インタビュアー、写真:李リョウ
90年代を席巻したニュースクーラーの主要メンバーだったシェーン・ドリアンは、記録よりも記憶に残るサーファーとしてその存在感を放ってきた。
WCT後はビッグウェイブ・サーフィンに前のめりで取り組み、ジョーズのトーインサーフィン全盛の時代にパドルイン・サーフィンでチャージし、サーフィン界の常識を塗り替えた。
このステージにおいてもシェーン・ドリアンは、やはり記憶に残るサーファーとして輝きを放った。そのシェーンにビッグウェイブやプライベートな暮らしについてインタビューを試みた。
サーフメディア(SM):普段の生活を聞きたいのですが、いまはハワイ島に住んでいるんですよね。
シェーン・ドリアン(SD) :そうですよ。
SM:生まれも育ちもハワイ島ですよね?
SD:そうです。僕はビッグアイランドのコナという町で生まれて育ったんです。現在もその町に住んでいます。
SM:ハワイ島の波は良いですか?
SD: ファンウェイブですよ。ハワイ島はハワイ諸島のなかで一番若い島なんです。カウアイが一番古くて、ビッグアイランドと呼ばれるハワイ島が一番新しい。だから砂の海岸がなくて岩だらけの島なんです。
SM:岩でゴツゴツしてるんですか?
SD: もうスーパー岩だらけ。波はそのようなリーフでブレイクするから、パーフェクトじゃないし距離が短いんです。でもファンウェイブですよ。それからノーススウェルが他の島にブロックされるんです。
たとえばオアフのノースショアが20フィートだとしたら、ハワイ島は6フィートくらいかな。サウススウェルはキャッチしますね。それも小さいけどファンウェイブですよ。
SM:さて、WCT(現CT)をリタイアしてビッグウェイブ・コンテストの選手にはなりましたが、どちらが自分にとって向いていると思いますか?
SD:どちらも楽しかったですよ。WCTの選手としては11年間在籍して有意義に過ごしたと思っています。
SM: WCTは忙しかったでしょう?
SD: スーパー忙しくて、すごく大変でしたね。ビッグウェイブの試合に出るようになって、それも楽しみましたよ。ビッグウェイブを追いかけるのも、それはそれで忙しかったです。ビッグウェイブの到来にいつも注意を払っていなければならなかったから。でも今はもうそれも終わったんです。
SM:ビッグウェイブのツアーから引退したんですか?
SD:そうなんですよ。正直言って試合は楽しめませんからね。
バンピーな波でもホーンが鳴ったらパドルアウト。そのプレッシャーが嫌なんです。
SM:ジョーズのような波で試合をするのは危険だという意見もありますが、どう思いますか?
SD: ビッグウェイブそのものがすでに危険ですね。ジョーズで波が上がって大きかったとしますよね。それで風がややオンショアになってきてバンピーになったとします。フリーでサーフィンしていれば、「ああ、今日はもう止めよう」ってジェットスキーで戻って食事をしたりして過ごします。
でも試合となるとそうはいかないんですよ。バンピーな波でも試合のホーンが鳴ったらパドルアウトしなければならないんです。その分プレッシャーがかかる。それが嫌なんですよ。だから試合は観戦がいいです。ワイプアウトを観るのは楽しいですね。笑
SM: シェーンにとって、いままでで最悪のワイプアウトはマーベリクスだと記事で読みましたが、その通りですか?
SD:最悪のワイプアウトは過去に2回ありました。1度目は若いころで当時私は19才でした。ノースショアーのアウターリーフでワイプアウトして、海中で波を3回やり過ごさなければならなかったんです。そのときはブラックアウト(意識不明)になりました。2度目はマーベリクスでした。そのときはブラックアウトにはならなかったけど溺死寸前でした。
SM:インフレータブルのウェットスーツを作ったのはその経験の後だと聞きましたが。
SD:そうです。
SM:インフレータブルのウェットスーツを使うときは波がどのくらいにまで大きくなってからですか?
SD:それを使うのはむしろ場所によります。たとえばディープウォーターのサーフブレイクで使います。マーベリクスやジョーズのようなところですね。チョプーのようなシャローなリーフの波では私は使いません。だから波のサイズではなく場所で使うか使わないかを決めるんです。
SM:ビッグウェイブのために特別なトレーニングはしているんですか?
SD:ええ、すごくやっていますよ。たとえば心臓の心拍数を上げたり下げたりするトレーニングを何度もしています。それから肺活量も上げるトレーニングもしています。
それによって心理的プレッシャーが下がり、波に対して自信が湧くんです。肺活量が上がれば水の中で長く息が止められるわけですからね。筋肉は空気を必要とするから肺の中に空気がたくさんあれば息ができなくても余裕が生まれます。(彼は通常なら5分間息を止められる)
SM:具体的にはどうやって?トレーニングジムとかスイミングプールで?
SD:その両方でトレーニングしています。ただしプールではパートナーが監視します。トレーニング中にブラックアウトしたら水中は危険ですからね。
勝つことではなくて、みんなで素晴らしい1日を過ごすことが目的です。
SM:シェーンは子供のコンテスト、ケイキ・クラシックを主催していますね。その目的や理由はなんでしょうか?
SD:ケイキ・クラシックは22年前から行っているんですよ。
SM:22年もやっているんですか?
SD:そうです。今年で23年目になります。このコンテストは無料で参加できるという特徴があるんです。一般の試合はエントリー費が高くて出場できない子供もいますからね。
それから有名なサーファーにも手伝ってもらっています。サーフィン映画や本に登場するサーファーと触れ合えるんです。ケリー・スレーターもほぼ毎年参加してくれています。
次世代のアルビー・レイヤーやイズキール・ラウたちも協力してくれています。このコンテストの真の目的は勝つことではありません。参加して、みんなで素晴らしい1日を過ごすことです。
両親や友達も参加して楽しむんです。試合に負けたから、じゃあ家に帰ろうじゃなくて、最後まで1日を楽しむんですよ。賞品もいっぱい用意します。サーフボードやエアーチケットなどもありますよ。
それに試合に勝ったから、たくさん賞品がもらえるというわけじゃなくて、負けた子が賞品をたくさんもらったりするんです。くじ引きを用意して負けた子からそれを引くんですよ。それで賞品が決まる。他の試合とは逆なんです。
一番大切なのは上手になっていくプロセスを楽しむことなんですよ。
SM:最近は日本でも子供のコンテストが増えました。でも勝つことばかりにこだわる親が多いように感じられますが、それについてはどう思いますか? 本来サーフィンは楽しむべきものなのに。
SD: 笑。でもそれは日本だけじゃなくてハワイでもアメリカでもオーストラリアでも同じですよ。親は子供にプレッシャーを与えようとするんです。それは人間の本能かもしれません。野球でも音楽でも子供がやろうとすることに対して、親はもっと優れた野球選手になれとか、もっと上手にピアノを弾けとプレッシャーをかけるんです。
ストレスが溜まるようなことをしてはいけないと思います。
SD: でも一番大切なのは上手になっていくプロセスを楽しむことなんですよ。それは野球だろうとサーフィンだろうと同じだと思います。コンテストを否定はしません。楽しければそれでも良いんです。でも楽しくなくなったらどうでしょう?
サーフィンをする理由がわからなくなります。サーフィンのことで父親が怒って、子供が泣くなんて、どうなんでしょうね。子供だろうと老人だろうと楽しいからサーフィンをするんですよね。それがサーファーの理想のライフスタイルです。ストレスを抜くためにあるようなサーフィンなのに、逆にストレスが溜まるようなことをしてはいけないと思います。
子供ができて本当に人生が変わりました。
SM:二人の子供の父になって心に変化はありましたか?
SD:はい。「優秀なサーファーになれ」って子供に毎日怒鳴ってますよ(大爆笑)。もちろん冗談です。子供が誕生して私の考え方は全く変わりましたね。元来、子供というのは自己中心的なものなのです。
あれが欲しい、こうして欲しいと、いつもせがんできます。だから子供たちと暮らすのは大変ですよ。彼らのために稼がなくてはなりませんし、子供中心の生活にもなります。エネルギーも使いますよね。ビッグウェーブに挑むときも、いろいろなことが頭をよぎります。子供ができて本当に人生が変わりました。
SM:幸せですか?
SD:はい。
SM:今年予定していることはありあますか?
SD:旅行に行こうと思っています。息子がサーフィンに夢中になりだしたので夏になったらバリに行きます。メキシコにも行く計画中です。サーフトリップの予定もあります。フィージー、ニュージランド、タヒチ、ヨーロッパと忙しくなりそうです。今回の旅のあとはニューヨークに行ってテイラー・スティールと新しい映画の打ち合わせをします。
SM:忙しくなりそうですね。
SD:はい、でも楽しいです。
インタビュー中、シェーン・ドリアンはある種の「気」のようなものを発散していたように感じた。それは和やかなオーラで、周囲を威圧するようなものではないけれど、ある種の特別な人だけが持つものだ。
トレーニングジムで体を鍛えて、ハワイ島の大自然で野生の勘を磨くというシェーン、コンテストは、引退してもまだまだ彼の活躍は続きそうだ。いや、むしろ記憶に残るサーファーとしてシェーン・ドリアンは、本当のスタートを切ったばかりなのかもしれない。