【オーストラリアNEWS】プロサーファーに憧れる環境と、選手が迷わず突き進めるようなシステムを構築

現地からオーストラリアの最新情報を伝える【SURFMEDIAオーストラリアSURFNEWS】。第54回となる2024年最後の12月のゴールドコースト。オーストラリアン・サーフィンアワード。2024年のオーストラリアのサーフシーン振り返り。プロサーファーに憧れる環境と、選手が迷わず突き進めるようなシステムを構築

 

取材、文、写真:菅野大典

 

12月のゴールドコースト。

晴れた日には気持ちの良い青空が一面に広がっています。

 

 

クリスマスホリデーに入り街には人が溢れかえっています。特にゴールドコーストは休暇中の人気の滞在先の場所で、12月から1月の時期は長期休暇をとり国内外から多くの人が訪れます。

 

毎年クーランガッタで行われるクリスマスイベント。屋外のイベントが多くたくさんの人で賑わっていました。海に行っても人がたくさん。海水温も25度前後ありビーチライフを送るのが気持ちいい季節となっています。

 

ゴールドコーストの波の状況は、スモールコンディションの日が多く続きました。

 

スナッパーロックスの地形も良くなり、小波の日でも多くの人が入水していました。海の中でシェアウェーブしながら楽しむシエラ・カー。オーストラリアのクリスマスは家族や親戚と集まるのが定番。パイプマスターズに出場後ゴールドコーストに戻ってきたようで、父親のジョシュ・カーや友人達と地元スナッパーロックスでクルーズしていました。うねりを拾いやすいDバーには日が暮れる時間までサーファーが集まっています。 3年連続WSLファイナルのトップ5に入っているイーサン・ユーイング。外から見ていたら一目瞭然、レベルの高いDバーの中でも他のサーファーとは明らかに違う動きをしていました。オフシーズンに入り海の雰囲気もリラックスしているモードに。選手達も純粋にサーフィンを楽しむ姿が見受けられました。 来年1月13日から19日にフィリピンで開催されるWSL ワールドジュニアチャンピオンズのトレーニングも兼ねてゴールドコーストに滞在していた中塩佳那。 滞在期間中はスモールコンディションが続いたものの、ジェットスキーを出してトレーニングしたりと、新たな経験を積んでいました。 最後の数日にはうねりが入ってきてグッドコンディションに。海の中でもオージーから『いいサーフィンしているね』と声をかけられるほど目立つサーフィンをしていました。
 先月台湾で行われたQS3000では、4メンヒートだがセミファイナルをシエラ・カーを抑えて1位通過したのはとても自信につながったそうで、ワールドジュニアへの意気込みを尋ねると、きっぱり一言『優勝目指します』とコメント。プロジュニア最後の年となるワールドジュニアに期待したい。

 

 時折大きなうねりが入ってきた日には日本人在住者を連れてコンディションの良い場所へ。

 

 

 

 ゴールドコースト北端から川を渡った場所にある島サウスストラディ。

 

 

 

 一昔前までは波チェックをする事が容易ではなかったポイントですが、今ではサーフラインのカメラも付き、ドローンを飛ばして波チェックする人も多く、ジェットスキーでアクセスする人がたくさん。ゴールドコーストでも人気のポイントとなっています。

 

 

 掘れ掘れの波にチャージする黒川楓海都。サンドパンピングにより砂が流されているので常に地形がありチューブ質の波がブレイクしています。

 別の日には、南へ車で2時間。素晴らしい波がブレイクするNSW州北部のポイントへ。

 

オーストラリア東海岸の掘れたビーチブレイクは世界でもトップクラスの質の高さ。現在PBCに留学中の荒河正宗。ゴールドコーストでは味わえないほぼ貸切のセッションを堪能していました。風が吹き出したらまた別の場所へ。冬休みを利用してゴールドコーストへ修行しにきている菊地汰士。太いラインを描きいいサーフィンをしていました。

 この日素晴らしいチューブを決め満足した表情で海から上がってきました。若い時期に色々な場所でサーフィンできる事はとても貴重な経験。

 

 しかし大きなうねりは長く続く事なく、年末の数日間はほぼフラットのコンディション。静かな年の瀬となりました。

 

 D-BAHボードライダーズのクラブラウンド最終戦も極小コンディションの中開催となりました。

 

オーストラリアン・サーフィンアワード

 

 2024年を締めくくるように、12月7日にオーストラリアン・サーフィンアワードの授賞式がゴールドコーストで行われました。

 この授賞式は2024年のオーストラリアのトップサーファーで優れた業績を残した人に加え、イベント組織、ビジネス、メディア、写真などの分野で舞台裏に貢献した人々を讃える授賞式となっています。

 

 男子年間最優秀サーファーには、オリンピックで銀メダルを獲得したジャック・ロビンソン、女子年間最優秀サーファーにはモリー・ピックラムが選ばれた。PHOTO:ETHAN SMITH 他にも元CTサーファーであるルーク・イガンの殿堂入りが発表されたり、20カテゴリーの受賞者が発表されました。PHOTO:ETHAN SMITH レイン・ビーチェリーとネーサン・ヘッジといったレジェンドサーファーも会場に。年の締めくくりにオーストラリアのサーフィン界を支える人が集まり、貢献した人が発表されるというのは嬉しい事。業界の活性化にもつながっているように感じます。PHOTO:ANDY MORRIS

 

2024年のオーストラリアのサーフシーン

 

 2024年のオーストラリアのサーフシーンを見て1番印象に残ったのは、やはり3月にバーレーヘッズで行われたオーストラリアンボードライダーズバトルのイベント。

 

 オーストラリアニュースの記事(https://surfmedia.jp/2024/03/28/australia-dnews-45/)を通して何度も伝えさせていただきましたが、新たな試みをする組織と、それに応える選手がいて、オーストラリアのサーフィンが、国、組織、選手、そしてサーフィンをしない一般人のサーフィンに対する理解も含めて一体感がある事を象徴するイベントと感じました。

 

 

3月に行われたオーストラリアンボードライダーズバトル。会場にいる全員が純粋にイベントを楽しんでおり、新たな歴史に残るイベントのように感じました。

プロサーファーに憧れる環境と、選手が迷わず突き進めるようなシステムを構築

 

 また5月にスナッパーロックスで行われたチャレンジャーシリーズのエキシビジョンマッチであるレジェンドスーパーヒートの盛り上がりもすごく、サーフィンを通したイベントでここまで現場にもライブ配信にも人を惹きつける事ができるのは、オーストラリアでサーフィンがいかに人気であるのかという事を象徴するものでした。

 

 

 ゴールドコーストで生活していて感じることは、純粋に『サーファーってかっこいい』と思える出来事が多い事。シンプルに選手が大衆の前で活躍できる場があって、それに応える事ができる。

 

 

 若い選手でこのような姿を目の前で見れば、将来『自分もプロサーファーとして活躍したい』と夢見るだろうし、それを後押しするようにオーストラリアのサーフィン組織も、選手が迷わず突き進めるようなシステムを構築しているように感じます。

 

特にオリンピックにサーフィンが競技として採用された後には、ジュニア・ランキングシステムが素早く一気に改善されました。

 

 

今年の初めに行われたのISAワールドジュニアチャンピオンシップでは、ゴールドメダルを獲得したオーストラリアナショナルチームであるイルカンジス。今のオーストラリアの実力ある若い選手は、純粋に選手としてサーフィンの実力を伸ばすことにフォーカスし突き進んでいるように感じます。

 

 

プロサーファーというものを目指す子供が育つ環境作り

 

 トレーニング方法においても、当たり前のようにジェットスキーを使ったり、波がなければウェーブプールへ行ったりと、以前までは陸でスケボーかフィジカルトレーニングをするというだけだった事からだいぶ変化しているように感じます。

今ではドバイでサーフィンができる時代になっており、世界では目まぐるしくサーフィンが進化しているように感じます。

 以前、中塩佳那が日本の国内リーグでグランドスラム(5戦全勝)という偉業を達成した後、お話をさせて頂いたのですが、女子の賞金は男子の賞金と平等になっておらず、当時30万円いかない程度。5戦合計でも150万円届かずといった感じで、『夢ないですよね、結局CT入らないとダメって事ですよね』という言葉をこぼしていました。

 

 もちろん賞金というのは1つのボーナス収入であって、選手の収入のごく一部でしかないものですが、良い意味でも悪い意味でも国内をベースに考えていてはプロのサーフィン選手として活動するのは難しく思えてしまうし、また選手だけに限らずの事ですが、プロ資格を持っている人とプロサーファーとして活動している人の区別も曖昧に感じてしまいます。

 

 選手として活動すると同時に、自分でビジネスを展開し成功を収めているプロサーファーもたくさんいますが、選手もフリーサーファーも含めて純粋に実力あるサーファーや世界で戦えそうな選手がサポートを受けられず消えていく世界では夢がなく感じてしまいます。

 

 コロナの規制が明けてから約3年、ゴールドコーストに来るたくさんの若い日本人サーファーと出会いましたが、オーストラリアの若い世代と引けをとる事なくうまいと感じるサーファーが何人もいました。

 

 もちろんそれは昔から言われている事であるし、ジュニア時代では結果が出ていますが、こういった若いサーファーがシンプルにサーフィンを突き詰めれるような後押しを日本のサーフィン界全体で進められたらと感じました。

 

 今年1年、加速するオーストラリアのサーフシーンを見て、日本でも今後、本当の意味でのプロサーファーというものを目指す子供が育つ環境作りができたらと思いました。

 

 2024年もオーストラリアニュースをお読みいただきありがとうございました。

 2025年1月のゴールドコーストでは、バーレーヘッズで行われるシングルフィンフェスティバルやスナッパーロックスで行われるクラブワールドチャレンジなどビッグイベントが盛りだくさん。日本人選手も出場するのでレポートします。

 

 

菅野大典オーストラリアのゴールドコーストを拠点にして13年余り。サーフボード・クラフトマンとして働きながら、サーフィン修行のために来豪する日本のサーファーをサポート。写真や動画撮影のほか、昨年は大村奈央の試合に帯同、大会のジャッジやサーフコーチなどマルチに活動している。