五感で感じる“キセキ”の瞬間。プロロングボーダー吉川広夏インタビュー、世界最高峰「ベルズ・ビーチ」準優勝の裏側を語る

2025年12月14日(日)、南青山のTAOスタジオ青山にて、世界を舞台に戦うプロロングボーダー・吉川広夏による新感覚トークライブ『ヒロカノキセキ』が開催された。

 

本イベントは、映像を見るだけの従来のトークショーとは一線を画す「没入型トークライブ」。

2025年、世界最高峰のWSLロングボードツアー第1戦「Bells Beach Longboard Classic」で吉川が果たした準優勝という”軌跡”をテーマに、光、音、そして「香り」の演出を駆使し、彼女が波の上で感じていた世界を観客が追体験するという試みだ。

 

イベント直前、吉川広夏選手にインタビューを行い、この新しい表現への挑戦と、キャリアの転換点となった激闘の裏側について話を伺った。

 

「香り」と「生ナレーション」で波の中へ

 

 

「今回は映像の上に、私がリアルタイムでナレーションを乗せます。そこに光や香りの演出を加えることで、観客の皆さんが『本当にその場所にいる』かのような体験ができるようにしました」吉川はイベントのコンセプトについてそう語る。

ただ映像を流すのではなく、その瞬間の心情や感覚を“ライブ”で語りかけることで、波に乗るアスリートの孤独と高揚感を会場全体で共有する。それが今回の「没入型」の狙いだ。

 

映像が上映されて、その後はトークショー

 

14年越しの悲願、ベルズ・ビーチでの覚醒

 

イベントのハイライトとなるのは、2025年のベルズ・ビーチでの準優勝だ。吉川にとって、世界大会初出場から14年目にして掴んだ悲願の表彰台だった。

「以前は『クオーターファイナルの壁』や、スター選手に対する萎縮があり、勝手に相手を大きく見せてしまっていました。でも今回は違いました。対戦相手ではなく、『地球が丸ごと動いている』ようなコンディションの海と向き合い、いかにその波と同調し、自分を表現できるかにフォーカスできたんです」

 

巨大な波が押し寄せるベルズ・ビーチ。その極限状態で彼女が感じていたのは、恐怖ではなく、波との一体感だったという。

 

「ピンクのボード」がくれた確信

 

 

吉川広夏と田岡なつみ Credit: WSL / Ed Sloane
吉川広夏 Credit: WSL / Cait Miers

 

その自信を裏付けたのは、道具選びへの確信だった。WSLからのジャッジ・クライテリアの連絡。そして幾度となく訪れているエルサルバドル大会でのビッグウェイブでの試合の経験が活きたと吉川は振り返る。

 

「波の面が荒れていて難しいコンディションの中、あえてリスクのある重たい『ピンクのサーフボード』を選びました。テイクオフは難しくなりますが、乗ってしまえば波のコブを突き抜けて走ってくれる。その『道具への信頼』と『攻めの姿勢』が、どんな波でも自分のサーフィンができるという自信に繋がりました」

 

ライバルであり、同志。世界を旅する絆

 

 

清水亮氏
清水氏の写真も展示されて販売も行われていた。

 

イベントでは、写真家・映像作家の清水亮氏が撮影した映像が使用されている。もともとはイベント用ではなく、記録として撮り溜めていたものだという。

「結果だけ見れば『準優勝しました』の一言ですが、そこに至るまでのプロセスや裏側を伝えたかった」と吉川は語る。

 

吉川広夏
今回のイベントでMC /ナレーターを務めたのはJPSAのMCでお馴染みのTSUYOSHIくん
トークショーでは解説者としても活躍されるプロロングボーダーの河村正美さんも登場。

 

 

その裏側には、世界を転戦する選手同士の絆がある。「海外では一軒家を借りて、なっちゃん(田岡なつみ)やライバルである他国の選手たちと共同生活をしています。

ご飯を一緒に作ったり、映像を見返して作戦会議をしたり。万が一ボードが折れたら『私のを使っていいよ』と言い合える関係です。田岡選手とは国内ではライバル視されがちですが、世界の舞台ではお互いに高め合う『同志』なんです」

 

世界5位からのさらなる高みへ

 

吉川広夏 Credit: WSL / Ed Sloane

 

2025年シーズン、吉川は世界ランキング5位という好成績を残し、来シーズンのトップツアー(LT)へのクオリファイも確定させた。

「今年は世界5位でしたが、来年はもっと高みを目指したい」と力強く語る彼女の視線は、すでに次のシーズン、そして将来的なオリンピック種目化への期待にも向けられている。

 

このイベントは2部制で行われ、どちらの回も大盛況で、吉川を応援するファンの多さを感じるものだった。
清水氏と吉川広夏

 

アスリートとしての「戦いの記憶」を、五感を刺激するエンターテインメントへと昇華させた『ヒロカノキセキ』

吉川広夏が見た景色、肌で感じた風を共有した観客たちは、彼女が起こした軌跡の真の目撃者となった。

そして彼女の軌跡を、これほどまでにリアルに、そして深く感じられる機会を与えてくれたスタッフの人たちにもありがとうを伝えたい。多くの人たちに愛されパワーをもらって吉川広夏が前に進めるのだということを確信した。

 

吉川広夏がベルズビーチで準優勝の快挙。ランキング3位へ。WSL-LT第2戦バイオグラン・ベルズビーチ・ロングボードクラシック