稀代のデザイナー、ダニエル・トムソンがケリーの経験と哲学を形にしたデザイン

 

かつて長くスポンサーされていたボードブランド以外にも、ケリー・スレーターは数多くのシェイパーのボードに乗ってきた。そんな彼が近年そのパフォーマンス性を高く評価しているのが、オーストラリア出身のボードデザイナー、ダニエル・トムソンだ。

 

若くしてコンペティションから退いたダニエルは、フィッシュに魅せられデザインの世界へ。それ以来、サンディエゴ・フィッシュの真髄やボブ・シモンズのデザイン理論などを深く学び、独自の世界を切り拓いていく。

 

そして、いま独創的なコンセプトで未来型のボードデザインの先駆者として注目される存在となった。なにより彼自身も優れたサーファーである。

 

折しもここ数年ファイヤーワイヤーのもとでそのデザイン・テクノロジーに磨きをかけてきたダニエルを、同社のオーナーでもあるケリーがSlater Designsのデザイナーに選んだのは必然だったといえるだろう。

 

ダニエルはケリーとのコラボでSlater Designsから2つのモデルをリリース。ユニークかつ革新的なそのデザインとは…。

 

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photo:Takashi Tomita

 

稀代のデザイナー、ダニエル・トムソンが
ケリーの経験と哲学をカタチにしたデザイン

 

Interview & Text:Takashi Tomita

 

ではSlater Designsでデザインした2つのモデルについて聞きたいと思います。まずSci-Fiについて教えてください。

 

D:Sci-Fiはサイファイと発音するんだ。サイエンス・フィクションのこと。これは非常にテクニカルなデザイン。まっさきに人が注目するのはテールだろう。僕は過去にこのテールでさまざまなエクスペリメントをしてきて、よい結果を得ていた。僕のその経験と、ケリー自身のバットテール・デザインの経験とのコラボレーションがこのSci-Fiだ。このテールでサーフする感覚が、ケリーの気持ちをうまくとらえたんだと思う。

 

テールでのドラッグが少なく、同時に小気味よいコントロール性と、ターンのときの食いつきを維持する。僕はバットテール・デザインはハイパフォーマンスなライディングを実現すると信じている。従来のソフトなカーブのテールよりも非常に速く、高いコントロール性をキープするデザインなんだ。

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形状的にはフライヤーがついたダブル・バットテールという感じ。アウトラインのウィングがテールをプルインしている。ターンのとき、カーブしたテールがソフトめのフィーリングを与えるのに対し、バットテールの逆に反ったカーブは水に食い込み切れのよいフィーリングを得られるのが特徴。

 

コントロールする意識がボードにすごくダイレクトに伝わるのを感じられるよ。さらにボトムのチャンネルやマルチプル・コントゥアを組み合わせてテールのコントロール性をよりアップしている。揚力を生み、これによってターンのときのドラッグを減らすんだ。とても応用科学的なデザインだと思うよ。

 

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バットテール・デザイン photo:Takashi Tomita

 

ケリーは以前にあなたのバットテールに乗ったことはありますか?

 

D:2015年初頭からずっと僕たちはあらゆるタイプのデザインをエクスペリメントしてきた。そんななかでこのSci-Fiはケリーの心をうまくとらえた。それに彼が過去に経験したエクスペリメントに似ていたようだ。彼のイメージ、彼が持っていきたいブランドの方向性にぴったりと合ったんだと思う。そして、パフォーマンスも彼が期待するレベルだった。

 

Sci-Fiはエキスパートなサーファー向けのデザインなのでしょうか?

 

ニュースクールでエッジーなデザインであることは間違いない。どちらかといえばエキスパート向けだとは思うけれど、本当にすばらしいデザインはどのライダーにも機能しうるもの。かつてはケリー・スレーターのような一部トップのプロサーファーしか乗れないボードもあったけど、僕はそれらのデザインはすべてエクストリームすぎたんだと思う。

 

サーフボードを機能させる重要な要素としてはアウトライン、極端すぎない機能的なロッカーなどいくつかあるが、そのすべてのバランスこそ大事。僕が好きなテールやボトムコントゥアは、よりユーザーフレンドリーに機能させるためにボードデザインをぎりぎりまで調整している。Sci-Fiは多少エクストリームなボードに見えるかもしれないけど、どんな波のコンディションに対してもとてもユーザーフレンドリーなボードなんだ。

 

スレーターデザインには3つのモデルがある。
Slater Designsの3モデル。写真右からダニエルのOmni、中央のSci-Fi、グレッグ・ウェーバーのBANANA。

 

 

「クルマに置き換えて考えれば分かりやすい。ポルシェは車を運転できる人なら誰でも運転できるだろう。でも本当に運転が上手いドライバーが乗るともっとポルシェのポテンシャルを引き出して運転することができる。Sci-Fiにも同じことが言えるんじゃないかな。」と、ファイヤーワイヤー社の社長マーク・プライスが言った。

 

フィンは5フィン・セットアップになっていますが、どのセットアップがおすすめですか?

 

D:5フィン・セットアップは、乗る波のコンディションに対する汎用性を与える利点がある。一般的にクアッドフィンはパワーの弱い波にはすごくいい。ドラッグが少ないし、フラットなフェイスでもスピードが出る。それにオープンフェイスではピボットでの回転が可能。トライフィンはポケットがあるフェイスや切り立ったフェイスに向いている。テールでピボットターンし、ハイパフォーマンスなライダーはリップでフィンをリリースできるだろう。僕のデザインのほとんどは小さい波ですごく加速する。Sci-Fiも小さい波で最高に機能すると思っている。とはいえビッグウェイブでも驚くほど使いやすいんだけどね。

 

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photo:Takashi Tomita

 

もうひとつのモデルについても教えてください。

 

D:Omni(オムニ)だね。この名前はより自然なデザイン感を暗示している。Sci-Fiがサイエンスとテクノロジーであるならば、オムニはスピリチュアルというか、もっと自然からインスピレーションを得ているといった感じ。あきらかに美しいカーブのアウトラインを持ち、美的な魅力がある。

 

これは、とても人気がある僕のEVOというデザインと、ケリーがよく乗っていたラウンドテール・ショートボートのコラボレーション。僕たちはこの2つのデザインの最高な部分をミックスしたんだ。具体的にはこの特徴的なノーズと、ケリーが彼のキャリアにおいてもっとも成功を収めたテールを合わせたもの。

 

結果としてとてもユニークな見た目になった。でもモダンでスムースな美しさがある。このノーズデザインはターンの際のスウィングウェイトが少ないので、よりタイトにターンができるんだ。ラウンドテールは旋回半径をぐっとタイトでシャープにできるデザインでもあるからね。

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個人的には、Omniは僕の人生におけるの最高のサーフィンをもたらしてくれデザインで、僕のサーフィンとシェイピングのキャリアにおいて経験したハイパフォーマンス・サーフィンの頂点といえるモデル。でもだからといって特別なサーファーしか乗れないわけじゃない。もう一度ボードデザインに対する僕のフィロソフィーを言わせてもらうけど、すばらしいデザインはすべての波で機能するものなんだ。

 

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photo:Takashi Tomita

 

ケリーとデザインをコラボする際、彼は何か特別なリクエストをしましたか?

 

D:僕はケリーにはたくさんのボードをシェイプした。その過程で彼にも僕にシェアしてくれるアイデアがたくさんあった。密かに一昨年は彼とかなりの時間を過ごし、時間を作って一緒にシェイピングもしたよ。彼がサーフィンで得ようとする異なるフィーリングに近づけるように、僕たちは幅広いデザインを検討した。Sci-Fiはいろいろ試したなかで可能なもののトップとして浮上した唯一のデザイン。ひとたびデザインが決まったら、僕は美しさを最大限に引き出すようにそれぞれのデザインを調整した。

 

ケリーは、もともと僕のデザインコンセプトをトライすることに興味があったんだと思う。前に見たことがあるデザインもあっただろうけど、実際に乗ったときのフィーリングに興味があったんだろう。彼は僕がこれまで進めてきたデザインエレメントをすごく楽しんだと思う。ケリーはデザインの方向性を確立するために、これまで彼が経験したことや知っていることのすべてを僕にフィードバックをくれた。だからこれらのボードは、特定の明確なデザインフィロソフィーに対する偉大なケリーの考えが詰まっているクールなコラボレーションの結晶なんだ。

 

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