田中樹インタビュー 〜日本の未来を見つめて〜
2009年JPSAグランドチャンピオンを獲得。2010年は3位となるものの、今年も現在、4位と上位をキープ。また、ASP JAPANでは初戦の奄美の大会で優勝。
カレントリーダーとして、現在も日本のトップを走る田中樹。その樹が昨年から、弟のジョーと始めた活動がある。それはコンペティションのクリニック。特にジュニアに向け、自分たちの戦い方などノウハウを教え実践、世界で戦える選手の育成を始めた。
そんな田中樹に現在の心境となぜコーチを始めたのか、なぜジュニアにフォーカスしたのか、また、日本の今ある問題点。これらを改めて聞いてみた。
Text &Photo : : Sadahiko Yamamoto
まず、自身の話からですけど、世界を引いて、国内中心に回ることを宣言しましたが、何か意図はあるのですか?
コンペティションやっていれば、いつかは転機が来ると思うんですが、自分は一歩身を引いて、世界を廻らない、止めようと言うわけではないんです。まだ、出るつもりもあるし。ただ、今は日本でできる範囲でやれることをしながら、日本のコンテストシーンを盛り上げていきたいと思ったからなんです。
でも世界については、確かに限界を感じつつ、モチベーションが無くなって来たのは事実です。家庭を持って、子供が出来て、長期的には海外を廻るのが難しくなったこともありますが、WTに上がれない現実が見えたこと。実際、WTに行くには、自分は時間がまだまだかかるじゃないですか。そう考えた時、その限界が見えてくる、もう無理じゃないかと。
実は自分の夢は、日本の一番になりたかったことなんです。小学校の時、何でもいいから、日本の一番になりたいって。サッカー、野球はセンスが無くて、たまたまサーフィンがはまったんですよね。世界を廻った理由も、日本一になりたくて廻っていたんです。だからグランドチャンピオンが獲れたことで、夢が叶ったというのもあります。
今は世界へ出るという感じよりも、次のステップを作るというか。コンペティションを引退した時の準備でしょうか。それが日本の子供たちにやっていきたいということだったり。スポンサーのためにやっていきたいとか。 |
では、今まで世界を見て、現在の日本のコンペシーンについてはどう思われますか?実際、日本人選手は世界で通用するのでしょうか?
自分がツアー廻っていて感じたことですけど。今、廻っている人たちにこんなこと言うのは失礼ですけど、このままでは難しいです。それは彼らのサーフィンがダメとか、そういう問題でなく、世界の基準で言うと、日本人のレベルで世界を廻っているのは、本当はおかしいわけで。それぐらい世界のレベルが上がって、日本が離されているんだと感じます。
ただ、世界を廻っていてくれる人が、今いるおかげで、日本の価値と言うか、日本から来ているんだぞと、ある意味アピールする結果になるわけで。これからの日本のコンペを考えると世界を廻ることは、必要なわけです。
日本のサーフィンのレベルが劣っているのは、育成システムが無いからということですか? 実際は選手個人の努力に頼っているのが、現状ですよね。本来、日本がやるべきこととか、あると思いますか?
団体が別々なのが、良くわからないです。一つでいいじゃないですか? 一つにまとまることが必要だと思います。ルールが違ったり、その時々でシュチュエーションが違ったり、ジャッジが違ったり。団体がそれぞれ違うから、それぞれやり方が違うわけで。それが問題だと思います。
ASPとJPSAを廻って感じたこと何ですけど、こんなこと言うと夢がないかもしれませんが、日本から廻るのは限界があるんです。金銭面とか自分のモチベーションとか。パワーも必要です。自分も廻っていたからわかりますけど、キープが難しいんです。
今、マー君、頑張っているし、それをつなげる鉄兵、裕次郎たちが頑張っていると思うんですけど。個人でやるのは、限界があります。世界は現実、すごいレベルですし、その頑張りをどう現すか。ただ、今のままだと、頑張っているだけになっちゃうんですよね。 |
WTに選手を出す為に、日本がやるべきことは何でしょうか?
日本が本気でWTの選手を出そうとしているのか、その動きが感じられないですよね。まずは大会じゃないですか。6スターの大会。ブラジルは何人出したいかわかりませんけど、6スターの大会が半端無くあるじゃないですか。本気でWT選手出したいのなら、日本でも大きいスポンサーで、4スター以上を年間5戦以上やっていかないといけないと思うんですけど。
日本で開催されるなら若い子が出られます。ジュニアにポイント稼がせてあげないと。考えてみてください。日本国内で試合が無くて、海外で簡単に勝てるわけがないですから。それにポイントをゲットできなければ、6スターも出られないんですよ。ブラジルで何で出られるかと言えば、ジュニアの試合で勝っている子もいるけど、ブラジル国内で5スター、6スターに出ていれば、ポイントが取れるんです。国内でグッドリザルトがあれば、海外の6スターに出られるチャンスができる。勝った選手は、さらにプライムに出られるわけで。
日本がまとまって、一緒にやってASPのでかいグレードをやった方がいいと思います。一緒にして6スターとか、やって欲しいですね。でも、いっそのこと、国内のシリーズが無くなった方がいいんじゃないですか? そうすれば、試合やりたい選手は外へ出て行くしかないわけで。スポンサーもそれをバックアップして。極論ですけど。そういうふうにしていけば、海外経験を積むことにつながるし。
でも、今は景気も良くないですし。ここ何年かはダメじゃないですか。こればっかりは、自分の力じゃどうにもならないですけど。ただ、自分は今、ジュニアを世界で戦えるようにしたいと思っています。少しずつですけど、できることやっていきたいと考えています。 |
日本のジュニアについてはどう考えていますか?
オーストラリア、アメリカ、ハワイ、ブラジルより劣っています。ヨーロッパは、ピックすれば一人、二人は良い選手いますけど、トータルで見たら俺の中では、負けてないと思います。日本の方がイケテルじゃないかと。
でも、今の日本のジュニアは、胸以下よりも頭以上の波で、世界との差が出ていると思います。いい波だとか、コンパクトな波で、練習したがりますけど、クローズでもやるという意識とか、悪いコンディションでもやるという気持ちでいかないと。
言いたいのは、世界で頑張りたいのなら、本当に頑張らないと。海外が百回やるなら、日本は二百回やらなきゃ。下手なんだから。どんな波でもやらないとダメです。スネでも頭でも、ジャンクでもやるしかない。日本は常にやっていないと。
日本のジュニアがやるべきこと、世界で戦うために必要なことは何でしょうか?
日本人ジュニアの良くないところは、考えていないことなんですよ。もっとコンペに真剣になって欲しいです。サーフィン二時間やって満足して、ご飯食べて、終了みたいな。何もわかっていないですね。今回のキャンプでは、サーフィンの技術は特に教えていません。それは、個人のレベルじゃないですか。自分は「こういう風にした方がいいよ」と言うアドバイス、プラス「それを考えてくれ」って、しか言っていません。なのに、キャンプの一日目と三日目を比べると、選手自身、大きな違いが出ています。それはなぜか。考えるようになったからなんです。だから、それを教える人がいないと。
今、実際問題、年齢で考えれば、世界と差を詰めることができるのは、大原洋人や仲村拓久未の世代でしょうか。自分に任せてくれれば、戦える準備は作って上げられると思います。世界へ、くっついて行けるレベルにしてあげれば、二十歳過ぎる時にWTに行けるのかなって。
自分は今後、これから指導者としてやっていくに向けて、世界と何が違うのか、どうやってその差をつめるのか、勉強しなくちゃいけないとも考えています。 |
ではコーチについて。 コーチをやるきっかけは何だったのですか? また、日本でコーチングをやる難しさとかは、ありますか?
きっかけは、日本の底上げをしたいと言う単純な気持ちです。コーチング、自分も受けたかったんですよね、本当は。日本にはコーチングシステムがないじゃないですか。だから、自分がやろうと。海外を止めていますけど、日本人選手の中では、少しでも世界を見たわけで、成績は残っていないですけど、できるだけ少しでも伝えられたら、と言う気持ちで始めたんです。
海外は現役引退して、コーチへ転身が普通ですけど、日本ではしている人がいないですよね。それに加え、今の若い子たちは性格が素直じゃないというか、世代を超えた人のコーチを受けようとする心が無い。リスペクトが無いというか。でも、それは、昔と今のサーフィンが変わったから、と言う理由もあるからなんですけど。海外と違って、サーフィンの歴史や培ったものが違うと言う部分もありますけど、日本はそういう歴史なんですよね。
今、自分が現役で勝っているうちに教えないと、あいつら聞かないですから。現にあいつらには、負けていないです。逆に自分に勝つ、勝ち方を教えてくれって、言っているぐらいですから。なので、その間は言うこと聞いてくれると。そして、結果がついてくれば、自分が引退しても続けて聞いてくれるのかなって。
元々、コーチングはやってみたかったんですよね。昨年、初めて自分がコーチして、教えた選手が勝って、面白かったんです。ワクワクしたっていうか。例え悪いですけど、テレビゲームが好きなんですよ。自分の駒が勝つと、すごくうれしいんです。その延長じゃないですけど、得意な分野のサーフィンで、自分が教えた選手が、型にはまった形で勝ち上がると面白くて。
本来、コーチングはメーカー主導でやることですよね。でも、日本にはその土壌すらないですから。無いなら、自分が手探りで始めて、コーチングの形を作れればいいかなって。まだやり始めですけど、もっとコーチングを勉強して、日本のコーチの第一人者になれるように頑張っていきたいと思っています。 |
最後に、田中樹として、今、やらなきゃいけないこと、そして目標は?
自分が世界で勝てなかったことを託すわけじゃないですけど、日本のジュニアを世界の三本の指に入れたいです。そして、コーチの仕事を今後、引退したらやっていけたらと考えています。今は自身で世界のレベルへ近づける選手を選考してやっていますけど、今後、日本代表のコーチが必要であれば、ぜひ挑戦してみたいです。
なので、今、実際やっているコーチングで結果を出さないと。コーチの重要性というのを、やっている人とやっていない人の差で、結果が出てくれば、自分的にはいいかなって。その子たちは、自分に投資してくれているわけで。自分に賭けていてくれているので、結果を出すことが、今、一番大事なことです。 |
5/14〜15 Quiksilver Amami Island Pro Junior / 奄美大島 / 優勝 大橋海人
Quiksilver King of the Grommet Amami / 奄美大島 / 優勝 仲村拓久未
7/15〜19 MURASAKI Pro Junior 湘南藤沢 / 優勝 大村奈央
MURASAKI Pro Junior 湘南藤沢 / 優勝 仲村拓久未
8/6〜7 OAKLEY PRO JUNIOR 千葉県一宮 / 優勝 加藤嵐
OAKLEY PRO JUNIOR 千葉県一宮 / 優勝 高橋みなと
8/18〜20 Quiksilver Pro Junior Shikoku Open / 高知県東洋町 / 優勝 加藤嵐
Quiksilver Pro Junior Shikoku Open / 高知県東洋町 / 優勝 仲村拓久未
● 2011年度 ASP WJCの代表選手
Men’s / 渡辺寛、大橋海人、加藤嵐、新井洋人、田中海周
Girl’s / 大村奈央、橋本恋
※ 代表7人中、4人が選ばれている。
●「QUIKSILVER KING OF THE GROMMS」日本代表 / 仲村拓久未
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photo:S.Yamamoto
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2001年 JPSA 最終ランキング 25位
2002年 JPSA 55DSL PRO 優勝
2002年 JPSA 最終ランキング 5位 フル参戦
2003年 JPSA 最終ランキング 2位 フル参戦
2004年 JPSA アロハガルーダカップ 優勝
2004年 JPSA 最終ランキング 2位 フル参戦
2005年 JPSA 最終ランキング 8位 スポット参戦
2005年 ASP WQS5STAR ONEILL PRO FRANCE 3位
当時日本人歴代最高位
2005年 ASP WQSランキング 153位
2006年 JPSA 最終ランキング 14位 スポット参戦
2006年 WQS2STAR SAHARA PRO 優勝
2006年 ASP WQSランキング 127位
2007年 JPSA 最終ランキング 5位 フル参戦
2008年 JPSA 最終ランキング 7位 フル参戦
2008年 ASP WQSランキング 176位
2009年 JPSA ALL JAPAN PRO 優勝
2009年 ASP WQS2STAR HYUGA 優勝
2009年 JPSA 最終ランキング 1位
グランドチャンピオン獲得
2010年 JPSA 最終ランキング 3位
スポンサー:
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