キース・マロイ・インタビュー/“Come Hell or High Water”3


太古の昔からポリネシアンたちに親しまれていたであろうボディサーフィン。リーシュがなかった時代のサーファーたちもまたボディサーフィンを必須としていた。1950年代にはコンペティションの中にボディサーフィンのクラスがあったほど、とくにハワイでは日常的に誰もがボディサーフィンを楽しんでいた。しかし、サーフエクイップメントの発展と普及にともない、いつしかボディサーファーはマイノリティになってしまう。この作品は、本来ボディサーフィンが持つシンプルでミニマルな魅力を見直すべく、その価値を改めて問いかけている。



第一章:なぜボディサーフィンなのか 第二章:極めて高い映像クオリティ 第三章:ボディサーフィンの魅力


 

SM: フィルムの中には1955年のビル・コールマンの古い映像が使われていたけど、ボディサーフィンはどのくらい古くから行なわれていたのだろうか?

K: ポリネシア人が誰よりも前に、たぶん何百年か何千年も前からボディサーフィンをしていると思う。ビル・コールマンは、オアフのノースショアでボディサーフィンをやり始めた人たちの中のひとり。サーフィンよりもボディサーフィンに打ち込んだ人なんだ。彼は「サーフボードを持たずに、ボディサーフィンで波に乗る」と決め、ボディサーフィンを愛し続けた。数人そういう人たちがいたんだけど、間違いなくビルは真にボディサーフィンをしていたパイオニアだね。私が触れていない歴史の部分はまだ他にもあるんだ。例えばラビット・ケカイやバッファロー・ケアウラナとかもすばらしいボディサーファーだ。昔のマカハ・インターナショナルなどのコンテストにはボディサーフィンのクラスがあったようだ。バッファローはそこで健闘していたが、もっと他にもたくさんいることは確か。ビル・コールマンも歴史のほんの一部さ。

SM: リーシュがなかったころは、ボディサーフィンはサーファーに不可欠なスキルだったんでしょう? あなたはどうやってボディサーフィンを極めていったの?

K: そうだね、マークはリーシュがなかった世代のサーファー。私も流したサーフボードを追いかけて、そこそこうまくボディサーフィンしていたけど、17歳のときにハワイに移り、マークたちロコがボディサーフィンをしているのを見たんだ。それまで自分がやってたのとは違って、新たな次元でボディサーフィンができることを知った。そこで18歳の頃に彼らのようにうまくボディサーフィンができるようにトライし始めたんだ。ハワイのビッグウェイブでやり始めてからは本格的にハマっていき、20代の頃はほとんどサーフィンとボディサーフィンを同じくらいやっていた。実際、ボディサーフィンはビッグウェイブでサーフィンするのにすごく良い訓練になるんだよ。

SM: フィン(足ひれ)を使用する以外は道具を必要としないボディサーフィンは、究極のミニマルなサーフィンのスタイルなのでは?

K: 間違いないね。ときにハンドプレーンを使うこともあるけど。初心者が練習するならハンドプレーンを使うと良いよ。ハワイやカリフォルニアの子どもたちはランチのトレイを使ったりもする。でも基本はフィンだけあれば楽しめるのがボディサーフィン。ニューヨークに試写会で行った際にサーフショップのオーナーが「ボディサーフィンはNYで初めてビーチに行く人にはとてもいい」と言っていたけど、フィンとハンドプレーンをバックパックにいれて地下鉄でビーチに行くのにちょうどいいんだ。サーフボードを担いでいく必要がない。そういう意味ではミニマルなサーフィンだね。

SM: フィルムの中では、サーフィンの世界でボディサーファーの地位は低い、と誰かが言っていたけど、実際に海の中ではどうなの?

K: ボディサーファーは通常インサイドにいるから、そんなに他のサーファーたちの邪魔にはなってはいないし、反感はかっていないと思う。いづれにせよラインナップにボディサーファーはいられないしね。乗り物が多岐に渡り人が増えたら、みんなで海をシェアしなければならない。現在のラインナップでは、まず広範囲で影響を及ぼすのがSUP、次にロング、ショート…。その点で言うとボディサーファーが影響を及ぼす範囲はすごく少ないんだ。それにボディサーファーには優れたウォーターマンが多いから、海の中で邪魔することなく泳いでいる。むしろサーファーは彼らを実際にはリスペクトしているんじゃないかな。

ボディサーフィンは日常的な波で誰もが簡単に楽しめる。むしろサーファーでない人のほうが偏見にとらわれないかもしれない。保守的なサーファーたちから見るとボディサーフィンは疎まれやすいものだったかもしれないが、キースは今作でボディサーフィンのシンプルさの中にある美学のようなものを見せることで、これまでの価値観を見事に変えることに成功した。

SM: 日本にはまだボディサーフィンの文化もコミュニティもないんだけど…。

K: でも日本にはボディサーフィンに適した波がたくさんあると思う。理想の波を言えばキリがないけど、むしろパーフェクトである必要はないんだ。どんな波でも泳いでいって楽しめる。素晴らしいライディングじゃないかもしれないけど、それでいんだ。ボディサーフィンってあまり期待しすぎずに、海で泳いで波をキャッチして数本いいライディングができれば最高って感じ。もしいいライディングができなくても、海でただ泳いでエクササイズするだけで私は幸せだよ。

SM: このフィルムを見ればボディサーフィンに対する考え方が変わるかもしれないね?

K: きっとこのフィルムを見て日本の人は「何だこれは?」って最初は思うだろうけど、たぶん理解してくれるだろう。そしてもしかしたら中にはボディサーフィンを楽しむ人が出てくるかもしれない。ニュージーランドでも上映をしたんだけど、やはり当初は「なんでマロイがボディサーフィンなんだ?」っていう反応をされた。彼らは奇妙に思ったようだけど、フィルムを見たあとのみんなの考え方は変わっていたよ。

 

SM: またやったことない人に、ボディサーフィンの魅力やフィーリングをどう説明する?

K: ボディサーフィンはその人がどんなレベルであっても楽しめるもの。フィルムでマークたちが乗っているのを見て、もし実際同じように乗れたらものすごく楽しいはず。とてもユニークだし、私が経験した他の波乗りの方法よりも素晴らしいと思う。波に乗っている間、体は海の中に入っているし、あまり波の先の方へは行かれない。常に波のパワフルなスポットにいるから、波のエネルギーと戯れている感じなんだ。もうひとつ付け加えるなら、ボディサーフィンは“飛ぶ”感覚に最も近いと思う。ある種の無重力のような状態だね。重力から解放される感覚を得られるよ。飛ぶことを夢見ている人なら、ボディサーフィンを気に入るかもね(笑)。

SM: 日常的な波なら誰でも楽しめる?

K: そうだよ、誰でも。ハワイはどこよりも女の子のボディサーファーが多いしね。みんな楽しんでいるよ。女性も子どももね。ドン・キングの息子のボーの笑顔をフィルムの中で見ることができるけど、ボーは水の中でずっと笑顔だった。素晴らしいことだ。

SM: では最後に日本の読者やDVDを見る人にメッセージを。

K: Less is more(少ないほど、豊かである)。

 

第一章:なぜボディサーフィンなのか 第二章:極めて高い映像クオリティ 第三章:ボディサーフィンの魅力

 

 

Keith Malloy
(キース・マロイ)

1974年、カリフォルニア州オーハイ生まれ。両親の暮らすランチ(牧場)で育つ。幼いころからセントラル・カリフォルニアの海と親しみ、長兄クリス、末弟ダンとともにマロイ・ブラザーズと呼ばれ、若くしてコンペティション・シーンで頭角を現す。WQSツアーに参戦し世界を転戦。WCTにクオリファイされるが、わずか1年でツアーから引退し、フリーサーファーとなる。コンテストを中心としたサーフィンのメインストリームから距離を置き活動。三兄弟でトリップやフィルム・プロジェクトを通してサーフィンのオルタナティブな側面をシーンに提示し、独自のスタンスを築いてきた。パタゴニアのアンバサダーとしても活躍する。とくにキースは、ビッグウェイブ・ガンからスラスター、ロングボード、ボディサーフィンまであらゆるサーフィンのスタイルで波を乗りこなすことでも知られる。

 

 

Come Hell or High Water DVD/日本語字幕版

¥4,410 (税込)

2011年10月、London Surf Film Festival にて Best FilmとBest Cinematography を受賞したキース・マロイ監督によるボディーサーフィン映画『Come Hell or High Water(何が起ころうとも)』の日本語字幕版は絶賛発売中。