ディスカバリーインドネシアⅡ〜北マルク。最終回「素晴らしい波を追い求める旅は続く」

ディスカバリーインドネシアⅡ〜北マルク。最終回「素晴らしい波を追い求める旅は続いていく」 


 

再開された「ディスカバリーインドネシア」。東西南北、四方を海に囲れ、年間を通じて良質なスウェルが打寄せるインドネシアの知られざる波の魅力 に迫る。 2シーズン目を迎える今年も、世界が認める有数なサ-フィンデェスティネ-ションをクロ-ズアップし、年間で5つのロケーションを紹介していく予定。 未だ見ぬ魅惑のサーフスポットへの旅を楽しんで欲しい。シーズン2の第2弾はシーズン1でも訪れた北マルク諸島。

 

 

前回までのおはなし。

北マルク3「ボートトリップの朝はX’masと似ている」

北マルク。その2「ボートトリップで最も緊張する瞬間」

北マルク。その1「ハプニングがないのがハプニング」

 

夢のようなシチュエーションでも慣れてしまうと贅沢病が蔓延し始める。

 

ウェーブプールのようなメロウでパーフェクトなライトブレイクで2日間もみっちりとサーフィンをし尽くすと贅沢病が蔓延し始めた。ちらほらと「そろそろ飽きたね」なんて声が聞こえ始めた。最初はトランクスでサーフィンできることで幸せを感じ、次に貸切でサーフィンできることに喜び、その波がファンウェーブであることに感動を覚えたのに・・・ 人間とはそういう生き物なのだろうか。


 


 

そんな夢のようなシチュエーションですら慣れてしまうと更に上を求めてしまうのがサーファーの悲しい性なのかもしれない。そこで我々はさらに北上したところにあるワールドクラスのライトブレイクを目指してボートを進めることにした。



 


インドネシアの原風景を眺めながらのクルーズは心地の良いことこの上ない。一見まるで無人島のような大自然が広がっているのだが、所々から焼畑と思われる煙が上がっていることで人の息吹が感じられた。コーラルリーフに沿ってあちこちで波がブレイクしている光景を目の当たりにし、北マルクの波のポテンシャルを思い知らされることになった。きっと探せば無数のサーフスポットが点在していることだろう。

 

 


太陽が水平線に沈みかけている夕方の遅い時間に我々のボート『サマサマ号』がエンジンを緩めた。どうやら目的のポイントに近づいたようだ。陸地に目をやるとパームツリーが生い茂るジャングルに重たそうな霧が覆い被さっていた。ついでに湿った風が森を揺らしているではないか。いわゆるオンショアというやっかいな風だ。でも半日の移動で、とにかく何が何でも海に入りたかった我々旅のクルーは温風吹き荒ぶ海へとパドルアウトしていったのだ。


 


波は予想に反していい波であった。リーフの形状が理想的でスケール感のあるブレイクを形成していた。風さえ止まればきっと本格的に素晴らしい波になるだろう。そんな予感を抱きつつ波を追っていると腕に何やらゼリー状の物体が巻き付いた。そして次の瞬間激しい痛みが走った。クラゲである。しかもどうやらカツオノエボシのようだ。

 

こいつはやっかいなクラゲで酷い時には病院送りにされてしまうほどの威力を持っているのだ。波待ちをしていた旅のクルー達も同様にそいつの餌食となっており、あちこちから「いてっ」と悲鳴のような声が上がっていた。曇天と風、そしてクラゲに打ちのめされた我々はその夜サマサマ号で虚しくビールを飲むしかなかったのであった。

 


翌早朝、相変わらずの重たい雲に覆われていたが風は止まっていた。昨日のクラゲがどこかに流されていったことを祈りつつサーフボードにワックスを塗り込んだ。

 



恐る恐るパドルをしつつピークに辿り着くとパキッとした男らしいセットが入ってくるではないか。2本、3本と素晴らしい波を捉え「これから」というときに突風が素晴らしい波をさらっていった。ついでに大粒の雨まで落ちてくるではないか。激しい風雨の中、意地になってサーフィンを続けたが最後は強烈なカレントに力尽き、あえなくボートに戻ることになってしまった。

 

 

これからもきっと波を求めて東西南北右左上下と旅が続いていくのだろう。


サーフィンとは天候に大きく左右されてしまうものだ。だから、良い時もあれば悪い時もある。結局、遥々北上してきた海路を再度南下し、元の場所へと戻ることにした。そこには正しい南国の濃い青空が広がり、無人の海に美しくブレイクする波が我々を待っていた。

 


 

我々はより良い波を求めてボートを動かしたわけだったのだが、その行動は裏目に出てしまったのだ。でもサーファーとしてより素晴らしい波を追い求めるのは当然の判断であったし、これからもきっとこんな風にして波を求めて東西南北右左上下と旅が続いていくのだろう。

 

ディスカバリーインドネシアⅡ〜北マルクおわり。

 

前回までのおはなし。

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有本圭(ありもと・けい)

バリ島在住プロサーファー。2000年〜2007年までJPSA(日本プロサーフィン連盟)ロングボードツアーでシード選手として活躍。その後、雑誌、webなどで執筆活動を行い、サーフィンや旅をテーマに啓蒙活動を行っている。

有本圭のブログ→ http://sw-players.com/

 

 

Nobu Fuku / 福与 乃二彦

サーファー&フォトグラファー。最高の波を求め1994年にインドネシアのバリ島へ移住。バリ島をベースにインドネシア各地で水中撮影をメインに活動、 サーファーの視点から自然の素晴しさを伝える作品創りに努める。

Nobu Fuku Photography  http://www.nobufuku.com/

 

協力:波伝説ガル-ダインドネシア航空BLUEOMtour、ティ-ズ・ハウジング