ツアー直前のカノア五十嵐、独占インタビュー「アメリカを認めさせた日本人サーファー」

日本人初のCT入りという快挙を達成したカノア五十嵐。ハンティントン育ちで名前はカノアだから不可解に感じる人も少なくないだろう。しかしながら両親は日本生まれの日本人だ。3月からのWSLチャンピオンシップ・ツアー開幕戦を前にして、日本に凱旋帰国した本人にインタビューを試みるチャンスを得た。結論から先に言わせていただければ、このサーファー只者ではない。

 

interview &  photo : Ri Ryo

 

カノア五十嵐 WSL / Ballito Pro / Cestari

 


ジュニアの試合で優勝し、2015年のシーズンをスタートしたカノア五十嵐は、「今年はジュニアのWJCにクオリファイする事が目標です」と、言っていた。にもかかわらず、そのあと南アフリカで6月末に行われたQS10,000で5位になってランキングが26位に急上昇

 

そして、USオープンで3位、ニュージャージーの優勝でQSランク3位となり、完全に勢いに乗ったカノア。CTクオリファイを決定的にしたブラジリアン・レッグでは5位そして優勝。その瞬間は呆気無く訪れたのだった。


 

 

QS6,000「マハロ・サーフ・エーコ・フェスティバル」で優勝したカノア- WSL

 

 

今更説明するまでもなくカリフォルニアで神童といわれ育ったカノアは、12才でNSSAの1シーズンで30勝という記録を打ち立て、14才でアメリカン・チャンピオンシップのU18で最年少優勝記録を達成。数々のアメリカのサーフィン史に残る記録を打ち立てていった。

 

これまで数え切れないほど何度もヒートを戦ってきた。しかし、それは今年から始まるエリートツアーでの戦いの序章に過ぎなかった。そして、今年夢の扉を開いて、彼にとって本当の戦いがいま始まろうとしている。五十嵐に因んで着けられた彼の背番号は50番。

 

今シーズンツアー最年少で挑む2016年のサムスン・ギャラクシーWSLチャンピオンシップ・ツアー(CT)は、3月10日からオーストラリアのゴールドコースト、スナッパーロックスで開幕。カノア五十嵐のデビュー戦はラウンド1の第10ヒートで、ジョシュ・カー(AUS)、タジ・バロウ(AUS)というツアーベテランと対戦となる。


 

YouTube Preview Image今年のポルトガルのWJCにおけるQFでの9ポイント・ライド。

 

 

 

 

普段のカリフォルニアの生活を聞かせてください。家はハンティントンだよね


ピアのすぐ近くです。ビーチまで歩いて行けます。ピアの南側、ニューポート側がお気に入りのポイントなんです。他のポイントには行かないですね。ほとんどハンティントンでサーフィンをする事が多いです。


マリブとかリンコンとかも行ったりしないの?

 

行かないですね、行くだけで2時間かかるので時間がもったいないですから。家にいるときは時間があまりないので、ハンティントンでサーフィンして、あとは友達と遊ぶことが多いですね。サーフしたあとは、家でのんびりするのが好きなんです。

 

カリフォルニアの波はどこもそんなに変わらないんですよ。ハワイみたいにスペシャルな波はあまりないですから。ホームなのでハンティントンでサーフィンするのが良いって感じです。旅行したときには良い波を探して動きますけどね。

 

 

普段、ハンティントンでサーフィンするときは試合のつもりでサーフィンしてるの?

 

いいえ、そんなことはないですね、楽しくサーフィンするだけです。それが練習になってると思います。試合のことは考えないですね。

 

カノアのサーフィンが去年からすごく変わった、うまくなったという人が多いけど。なにか自分の中で変化は感じる?

 

うーん、あまりないと思いますね。普段通りにサーフィンしているだけです。でも体が大きくなって、サーフィンが変わったかもしれない。でも自分的には普段とあまり変わってないと思います。

 

コーチからアドバイスを受けたとか?

 

それもあまりないですね。普段のように楽しんでサーフィンして、その中で自分のサーフィンがレベルアップしたって感じです。トレーニングもあまりはしてないです。ジムはたまに行きますけど。ヨガとかストレッチは寝る前に少しセッションするぐらいですかね。

 

カノア五十嵐

 

 

波はビーチブレイクが好き?ポイントブレイクとかリーフとか?

 

リーフが一番好きですね、強いパワフルな波が一番好きなので。

 

WCTの開催場所でもあるタヒチのチョープーとかは経験あるの?

 

はい、去年も行っているし、もう何回も行っています。パイプも子供の時からやっていますよ。ツアーの波はほとんど経験済みです。Jベイとフィージーだけは、まだ行ったことがないんです。だから早めに行って楽しみたい。いまから行くのが楽しみなんです。

 

 


子供から大人までファン層の幅が広いカノア。この笑顔にみんなメロメロだ。

 

CTのことについて聞きたいけど、今年の目標は

 

ルーキーオブザイヤーが目標ですね。それにトップ10にも絶対に入りたい。それで次の年にはワールドチャンピオン争いに参加したいですね。そして3年後にはワールドチャンピオンという目標です。

 


凱旋パーティでスピーチする父、ツトムさん。カノアを家族でサポートする

 

カノアは家族のバックアップがすごく大きいと思うのだけど、ツアーには家族と一緒に回るの?

 

そうなんです。ほとんどのツアーを家族と一緒に回る予定です。オーストラリア、ヨーロッパ、南アフリカとか。

 

カブリエル・メディーナの家族みたいだね。ママが料理作ったりしてくれるんだね。

 

そうですね。一人じゃあ寂しいし、一緒にいれば楽しいですから。それに世界の素晴らしいところを両親に見せてあげたいんです。親孝行したいですね。それが一番大切だと思っているんです。

 

パパとママが一番エキサイトしてるんじゃない?

 

そうかもしれないですね。(笑)

 

家族の仲がすごく良いんだね。パパとママをリスペクトしているの

 

はい、生まれたときから、ずっと一緒ですからね。すごくリスペクトしています。当たり前のことですけどね。

 


 

友達は僕が日本人だと思う人はいないんです。でも日本人だという気持ちは忘れていません。

 

ちょっと聞きにくい質問だけれど、普段アメリカで生活していてエイジアンでいることにハンデキャップを感じることはある?

 

ぜんぜん無いですね。普段はアメリカ人として生活しているし、でも日本人という気持ちはあって、家の中では日本食を食べて、日本語を話して生活しています。


でも学校に行ったら英語で勉強しているし、周りの友達は僕が日本人だと思う人はいないんですよ。でも日本人だという気持ちは忘れていません。


 

ノアっていう名前だからハワイアンだと思っている人も多いのかな?

 

そう思っている人が以外と多いですね。それにポルトガル語も喋るから、ポルトガル人だと思っている人もいるんですよ。

 

ポルトガル語もしゃべられるの?

 

喋れます。あとスペイン語も勉強していて、もう結構喋れるんですよ。ポルトガル語をしゃべる友達がすごく多いんです。ブラジル人の友達から覚えて、それからポルトガルのポーチュギース(ポルトガル語)を勉強したんです。

 

サーファーの友達でブラジル人とポルトガル人が多いから、それで喋りはじめて、そうしたら、みんながポルトガル語でしか話してくれなくなった。「カノア、どうして英語しゃべるんだよ」って言われるほどになりましたね。

 

多くのファンが集まったの横浜で行われたサイン会では、神対応を見せたカノア

 

 

僕がCTに入れたんだから、日本人がCTに入れない理由はないんです。

 

 

話題は少し変わるけど、日本のサーファーにアドバイスとかはある?

 

うーん(黙考)僕のまわりに日本のサーファーがあまりいないから、よくはわからないけど、でもたまに見て感じるのは、日本人はサーフィンが上手いから、あとは自信をもっと持てばいいと思いますね。だから、今回僕がCTに入ったことで、日本人サーファーの気持ちが変わってくれたらいいなと思うんです。


 

カノア五十嵐 Image: WSL / Morris

 

 

 

カノアがCTに入ってそれで日本人サーファーが自信を持つってことだよね

 

それでもっと日本のサーファー人口が増えて、CTに入る日本人サーファーが出てきたら良いと思うんです。僕がCTに入れたんだから、日本人がCTに入れない理由はないんです。ハンデキャップはないんだから自信を思てばいいと思うんです。

 

アメリカでジャパニーズアメリカンとして認められるのは、並大抵の努力では成し得ないって、クイックシルバー・ジャパンの社長さんがパーティーでスピーチしていたけど、どう思った?

 

アメリカはサーファーが多くて、サーフィンの上手い人も多い。他とはレベルが違うと思うんです。そしてトップは世界で戦っている人たちなので、そういう中で認められるのは大変なことだと思うんです。

 

そういう中で一番になりたいって思って頑張ることは、強い気持ちが必要ですよね。それにアメリカには世界中のトップサーファーが集まってきて試合も行われています。そんな中で勝つという事は本当に凄い事だと僕も思いますよ。

 

カノア五十嵐 IMAGE CREDIT: WSL / Ballito Pro / Cestari

 

最初の波から100%で行こうと思っています。

 

いよいよ3月10日から念願のCTが始まるけど、スナッパーロックスの試合では、こんな風に戦ってやろうという作戦はあるの?(ラウンド1は、タジ・バロウとジョシュ・カーと対戦する)

 

最初の波から100%で行こうと思っています。普段ならば予選で100%は出さないようにしているんです。去年の試合でも100%を出したのは2回しかなかった。ブラジルの6スターのファイナル、それとバージニアビーチでのファイナル。

 

最初は100%を出すプランではなかったけど、他の選手からの雰囲気で、これは100%出すしかないって思って。でも、そういうのが楽しいんです。そういうチャンスが、いつもあるわけじゃないから。でも「ここは出そう」って思うときがある。

 

マインドゲーム?スイッチが入るの?

 

そうなんです。ここだって思ったら、そこから真剣になる。例えばセミファイナルまではリラックスしてサーフィンして、ファイナルになると、ここから仕事だって感じですね。そういうのがすごく好きなんですよ。試合相手がいい点数出したりすると、「あっここからだ」ってスイッチが入って、うれしくなるんです。そう笑って「よし、ここからだって」。そこが僕にとって試合の好きなところなんですよ。

 

 

 

撮影とインタビューを終えて、彼のファンになっている自分に気づいた。まだ十代のサーファーにそのような気持ちを抱いたのは彼が初めてだ。最初はハンティントン育ちの日本人サーファーと聞き、さぞかし生意気な奴なんだろうと思ったが、その先入観は数分で崩れ去った。

 

 

長身で物腰はアメリカ人だが、人とコミニュケートするときの気配りは日本人のそれで、両親との普段の生活から身についたものだろう。英語圏での日常生活のために彼が話す日本語は、少しぎこちない部分もあるが、彼のセンスの良さを感じる。日本版ガブリエル・メディーナとして近い将来大きな結果を残すことは、まず疑いの余地がなく、あとは勝利の女神が彼に微笑むか否かというところだ。

 

WSLワールド・サーフ・リーグ上で、彼の名前が呼ばれる時は、「カノア・イガラシ フロムUSA」とコールされる。カノアの事を「彼はアメリカ人でしょ」という人もいる。それは間違いではない。しかし彼の身体には日本人の血が流れ、彼は両親とともに日本人としての誇りを持ち、心に日の丸を掲げ、ジャパニーズアメリカンとして試合に臨んでいるのだ。

 

僕たちは、生まれながらに類い希なる才能を持ち、それをアメリカという環境で開化させたカノア五十嵐というサーファーを日本人として心から応援していきたい。

 

 

 

取材協力:クイックシルバー・ジャパン

 

 

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