プロサーフィン、トップアスリートの真実。田嶋鉄兵インタビュー。

田嶋鉄兵インタビュー

 

プロサーフィン、トップアスリートの真実。昨年、日本人選手の2012 ASPワールドランキング。トップは大野修聖 123位が最高位。そして、辻裕次郎 163位、田嶋鉄兵 164位と続く。今回、日本に帰国したタイミングで世界を目指す日本人選手の田嶋鉄兵と大野修聖をインタビュー。彼らが今、何を考え、何を目指すのか。そして未来は?ここでは取り上げられることが少ない彼らの声を連載でお送りする。



田嶋鉄兵。昨年のインタビューでは、一からやり直すという決断。そして、プロとしてのこだわりだけでなく、日本のサーフィンの在り方をも変えたいと語ってくれた。(https://surfmedia.jp/?p=9404)一年が経ち、その決断がどう自身を変えたのか。そして、今ある現実。また、自分の未来は?ここでは、有りのままの鉄兵を自身の言葉で語ってもらった。

インタビュー、撮影:山本貞彦

 

 

“正直なところ、WCTに入る難しさも改めて感じたというのもあって。”

 

Q.まずは、コンペの話から。一年を振り返ってみて、この結果はどう思っているの?

 

そうですね、去年は気持ち的に「やるぞー!」という感じで、一年間出来ました。特にヨーロッパは一ヶ月半ぐらいユージロー(辻裕次郎)とノブ(大澤伸幸)と一緒に廻ったんですけど、試合の面ではいろんな学びがあって、たくさん経験した一年でした。

 

サーフィンのレベル、その技術的なものに関しては前とはまったく変わって、WQSの試合に行っている間も、ハワイや日本で練習している間も、まずテーマを持ってやることが一番大事だなと思って。それをしっかり遂行できた一年だったと思います。

 

ただ、やはりそんなに結果はついて来なかった。だったら、何がいけなかったんだろうって。そのテーマが悪かったのか、自分が妥協している何かがダメだったのか。

 

正直なところ、WCTに入る難しさも改めて感じたというのもあって、このまま夢で終わってしまうのか。それを考えた時、実現するために今まで何をして来たのかというのを振り返ってみると、まだやれることはたくさんあったなって。この一年でも妥協点というのが、すごくいっぱい自分の中であったんだと思います。

 

 

Q.そこはまだ、自分の中で結論は出ていないということ?

 

技術的な面に関しては結論が出ているんです。何が自分に足りなくて。もう本当に基礎の基礎からやり直さないと、これ以上はないとわかっていたので。ただ、いろいろ乗り方変えたりした結果、その反動で股関節を故障したり、身体に負担を掛けてしまいました。

 

Q.フォームの改造は時間もかかるわけだし、リスクが大きいよね。それでも先を考えて、変えて行こうとしたわけだ。

 

そうですね。今までは結果、結果があって。リップ何発、入れられるかしか考えていなかったですけど。フォームの改造を始めてから、たくさんのことに気付くことができて。そこで、いろんなことを変えてきたんですけど、ようやく、どこを変えたら、どう機能するのかという効率的なフォームの改善の仕方を見つけました。今、こうしてちょっと故障したりしていますが、かなり手応えは感じていますね。

 

 

“今年、結果を出すということへのこだわりをもう止めようと思った。”

 

Q.フィジカルな部分はわかってきた。では、メンタルな部分で、海外の試合の中でつかんだものはある?

 

やはり、試合において「勝ち」を意識するのが一番良くないと思うんですよね。自分でフォームを改善している中で、何を一番やってはいけないか考えてみると、自分は試合で絶対「勝ち」を意識すると、自分のパフォーマンスができなくて焦ったりして。シュチュエーションにもよりますけど、身体が硬直して、まったく自分のサーフィンが出せないで終わっているんです。

 

そうなると、高いお金を出して試合に来て、「俺、何をやっているんだろう。」って。何回もそういう経験をしているはずなのに、それを繰り返してしまって。それで、今年、バートンプロの試合に行って思ったのは、結果を出すということへのこだわりをもう止めようと思ったんです。

 

正直、ちょっと疲れちゃったところもあるんですよね。自分でたいしてランキングも上がってないくせに、「頑張んなきゃ、やらなきゃ。」って。日本のサーフィンというものも「自分が次の世代につなげて行かなきゃ。引っ張って行かなきゃ。」というプレッシャーもあって。空回りして。それに疲れてしまったのもあるかもしれません。

 

 

“結果じゃなくて、ただサーフィンしてどこまで行けるか試すという単純なとこに気付いたんです。”

 

Q.みんなに応えたいという希望がよりプレッシャーになって、それに気付いて苦しくなったのかな?

 

一度、リセットしたいと思いました。もう結果じゃなくて。純粋にサーフィンを楽しみたいと思ったんです。前は若かったこともあって、完全にケツを叩かれて、誰かのプレッシャーを感じて世界を廻っていました。じゃー、今は自分の意志はどうなんだろうって。

 

昨年、インタビューしてもらった時の話ですけど、やはり、「鉄兵はパイプできないじゃん。」と言われて。だから俺は頑張んなきゃといろいろ考えていたんですけど、でも、そうじゃなくて。人に言われてどうこうじゃなく、自分が何をしたいのかにもっと集中しなきゃと。自分が試合でどうしたいのかっていうことを考えた時に、自分のサーフィンをしないと意味がないし。

 

例えば、回りに「お前WQS廻っているけど、全然ダメじゃん」って言われても、それでも自分が良くて、納得してやることだったら、もっと集中しなきゃいけないって。もし、スポンサーが「鉄兵、もう辞めなさい。君はダメだよ。」と言われたら、それまでですけど。でも、それは次に考えれば良いかって。まずは自分自身が納得したかったんです。

 

第一、今までそれを何年繰り返して来たのっていう話じゃないですか。そこを考えた時に、結果じゃなくて、ただサーフィンしてどこまで行けるか試すという単純なとこに気付いたんです。ポイント取って、ランキングでとかじゃなくて、どこまでその一試合で行けるのか、ちょっとやってみようよみたいな。その結果、自分のサーフィンをして世界は遠いんだったら、もう、イイのかなっていう感じです。

 

Q.自分自身を型にハメてしまっていたということに気付いたから、今はその部分はオープン(マインド)でフリーにしたいということ?

 

そうですね。マインドとサーフィンを全部開放的に。サーフィンに関してもこの波で何発入れられるか、何点出すかじゃなくて、この波でどのくらい凄いことができるんだろうという考えにシフトしたっていうか。

 

今は勝ちを意識しないようにっていうことだけ考えています。自分のいつもやっているテーマを試合でも遂行できるかというのが課題ですね。

 

 

 

Q.スポンサーの話だけど、長く続いていたサーフボードの「ジャスティス」を辞めて、板は自分で始めたよね。辞めた理由は何だったの?

 

いろんな意見が飛び交っているみたいなんですけど、「あいつ、あんなにお世話になっていたのを辞めてバカでしょう。」とか、「うーん、良かったんじゃない?」という話とか。自分としては、まず一つ言いたいのは、喧嘩別れではなくて、もう120% 感謝したうえで辞めたということ。自分が次のステップとして選択したということだけをみんなにわかってほしいです。

 

理由と言ったらいろいろあるんですよね。ある程度の段階まで行ったら次のステップを踏む為には、やはり、何かを変えないといけない。自分も年齢も年齢で、下の世代もどんどん来て。じゃー、ここはターニングポイントなんだなっていうことで決断しました。

 

でも、それよりも何りも自分を変えたいという気持ちが強かったんです。このまま変わらないより、変えなきゃいけないという気持ちからですね。

 

“だからこそ、違う道に行ってみたいという自分がいた。”

 

Q.今、28歳という年齢。日本でグラチャンも獲って、結婚してハワイに住んで、子供もいて。だから、将来の為、ビジネスの準備を始めたとか言われない?

 

そうですね。でも、うちの奥さんも働いていて、モデルやって、ウェブのビジネスもやっていて。今はかなり良い方向に行っているんですよ。で、正直、稼ぎも奥さんの方が稼いでいます(笑)。生活的には上手くいっていると思います。

 

ただ、自分はサーフィンだけをしていて、ずっとこの道を歩いて来ました。それでも、今はいろんな事に触れる機会が増えて。「えっ?こんな世界があったんだ。」っていうことに気付いたことが多々あって。見つけたものがたくさんあったんですよ。だからこそ、違う道に行ってみたいという自分がいたんです。

 

正直、昔からビジネスにもすごく興味があって。そこもやりたいし、でも、やっぱりサーフィンもしていたいし。だからこそ仕事を見つけるというか。

 

 

 

Q.コンペティションとビジネスの両立は難しくない?

 

ビジネスはそんな甘くはないですけど、いろんなことをやってみて、自分がどうなのかっていうところが、今はあって。でも、当然、コンペサーフィンだけで、今後は生活できないので。

 

ただ、サーフボードビジネスもまだでかくやろうとも思っていないし、あくまでもシェイパーをプロデュースするブランドでやりたいなと思っています。今は良いものを提供できたらいいなって。

 

もちろん、まだ選手としてWQSもやりたいし、ハワイで違うビジネスもやりたいです。何かサーフィンがマインドフリーになったので、いろんなとこでやってみたいなというか、だから、試合で勝つことも大事だし、でも、自分にとっては、それにのみというわけにはいかないし、やはりビジネスで成功したいので。やるかには一生懸命やります。

 

“サーフボードビジネスを始めるのは、自分の遠征費とかの資金繰りをしたいからなんです。”

 

Q.逆に言えば、鉄兵はコンペを諦めないという思い入れがあるように思えるけど?

 

正直それはありますね。 なぜ自分がサーフボードビジネスを始めるかというと、自分の遠征費とかの資金繰りをしたいからなんです。スポンサーをいつ切られても、試合を廻れるように根回しをしておきたいんですよね、実は。

 

だから、最初に言ったように、人に何と思われようと、たぶん、これを読んだ人は間違いなく、あいつ守りに入ったなと思われると思うんですけど。ただ、それでも全然気にしないです。逆にもっと早くからやっても良かったのかなって思っているぐらいなんですよ。もう二年早かったら、もっと今頃、何か違うことができていたんではないかって思います。

 

綺麗ごとかもしれないけど、やっぱり生活しなきゃいけないわけじゃないですか。第一に。だからと言って、もうWQS出ないわけじゃ無くて、WQSに出る為の資金繰りをそこでしたいなっていうのが正直あって。だから、JPSAも出るし、その他の試合も出るし。自分は次のこと考えて、だから仕事をするよっていうことです。

 

 

“もっと上を目指すけど、その中の過程でちょっと、やり方を変えていこうと。”

 

Q.逆にそこまで考えて試合に出よう、極めようとしたら、またプレッシャーにならない?

 

あの正直、サーフィンに関して、試合で結果を出さなきゃいけないというのは、今はまったくありません。それにビジネスやることに関しても、奥さんの影響がすごく強いと思うんですけど、ダメならダメでいいじゃん、そういうこと何だなって思える自分がいて。

 

サーフィンができて。サーフィンさえできればいいんじゃないのって。だから、そこですね。とにかく、もちろん上手くはなりたいです。もっと上を目指すけど、その中の過程でちょっと、やり方を変えていこうかなって言うのが、今回の決断なんです。

 

たぶん、アスリート全般そうだと思うんですけど、現役を突っ走ってやってきて、ハイ、現役終わりました。「どうしよう?」こんな年までやっちゃったという人が多いと思うんですよ。

 

プロサーファーは現役が終わった後は、スポーツキャスターになれるわけでもないし、何か特別なものがあるわけじゃないから、早めに動いてやるのが大切なのかなって。少しでも若いやつの見本になれればいいなっていうのもあります。まあ、自分のやり方を見て、鉄兵君みたいになりたいと思ってくれたら、嬉しいですけど。

 

アベレージでずっと良い成績出すサーファーよりも印象に残るサーファーへ。”

 

Q.じゃあ、WCTについてはどう考えている?

 

今は仕事をベースのサーフィンにくっつけていけたらいいなとずっと思っていて。正直、WCTに対してそんなにこだわりは持っていないです。今、自分が思っていることは、一戦一戦で自分のサーフィンをして優勝したいと思っているだけなので。その結果、WCTがあるわけですし。

 

WQSのポイントどうこうとか、言い訳に聞こえるけど、言い訳じゃなくて、正直、セバスチャン・ジーツみたいなサーフィンをしたいんです。試合でも逃げない、攻めるサーフィンを。その一戦で優勝できれば、良いみたいな。

 

それを言ったら、その凄いサーフィンをするケリーだってそうですけど、自分の中で一つの試合で爆発的なサーフィンをしているのが、シーバス(セバスチャン・ジーツ)に見えるんです。日本で言うなら中村昭太みたいなサーファーですね。

 

何か上手く説明できないんですけど、試合もそうだし、フリーでもそうだし。あいつのサーフィン半端ないよねっていうサーファーになりたいんです。アベレージでずっと良い成績出すサーファーよりも、印象に残るサーファー。いろんなサーファーがいるように、いろんな魅力があっていいのかなっていう風に自分は考えています。

 

 

“現役やりながら同時進行でビジネスもやって、プロとしてそれを証明したい。”

 

Q.では、最後に。現役はいつまで続けるとか決めていたりするの?

 

今、調子も良いし、いろんな乗り方試しているし、サーフィンがものすごく楽しいんですね。だから、ケリーが辞めるぐらいの年まではやりたいなって思っていますけど。

 

目標を立ててその目標のために何をしたか。そこが問われると思うんですよね。プロって。だから、俺の中でプロってそこに向かって頑張っている人がプロだと思うんです。結果がすべてじゃないけど、そこに対してそのどう自分が向き合ったか、頑張って努力したのか。だから、自分もブランド起こしたことで、現役やりながら同時進行でビジネスもやって、プロとしてそれを証明したいと思っています。

 

これからは、試合を楽しんで、自分のサーフィンをするということに念頭を置いて、さらにガンガン攻めて行きますよ!

 

 

田嶋鉄兵。28歳。

 

夢と現実の狭間で苦悩する中、出した結論。

人によっては諦めたとか、守りに入ったと思うかもしれない。

 

しかし、鉄兵は諦めてなんかいない。

金銭面も含め、自分で捻出してでも世界に挑戦する。
自分のサーフィンをさらに追求しようとしている。

 

こんなプロサーファーがいただろうか?

普通なら現役を引退してから、ビジネスを始めるのが当たり前。

しかし、鉄兵は始めた理由を、世界を廻るためと言い切る。

 

覚悟を決めた田嶋鉄兵。

可能性は無限大だ。

 

鉄兵がどう乗り越えていくのか。

このケースが新しいプロサーファー像を作るかもしれない。

だから、自分は鉄兵を猛烈に応援したい。

 

ゴー!テッペイ!

行けるぞ!

 

 

 

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