ハワイアン・ガール、サリー・コーヘン「はじめてのオーストラリア大会奮闘記。やっぱりNO WORRIES だ」

 

サリー・コーヘンはハワイのノースショア在住のフォトグラファーGordinhoことポール・コーヘン氏の三姉妹の次女。母は日本のボディボード創成期にプロとして活躍された堺恵美子さんという海の遺伝子を持ち、日本語も堪能なキュートなハワイアン・ガール。そんなサリーが、今シーズンから世界チャンピオンを目指して旅に出て、今回はオーストラリアに初上陸。彼女がどんなカルチャーショックを感じたのかを綴ってくれた。

 

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サリー・コーヘン:プロフィール

ハワイオアフ島生まれ。日系人。7歳の時に地元ノースショアでサーフィンを始め14歳の時に本格的にロングを始める。現在17歳。通信教育の高校に通いながら世界チャンピオンを目指しトレーニング中。主な戦歴にミネフネショートボード3位。デュークミネフネ優勝。ロングUSAチャンピオンシップ2位。WSL宮崎4位。WSLデューク3位。チャイナウエムラ/ティーム&ガールズ優勝。WSL キングスクリフU18 優勝などがある。

photo:gordinho  text:Sally Cohen

 

「私なんて」から「私でも」に

 

「世の中は平等」っていうけれど、決してそうじゃないと思う。だって「海が大好き」なだけでカメラマンとライター兼サーフィンレッスンやってる両親の元に育つ私は、お小遣いだって大して貰ってないし、大会に出るお金をちょうだいっていったら「やりたいんだったら自分でエントリー費を稼げ」って言われちゃうし。

 

仕方ないから大会に出場し始めた頃は、クッキー売ったり、レモネード売ったりして、ようやく大会費を作っては出たけど、大抵の大会のエントリー費は40ドル。中学生だった私にとっては大変だった。そのエントリー費を作り出すのに、クッキーを何枚売らなきゃならないと思う? 約65枚だよ!

 

たったヒート12分を経験するために、何時間もかけてクッキーを作り、何時間もかけて売る私がいる。一方で親がエントリー費を出してくれる友達なんて、いくつものディビジョンに出てる。私がクッキーを作る傍、ラッキーな友達たちは波乗りしてられるわけで、だから勝つわけで、だからスポンサーも着くわけで、だから海外にも出れるわけで。。。

 

「やっぱり世の中、公平じゃないんじゃん!」ロングボードを始めて世界に入って私のそのセオリーは確実なものになっていたんだ。

 

でも、大会ヒート「12分が運命の分かれ目」そんな状況をくぐり抜けているうちに、状況が少しずつ変わってきた。ボロボロのママが15年使ってたラバーシングルフィン付きのロングで(もちろん何度か敗退した後だけど)ようやく決勝までコンスタントに残れるようになった私に、「スポンサーになるよ」という人たちが現れた。

 

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試合後に行った動物園。コアラハグ。結構重かった。

 

RJサーフのロビンや、ハッピーハレイワのトッドさん、そしてグライダースポーツの大貫さんとか。その人たちのお陰で大きな大会にも出れるようになった。そして、まさかの海外までも。日本の会社のナチュラヴィータがスポンサーしてくれると名乗り出てくれたんだ。メディアを通して応援してくれた人たちの力も加えて、すべてのことが良いように絡み合ったんだよね。こうして私のオーストラリア大会遠征は可能になった。

 

もし自分でクッキー作っていくとしたら4000個のクッキー売らなきゃならない位の金額を出してくれると!もしかしたらロングボードは私を「楽しい人生の波」に乗せてくれるボードなのかもしれない:)

 

 

「NO WORRIES MATE!」

 

だけど、いきなり現地入りして困ったことが起きた。「波が全く無い」暇つぶし兼ねて買い物に出かけると、早速「オーストラリアならでは」の、ある面白いことに気がついた。地元オージー達は、やたら「NO WORRIES MATE!」という言葉を使うんだよね。日本語にすると「友よ心配するな」になるのかな。例えば、ホテルの人や大会の関係者にわからないことを聞いた時とかサンドイッチを頼んだ時とか、質問に答える前にオージーたちは、まずこの言葉を発するんだ。「NO WORRIES MATE!」てね。

 

 

「NO WORRIES MATE!」オージーに習い、やっぱり「楽しく」だよね、試合に臨む態度は。
「NO WORRIES MATE!」オージーに習い、やっぱり「楽しく」だよね、試合に臨む態度は。

 

その後、こんなこともあった。実は、私、遠征2週間くらい前に、ノースショアで波乗りしてて一番調子良かった板を壊した。波が良かったのと、海外の大会に出るからと思ったので、張り切りすぎちゃったから。パイプに突っ込んだ時に、板が真っ二つ! 新しい板を(ウエイド)トコロさんにスーパースピードで作ってもらったけど、板が出来上がってから旅に出るまで波が整う日が一日もなく、結局一度も乗ってない板をそのままオーストラリアに持っていくことになったんだ。

 

キングクリフのビーチフロントには行政が運営するサーフクラブがある。どうりでオージーが世界のサーフシーンでオージーが強いわけだ。
キングクリフのビーチフロントには行政が運営するサーフクラブがある。どうりでオージーが世界のサーフシーンでオージーが強いわけだ。

 

だからこそ、着いたらすぐに練習したかったんだよね。それなのに波がないでしょ。別に聞いてどうなるってわけじゃないけど、いてもたってもいられず何度も「いつ波入ってくるの?」とキングス・クリフビーチの浜にあるサーフィンクラブの人に尋ねたんだ。で、その度に返ってきた言葉は、、、わかるよね~、せえの、、、「NO WORRIES MATE!」

 

 

「負けたけど勝った」

 

初戦キングス・クリフのコンテストは、そんなこんなで練習なしのぶっつけ本番。ようやく上がった膝波で大会は開催されたんだ。ラウンド1は1位で通過。問題はラウンド2。そのままフェイスを走ったらスピードが出ないだろうから、まず波がフックしてくるのを待ってレールを入れてすぐにファイブ。余裕があったらラウンドハウス。

 

「まずまずうまく行ったな~」と思っていたけど、現ワールドチャンピオンにホノルア(ブルームフィールド)にやられちゃった。後でビデオ映像みてわかったけど、彼女ら「変な波に慣れてるベテラン」でしょ。だから崩れた後の「スープ波になった後も」マニューバーを描き続けてポイントを稼いでいるんだよね。

 

フェイスのしっかりしたハワイの波での大会では、スープ波でのパフォーマンスなんて点数になるわけもない。「ありえないこと」だけど、膝波のビーチブレイクではそれも大事。知らなかったじゃ済まないけど、知らなかった! 

 

WSLの大会に出にきてた日本人たちと。ナツミと私は仲良しなんだ!
WSLの大会に出場してた日本人たちと。ナツミと私は仲良しなんだ!

 

プロデビジョンの数日後に行われたジュニアではそれを頭に入れて参戦。そしたら勝った。勝てた。優勝。やった~!!!! ちなみに仲良しでオーストラリアでも一緒に遊んだディフェンディングチャンピオンのなつみ(田岡)は去年勝ったのに負けちゃった。でもJPSAではまた勝つだろうから、私と一緒。「負けたけど勝った」になるよ、きっと:)

 

 

「やっぱり世界チャンピオン」

 

 

キングスクリフの大会が終わり、私とダディーはヌーサに向かった。ヌーサの大会は世界のロングボードの祭典と言われていて、数年前からチャンズリーフでいつもリッピングしているケオキとローズに「ヌーサはいいよ。最高だよ。ロングボーダーだったら行った方がいい」と言われてたんだ。

 

NOOSAはロングの祭典。ようやく来れた。来たかったんだ~!
NOOSAはロングの祭典。ようやく来れた。来たかったんだ~!

 

ずっと行きたかったけど現実的に無理だと思ってた。それが現実になるとは!「夢が現実になる」とはこのこと。でも初めてのことだから不安だらけ。ハワイで、キラ・シールやメーソンに「シングルフィンのログ」じゃないと点数が付かないと旅立つ一月前に言われて、使ったことないログをトコロさんに頼むと「作ったことない」と。

 

「使ったことない」と「作ったことない」のコンビネーションで出来たログを練習する機会が無いままオーストラリア。ヌーサで使おうとしている私はとっても不安になり「やっぱりスラスターハイプロで出ちゃおうか」と迷ってた。そんな時にこんなことが起きたんだ。「無敵と言われるテイラー・ジェンセンが負けた」理由はスラスターハイプロで試合に挑んだから。「スラスターハイプロで出ると同じマニューバーでも2ポイントはマイナスされるよ」ってカニが言ってたけど、嘘じゃなかったんだ!

 

オーバービューを見るとわかると思う。このポイントが世界ロングボーダーの憧れの地だってことに。
オーバービューを見るとわかると思う。このポイントが世界ロングボーダーの憧れの地だってことに。

 

まさかでも、彼が負けるとはねえ。そう思ってた後に「やっぱり世界チャンピオン」だったという出来事があった。ウイメンズオープンで、テイラーの奥さんのナバ・ヤングがすっごく調子よくって、決勝に残ったんだ! 優勝は逃したけどね。奥さんが活躍したからタイラーは負けてもチャンピオンだっていうのは「単純すぎる結びつけ」じゃないだって? そうじゃないよ。奥さんのナバは妊婦。妊婦で決勝進出。要するに「タイラーの遺伝子が活躍した」ってこと。「やっぱり世界チャンピオン」だよ。タイラーのお陰で板の選択間違えないで済んだお礼の言葉だったりするけど(笑)

 

「やっぱりNO WORRIES だ!」

 

「使ったことない」と「作ったことない」のそのシングルフィンのログを使ってノーズライド・ディビジョンに参加することに。本当はウイメンズオープンに出たかったんだけど、エントリーの仕方がよくわからなくって、空いてるのがそれとジュニアだったんだ。だから。板も選んだディビジョンも慣れてないけど、夢のヌーサだしスポンサーさんにも、たくさんお金を出してもらってし、やっぱり「勝たなきゃならない」。そう思ったから試合数日前から徹底的に節制をしたんだ。現地では友達ともつるまず「波乗りだけ」。早めにご飯食べて寝て。。。そしてルールもよくわからないままノーズオンリーの試合に臨んだ。

 

ヌーサの試合前はこんな風に波がすっごく良かった。ありがちだけど本番はj膝波。サイズ激減。
ヌーサの試合前はこんな風に波がすっごく良かった。ありがちだけど本番は膝波。サイズ激減。

 

試合直前に「この線の前に出ないとその波はカウントしません」とボードの上にガムテープを貼られ、さらに5本しか乗れないと説明を受けた。カウントしない波も含めて5本だという。それを聞いた途端から足が震えだした。怖くなったんだ。「出来るかな~」「出来ないかもしれない」のサイクルにハマっちゃったわけで、そんなんで勝てるわけないよね。

 

もちろん負けた。一本しかカウントされる波に乗れなかったんだ。2本の合計点が持ち点になるのに。その夜はかなり落ち込んだ。泣きたくなった。叫びたくなった。だけどまだ次がある。一日だけ落ち込んで、次の日から作戦を変えたんだ。落ち込んでても仕方ない。心配しても仕方ない。だから「楽しくやろっ!」てね。

 

「役目が見えて来た!」

 

「楽しくやろう」と決めたその日は、目的のディビジョン(18歳以下)の5日くらい前だった。すでに旅行は半分以上終わってしまってたんだよね。3週間ある中の最後の1週間が残されただけ。でも、人って集中すれば同じ長さであるはずの「時」を永遠であるかのように引き延ばすことができる。何かで読んだ(笑)。

 

一生思い出に残る「永遠の時」過ごすぞーと、ホテルにこもるのをやめ外に出ていろんな人に会うことにした。そこで気がついたんだけど、「オーストラリアってとっても治安がいい」んだ。ホームレスが全くいないし。お「酒ずきな人が多い」様で、浜でもどこでも昼間でも夜でも多くの人が「何かしらのアルコールを手にしてる」んだけど、酔っ払って喧嘩してる人なんか誰もいない。

 

アリゲーターにノーズライド!?
アリゲーターにノーズライド!?

 

3週間いて喧嘩を見たのはたったの一度。それはスーパーでの夫婦喧嘩。人が言い争いをしているなんてアメリカじゃあよく見る光景なのにね。だけどその夫婦喧嘩ですらただの口喧嘩なのに「すぐに警官が現れ」二人はどっかに連れて行かれた。それを見てからますます安心感が湧いたんだ。

 

何度もオーストラリアに来てる友達は、きっとそれを知っていたんだろうね。立ち並ぶレストランの明かりで照らされる海で「夜な夜な波乗り」を楽しんでいた。しかも(噂によると)ビキニもつけずに(笑)。流石に私にはその冒険は出来ないというより興味なし。アイスクリーム止まりで満足(笑)。

 

物価も高いけど賃金も高い国

 

試合前の一月前からジャンクフードを一切やめて、徹底してヘルシーなものを食べて来てのアイスクリーム。「禁断の味」は私に十分開放感を与えてくれた。それにしても、オーストラリアって、あちこちに濃厚なアイスクリームを売るお店がたくさん。美味しいのは嬉しいけど「値段が高い」のには困った。全ての物が高すぎ。

 

この物価の高さの中、どうやってオージーたちが生活してるのか。気になり、調べてみると、なんと「最低時給が25ドル」。ハワイの平均時給は10ドルだっていうのに。なるほど物が高いわけだ。私たちだけじゃなく、他所から来た選手たちは、お金のやりくりが大変。

 

そんな中でカイ(タカヤマ)のお父さんには驚かされた。みんなに「バーベキューやるからおいでよ」と声をかけては毎晩、お腹すかせたロングボーダーたちに夕飯作ってあげていた。それだけじゃなくボードのリペアも。もちろん「どちらも無料」で。決してお金もちではないというのはカイから聞いていた。それなのに「どうして他人に尽くせるの」と聞くと、「好きだんだ。ライダーをサポートするのが。自分の作った板をライダーたちがうまく乗る。それはお金では買えない喜びなんだよ」と。

 

タカヤマさんだけじゃない。お金にならないのに写真を撮って選手にあげちゃうダディーとか、大きな部屋を自腹切って押さえキッズを泊まらせてあげるだけじゃなく躾までしちゃう様なロイとか、ロングの世界には肝っ玉お父さんがたくさんいる。今までオモテに出てる選手のことしか見えてなかったけど「裏で支える人が絡みあって出来てる世界」。乗り手が作り上げたバブルの中でウカウカしてる場合じゃない。せめて「自分の持分はしっかりと!」こなさないといけないね:

 

「優勝したカニ」はまさにカリスマ性もつハワイアン。落ちても繋いでも彼がアクションする度に歓声が上がる。
「優勝したカニエラ」はまさにカリスマ性もつハワイアン。落ちても繋いでも彼がアクションする度に歓声が上がる。

 

「最後の決戦」

 

さて、最後の最後。ようやく目的のデビジョンの日になった。ノーズは完全に調整に失敗したけど、今回は大丈夫。経験したせいかな。自分の中の「大丈夫」は自分一人では作れないってわかったからかな。逆を言えばオーストラリアの空気に馴染んで「駄目でも大丈夫」と思えるようになったのかも。あっ、そうそう、大丈夫じゃないよね。「NO WORRIES MATE!」(笑)。

 

 

そうそうレイドバックなオージーを象徴する出来事って言えば、アルコールでいつも盛り上がってるだけじゃない。「自分の国が一番!」っていう愛国心が薄い様。優勝した地元の友人カニ(カニエラ・スチュワート)なんて(彼自身が言うからこの比喩使っちゃうけど)黒人でアフロ、しかもハワイアンなのに、会場ではスーパースターの様に扱われてた。

 

ウイメンで優勝したホノルアとかシュラマー姉妹なんかもハワイの人なのに、地元の選手以上に応援受けてたんだよね。どうなっちゃってんだろ、この国の人たち。でもそんな雰囲気が気に入った。「将来ここに住んじゃおうかな」なんて(笑)。

 

「必ず10だよ」姉ティナの言葉が頭の中をリフレイン。お陰で2つ、結果が出せた。
「必ず10だよ」姉ティナの言葉が頭の中をリフレイン。お陰で2つ、結果が出せた。

 

余談はこれくらいにして「最後の決戦」ね。波のサイズは練習の時の胸くらいの良い波からグンと落ちて膝程度。最初の大会で得た教訓と、姉のティナからのアドバイス「いつもファイブばかりじゃん。テンやる勇気なければ勝てないよ」が、頭の中でリフレイン。確実にヒートの中で一度は10にトライし、諦めずに最後まで丁寧に乗った。結果、うまく決まってラウンド1も次のラウンドも一位で通過出来て、2回のヒートをスキップすることに成功。体力有り余る中で決勝に臨めた。

 

初代レディース世界チャンピオンから特別賞(直々に書いていただいた手紙と50ドルのお小遣い)をいただいた。もちろん使わずに宝ものにすることに。
初代レディース世界チャンピオンから特別賞(直々に書いていただいた手紙と50ドルのお小遣い)をいただいた。もちろん使わずに宝ものにすることに。

 

波はレギュラーの波が確実にいいのに、試合前に大会関係者の人が「あのレギュラーの波に乗ってもジャッジの目に太陽光が直接入るから採点してもらえないかも。できるだけグーフィーを乗ったほうがいいわよ」と言われた。だけどなぜか「その話を聞いちゃいけない」の本能が働いき、レギュラー中心に攻めた(笑)。やることはやった。で、結果は2位。友人にソレイに僅差で負けた。でも大満足:)

 

「使ったことない」と「作ったことない」のシングルフィンログも含めて初の本格的な海外遠征は、いきなり現場でのオン・ザ・ジョブ・トレーニング。それにしては大成功。で、最後に、私のセオリーは間違ってたかもしれないなって。確かに世の中は平等じゃないかもしれない。けど。。。

 

「海はみんなを平等に扱ってくれる」ものなんだね:)