多くのトップアスリートをサポートするビラボンが、サーファーのためのトレーニングアカデミーを開催。日本のトップサーファーたちが集まり、サーフィンのパフォーマンスを「体の動き」という観点から科学的に解き明かす専門講習会「BILLABONG TECHNICAL CORE Academy 」が開催された。

講師を務めるのは、サーフィンだけでなく野球やサッカーなど、多岐にわたるプロアスリートを25年以上にわたり指導してきた増田勝一トレーナー。
サーフボードのことや戦術ではなく、純粋な「テクニカル」と「フィジカル」に特化した新しいアプローチ。増田トレーナーは、練習量だけでは超えられない壁を「身体のメカニズム」から解き明かし、世界で戦うための新たな道筋を示す。
戦術論を排した新しいアプローチ
日本でも競技サーフィンに対するコーチング・システムが確立し始めているが、その多くは試合での戦い方がメインとなっている。
講習会の冒頭、ビラボンチームマネージャーの野口氏は「増田トレーナーは、大会やヒート(試合)、ボードに関する知識はありません。専門は本当に身体操作のことだけです」と、今回の講習会のユニークなスタンスを説明した。

増田トレーナーは、アディダスなどのスポーツメーカーからも公認される指導者であり、その専門領域をアスリートの身体操作に絞っている。これは、既存のコーチの指導を否定するものではなく、それを補完する形で、選手のパフォーマンスを根本から引き上げることを目的としている。
野口氏は「普段の練習も、体の動きのメカニズムを知りながらやるのと、知らずにやるのとでは、上達への道が全く変わってきます。今回はその部分を深く掘り下げます」と語った。
講習会では、選手たちが抱える具体的な課題にも踏み込む。「もうちょっとこういうカービングをしたい」「こういうエアの飛び方をしたい」といった選手の要望に対し、増田トレーナーは身体力学に基づいた解決策を提示。技の質を向上させるための非常に深い知識と分析力がこの講習会の核となった。
野球界で活躍する大谷翔平選手がフィジカルトレーナーやメンタルトレーナーを分けるように、サーフィン界も競技レベルが上がるにつれて、より専門的なアプローチが求められている。今回の第1回となる講習会は、まさにその最先端を行く試みと言える。
この取り組みは今後も継続される予定で、日本のサーフィン界全体のレベルをさらに引き上げる、新たな一歩となる可能性を秘めている。
目指すは世界レベル。科学的アプローチでサーファーの潜在能力を解き放つ新講習会
なぜイメージ通りに動けないのか? 原因は「身体のメカニズム」にあり
「もっと上手くなりたい」「もっと勝ちたい」という強い思いで練習に励んでも、なぜかイメージ通りのライディングができない。多くのトップ選手が抱えるこの課題に対し、増田トレーナーは「運動と身体のメカニズムの不一致」が原因であると指摘。
講習会では、以下のような点がパフォーマンスを制限していると解説された。
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骨格の歪み:O脚やX脚など、個々の骨格特性が原因で可動域が狭まり、本来の動きができていない。
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柔軟性・筋力不足:柔軟性の欠如や体幹の弱さが、正しい身体の使い方の妨げとなっている。
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誤った身体操作:これらの要因により、無意識に間違った動きが定着し、カービングで回れない、技が決まらないといった結果につながっている。
目指すは世界。個別最適化された「ドリル」で弱点を克服しよう。
この講習会が他と一線を画すのは、その基準が「世界レベル」である点。「日本国内で上手い」レベルではなく、世界トップと渡り合うための身体作りを目的としており、対象も「ポテンシャルのある選手のみ」に絞られた。
増田トレーナーは、「野球やサッカーの選手が個別の課題に応じてドリルを行うように、サーフィンも一人ひとりの身体に合わせたトレーニングが必要です」と強調。
選手全員が同じ練習をするのではなく、それぞれの骨格や身体の癖を分析し、個別最適化されたメニューを提案する。
今のスタイルはそのままにパフォーマンスを「プラスα」する

このアプローチは、選手のスタイルを根本から変えるものではない。むしろ、今持っているポテンシャルを最大限に引き出し、「6点のライディングを6.5点や7点に引き上げる」ことを目指す。
ほんの少しの科学的知識と、それに基づいた正しい身体の使い方を身につけるだけで、パフォーマンスは劇的に向上する。それこそが、世界で「勝つ」ための近道であると、本講習会は示唆している。
今までにない科学的な視点から、自身の身体と向き合うこの機会は、参加した選手たちがさらなる高みへと到達するための、大きな一歩となる。
「実践2に対してトレーニング8」

多くのスポーツ選手は「実践練習」に比重を置きがちだが、世界のトップアスリートは「実践2:トレーニング8」という比率で、圧倒的にトレーニングを重視していると増田トレーナーは言う。
技術習得の鍵は、感覚だけに頼るのではなく、科学的なアプローチを取り入れること。そのプロセスは以下の通り。
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運動エネルギーの算出:
目標とする技を物理的に分析し、それを実現するために必要な筋力「運動エネルギー」を具体的に割り出します。 -
身体能力の数値目標化:
算出した運動エネルギーを生み出すために必要な身体能力を明確な数値目標として設定します。 -
計画的なトレーニング:
その数値目標を達成するための計画的なトレーニング(ドリル)を組み、技術の土台となる身体を作ります。 -
実践との連動:
土台作りと並行して、正しい動作パターンを学習し、実践練習で定着させます。
この「動作に必要なエネルギーを獲得するトレーニング」と「実践」をセットで行うことで、技術はより確実かつ効率的に習得できる。これは、大谷翔平選手や世界のトップサーファーであるフィッリペ・トリードなどが実践している方法であり、実践一辺倒ではなく「科学」を取り入れることの重要性を示している。
今回参加したBILLABONG TEAM ATHLETE 田中英義、川瀬心那、馬場心、矢作紋乃丞、岡野 漣、小笠原由織。
矢作紋乃丞をはじめ、他のビラボンライダーの中には過去に増田トレーナーからの指導を受けていた選手もおり、今回参加できなかった松田詩野、安室丈、鈴木仁など世界で活躍する選手のためにアカデミーは続けて行われていく予定だ。
田中英義
個人的な感想としては、自分のサーフィンにおいて自分は結構腕の使い方とか、あまり着目してなかったんですけど。そこをちょっと意識してみようかなっていう気になりましたね。まずやってみないとって感じです。

小笠原由織
自分の動画を見てるだけじゃ分からないところがあります。やっぱりすごい教えてもらってためになったと思うし。あと、すごく難しいところもあったんで、しっかりもう一回受けてみたいなって思いました。
岡野 漣
なんで腕をこうしなきゃいけないとか、そういう理由をちゃんと知れて、こういう機会あったらもっと受けたいなって思いました。
川瀬心那
ただやってるだけとか、自分の知識だけで、うまい選手のサーフィン見てたりしただけだったので、他人のライディングを見る場合でも、どこに注目すればいいかっていうのが今回分かったので、違う目線でどんどん勉強していきたいなと思います。
矢作紋乃丞
自分は結構コーチングをちょくちょく受けてて、手を前にしろとか、
当てる時にケツを引けとか言われてたんですけど、今回その理由までもちゃんと分かりやすく言ってくれたんで内容が理解できて良かったっす。ありがとうございます。
馬場心
今回、駄目な例として出されていたところが、自分に当てはまるなって思ってて、それの理由が体の構造だったりっていうのが理解できたから、そこをちょっと改善できたらいいなって思いました。




