「日本のサーフィン」シリーズ番外編 「続・日本のプロサーフィン、その現実。」

「続・日本のプロサーフィン、その現実。」

Text   : Sadahiko Yamamoto Photo  : Sadahiko Yamamoto

 

今年度のASPワールドランキングが確定。ということで、お待たせしました。日本のプロサーフィンの賞金ランキングを今年も発表します!

 

まずは、その前にハワイで開催されていたASP WCT「Billabong Pipe Masters」が終了したことで、ASP ワールドランキング(12/17付)の発表から。各選手が出場した試合で男子はベスト6リザルト。女子はベスト4リザルトの合計が獲得ポイントとなる。

 

男子の日本人最高位は大野修聖

 

今シーズンのASP ワールドランキングで、日本人最高位となったのは 大野修聖で2839ptsの118位(昨年123位)。次いで大橋海人が2768ptsで120位、大原洋人が1778ptsで149位、大澤伸幸172位1402pts、村上舜173位1394pts、田嶋鉄兵175位1372pts、加藤嵐181位1241pts、新井洋人190位1132pts、仲村拓久未194位1033pts、辻裕次郎196位1027ptsと以上が日本人上位10人の結果。

※ 2013 ASP Men’s World Rankingはこちら

 

女子の日本人最高位は大村奈央

 

 

女子の日本人最高位は大村奈央で1580ptsの40位(昨年34位)。続いて野呂玲花が1070ptsで57位、武知実波は62位912pts、北澤麗奈63位891pts、水野亜彩子87位503pts、庵原美穂93位380ptsが上位5人の結果。

※ 2013 ASP Women’s World Rankingはこちら

 

ワールドランクではマーに次いで120位となった大橋海人

 

グレイドの高い試合で平均的に結果を残す。

 

ちなみに、WCTへの滑り込みのポイントを見てみると、最低ラインが男子はBrett Simpson(USA)で32位 13100pts。女子はJohanne Defay(FRA)で9位 5230ptsとなった。今年は女子だけでなく、男子も試合数が減った。試合のちょっとした取りこぼしが大きなダメージとなり、これからは出場する大会のチョイスが更に重要となるだろう。プライムで優勝すると6500pts、以下6スター 3500pts、5スター 2000pts、4スター 1000pts、3スター 750ptsとなる。ベスト6で考えるなら5スターを6戦全て優勝しても12000pts。プライムで優勝するならまだしも年間試合数を考えれば、グレイドの高い試合で平均的に結果を残すしかない。やはりこれも厳しい現実だ。

 

その中でも身近な話題としては、日本の千葉で開催されたWQS4スター「Quiksilver Open Japan」で優勝したMitch Crews(AUS)が24位16730ptsでWCT入りを決めた。日本人の世界への挑戦もここが正念場。実力が上がったと言われるものの順位、ポイントで見るとまだまだだ。来年は世界の舞台に戻る大野修聖を中心に快進撃をぜひ見せて欲しい。

 

 

今季の賞金王は大野修聖。 


大野修聖

さて、お待たせしたショートボードの賞金ランキング。計算は国内のプロ組織2団体。日本プロサーフィン連盟 ( JPSA )、世界プロサーフィン連盟(ASP)と傘下の日本支局(ASP JAPAN)で開催されたそれぞれの大会から算出。今年度、JPSAはショートボードで男女とも6戦の結果。ASP は国内及び世界各国で開催されるWQSの試合で獲得した賞金金額。それに加え、先日開催されたASP WJCと国内で開催されたPro Jrを加算して表にした。

 

ちなみに他団体、組織やメーカー主催などで獲得した賞金は加算していない。あくまでも計算は国内のプロ組織の2団体。そして、JPSAのグランドチャンピオンに渡される報奨金は入れていない。更に各自がサポートされている契約金、給料なども入れていない。このランキングは単純に大会で戦って獲得した賞金のみということで計算している。また、ASPの別のリージョナル所属ではあるものの、日本のJPSA公認プロ資格を持っている選手は、このランキングに入れてある。

 

庵原美穂

 

今年の賞金王は大野修聖の¥6,675,000。国内のJPSAで5回、ASP JAPANで2回優勝に加え、参戦する大会で良い成績を残したことでこの金額になった。昨年の賞金王 大橋海人が¥2,834,000ということを考えれば、ブッチ切りの金額だ。2位は加藤嵐、3位 大原洋人、4位 大橋海人、5位 仲村拓久未とこの5人が200万を超えた。今年も上位はジュニア選手が健闘している。

 

また大原洋人、大橋海人、辻裕次郎、新井洋人、村上舜、大澤伸幸などASP中心に廻っている選手が今年も上位に食い込んでいるのは見てお分かりいただけるだろう。

 

女子は昨年同様、庵原美穂が¥675,000で賞金女王を獲得。2位に野呂玲花、3位 前田マヒナ、4位 大村奈央、5位 橋本小百合と続く。こちらは日本でのASPの大会が無いことや海外へ行く選手自体が少ないことでJPSAの賞金が中心。ただ上位陣の顔ぶれはやはり海外を経験してきた選手が頑張っている。

 

 

2013年度ASP/JPSA総合賞金ランキング(男子)はこちら

2013年度ASP/JPSA総合賞金ランキング(女子)はこちら


 

男子の賞金総額はJPSAが¥14,400,000。ASPがUS $ 238,200。今年はUS $1=¥100で計算して¥23,820,000。2団体の合計で¥38,220,000という金額。円の為替レートがあるので単純に去年とは比較はできないが、このうち200万円超えは昨年の3人から5人へ増加。上位10人の賞金総額で比較すれば、昨年が全体の49.2%。今年は¥21,635,000で56.6% となり、上位陣で賞金の約6割を獲得している計算となる。

 

ちなみにJPSAの上位10人で計算すると ¥10,355,000でなんと 71.9%という割合。賞金総額の7割を10人が取っている。今年度、参戦している選手は112人。賞金を獲得しているのは38人のみ(女子は41人中、21人)。大野修聖の活躍があったとしても、試合で勝てば賞金獲得は当たり前。みんなが世界は無理だから日本でやろうと考えているならば、この数字をもう一度見て欲しい。もしくは、世界を諦めて戻る場所だと考えているなら、それは間違いだ。日本でも上位の選手だけで賞金を分け合っている。そう、これが現実だ。

 

なぜ賞金ランキングを出しているかと言うと、去年も書いた「プロスポーツならば、勝って賞金を稼ぐというのが当たり前だと思う。プロならば現場で稼ぐこと。これが元来のプロの原点ではないか。」という視点から。プロスポーツと名のつく職業として見た場合の一つの指針としてこのランキングを出している。

 

ランキング2位の加藤嵐

 

昨年の記事はこちら。

「日本のサーフィン」シリーズ番外編「日本のプロサーフィン、その現実。」

 

 

 

誤解されないようにここでも言うが、サーフィンはコンペが全てではない。カルチャーでもあり、ライフスタイルとなり得るもの。だから、プロサーファーの活動が全てこれに当てはまるとは思っていない。しかし、今のサーフィンの市場は八方ふさがり。日本の人口構成と同じく高年齢化し、プロとしてやって行く選手だけでなく、メーカーそれに係わる業界関係者が苦しくなっている。業績悪化だ。専門媒体が減ったことをみても分かるだろう。

 

ASPランクで1位となった野呂玲花

 

だから、このサーフィンの素晴らしさを一般にも広めるためには、スポーツという一面を使って認知してもらうこと。業界を維持するだけでなく、もっと市場を拡大し、選手が本当にサーフィンだけで食べていけるようにしたい。プロサーファーがこの賞金や給与だけで生活でき、プロ野球選手、プロサッカー選手のように子供たちに夢を与える存在になって欲しいと。だからこそ、今、敢えてこのコンペにこだわっていることを分かって欲しい。

 

 

 

プロ資格について。 


村上舜

 

プロの世界は厳しい。どんなスポーツでもそうだ。しかし、知って欲しいのは、この賞金ランキングでもわかるように上位の中でJPSAの公認プロ資格を持っていない選手がいる。新井洋人、村上舜がそうだ。では、彼らがプロでないと言えるのか?メーカーからスポンサーを受け、大会に出場し結果を残している。もう立派なプロではないか。

 

将来のために資格を取ってからその道に進む。これは日本では当たり前のように言われること。でも、サーフィンは違うと自分は思う。まずは目指すゴールはどこなのか。そこまでに何をすべきなのか。それを逆算して、今、何をすべきか。その中で資格が必要ならば取ればいい。

 

新井洋人

 

自分のゴールを目指して進んで欲しい

 

でも、今の日本ではその資格だけが目標になって、それに縛られてしまっている選手が未だに多いように思える。実際、そこで何年かかけて資格を取ったとする。でも、その時には世界は遠い物になっているのではないか?世界の進むスピードは本人が思っているより速いものだ。だから、世界を目指す選手に言いたい。今、何を優先すべきなのか。そんな資格にこだわらず、自分のゴールを目指して進んで欲しいと思う。

 

来季の活躍が期待される仲村拓久未

 

選手だけでなく、日本のサーフィン界自体はこの資格に縛られすぎている。だから、サポートするメーカーやご両親含め回りの方々の意識改革も絶対に必要だ。そうしないと、選手自身がいくらそう思って努力しても、回りが評価してくれないという理由でまた戻ってしまう。だから、資格にとらわれず、本人のやる気と資質、才能で選手を評価して欲しい。まずはこのことだけでもいいから理解して欲しいと切に願う。

 

もちろん最初から海外ではなく日本で頑張りたいという選手は別の話。でも、プロになったならば、そのスポーツを極めたいと思うのが普通だろう。ならば世界は避けて通れないし、そこをぜひ目指して欲しいとも思う。

 

 

今、変わりつつあるもの。 


プライムへの出場権を獲得した大原洋人

今年を振り返ってみると日本のサーフィンを取り巻く環境も少しずつではあるものの改善されてきた。クイックシルバー、ビラボン、ハーレー、ボルコム、オニール、バートン、ムラサキスポーツなど大手のブランドが参加したJASA(日本アクションスポーツアソシエーション)が発足。このおかげで国内のASP JAPANの大会で4スター2試合、3スター1試合と久しぶりに大きなグレイドの大会が複数回開催できた。

 

また、稲村クラシックが24年ぶりに開催されたことが大々的なニュースになったこと。このイベントで一般の人への認知も広がった。その他に協会では、大野修聖がJPSAに参戦。今シーズン6戦5勝という快挙でグランドチャンピオンに確定。ASP JAPAN の大会でも3戦2勝と大きな話題となった。

 

NSA(日本サーフィン連盟)では「チームジャパン強化選手」という育成プロジェクトが発足。既存組織に縛られず選手自身をサポートしていくとした。そして、「ISA World Junior Surfing Championship 2013」では稲葉玲王がBOYS U-16で4位という結果。また、国別団体戦「 Aloha Cup」で日本が優勝という成績を残した。

 

またASPではメキシコ、アメリカのWQSで4位という結果を残した大橋海人。 アメリカのプロジュニアで3位となった大原洋人は「HD World Junior Championship 2013 presented by Devassa」においても日本人初のセミファイナルに進出。Gabriel Medina(BRA)を相手に敗退するものの3位という成績。リージョナル別で見ても日本はオーストラリア、アメリカ、ハワイを下し、ジュニアの世界で総合3位まで順位を上げるという快挙を達成した。

 

大原洋人は糟谷修自コーチとともにWJC3位を獲得した

 

そして、メーカーの変わりにコーチングに恵まれない選手を年間サポートする目的で発足したJJP(ジャパンジュニアプロジェクト)も2年目。その活動は少しずつ理解を深め、ハ−レーが大原洋人にチームマネージャーの糟谷修自を専属コーチとして配属し試合に帯同。初めて海外のようにメーカー自身が選手を育成するシステムが稼働し始めた。

 

 

プロサーファーとしての人生設計。 


 

これだけ日本を取り巻く環境が良くなってきたことは今までなかったこと。選手もそれに応え素晴らしい結果を残すようになってきた。だからこそ再び原点に戻って、ここで選手に聞きたいことがある。

 

それは、現実的な話だ。プロとしての将来、ライフプランはあるのか?引退したらどうするのか?その先まで考えているのか?引退の前に怪我をして強制終了を余儀なくされることもあるだろう。そうしたらたらどうするのか?第2の人生をどう過ごすのか。その後のビジョンはあるのか?

 

そこまで考えた上でこのプロサーフィンの世界に入っているのかを問いたい。お金も望むなら他のスポーツが良いだろう。プロゴルフなら億という賞金を稼げる。サッカー、野球でもサーフィンとは比べ物にならない額だ。いや、お金だけを考えるならば、スポーツ以外の仕事を選ぶ方が現実的だ。

 

サーフィンに戻ってWCT選手を見てみよう。R-2で敗退。つまり、1コケしてもUS $8,000もらえる。それが10試合でUS $80,000。つまり800万円が最低保証だ。転戦する費用が自己負担だとしてもそれにスポンサー契約もあれば1000万円は超えるだろう。これが高いか、安いか。それぞれ各自の判断にお任せする。でも、すべてR-2で敗退していたら、翌年のWCT落ちは確定。つまり、この金額も一生稼げるわけではないということ。これも現実だ。

 

夢をみることは大切。しかし、それだけではダメだ。例えばあの感動的であり、熾烈なハワイのパイプの大会。そこに自分がいて戦っている姿を想像できるか。運だけでなく実力を問われる世界。トップを目指すということ。それは明確なビジョンが必要。またそれを成し遂げる情熱はあるのか?海外ではジュニア時代の20歳ぐらいまでに自分の進路を決めている。才能があるかないかを含め自分の人生設計を立てている。そこには強い意志と信念がある。だから海外の選手は強いのだ。人生懸けているからね。

 

この現実を知っても、プロとしてやっていく。それでもサーフィンにこだわるならば、それ相当の覚悟が必要だ。リスクもあるだろう。練習で辛くなることやプレッシャーで苦しくなることもあるだろう。でも諦めないで欲しい。苦しいのは真剣にそれに取り組んでいる証拠だから。

 

やるべきことは一つ。自分の未来を想像してみよう。いろいろな選択肢を用意するには、いろいろ学ぶことも必要。そして、夢と共に人生設計を立てること。夢があるなら、そこが楽しいと思えるはずだ。ならば苦しいことも耐えられる。そうすれば強くなれる。あとはそのために努力するだけ。希望は誰にもある。そして、未来は自分の意志で変えられる。

 

そして、選手の努力と共に、サポートする側の意識改革が進めば、世界の舞台に立つのはそう遠くないはずだ。日本人プロサーファーが世界で活躍することを願って止まない。