳でプロに転向し、世界ツアーを廻る様になった。とはいえ今でもフィッシュ(ショート)で波の上を飛び回っているけどね。
もちろんわかってるさ。多くの人がロングを煙たがっているということ。ショートよりも沖で構えて、いい波を根こそぎとっていくんだから。海の中のセオリーだよね「大きい板は嫌われる」とは。
コンテストフィールドをみても嫌われてるのがよくわかる。大会の数はショートの半分にも満たないんだから。世界チャンピオンを決めるのは、たった一回の大会だけだよ。もちろん、この状況にもちろん満足してるわけじゃないさ。でも僕がロングをやる目的は、そういう周囲の流れとは全く関係ないんだ。
海に身を置くのは生活の中で「欠かせないこと」。他人からの誘いとか評価との関わりは全くないんだ。海は「繋がり」を思い出させてくれる。自然とのハワイアン祖先と繋がりをね。
「何の為に生きるのか」を思い出させてくれる。そういう状況で世界大会に出ると気がつくことがある。他人の文化や歴史と他人が歩んできた道があるってことを。自分を知れば他人を理解できる。混乱しそうな時は海。海がリセットしてくれるから。
あの日はコンディションも波のサイズもパーフェクトに近かった。それにあの時の波は上質の友達を運んできてくれた。カポノのサーフィンにはいつもインスパイヤーさせられる。
この日も何本も良い波を掴んではリッピングしていたね。次の日が帰国だった日本から来ていた雄二(畑)もカポノ同様、決めていたよね。彼とは日本のツアーに行った時に知り合ったんだ。世界を回っていたからこその出会いだ。
日本では彼の家族が経営するレストランに招待してくれたんだけど、とっても美味しかったな!!クリスタルやサリーのガールズの活躍も刺激になる。サリーは男たちがビビる様なセットを平気で乗っていたし、将来が何かをやらかしてくれるってのは目に見えてるよ。あの日のセッションを纏めるのなら、ただ一言「楽しかった」だな。
友情を育むのは国籍は関係ないですね。言葉の壁も波乗りはクリアにしてくれる。
Yuji Hata 畑雄二
元JPSAロングボード・グランドチャンピオンである畑雄二。ハワイアンたちとの交流も深い。テールコントロールのアグレッシブさとクラシックなノーズライドを併せ持つ
この日はカポノとスカティーに誘われてチャンズで波乗りしましたが、ハワイではマカハでよく波乗りします。海外の人とは、やはり世界を廻る様になって知り合いました。WSLで知り合った海外の選手たちが、日本に来たときにはお世話させてもらい、逆に彼らの場所に行ったときには、バーベキューに呼ばれたりとお世話になってます。
海外の人と関わることは自分の枠を広げるということに繋がりますね。例えばマカハのセッション。カレントが強すぎたので、ローカルの友達がジェットを出してくれたんです。一本乗ったらジェットで沖へ。また一本乗ったらジェットで沖へ。
一日中、それを繰り返しました。すっごく楽しかった。そんな日から学んだのは、技術やオーシャン・サバイブだけでなく友情に国籍は関係ないですね。友情を育むのは。言葉の壁も波乗りはクリアにしてくれるし。
それと、レベルの違いを強く感じたのは「食べる量」です。特に驚くのが朝ごはんの量。ポチギーソーセージに目玉焼き2つにライスを2スクープ、それにパンケーキ3枚シロップつゆだくをが1人のセットでそれを平気で平らげ、海であれだけ動けるのには、いつも驚かされます。メンタルも体もそして「胃」も、彼らといると枠が広がるのを感じています(笑)
ショートボードの選手とロングの選手の性質って全然違うんです
Sally Cohen サリー・コーヘン
サリーはハワイのノースショア在住のフォトグラファーGordinhoことポール・コーヘン氏の次女。母は日本のボディボード創成期にプロとして活躍された堺恵美子さん。そんな海の遺伝子を持つサリーは、試合経験を積んで、成長を続ける。
私は小さい時からショートボードとロングの両方をやります。人種を差別するわけではないけど、ショートボードの選手とロングの選手の性質って全然違うんですよね。
宮崎であったWSLのコンテストに出場するために日本に行った時は、世界大会だからきっと怖い人ばかりかと思っていたんです。ノースショアで波乗りしているWSLレディースプロの多くがそんな感じだから。
ところが逆だった。みんなとっても親切だった。負けた選手も残った選手を応援しているし、世界トップのフランスの選手は大会会場のどこであっても歌を歌ってて楽しそうだったし。
歌といえば、大会も両方の部門に出場しているんですが、ショートをやる前は早い曲を聴くんですが、ロングをやるときはジャック・ジョンソンなんかのノンビリした曲を聴くんです。
ロングは焦りすぎたらうまく乗れないんですよね。あ、だからかな、みんな性格まで板の種類に合う様に調整してるのかもしれませんね(笑)。ロングを極める人たちに囲まれた、あの日のセッションは言うまでもありませんよね。最高リラックスしたひと時でした。