【オーストラリアSURFNEWS】オーストラリアと日本の大きな違い。強さの秘訣は基盤にあるサーフィン組織。

現地からオーストラリアの最新情報を伝える【SURFMEDIAオーストラリアSURFNEWS】。第52回となる10月のゴールドコースト。GC付近では毎週のようにボードライダーズ等のローカルイベントが開催。24年シーズンのCSも幕を閉じ日本とオーストラリアの違いについて書きました。

取材、文、写真:菅野大典

 

10月のゴールドコースト。

暑い日には30度を越す日もあり、もうすでに夏といった気候が続いています。

 

日本で言う桜のイメージのジャカランダ。ゴールドコーストでは例年10月の下旬に満開を迎える花ですが、今年は例年よりも暖かいせいか初旬に満開を迎えていました。

10月になりニッパーズのトレーニングも再開。ニッパーズとはライフセービングのトレーニングを行うキッズ達の事で、年齢別にビーチでの体力トレーニング、パドルボードを使っての海での人の救助方法などのトレーニングを行なっています。

ライフガードから直接海での知識を習うキッズ達。ビーチでのアクティビティが充実しているゴールドコーストならではの習い事です。

多少天気が悪くても元気に砂浜を駆け回り、まだ7歳や8歳でありながらもパドルボードで海に飛び込んで行く姿にはびっくりしましたが、それだけのサポート体制も整っている事から、”正しく恐る”という事を子供の頃から体感できているように感じます。

 

ゴールドコーストの波の状況は、アベレージなコンディションといった感じで毎日サーフィンを楽しめる環境にありました。

 

8月、9月の巨大なスウェルにより崩れていた地形も日を追うごとに砂がつき、各地で良いオープンビーチのブレイクを目にします。スナッパーロックスの地形も徐々に戻ってきておりファンウェーブがブレイクする日も何日かありました。常に地形のあるD-BAHでは毎日のようにセッションが繰り広げられています。元世界王者のミック・ファニングの姿もよく見かけました。残念ながらいつも海の中で見るので、上がってから写真を撮ろうとするとミックも上がっていってしまうというすれ違いでライディングを収めれませんでした(笑)

 

初旬には南方面にウェーブピリオドの長いうねりが入る予報に合わせて、ゴールドコーストに住む日本人と遠征。

 


風やうねりに合わせてのウェーブハントはサーフィンの醍醐味の一つ。ゴールドコーストほどビーチフロントは整備されていないもの、シンプルな道のりでしっかりと駐車スペースがあり、トイレやゴミ箱が設置されている場所が多く点在するオーストラリア東海岸はサーフトリップに最適。早朝から風が強く噴き出してしまったため狙っていたポイントはよくなかったものの、別のポイントでは形の良いサイズのある波がブレイク。貸切りコンディションでワイワイと楽しいセッションができました。オープンフェイスを切り刻む井上龍一。攻め攻めのサーフィンをして特大スプレーをたくさんあげていました。この日何本も形の良い波に乗っていた丸山晴凧。混雑しているゴールドコーストを抜け出しゆっくりと良い波を堪能。良いトリップができました。

 

10月はイベントも盛りだくさん。

ゴールドコースト付近では毎週のようにボードライダーズ等のローカルイベントが開催されていました。

 

10月5日、6日にフラットロックで18歳以下のグロメッツイベントOceanside GromQuestが開催。波は小さく風の影響を受けながらもアクションを入れる福田ロイ。アンダー14男子ファイナルでは優勝まであと一歩及ばず2位という結果。アンダー16女子で優勝した高橋花音。先月日本で出場したQSシリーズでは良い結果を出せなかったが、とても良い経験と課題を確認できたそうで、帰国早々に嬉しい結果を出しました。

 

10月26日には、カランビンアリー・ボードライダーズ主催による、Junior Tag Team Eventが開催。

 

このイベントは、以前にISAワールドゲームスで行われていたアロハカップや、ワールドクラブチャレンジの試合で採用されているリレー方式によるチーム戦のジュニアディビジョン版といった感じで、ボードライダーズの対抗戦ではお馴染みとなっています。13チームのボードライダーズが出場し、2xアンダー16、2xアンダー14、1xアンダー12の5名のサーファーによるチーム編成(女子が2人以上はいらなければならない)。制限時間以内に全員がライディングを終えないとボーナスポイントが得られないなど、個人競技でありながらチームワークが重要視されるイベントとなっています。陸には指示を出すコーチや応援するチームメイトがたくさん。バーレーヘッズボードライダーズにはメンバーでCTサーファーであるリアム・オブライアンがコーチとして参加。グロメッツサーファーにとってはとても心強い存在。この時期のゴールドコーストはグロムには十分に練習になるコンディション。毎回大盛り上がりのイベントとなるチームタッグは、ヌーサボードライダーズが優勝を収めました。

 

オーストラリアン・ボードライダーズバトル(ABB)の州予選も各地で開催。

 

10月は毎週いずれかの州で開催され、NSW州以外のすべての州からクオリファイしたボードライダーズが決定しました。

ブーツを履きながらも熱いバトルが行われていた、オーストラリアの南部にある島タスマニア州予選。PHOTO:SURFING TASサンシャインコーストで行われた1番の激戦区のクイーンズランド州予選ではヌーサボードライダーズが優勝。スナッパーロックスや、ホームポイントとなるバーレーヘッズボードライダーズの他、ノースショアボードライダーズやポイントルックアウトといったABB常連のチームがクオリファイを決めた。PHOTO :SURFING QLD

 

 

10月21日には新しくシドニーにできたアーバンサーフのウェーブプールで、リップカール・グロムサーチ・ナショナルファイナルが開催。

 

 

アンダー16女子で出場した高橋花音。予選ラウンドは12名中2位で通過するも、ファイナルでは思ったライディングができずに6位という結果に。アンダー16男子で優勝したベン・ザネッタ。来月バリで行われるインターナショナルファイナルの切符を手に入れた。

 

WSLイベントも開催。

12日〜14日にPeel Pro Junior、17日〜20日にQS 1000 CAPE NATURALISTE PROがウエスタンオーストラリアで、10月26日、27日にプロジュニアシリーズ最終戦となるLet’s Surf Lake Mac Pro Juniorがポートマッコーリーで行われました。

 

Peel Pro Juniorで優勝したマーロン・ハリソンとマーロンを担ぐ女子で優勝したウィロー・ハーディー。PHOTO:SURFING WAこの時期シーズンを迎えるウエスタンオーストラリア州のヤリンガップで行われたQS 1000 CAPE NATURALISTE PROでは、ジャック・トーマスとチャーリー・ヘイトリーが優勝。QS1000という事でそこまで重要視されていないのかエントリー数は少なめ。ウエスタンオーストラリアを地元にするローカルサーファーや前の週に行われたPeel Pro Juniorに出場する選手を中心にエントリーされていました。PHOTO:SURFING WAオーストラリア/オセアニアリージョナル最終戦のLet’s Surf Lake Mac Pro Juniorファイナリスト。左から準優勝のウィンター・ビンセント、優勝ヒューイ・ヴォーン、優勝アイラ・ハパッツ、準優勝ジャーリ・ストークス。

優勝したヒューイとアイラはワールドジュニアの代表権を獲得するには優勝が絶対条件の中で見事に勝利。最終的にこのファイナリスト4名がランキングもトップ2に入り見事にワールドジュニアの出場権を手に入れた。PHOTO:SURFING NSW

 

 

 

 

オーストラリア/オセアニア プロジュニア 最終リージョナルランキング。

 

オーストラリア/オセアニアのリージョナルから来年1月にフィリピンで行われるWSLワールドジュニアの出場できる枠は男女トップ2名。最終戦のポートマッコーリーの試合には、フィリピンのクラウド9で行われたQS5000と重なった為に出場しない選手も多く、男女共にランキングが一気に変わり出場者が確定した。

 

その他にも全国各地でここでは書ききれないほどのイベントが開催され、10月のオーストラリアは各地で盛り上がりを見せていました。

 

国外でもチャレンジャーシリーズ(CS)が終了し、ジョエル・ヴォーンとジョージ・ピッターといった若いオージーサーファーがCTクオリファイをメイクしたり、エルサルバトルで行われたISAワールドマスターズチャンピオンシップでも国別で総合3位になるなど、オーストラリアのサーフィン界にとって嬉しいニュースが舞い込んできた月となりました。

 

 

オーストラリアの強さの秘訣は基盤にあるサーフィン組織。

 

今年のCSではブラジリアンの強さが目立ったものの、10位から20位にはオージーサーファーがたくさんいるなど強さを見せており、揺るぎなきサーフィン大国の強さが結果に出ていると思います。

 

国内のイベントや個々の活動を見ていても感じるのですが、この強さの秘訣はやはり基盤にあるオーストラリアのサーフィン組織に感じます。ボードライダーズからプロ組織までが一環となって活動しており、結束しているからこそ、選手、ローカル、一般のフリーサーファーというものが、うまくまとまっているように感じます。

 

フリーサーフィンをしている上で混雑等による個々の揉め事はあるものの、大会運営やイベントを行う上では、うまく意見を取り入れ合いながら開催されているように感じるし、全体的に見てうまく相乗効果を出しているように感じます。

 

もちろん全てがうまくまとまらないこともありますが、それでもやはり一般人からの理解度や、サーフィンというものがいかに国に根付いているかが感じられます。

 

ボードライダーズの仕組みを日本へ

 

今月もボードライダーズの活動を見て改めて”ボードライダーズの仕組みを日本へ”と感じさせる場面がありました。

 

ノースストラディでは毎年恒例となるストラディ・インビテーションが開催。2泊3日のチーム遠征はメンバーの楽しみの一つで、出場する選手もしない選手も大人から子供まで一緒に行動しチームメイトを応援し、勝ち負けを共有する。個人競技であるが、チームベースで動く事で多くの学びを得るのはとても貴重な経験だと思います。

 

パームビーチボードライダーズに所属する丸山晴凧とイタリア国籍を持つディエゴ。ただ昔から住んでいる地元の人が所属するだけでなく、移住してきているサーファーも快く受け入れられるのがボードライダーズの良いところ。サーフィンが好きな人ならば出身地は関係ないといった感じで、そこで生まれる交流によってまた世界が広がっているように感じます。

 

地域ごとに拠点を構えるボードライダーズですが、別のクラブ同士でもお互いに協力しあい切磋琢磨にサーフィン活動に取り組んでいる様子も伺えます。

 

 

今月はボードライダーズのシリーズも終盤という事で、各地でクラブラウンドが開催されているのを目にしましたが、スナッパーロックスのクラブもD-BAHで開催。

 

スウェルマグネットのD-BAHでは、D-BAHボードライダーズのみで場所を使用するのではなく、スナッパーロックスやキラと共にお互いに場所を貸しあって開催しています。違うチーム同士でもその時のコンディションによって場所を貸しあったりしており協力しあっています。

 

 

日本のシステムのままで果たしてCTサーファーが生まれるのか。

 

日本にもNSAという組織を通して、それぞれの地域に支部を設けて活動していたり、日本独自のプロリーグというものがあったりして、大会数も競技者も多く、それぞれのレベルの選手にとって素晴らしいシステムが存在しています。

 

ただ、客観的に見てみると世界に基準を向けていない気がします。
選手にとって最高峰の場というのは、間違いなくWSLのCTやオリンピックであって、今の日本のシステムのままで果たしてCTサーファーが生まれるのかと言うと疑問に感じてしまいます。

 

もちろん今行われている大会等もその舞台をメインに戦う選手たちにとってみればとても重要なものですが、やはり日本でもビッグイベントを行わなければ、日本の育成を通して生まれるCTサーファーというのは難しいと思います。

 

勝負の世界にたらればはありませんが、今シーズン大原洋人があと一回でも勝てていればCTにクオリファイできたとみんなが悔やんでいましたが、もしホームポイントである日本でCSが行われていたら、CTに行っていたかもと思うのは私だけだろうか?

 

個人個人で世界最高峰の舞台を目指して頑張る選手はたくさん存在していますが、それを後押ししているシステムがもう少しあれば、CSの上位に人数が残り、層の厚みが増え、そこから何人かのCT選手が生まれてくると思います。

 

今のオーストラリアのサーファーがそうであるように。

 

クラブワールドチャレンジも、2026年にはシリーズ化を決定

 

 

すでに恒例となっている毎年1月にスナッパーロックスで行われるクラブワールドチャレンジも、2026年にはシリーズ化を決定し、第1戦目をスナッパーロックス、第2戦目をトラッセルズで開催することを発表しました。

 

 

毎年1月にスナッパーロックスで行われるクラブワールドチャレンジ。世界各国の代表ボードライダーズが集まり世界一のクラブを決める大会としてすでに多くの人に認知されている。

 

 

現役を退いた経験豊富なサーファーから現役バリバリの選手、ジュニア、グロメッツサーファーまでが1つのチームとして活動するボードライダーズ。選手だけでなくコーチやクラブをサポートする企業スポンサーであったり、メーカーであったり、サーフィンをしなくてもサーフィンを好きな人達が集まっています。

 

このクラブワールドチャレンジというイベントがどのような規模まで成長していくのかは、まだまだ未知数ですが、今年3月にバーレーヘッズで行われたオーストラリアン・ボードライダーズバトルは、新しいサーフィンイベントの形として世界に衝撃をもたらしました。

 

 

いずれにしても、サーフィン大国オーストラリアでは、ボードライダーズをベースに構成されており、目まぐるしいスピードで進化しています。

 

ボードライダーズの活動の詳細は省きますが、毎週のコーチング、クラブ内の試合、チーム対抗戦の遠征といった活動内容だけでなく、チームとして個人をサポートしているなど素晴らしい活動が行われています。

 

オスカー・ベリーに4000ドルをクラブからサポート。

 

オスカー・ベリー(AUS)WSL / Matt Dunbar

 

ちょうど昨日フィリピンのQS5000で優勝した、アリーボードライダーズのメンバーであるオスカー・ベリーは、今シーズンのCSを回るのに4000ドルをクラブからサポート。所属するメンバーをクラブが一丸となって応援しているシステムは、このボードライダーズの仕組みの良いところ。

 

サーフィンに集中したい選手であれば頼れる存在があるのはとても大きな事。チーム内に自分よりもたくさんの経験を持っている身近な存在ができれば、どのような道筋を歩めばいいかが明確になると思います。

 

 

日本でも組織全体の基準を世界に向けなければ

 

日本でもコーチを中心に集まっているクラブといった形で存在するチームもあったり、茅ヶ崎のメンバーを中心にするCボーイズであったりと、ボードライダーズのような形の存在があるのは確かで、そのようなチームとNSAの支部とプロサーファーやその地域の昔からサーフィンをしている年配のサーファーなどが結束して活動できないものか?

 

日本でも組織全体の基準を世界に向けなければ、いくら個々で強い選手が出ても、オーストラリアのように複数で強い選手が出るような層の厚みを底上げする事ができないように感じます。

 

 

オーストラリアニュースながら、24年シーズンのCSが幕を閉じ個人の思いを書いてしまいました。

最後までご愛読ありがとうございます。

 

 

菅野大典オーストラリアのゴールドコーストを拠点にして13年余り。サーフボード・クラフトマンとして働きながら、サーフィン修行のために来豪する日本のサーファーをサポート。写真や動画撮影のほか、昨年は大村奈央の試合に帯同、大会のジャッジやサーフコーチなどマルチに活動している。