30才にしてJPSA2連勝を成し遂げた善家尚史。サーフメディア独占インタビュー

30才にしてJPSA2連勝を成し遂げた善家尚史インタビュー

 

プロ10年目にして初優勝したナオこと善家尚史は、その勝利がフロックでないことを次のメジャー大会オールジャパンで証明した。レジェンドの息子として生まれたサーファーの葛藤、そして突然の大活躍。なにが彼を強いコンペティターに変えたのか、その心境について彼の口から出た言葉は意外なものだった。

 

インタビュアー:李リョウ

 

 

優勝おめでとございます。

 

ありがとうございます。

 

いま何才ですか?

 

30才です。

 

プロになったのはいつですか?

 

プロになったのは19才でプロになりました。じつは両親に20才までにプロになれなかったら、あきらめなさいって言われてたんですよ。

 

茨城では父親譲りのシャープなカーヴィングが冴えていた善家

 

 

アマ時代の成績は?

 

全日本の第40回大会で、メンクラス2位でした。それが最高です。



善家尚史

 

 

 

今シーズンは第5戦と第6戦で連勝したんだよね。プロになって10年目にして初優勝で2連勝目はなんとメジャー大会のオールジャパン。

 

そうなんです。うれしいです。

 

それまでのランキングは?

 

第1戦のバリに出ていなかったので40位くらいでした。

 

それがいまは3位ですね。

 

ええ、第5戦の大洗で優勝して13位になって第6戦の鵠沼で連勝してランキング3位です。

 

すごいジャンプアップですね。

 

自分でも驚いています。

 

プロは勝てないと厳しいからね。

 

はい、いままでは試合で3位が最高でした。だから表彰台に上ったのは2度くらいしかなかったです。

 

地元鵠沼での2勝目。表彰台で涙を見せた

 

 

やっと実を結んだという感じですか?

 

ええ10年かかりましたね。

 

 

 

さて、今シーズン、第5戦に臨むときになにか自分自身のなかで特別な変化はあったの?

 

特にはなかったですね。普段のつもりで試合に向かいました。変わったことといえば、トレーニングを止めちゃったことかな。

 

トレーニングを止めたの?

 

はい、ちょっと諸事情で止めざるをえなかったんです。トレーナーさんには、いままでお世話になってきたので残念です。

 

ストレートにお聞きしますが止めたのは経済的な理由ですか?

 

そうですよ。いまスポンサー募集中です笑。トレーニングとは別の変化といえば試合中に落ち着けるようになりました。

 

それはどうして?

 


 

結果にこだわるより、自分らしいサーフィンを試合でしようと思うようになった。

 

年令的な心の変化だと思います。結果にこだわるより、自分らしいサーフィンを試合でしようと思うようになったんです。

 

ということはむしろ無欲の境地だったのかな?

 

そうですね。そんな感じだったかもしれません。目の前のヒートに集中して、優勝はその積み重ねだと思うようになりました。それと、賞金を稼いで黒字で帰れたらラッキーってイージーに試合を考えるようにしました。でも誤解しないでくださいね。余計なプレッシャーを感じないようにするためです。

 

善家尚史

 

 

じゃあ「一コケだけはやだな」みたいな?

 

笑、はいそうですね。

 

何回勝てば黒字になるの?

 

僕はトップシードなので一回ヒートで勝てばエントリー代と旅費くらいにはなりますね。

 

トップシードなんだね。

 

去年の成績が17位だったんですが、試合に出ていない選手がいたことで、繰り上げでシードになれました。

 

じゃあ、いままでそれなりの結果は出していたんだよね。

 

ええ目立ってはいないのですけど、むしろもう鵠沼の後輩たちががんばっていて、良い成績を出していたから、内心「すげえな」と思っていました。いいサーフィンしてるなって笑。でも今回勝てたから、俺もまだまだいけるじゃんって思うようになりました。

 


年を重ねて試合を冷静に見られるようになったというのはあるのかな。

 

そうですね、それはあります。若い頃のような焦りはなくなりました。

 

焦りがないというと?

 

海に対する感謝の気持ちも忘れない。

 

昔はオフザリップしなきゃあとか、あれしなきゃあこれしなきゃあと思っていたのですが、もう自分のサーフィンをしようと思うように変わったんです。

 

今年から自分のサーフィンをしようと?

 

そうです。あれをして、これをしてって難しく考えていた自分に気がついたんです。だから今年はサーフィンを楽しもうと思うようになり、それが良い結果につながったのかもしれません。

 

それは勝てなくても良いという意味ではないのでしょう?

 

そうです。勝ちたい気持ちはありますが、焦りはなくなりました。いままでより波をよく見て自分の好みの波がどこに来るかって考えるようになり、良いサーフィンをしたいと、それだけ考えるようになりました。

 

 

偉大なる父との新島への旅で何かが変わった photo s.yamamoto

 

 

善家という名のもとに生まれたことの宿命

 

その他にはなにか心境に変化はあった?

 

うーん変わったことというか、新島の試合に父親と行ったんです。マスタープロのデビジョンができて出場したんですよ。それで二人で一緒に新島に行くことになりました。

 

 

試合に二人で?

 

生まれて初めて父親と二人だけで旅をしたんです。同じ宿で同じ飯を食って海にチェックに行くのも一緒で、そのことがすごく楽しかったんです。普段は同じ家に暮らしていても、生活もサーフィンも別でしたから。

 

親子じゃなくて、サーファー同士としての旅が新鮮な体験だったんだね。

 

そうです。去年も行ったのですが、他のサーファーが一緒だったんです。でも今年は二人だけで旅をしたんです。

 

なるほど。

 

それまでは父親は僕にとって大きな存在で、プレッシャーも感じていました。善家という名のもとに生まれたことの宿命だからしかたがないんですが、「善家誠の息子」と子供の頃から言われ続けてきました。

 

サーフィンをするうえで、それがいつもつきまとってきて、うれしい反面、解放されたい気持ちもあったんです。でも今回二人で初めて旅をして、なにか自分のなかで心の変化があったような気がします。うまく説明できないんですけれど。

 

 

湘南にいればお父さんのことをみんな知ってるよね。

 

ええサーファーなら誰でも。

 

2つのトロフィーを手に入れたナオ

 

 

 

お父さんとは仲良いの?

 

仲は良いですよ。それに尊敬もしています。第6戦のオールジャパンで勝てて自分の名前が歴代の優勝者として刻まれたのは光栄ですし、そこに親父の名前もあるわけですから、本当にうれしいです。

 


親孝行したね。

 

はい

 

ご両親は喜んだでしょう?

 

 

もうすごく喜んでくれて、親父があんなにうれしそうにしているのは初めてでした。人生なにが起こるかわかんないから面白いですね。

 

失礼かもしれないが、開き直ったらチャンスが訪れたって感じだよね。

 

笑、本当にそれですね。でもあきらめずに続けることなんだなってそれを強く感じました。

 

 

5戦6戦とも、ほぼ一位通過だった善家

 

 

さて、第5戦のISU茨城サーフィンクラシックさわかみ杯を振り返ってほしいんだけど。

 

はい、波は最初は良かったんだけど、だんだん小さくなってきました。ビーチブレイクで岩のところもあったからブレイクがトリッキーで、それにみんな手こずりました。

 

でも僕的にはいつもやってる鵠沼より良い波に感じられて楽しめたんです。だからむしろその波の癖を読んでサーフィンを楽しむって感じでした。ファイナルは腰胸くらいかな。

 

 

ジャッジの採点にはどういう印象を持った?手応えを感じた?それとも不満に感じた?

 

 

ジャッジの点数は思ったとおりのときもあれば、低いときもありました。もちろん思ったときよりも良いときもありました。でもジャッジに対する考え方が変わったんですよ。

 

 

それはどういうこと?

 

 

じつは今年、ジュニアの試合で初めてジャッジとして試合を見たんです。それが良い経験になりました。と同時にジャッジがいかに大変かってことも知りました。ビデオで再確認したりと、シビアなところを見ているんだなと勉強になりましたね。だからジャッジの採点に不満を感じなくなりました。

 

ジャッジとして初めて試合を見て気付きがあったということ?

 

そうですね。

 


 

お父さんとサーフィンや試合の話はしますか?

 

質問したいときだけするって感じであまりしないです。でも「自分のサーフィンを100%出せるように努力した方が良い」って一度だけ言われたことがあります。どんなに強い相手でももし相手が70%しか実力を出せなければ勝機はあるんだって。

 

 

第5戦のファイナルはどんな気分だった?

 

マンオンマンのファイナルが初めてだったんで、どうしようかなって思ってました笑。でも、良い波来たら乗ってやれって感じでしたね。プライオリティだけ考えて、ちょっと戦略もありました。

 

勝ちたいって気持ちはあったの?

 

う~ん、そうですね。対戦相手が小林桂君って言って、カリフォルニアでもイケイケのすごい選手だったんで、まあここで負けてもファイナルに残ったから「俺、がんばったじゃん。」って思ってました笑。

 

じゃあ、良くやった!俺って気持ちだったんだね。

 

そうですね。でも試合が始まったらいろいろなものがクリアーに見えて、波がどこに来るかとか、対戦相手の動きが、なんとなく分かったんです。それで冷静に戦えました。

 

リザルトを見ると当然のことだけど強い選手を下しているよね。

 

5戦と6戦で10ヒートくらい戦ってきましたが、ほぼ全て勝つことができました。ただ唯一、ラウンド4で河村海沙に負けて2位で通過したんです。だからオールジャパンのセミファイナルは海沙だったから緊張しました。

 


 

その第6戦サンマリエ オールジャパンプロに臨むときの気持ちはどうだった。

 

試合が一週間くらいしか空いていなかったから第5戦の気持ちが続きました。それに本業に戻って、サーフィンのことは忘れて仕事に没頭したからそれが良かったと思います。

 

地元鵠沼だったからプレッシャーはあったんじゃない?

 

地元だから勝ちたいという気持ちはありましたけど、ぜったい勝ってやるという意気込みは正直なかったです。第5戦のときと同じで冷静に波を見て戦略を練っていました。

 

鵠沼でも茨城の勢いを続けた善家尚史

 

 

波は良かったの?

 

鵠沼にしては良かったですね。ファイナルも胸くらいでした。

 

ファイナルは安井拓海選手だったよね。

 

ええ、拓海君は世界ジュニアで3位になったこともあって、それを昔、僕はネットで見ていて、すげえサーファーが出てきたなって思ってました。実はこれまで試合で一度も勝ったことがなかったんですが、第5戦でやっと勝つことができてファイナルでは少し気持ちの余裕がありました。

 

 

今後の目標は?

 

JPSAグランドチャンピオンと稲村クラシックは大きな目標です。でも親父に「お前はまだ2連勝だけど俺は5連勝したよ」って言われて、へこまされました(笑)。

 

湘南のプロとしてだけでなくレジェンドサーファーの息子として重圧を背負ってきたナオ。勝てない日々が続くなかでも、彼は芯を外すことなく自分のスタイルを貫いてきた。2連勝した現在でも彼の物腰は変わらず。一つも二つも殻を突き破って成長したコンペティターとしての落ち着きを感じさせてくれた。これからもナオの活躍を期待したい。

 

撮影協力:Surfer’s

 

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